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調査・報告  食肉 畜産の情報 2024年6月号

食肉センターの現状と課題

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畜産振興部、調査情報部
全国農業協同組合連合会 畜産総合対策部
 

【要約】

 食肉流通にとって欠かせない食肉処理施設は、食肉需要が増加する中で施設の老朽化、労働力不足、水道光熱費の高騰、輸送コスト等の上昇などさまざまな課題に直面している。このような中で、同施設の維持・更新を図るため、施設の広域化や輸出を含めた販売戦略の構築などの稼働率確保に向けたさまざまな取り組みが実施または検討されている。また、農林水産省および当機構では、国産食肉の生産・流通体制を強化するための各種支援措置を講じている。

1 はじめに

 畜産物は他の農産物とは異なり、畜産農家が肥育した牛や豚の生体のままでは流通させることはできず、当然のことながら食肉加工処理が必要となる。この処理を担う食肉処理施設は、食肉流通にとって欠かせない重要な施設である。
 食肉処理施設のうち、特に産地の食肉センターの現状を概観し、その課題について関連機関への取材とともに現場の声を紹介する。

2 食肉センターの現状

(1)食肉センターの社会的な役割

 食生活の欧米化に伴って、食肉の需要は増加傾向で推移しており、この食肉需要を支えるため、食肉の安定的な供給が不可欠となっている。その中で、わが国の牛肉および豚肉の生産量は、平成15年以降、ほぼ横ばいで推移しており、30年から令和4年にかけて、国内生産量は増加傾向で推移している(図1)。
 需要が増加している食肉に関しては、国民の健康を保持増進する観点から、家畜のと畜・解体処理については「と畜場法」や食肉の卸や小売等の流通については「食品衛生法」(いずれも厚生労働省所管)により、施設の設置や営業の許可、衛生管理、と畜場使用料の認可等の規制のほか、施設の構造の基準等が設けられており、これらの法令等を順守することによって、衛生的で安全な食肉の提供が確保されている。
 平成30年から令和4年にかけて、国内の牛肉および豚肉生産量は増加傾向で推移しており、と畜頭数も相関して増加傾向にある(図2)。
 畜産生産地において食肉センターは、と畜、部分肉の加工等流通の合理化に加え、冷凍・冷蔵設備により鮮度を保持して製品を供給することを可能とする施設と言える。



 
 

(2)全国の食肉処理施設

 家畜のと畜・解体処理を行う食肉処理施設は、食肉卸売市場に併設された「食肉卸売市場(中央卸売市場、指定市場)併設と場」、と畜(枝肉までの加工)から部分肉加工まで一貫して実施する食肉処理施設である「産地食肉センター」、「その他のと畜場」に分けられる。
 全国には167の食肉処理施設があり、このうち「食肉卸売市場(中央卸売市場、指定市場)併設と場」は31施設(構成比19%)、「食肉センター」は86施設(同51%)、その他のと畜場50施設(同30%)となっている(図3)。平成15年以降、全国の食肉処理施設は減少傾向で推移している。その他のと畜場は減少する一方で、産地食肉センターは増加傾向にある。

 

(3)機構と食肉センターとの関係

 当機構の前身である畜産振興事業団では、農畜産業およびその関連産業の健全な発展ならびに国民生活の安定に寄与することを目的として、主要な畜産物の流通の合理化のための処理、保管、運搬に関する事業等に対する助成を行った。昭和37年に出資事業が始まり、昭和50年代が最も多い。安全で衛生的な食肉を全国各地に供給することを目的として、施設の整備等のために食肉センター25法人に出資を行った。これは投資や経営参画を目的とした出資ではなく、産地での公正な価格形成の推進や消費地への運搬経費の削減などの機能を有する食肉センターの事業に対し地元の出資を誘引するきっかけでもあった。このため、当機構の出資順位は第2位であるものが大宗を占める。
 出資先は畜産の主産県である北海道、鹿児島県、宮崎県をはじめ全国各地に広がっており、現在でも、各地域における主要な食肉流通の役割を担っているところが多い。特殊法人等整理合理化計画(行政改革推進事務局、平成13年12月18日)に基づき、平成6年度に行った出資を最後に当該出資事業は廃止され、現在は既存の出資金に係る株式または持分の管理を行っている(表)。

 

(4)出資先の食肉センターの現状

 当機構では、出資先である食肉センター23法人に対して、毎年、出資者として経営状況の聞き取り等を行っている。
 その中で、特に多く上がった意見等は以下の通り。
 
ア 施設の老朽化
 多くの食肉センターでは、施設の築年数が30〜50年を迎えているが、新たに建て替えようとする場合、近年高騰する建設費や土地の確保といった問題を解決できる目処が立たず、主に現在の施設を修繕しながらの対応となっている。
イ 労働力不足
 雇用賃金の高騰や、求人を募集しても人材が集まらない、従業員が他業種に転職するといった問題も発生しており、食肉センターも慢性的な労働力不足となっている。
ウ 水道光熱費の高騰
 ロシアによるウクライナ侵攻や中東での紛争等の影響により、令和3年から日本においてもエネルギー価格が高騰した。食肉の処理過程で多くの水や燃料を使用する食肉センターでは、経費に占める水道光熱費の割合が大きくなり、また前年よりも大幅に増加したといった声が多く聞かれた。
エ 輸送コスト等の上昇
 家畜を輸送するトラックが不足するなどの影響で輸送コストが上昇している、また、包装資材費の高騰といった課題も挙げられている。多くの食肉センターでは、これらのコスト増加分をと畜料に十分に転嫁できていないことで収益が圧迫されている。
 
 これらに加えて、食肉の衛生管理対策への不断の追加投資や豚熱をはじめとする家畜疾病への対応などにより、十分な内部留保が蓄積されていない一方で、食肉センターの施設更新の必要性が高まっているのが現状である。
 温室効果ガス対策や建築資材の高騰も相まって施設の更新には多額の費用が必要となっているが、これをと畜、加工部門のみで負担することは非常に厳しい。すなわち、施設の更新に当たっては加工処理された食肉の輸出を含む販売戦略を構築しつつ、家畜の安定的な集荷を通じて食肉センターの稼働率を確保する必要がある。このように、食肉センターの更新・存続に向けては生産、と畜・加工、流通・販売を含めた畜産業全体での対応が求められている。併せて、衛生面での向上や処理・加工の合理化など都道府県行政と一体となった取り組みが必要と考えられる。
 次に、JAグループと民間企業の食肉センターの取り組みについて紹介する。

3 農協系食肉センターの課題と対応

 食肉センターの現状と課題について、全国農業協同組合連合会(以下「全農」という)からの寄稿を紹介する。
 
 農協系食肉センターの現状と課題を述べるに当たり、これまでのわが国の食肉流通とJAグループの取り組みを簡単に振り返っておきたい。まず、高度経済成長期に入り食肉需要が増加し、冷蔵技術の進歩もあって、食肉流通の主体は生体から枝肉取引に移行した。この間、国は食肉流通施設の近代化を図るため、昭和50年に「総合食肉流通体系整備促進事業」を制定し、食肉供給基地としての食肉センターの設置を促進した。
 そうした社会や国の動きに呼応し、JAグループの出資による農協系食肉センターも全国各地に設置された。また全農は、卸売市場を介さずに産地から直接販売する取引の広がりなどの環境変化に対応するため、販売拠点として大消費地に畜産センターを設置し、一部では集荷、と畜・加工施設を併設しながら、産地から消費地に畜産物を一貫して流通する体制を整備した。
 一方で、食肉センターに従事する技術者が絶対的に不足していたことを背景に、JAグループは48年に、畜産振興事業団(当時)とともに「全国食肉学校」を設立し、食肉業界に携わる人材の育成を進めた。53年には、「全国食肉センター協議会」を設立し、食肉センター間の連携強化や従業員の技術、品質・衛生管理の向上を目的とする研修会の開催などに取り組んでいる。令和6年2月時点で、わが国には164カ所の食肉処理施設が稼働している。そのうちJAグループの出資比率が過半以上を占めるなど、いわゆる経営責任を有する「系統産地食肉センター」は37カ所ある。このうち、34の食肉センターが全国食肉センター協議会に会員として加入している。
 食肉センターの直接的な課題は老朽化対策である。37カ所の系統産地食肉センターのうち、創業から30年以上経過した施設は25カ所を占めており、おおむね10年以内の更新を必要としている(図4)。しかし、いくつかの事例でいえば、1工場当たりおおむね100億円が目安とされていた建築費用は、直近の円安やウクライナ危機などの影響により、10年前に比べ3割以上高騰しており(図5)、仮に25カ所すべてに150億円の更新費用を要した場合、総額3750億円にのぼる計算になる。
 一方で、多くの食肉センターでは、主な収入源がと畜料金や部分肉加工料金などに限られていることから、創業から長期間経過し減価償却が進んでいるにもかかわらず、投資に向けた内部留保が蓄積されていない実態にある。






 
 加えて、要員不足も深刻であり、加工現場では人時生産性の維持や多様化する顧客の規格ニーズへの対応に支障をきたしている。また、枝肉相場が低迷する和牛を中心に、販売の出口戦略として輸出の拡大が求められるなか、要員不足は国際基準の工程管理の対応にも支障を生じさせるなど、このままでは実需者や消費者への食肉の供給といった機能を果たせなくなる恐れがある。
 そもそも食肉は他の農産物と違い、生産者が出荷した家畜そのままでは食品として流通できず、と畜・加工工程を経て食品に変換する必要があることから、食肉センターは食肉産業にとって必要不可欠なインフラである。従って、食肉センターの更新や運営が立ち行かなくなれば、たとえ生産基盤の縮小に歯止めをかけたとしても、生産者と消費者を結ぶバリューチェーンにおいて食肉センターがボトルネックとなり、いずれ日本の食卓に食肉を安定供給する機能が失われることになる。
 すなわち、食肉センター問題は、生産から消費までの畜産バリューチェーン全体、ひいてはわが国の食料安全保障の根幹にかかわる課題として捉える必要があり、単なる施設の老朽化や要員不足といった食肉センター単独の問題にとどまらない(図6、7)。
 この様な産業全体にわたる課題を個々の食肉センターで解決していくことは困難なことから、全農は令和4年4月、専任部署として「食肉事業対策室」を設置し、持続可能な畜産事業の実現に向けた方向性の立案に当たっている。この検討は、すべての地域を対象とするのではなく、まずは、(1)販売事業の全国的な展開において戦略上重要であり(2)生産基盤も含めた事業の方向性が確立され(3)JAグループの出資比率が高く施設更新が急務である地域の系統産地食肉センターを中心に進めている。
 これまでの検討では、施設更新に当たって、食肉センター単体では投資回収と経営継続の見通しが立たない可能性が改めて浮き彫りになったことから、今後は川下の食肉販売事業との一体化や県域を超えた広域化、他社とのアライアンス(提携)の可能性なども視野に掘り下げていくこととしている。
 また、食肉事業全般の視点に立てば、適正な価格形成や、気候変動対策やアニマルウェルフェアなどの社会的課題、エシカル消費(注)に代表される新たな価値観などへの対応も急務である。
 今後は、専任部署がハブとなり、行政の支援や地域住民の理解、地域の事業パートナーとの協議などにより、食肉センターの課題を畜産バリューチェーン全体の中で捉えつつ、取り組みを通じて持続可能な畜産事業の実現を目指していきたい。
 
(注)地域の活性化や雇用などを含む、人、社会、地域、環境に配慮した消費行動。



 

4 民間企業の動向〜ニッポンハムグループの事例〜

 次に、民間企業の動向の一例として、ニッポンハムグループの食肉処理を担う日本フードパッカー株式会社の道南新工場(八雲町)の概要を紹介する。
 
 ニッポンハムグループの食肉処理を担う日本フードパッカー株式会社は、昭和50年に北海道道南地域で道南工場を建設し、その操業を開始した。道南工場では豚をと畜し、豚肉、豚脂、豚骨、食用油脂などを製造しており、令和6年1月に新工場の竣工を迎え、同年3月から稼働を開始している(写真1、2)。




 
 新工場は旧工場と比べて延べ床面積が8001平方メートルから1.9倍の1万5258平方メートルとなり、年間処理頭数は26万7050頭から36万7500頭に増加した。これまで道外に出荷して処理していた豚も新工場で集約可能となり、道内で豚の飼育から食肉処理まで一貫して完結できる効率的な体制が出来上がった。これは生産者にとっては輸送コストの削減につながる。
 ただ昨今では、公共施設でも民間施設でも食肉処理工場の建設は難しいとされる。道南工場の新設が可能になった要因の一つは、5で後述する農林水産省が実施する補助事業に参画できたことである。もう一つは、旧工場の隣に新工場用の土地を確保できたことである。旧工場を稼働させつつ新工場を建設することができたため、豚の集約や豚肉の供給が滞ることはなかった。この土地の確保には八雲町の協力があった。
 この新工場の特徴は、手作業の機械化である。代表的な例として、従来は、「皮はぎ式」で行っていた工程を、欧州ではスタンダードな「スチーム処理式」工程へと変更し、生産の効率化を図った。その他にも豚肉の除骨や分割を自動化するロボットも導入した。機械化により作業品質の安定にもつながり、日本ハム株式会社によれば、処理能力が約4割向上するとしている。
 その他には、環境への対応がある。新工場は全電灯LED照明やLNG(液化天然ガス)燃料を導入した。さらに、豚の係留エリアには飲水用設備を設置し、アニマルウェルフェアの実践に必要とされる五つの自由のうち「飢えと渇きからの自由」へも対応している。
 豚熱ワクチン接種の関係で、令和5年9月27日以降、日本では北海道以外から豚肉の輸出はできなくなった(6年5月17日時点)。新工場は、引き続き輸出にも対応した施設となっている。ただし新設のため、香港、ベトナム、シンガポールおよびタイへの豚肉輸出認可を改めて申請中であり、6年の秋ごろに取得の予定である。「スチーム処理式」の導入により、新工場でしか製造できない商品にも挑戦し差別化も図るとし、豚肉の輸出においては新工場が中核をなすとしている。
 日本フードパッカーおよびニッポンハムグループは、新工場を介して東日本を中心とした安定的な豚肉供給につなげるとともに輸出強化にも力を入れ、地域の畜産振興に貢献する食肉産業の持続的な発展にまい進したいとしており、日本を代表する畜産関連事業者として業界をこれからもけん引していくことが期待される。

5 おわりに〜酪農肉用牛近代化基本方針における位置付けおよび国の支援措置〜

 農林水産省においては、「酪農及び肉用牛生産の振興に関する法律」(昭和29年法律第182号)に基づき、酪農および肉用牛生産の振興に関し、「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」をおおむね5年ごとに定めており、直近では令和2年3月31日に策定されている。
 この基本方針の「第4 集乳及び乳業の合理化並びに肉用牛及び牛肉の流通の合理化に関する基本的な事項」の中で、食肉処理施設に関して、生産者・食肉処理施設・食肉流通事業者の3者によるコンソーシアムの下、再編合理化を促進し、施設の稼働率の向上、高度な衛生水準の確保、処理・加工の自動化、と畜から精肉加工までの一貫製造体制の構築を図り、国産食肉の生産・流通体制を強化するとしている(図8)。
 これを受けて、農林水産省では、食肉処理施設への支援措置として、畜産農家・食肉処理施設・食肉流通事業者の3者でコンソーシアムを組織し、流通構造の高度化および輸出拡大を図るためのコンソーシアム計画の策定およびその実現に向けた取り組み、同計画に位置付けられた食肉処理施設の再編合理化に必要な施設整備、機械導入等を支援する食肉流通構造高度化・輸出拡大事業を令和6年度当初予算で措置している(図9)。また、食肉処理施設の再編合理化に加えて、輸出対応型畜産物処理加工施設の整備を支援する食肉等流通構造高度化・輸出拡大事業も令和5年度補正予算で措置している(図10)。
 さらに、当機構の事業として食肉流通施設等整備改善支援事業でも支援措置を講じているところである。
 現行の基本方針の策定から4年が経過したところであり、現在の基本方針の見直しに向けた検討が進められているが、本稿が、畜産関係者が広く食肉処理施設の取り巻く状況を理解し、それぞれの立場における取り組みを促進するきっかけとなれば幸いである。