カナダでは近年、干ばつなどによる牛肉や農産物などの生産量の減少やコロナ禍で発生したサプライチェーンの混乱が続いたことで、食料品をはじめとしたインフレが加速している。食肉の消費者物価指数を見ると、2023年11月時点で前年同月比5.0%増と上昇しており、牛肉小売価格については22年以降、過去5カ年平均を大きく上回っている(コラム1−図1)。しかし、こうした状況下でもカナダ国内の牛肉需要は堅調であり、物価変動の影響を排除した2000年を100とする22年のカナダ小売牛肉需要指数(注1)は約125と高水準にある。
今回調査時(23年11月)のアルバータ州大手スーパーマーケットの牛肉価格を見ると、AAA級(注2)のサーロインが1キログラム当たり27.49カナダドル(100グラム当たり309円)、ももが同21.98カナダドル(同247円)で販売されていた(コラム1−写真1)。これらは日本で販売される輸入牛肉価格(注3)と比較しても近い水準にある。
また、近年では持続可能性などに対する消費者ニーズの高まりから、一部の商品には持続可能な牛肉に関するカナダ円卓会議(CRSB)(注4)から発行されたラベルが貼付されている(コラム1−写真2)。このラベルは、同スーパーマーケットの牛肉製品がCRSBに認定された農場や食肉処理加工施設から少なくとも30%以上供給されていることを意味している。また、カナダでは近年、中東地域などからの移民が増加していることから、宗教上の対応としてハラール牛肉の認証ラベルの貼付も確認された(コラム1−写真3)。
今後の食品価格については、金利はいまだに高水準にあるものの、カナダ中央銀行が再度の利上げを保留していることなどから、24年の食品価格のインフレ率は2.5〜4.5%と緩やかになると予測されている。しかし、食品については気候変動対策としてサプライチェーンの脱炭素化などが求められており、今後の牛肉価格上昇のリスクとされている。
このような中で、将来的な国内の牛肉消費については減少を予測する見方が強い。消費者の節約志向などを背景に、牛肉から鶏肉へ需要がシフトしており、1人当たり牛肉消費量は1990年の33.90キログラムから2022年には24.84キログラムまで減少した(コラム1−図2)。また、移民は増加しているものの、文化的にも食肉の嗜好が異なることや価格の問題から、牛肉需要の増加は限定的で、消費量は減少すると見込まれている。
(注1)物価変動の影響を排除した牛肉小売価格と1人当たり牛肉消費量を基に算出される指標で、基準年より高いと需要が高いことを示す。
(注2)上から2番目の等級。生鮮牛肉として供される牛肉の7割が同級に格付けされ、米国の等級のチョイス級に相当する。格付制度については後述(2 牛肉需給の動向(6)カナダ産牛肉の特徴 ウ 格付制度)。
(注3)農林水産省が公表する「食品価格動向調査(食肉・鶏卵)」との比較。
(注4)カナダ牛肉業界内での持続可能性への取り組みを推進するために発足した、さまざまな分野の関係者が参加する枠組み。