今回公表されたABARESの中期見通しでは、世界的なインフレ率は短期的には高止まりするものの、近年の高金利により見通し期間中(2028/29年度まで)には低下し、世界経済の成長率が3%前後で比較的安定することを前提としている。また、25/26年度および28/29年度はラニーニャ現象による湿潤気候、26/27年度はエルニーニョ現象による乾燥気候がもたらされるシナリオに基づき予測している。
(1)肉牛・牛肉
ア 24/25年度の肉用牛飼養頭数はやや減少
豪州の肉用牛飼養頭数は、放牧主体であることから、干ばつなどの発生による飼養環境の悪化や飼料確保のためのコスト上昇が見込まれると淘汰が進むなど、気象条件に大きく左右される。近年の飼養頭数の推移を見ると、2019/20年度(20年6月末時点)は、主要畜産地帯の豪州東部で20年に一度と言われる深刻な干ばつが発生したことで、過去30年間で最低となる2114万頭(前年度比5.5%減)にまで落ち込んだ(図1)。その後は3年連続でラニーニャ現象が発生し、降雨に恵まれたため牛群再構築が進展し、22/23年度は2376万頭(同6.8%増)と過去10年で最大の伸びとなった。
その後、23/24年度は、23年9月に乾燥気候をもたらすエルニーニョ現象の発生が発表され、牛群の淘汰が進んだことなどを受け、2364万頭(同0.5%減)とわずかな減少が予測されている。また、24/25年度は、米国の牛群再構築の進展による米国産牛肉供給量の減少見通しを受け、豪州産牛肉の需要増加による輸出価格の上昇などが見込まれることから、と畜が進み、2336万頭(同1.2%減)に減少すると見込まれている。
イ 24/25年度のと畜頭数および牛肉生産量は堅調を維持
2022/23年度は、豪州の牛群再構築が完了し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に起因する食肉処理施設の労働力不足が改善したことを受け、と畜頭数は660万頭(前年度比7.3%増)、牛肉生産量は201万トン(同7.3%増)といずれもかなりの程度増加した(図2)。
23/24年度は、エルニーニョ現象の発生による牛群の淘汰を受けてさらに増加し、と畜頭数は802万頭(同21.6%増)、牛肉生産量は234万トン(同16.3%増)と見込まれている。
24/25年度以降も、肉用牛供給頭数の増加と食肉処理施設の処理能力が高水準で推移することで、米国産牛肉が席巻してきたアジア市場に加え、米国向け輸出も高まることで、と畜頭数、牛肉生産量ともに堅調な推移が見込まれている。
ウ 24/25年度の肉用牛生体価格は上昇
2023/24年度の家畜市場の肉用牛平均取引価格は、エルニーニョ現象の発生を受けた肉用牛供給頭数の増加により、1キログラム当たり483豪セント(486円、前年度比15.7%安)と、過去10年平均の同545豪セント(548円)を大幅に下回ると見込まれている(図3)。また、同価格の下落が要因となり、同年度の肉用牛関連の総生産額は125億豪ドル(1兆2576億円、同17.2%減)と大幅な減少が見込まれている。
24/25年度は、堅調な輸出価格が食肉加工業者の需要をけん引し、家畜市場の取引価格を押し上げることで、同599豪セント(603円、同24.0%高)まで回復、その後も堅調に推移し、28/29年度には同702豪セント(706円、同13.6%高)までの上昇が見込まれている。
エ 24/25年度の牛肉輸出量はさらに増加
2023/24年度の牛肉輸出量は、国内の牛肉生産量が増加し、米国の旺盛な需要などにけん引されて、121万8229トン(前年度比20.5%増)と大幅な増加が見込まれている(図4)。
24/25年度以降の輸出量は、生産動向(と畜頭数および牛肉生産量の減少)の予測に従い、見通し期間中に減少に転じると見込まれている。
ABARESは、米国の牛群再構築について、米国中部での牧草の入手可能性が増加する25年初めに始まり、完了までには約5年の期間を要すると予測している。この間、米国の牛肉生産量も減少するため、米国のほか、これまで米国産牛肉を多く輸入してきた日本や韓国などから豪州産牛肉の需要が増加するため、中期的に豪州の牛肉輸出にチャンスをもたらし、輸出価格の上昇も下支えされると予測している。
オ 24/25年度の生体牛輸出頭数は引き続き増加
2023/24年度の生体牛(と畜場直行牛および肥育もと牛)輸出頭数は、豪州国内の生体牛価格の下落を受け、主要輸出先であるインドネシアからの需要が増加したため、65万頭(前年度比34.2%増)と大幅な増加が見込まれている(図5)。24/25年度以降も、生体牛価格が直近3年(20/21〜22/23年度)の平均価格(704豪ドル、7万829円)に比べて低水準で推移し、インドネシアからの引き合いも強いことから、引き続き増加傾向での推移が見込まれている。
(2)酪農・乳製品
ア 24/25年度の乳用経産牛飼養頭数および生乳生産量はともに減少
2023/24年度乳用経産牛の飼養頭数は、酪農家戸数の減少などから124万頭(前年度比2.0%減)に減少すると見込まれている(図6)。その一方で生乳生産量は、22/23年度と比較して乾燥した気象条件が牧草の品質向上と乳房炎などの健康リスクを低下させることで、827万キロリットル(同1.8%増)と過去30年間で最低水準となった前年度からの回復が見込まれている。また、品種改良の進展などに伴い1頭当たりの乳量も6575リットル(同2.7%増)に増加すると見込まれている(図7)。
24/25年度については、肉用牛取引価格の上昇が酪農家による乳牛の淘汰を後押しし、酪農家戸数の減少がさらに進展することから、生乳生産量は819万キロリットル(同1.0%減)に減少すると見込まれている。また、見通し期間中は、1頭当たりの乳量は堅調な増加が見込まれるものの、それを上回るペースで酪農家の離農が進み、飼養頭数が減少することから、生乳生産量も減少傾向で推移すると見込まれている。
イ 24/25年度の乳製品輸出量は前年度並みで推移
2023/24年度の乳製品輸出量は、生乳生産量の減少により主要4品目のうち、バターと全粉乳は主に中国の需要減を受けて減少するものの、チーズと脱脂粉乳は主に東南アジアの需要増を受けて増加が見込まれている(図8)。
24/25年度については、生乳生産量が23/24年度をやや下回る水準で推移するものの、輸出量では大きな変動は見られず、前年度並みでの推移が見込まれている。また、見通し期間中も、生乳生産量が減少することから、乳製品輸出量も減少傾向で推移すると見込まれている。
ウ 24/25年度の乳製品国際価格は上昇
乳製品国際価格は、世界の需給状況を反映し大きな変動を繰り返している。中期的な世界の生乳生産量は、米国とニュージーランド(NZ)の増加がEUの減少を上回るため、上昇が見込まれている。しかし、GHG排出削減など厳しい環境対策が圧力となり、世界の乳用牛飼養頭数が着実に減少すると予測される中で、生乳生産量が大幅に増加する可能性は低いとみられる。一方で、引き続き中国や東南アジアを中心とした需要の増加から、乳製品国際価格は上昇基調での推移が見込まれている(図9)。
エ 24/25年度の生産者乳価は下落
2023/24年度の生産者乳価は、世界的な乳製品価格が低下する中で、限られた生乳の確保を目的とした乳業各社による乳価競争から、1リットル当たり72.0豪セント(72円、前年度比3.7%安、固形乳1キログラム当たり約9.49豪ドル(約955円))と過去最高だった前年度を下回るものの、引き続き高水準を維持すると見込まれている(図10)。
24/25年度の生産者乳価は、引き続き世界的な乳製品価格の低下を受けて、同67.6豪セント(68円、同6.1%安、同8.91豪ドル(約896円))と2年連続の下落が見込まれている。しかし、その後は国内生乳生産量の伸びが少ないことから、高水準を維持すると見込まれている。