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畜産 24年5月号 話題

地域と連携した都城ミートツーリズムの取り組み

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都城市 みやこんじょ PR課 副主幹 新駿河 友美

1 はじめに 〜都城市とみやこんじょPR課〜

 都城市は、宮崎県の県西部、鹿児島県との県境に位置し、人口約16万人、面積653.3平方キロメートルの都市です(図1)。牛・豚・鶏などの肉を中心に令和4年の農業産出額は911億円を超え、全市町村で4年連続日本一となり、日本を代表する食料供給基地としての役割も果たしています。
 平成24年に現市長である池田宜永たかひさが市長に就任し、出張で上京する際に、「とじょうし」と呼ばれたことや「宮城県」と間違われたことがあり、都城市の知名度の低さに危機感を抱いていました。
 


 
 そのため、就任2年目に池田市長は「対外的PR」を経営戦略の目玉に据え、さまざまな施策を実行していきました。平成26年4月には組織改編を実施し、ミートツーリズムの担当課である「みやこんじょPR課」もこの時に生まれました。
 課名には、観光や物産などの分かりやすい名称をあえて使わず、都城を指す方言である「みやこんじょ」をあらゆる手法でPRしていく強い思いが込められた名称となっており、マスメディアへの営業、看板やのぼりの作成・設置、みやこんじょフェアなどのイベントの企画・実行、PRキャラクターの活用などを通じて、都城市のPRに総力を挙げて取り組んでいます(写真1)。

2 ミートツーリズムが生まれるまで 〜ふるさと納税の成功をきっかけに〜


 しかし、都城市は歴史的に観光資源の訴求力が弱いとも言われてきました。九州屈指の規模を誇り、国の天然記念物である大規模な「関之尾甌穴せきのおのおうけつ群」や、日本の滝100選にも選ばれている「関之尾滝」(写真2)。日本一星空の美しい町に過去7回選ばれた高崎町の高台にある「たちばな天文台」(写真3)。動物との触れ合い体験やソーセージなどの手作り体験が楽しめ、四季折々の花が美しく咲き誇る観光牧場「高千穂牧場」など、さまざまな観光資源があるのですが、地理的に最寄りの空港から距離がある上に、近隣の自治体の観光資源と比較して優位性を打ち出し、観光客を呼び込むことに苦慮していたのも事実です。
 このような状況下で、私たちは、都城市の知名度向上に最も寄与している施策である「ふるさと納税」にヒントを得て、観光に新しい要素を取り込むこととしました。



 


 
 前述の通り、都城市は農業産出額が日本一であるため、さまざまな特産品があります。そこで、ふるさと納税を池田市長の号令のもと、平成26年に対外的PRのツールとしてリニューアルし、1年目はあえて返礼品を「肉」と「焼酎」のみに絞る大胆な施策を実行しました(写真4)。
 都城市の畜産産出額が日本一であること、そして、黒霧島の銘柄で有名な焼酎売上高日本一の霧島酒造株式会社が同市にあることから、「日本一の肉と焼酎のふるさと」と銘打って、市の魅力を全国に発信しました。
結果としてこの戦略は大成功を収め、平成27、28年度、そして令和2、4年度と、4回もの受入額日本一に輝くとともに、4年度の受入額は195億円に達しました。
 このふるさと納税の大躍進は、私たち職員にとって目からうろこでした。肉と焼酎で他自治体との決定的な差別化を生むことができたことから、「肉と焼酎」を都城ブランドの地域資源と位置付けます。この取り組みにより、都城の知名度が格段に向上することができたことから、対外的なPRの一つに「選んで来てもらう」取り組みを加えることとしました。これにより平成29年には、「肉と焼酎のふるさと都城」ならではのおもてなしで付加価値を高めることにより、観光誘客や輸出の拡大を図ろうとミートツーリズム推進委員会を立ち上げ、観光客が都城市を訪れ、「本物の」肉と焼酎に出会えるミートツーリズムを開始しました(写真5)。ミートには、meat「肉と焼酎」にmeet「出会うこと」ができるとの意味を込めています。





3 ミートツーリズムの経過

 初年度(平成29年度)は、官民で連携し、ミートツーリズム推進委員会を立ち上げ、参加する連携店を集めた他、企画や情報発信などにも取り組みました。行政のみで実施するのではなく、民間の力を借りながら市全体の魅力向上も図っていきました。
 「本物の肉と焼酎を味わってもらう」をコンセプトに、メイン料理に都城産宮崎牛をふんだんに使用するとともに、料理によく合う地元の焼酎を提供する、1万円以上の本格メニューなどを含めたグランドメニューを市内事業者が開発しました(写真6)。同時に、そのグランドメニューを食し、市内の宿泊施設に宿泊する団体ツアーに対し、1人当たり1万円の補助を出すツアー造成支援事業を開始しました。
 令和2年には、新型コロナウイルス感染症が拡大したことにより、ミートツーリズムにも暗雲が立ち込めるかに思われましたが、個人旅行客向けのミート券事業(後述)を新たに開始したことにより、コロナ禍にもかかわらず利用者数は右肩上がりで伸びていきました。平成29年度に53人だったミートツーリズムの利用者は、令和4年度には3万7800人と実に700倍以上の利用者数に達し、都城市のPRおよび地域経済の活性化に大きく寄与する、目玉施策の一つとなったのです(図2)。




 
 ミート券事業は、旅行事業者のウェブサイトから、大人2人以上で市内宿泊施設のミート券セットプランを予約した場合に、1人当たり3000円のミート券を配布するもので、ミート券は肉と焼酎提携店(令和6年4月時点で都城市内にある81店舗)にて利用が可能です。肉と焼酎提携店は、必ず地元産の肉(宮崎県産の和牛肉・鶏肉、都城市産の豚肉)を常時使う必要があります。裏を返せば、それだけ地元の畜産業にも好影響を与えており、地域内循環を実現できている施策とも言えます。
 個人旅行化が進み、ミート券事業の需要も高まり、令和6年4月からは紙で配布していたミート券を電子クーポンとして配布しています。このことにより、事業に関わるすべての方の業務効率が上がり、さらに事業に参加する施設や店舗拡大、そしてミート券事業の拡大を狙っています。


4 新名産「都城メンチ」の誕生

 令和4年度、官民連携によるプロジェクトにより「日本一の肉と焼酎のふるさと」に新たな仲間として「都城メンチ」が誕生しました(写真7)。
 都城の肉を手軽に体験できることから、ミートツーリズムと親和性が非常に高く、利用者の満足度を上げるとともに、地域事業者の新たなチャレンジを後押しできる施策です。「都城メンチ」については、畜産事業者が六次産業化の一環として取り組むケースも多く、六次産業化の後押しとなることが期待されています。


 

5 道の駅のリニューアル〜NiQLLの誕生〜

 さらに、官民連携プロジェクトの一環として、令和5年4月22日には、「道の駅」都城NiQLL(ニクル)がリニューアルオープンしました(写真8)。これまで国土交通省が重点「道の駅」と定めていた道の駅「都城」を大幅にリニューアルし、その名前は「肉を楽しむ」という意味を込めた造語であり、「買いに来る、食べに来る、遊びに来る」など、皆が「ここに来る(ここニクル)」愛される施設となってもらいたいという願いが込められています。同施設は1.9ヘクタールの広大な敷地にさまざまな機能を有していますが、特にミートツーリズムとの関連では、前述の都城メンチが食べられるほか、直営店「ニクルの肉屋」では、深い知識を身につけた“お肉博士”の資格を持つスタッフが常駐し、確かな品質の地元産の精肉などを提供しています(写真9)。ツーリズムと連携し、物産振興と交流人口の拡大による地域活性化を図っています。
 



 

6 おわりに

 質の高い「肉と焼酎」が都城市にあるのは事実ですが、資源にかまけず、その素晴らしさを生かし、畜産業を始めとする地域産業の好循環による活性化が図られるよう、都城市では引き続き、官民連携によりミートツーリズムを推進していきます。
 
 
【プロフィール】
都城市役所 みやこんじょPR課
副主幹 新駿河 友美
平成20年度から都城市役所勤務。税務部門、福祉部門などを担当。
令和5年4月より商工観光部 みやこんじょPR課 観光担当となりミートツーリズムのPRに努めている。