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話題 畜産の情報 2024年6月号

北海道酪農応援!「スキムミルク」キャンペーンについて 〜第1弾「防災リュックにスキムミルクを!」実施の経緯と効果〜

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農林水産省 九州農政局 次長(前 北海道農政事務所 次長) 吉永 宏喜

1 はじめに

 農林水産省北海道農政事務所(以下「農政事務所」という)では、スキムミルクの認知度を向上させることにより、家庭などでのスキムミルクの消費拡大を促し、脱脂粉乳在庫の減少の一助となるべく、独自の取り組みとして、「北海道酪農応援!『スキムミルク』キャンペーン」を実施しています。
 その第1弾として、昨年の防災週間に合わせ、「防災リュックにスキムミルクを!」を実施したところ、想定以上に反響があったことから、本稿では、波及効果などについてご紹介したいと思います。

2 キャンペーンの実施に至った経緯

 令和5年1月に福島一所長と筆者が農政事務所に着任した際、北海道の酪農は極めて厳しい情勢にありました。生乳の供給不足を解消するための生産拡大を進めていた矢先、令和2年からのコロナ禍によって急激に需要が落ち込んだことにより、需給ギャップが発生。続いてロシアのウクライナ侵攻などを契機として飼料などの価格高騰があり、コスト上昇分の乳価への反映が進まない中で生産抑制が実施され、酪農家の離農も大きな話題となっていました。
 そのような中、国内各地で牛乳・乳製品の消費拡大の取り組みが行われていましたが、脱脂粉乳の在庫量が令和3年度末には9万7700トンまで積み上がり(ピークは令和4年5月の10万4200トン)、飼料への転用など関係者の連携による在庫削減の取り組みに係る負担も酪農経営を圧迫していたことから、牛乳・乳製品全体の消費拡大の取り組みだけでは解消されない課題があると感じました。
 関係者が負担をして脱脂粉乳の在庫の削減に取り組んでも、バター需要が回復すると、バターの製造と同時に発生する脱脂粉乳の在庫は再度増大し、関係者は在庫削減の負担を続けなければなりません。脱脂粉乳の消費拡大を行ってバターの需要とのバランスが取れるようにしない限りこの問題は解決しない、そう思い、何かできることはないかと考えました。
 脱脂粉乳自体は、その多くが乳製品や菓子などの業務用の原料として使用されるため、農政事務所でできることは限られています。そこで、脱脂粉乳を水に溶けやすく加工したスキムミルクの知名度を上げ、家庭でもっとたくさん使用してもらうことで新たな需要の道をひらけないかと考え、キャンペーンを実施することにしました。

3 第1弾「防災リュックにスキムミルクを!」の実施

 キャンペーンの実施に当たり、消費者に普段なじみのないスキムミルクを手に取って購入し、消費してもらうには、なぜスキムミルクなのかということについて納得していただく必要があります。また、PR素材に目を留めてもらう必要もあります。
 このため、まずはスキムミルクの特長を調べることから始めたところ、(1)1年間常温保存が可能(2)軽量な割にタンパク質やカルシウムなどの栄養が豊富(3)水に溶いて低脂肪乳のように飲める―といった点から、スキムミルクの特長は防災備品として優れていることが分かってきました。防災の観点ならば、防災週間に合わせてキャンペーンを打ち出すことができます。また、自治体や団体・企業などにおいて、防災備品としてスキムミルクを採用してもらうことも期待できます。
 こうして防災の観点からPRチラシを作りはじめましたが、まず、なぜ他の保存食ではなくスキムミルクなのかという問いに答えられるよう、軽くてタンパク質やカルシウムが豊富という点を強調するとともに、缶詰に対する優位性を示す絵も入れることにしました。
 また、「北海道酪農応援!」と銘打つ以上、母牛が子牛を生むと毎日搾乳し続ける必要があることや、バターと同時に脱脂粉乳ができることも説明しなければなりません。きちんと内容を説明できて、分かりやすく、できるだけ少ない文字数で表現するのは大変難しい課題でした。
 消費者に親しんでもらえるよう、生乳ではなくミルクと標記することにした他、注目してもらえるよう、役所が作成するチラシとしては冒険を試み、「そのリュック、重くないですか?」という問いかけを行うことにするなど、事務所内部で議論しながらチラシの文面の改善を続けました。
 うれしい誤算だったのは、文面が固まって若手職員にチラシの作成を依頼したところ、イラストを描くことのできる職員がいて、魅力的な牛のキャラクターを入れたチラシにしてくれたことです(図1)。


 
キャンペーンの実施に当たっては、企画の段階から関係の深い業界団体に説明を行い、そこでいただいたアドバイスも反映させながら企画を組み立てていきました。
 また、農政事務所自らも積極的にイベントに出展し、このチラシを基に直接PRを行ってまいりました(写真)。

 

4 反響、波及効果

 こうして防災週間に合わせてプレスリリースを行うとともに、幅広い関係機関に文書を発出し、周知への協力依頼を行ったところ、幸いなことに多くのメディアに取り上げていただき、チラシの画像も掲載していただくことができました。
 新聞、ラジオ、業界紙で取り上げていただいた他、SNS、市町村・JA・消費者団体の広報誌、市町村のウェブサイトにも掲載いただきました。
 うれしいことに、国土交通省北海道開発局旭川開発建設部では、早速、防災備品としてスキムミルクを採用していただいた上に、そのことをX(旧Twitter)で発信していただきました。
 また、よつ葉乳業株式会社東京支社では、社員一人ひとりに支給している防災リュックの中身にスキムミルクを追加していただきました。今後は大阪支店でも導入を予定しているとのことです。
 さらに、雪印メグミルク株式会社では、当所のキャンペーンに賛同いただき、令和6年2月に札幌市で開催されたスキージャンプ大会において、来場者にレシピとスキムミルクを無料配布するとともに、天使大学のサークルと共同でブースの設置やキッチンカーでのスキムミルクを使った料理の提供などにより普及・啓発を行っていただきました。
 この他、令和6年3月の東日本大震災の節目の日には、当所のキャンペーンとその波及効果を防災の観点から取り上げた新聞記事も掲載されました。

5 おわりに〜今後のキャンペーンについて〜

 このように第1弾の波及効果はまだ続いており、第2弾をまだ打ち出せていない状況ですが、令和6年3月、農林水産省のYouTubeチャンネルである「BUZZMAFF(ばずまふ)」において、動画「【スキムミルクの魔法】名店『Bar SKIM』へようこそ。」を公開し、スキムミルクキャンペーンの番外編として周知を図っています(図2)。
 動画は、バーのマスターが客にスキムミルクを使ったさまざまなアレンジレシピの飲み物を提供するというドラマ仕立てになっており、セリフの中でスキムミルクの魅力をさりげなく紹介するとともに、意外なアレンジレシピも登場する楽しめる内容になっていますので、是非、ご覧いただければと思います。また、この公開に併せて農政事務所のウェブサイトにスキムミルクキャンペーンの特設ページを設置しました(図3)。
 農政事務所では、脱脂粉乳の在庫削減に少しでもつながるよう、今後もスキムミルクの消費拡大に向けキャンペーンを継続していきたいと考えています。引き続き、関係者の皆様のご協力をお願いします。





 
 
【プロフィール】
 
吉永 宏喜
昭和39年生まれ 長崎県出身
昭和62年3月 九州大学農学部卒業
      4月 農林水産省入省
平成20年4月 関東農政局企画調整室長
   22年10月 大臣官房情報評価課調査官
   23年9月 北陸農政局経営・事業支援部次長
   26年1月 内閣府政策統括官(経済社会システム担当)付参事官(社会基盤担当)付企画官
   28年4月 関東農政局地方参事官
   30年4月 中国四国農政局消費・安全部長
令和3年4月 東北農政局経営・事業支援部長
   5年1月 北海道農政事務所次長
   6年4月 九州農政局次長