(1)食肉センターの社会的な役割
食生活の欧米化に伴って、食肉の需要は増加傾向で推移しており、この食肉需要を支えるため、食肉の安定的な供給が不可欠となっている。その中で、わが国の牛肉および豚肉の生産量は、平成15年以降、ほぼ横ばいで推移しており、30年から令和4年にかけて、国内生産量は増加傾向で推移している(図1)。
需要が増加している食肉に関しては、国民の健康を保持増進する観点から、家畜のと畜・解体処理については「と畜場法」や食肉の卸や小売等の流通については「食品衛生法」(いずれも厚生労働省所管)により、施設の設置や営業の許可、衛生管理、と畜場使用料の認可等の規制のほか、施設の構造の基準等が設けられており、これらの法令等を順守することによって、衛生的で安全な食肉の提供が確保されている。
平成30年から令和4年にかけて、国内の牛肉および豚肉生産量は増加傾向で推移しており、と畜頭数も相関して増加傾向にある(図2)。
畜産生産地において食肉センターは、と畜、部分肉の加工等流通の合理化に加え、冷凍・冷蔵設備により鮮度を保持して製品を供給することを可能とする施設と言える。
(2)全国の食肉処理施設
家畜のと畜・解体処理を行う食肉処理施設は、食肉卸売市場に併設された「食肉卸売市場(中央卸売市場、指定市場)併設と場」、と畜(枝肉までの加工)から部分肉加工まで一貫して実施する食肉処理施設である「産地食肉センター」、「その他のと畜場」に分けられる。
全国には167の食肉処理施設があり、このうち「食肉卸売市場(中央卸売市場、指定市場)併設と場」は31施設(構成比19%)、「食肉センター」は86施設(同51%)、その他のと畜場50施設(同30%)となっている(図3)。平成15年以降、全国の食肉処理施設は減少傾向で推移している。その他のと畜場は減少する一方で、産地食肉センターは増加傾向にある。
(3)機構と食肉センターとの関係
当機構の前身である畜産振興事業団では、農畜産業およびその関連産業の健全な発展ならびに国民生活の安定に寄与することを目的として、主要な畜産物の流通の合理化のための処理、保管、運搬に関する事業等に対する助成を行った。昭和37年に出資事業が始まり、昭和50年代が最も多い。安全で衛生的な食肉を全国各地に供給することを目的として、施設の整備等のために食肉センター25法人に出資を行った。これは投資や経営参画を目的とした出資ではなく、産地での公正な価格形成の推進や消費地への運搬経費の削減などの機能を有する食肉センターの事業に対し地元の出資を誘引するきっかけでもあった。このため、当機構の出資順位は第2位であるものが大宗を占める。
出資先は畜産の主産県である北海道、鹿児島県、宮崎県をはじめ全国各地に広がっており、現在でも、各地域における主要な食肉流通の役割を担っているところが多い。特殊法人等整理合理化計画(行政改革推進事務局、平成13年12月18日)に基づき、平成6年度に行った出資を最後に当該出資事業は廃止され、現在は既存の出資金に係る株式または持分の管理を行っている(表)。
(4)出資先の食肉センターの現状
当機構では、出資先である食肉センター23法人に対して、毎年、出資者として経営状況の聞き取り等を行っている。
その中で、特に多く上がった意見等は以下の通り。
ア 施設の老朽化
多くの食肉センターでは、施設の築年数が30〜50年を迎えているが、新たに建て替えようとする場合、近年高騰する建設費や土地の確保といった問題を解決できる目処が立たず、主に現在の施設を修繕しながらの対応となっている。
イ 労働力不足
雇用賃金の高騰や、求人を募集しても人材が集まらない、従業員が他業種に転職するといった問題も発生しており、食肉センターも慢性的な労働力不足となっている。
ウ 水道光熱費の高騰
ロシアによるウクライナ侵攻や中東での紛争等の影響により、令和3年から日本においてもエネルギー価格が高騰した。食肉の処理過程で多くの水や燃料を使用する食肉センターでは、経費に占める水道光熱費の割合が大きくなり、また前年よりも大幅に増加したといった声が多く聞かれた。
エ 輸送コスト等の上昇
家畜を輸送するトラックが不足するなどの影響で輸送コストが上昇している、また、包装資材費の高騰といった課題も挙げられている。多くの食肉センターでは、これらのコスト増加分をと畜料に十分に転嫁できていないことで収益が圧迫されている。
これらに加えて、食肉の衛生管理対策への不断の追加投資や豚熱をはじめとする家畜疾病への対応などにより、十分な内部留保が蓄積されていない一方で、食肉センターの施設更新の必要性が高まっているのが現状である。
温室効果ガス対策や建築資材の高騰も相まって施設の更新には多額の費用が必要となっているが、これをと畜、加工部門のみで負担することは非常に厳しい。すなわち、施設の更新に当たっては加工処理された食肉の輸出を含む販売戦略を構築しつつ、家畜の安定的な集荷を通じて食肉センターの稼働率を確保する必要がある。このように、食肉センターの更新・存続に向けては生産、と畜・加工、流通・販売を含めた畜産業全体での対応が求められている。併せて、衛生面での向上や処理・加工の合理化など都道府県行政と一体となった取り組みが必要と考えられる。
次に、JAグループと民間企業の食肉センターの取り組みについて紹介する。