畜産 畜産分野の各種業務の情報、情報誌「畜産の情報」の記事、統計資料など

ホーム > 畜産 > 畜産の情報 > 動物輸送に関するEUのアニマルウェルフェア規則の改正案について

海外情報 EU 畜産の情報 2024年6月号

動物輸送に関するEUのアニマルウェルフェア規則の改正案について

印刷ページ
調査情報部

【要約】

 欧州委員会は動物輸送に関するアニマルウェルフェア規則の改正案を発表した。同改正案で注目すべき点は、EU域外国での輸送時にも一部の規則を適用しようとしている点である。しかし、生産者団体および動物保護団体からは強い不満が表明されているなど、同規則の改正案は厳しい調整が続くとみられる。日本と欧州間での、種畜や競走馬の輸送も対象になると考えられるため、今後も審議の動向を注視する必要がある。

1 はじめに

 欧州委員会は2023年12月7日、動物輸送に関するアニマルウェルフェア(AW)規則の改正案(以下「AW改正案」という)を発表した。今後、AW改正案は欧州議会とEU理事会の審議にかけられる。当初、同時に発表される予定とされていた農場段階、と畜段階および表示ラベルのAW改正案については、引き続き検討する必要があるとして今回は提案が見送られた。
 AW改正案で注目される点は、EUから域外への動物輸送や、域外からEUへの動物輸送も対象とされていることである。このため、動物輸送を依頼する者や実際に動物輸送を行う運送業者に対しても、域外での動物輸送時にこのAW改正案の一部が適用されることになる。
 EUから輸出される種畜輸送や、EUと域外との間で輸送される競走馬などにも影響する可能性があり、また、今後の日本のAWに関する議論にも影響を及ぼすことも否定できない。このため、本稿ではAW改正案について、改正の背景や具体的内容、業界の反応について取り上げる。
 なお、本稿は独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)から農林水産物・食品輸出支援プラットフォ−ムの2023年度事業の成果物として提出された報告書について、許可を得て内容の一部を見直し転載した。

2 今回の改正の背景

 今回のAW改正案は、持続可能な農業と食料生産のための「農場から食卓まで(Farm to Fork)」戦略の一環として位置づけられている。
欧州委員会の資料によれば、EUの動物輸送に関する規制が大幅に見直された2004年から20年近く経過する中で、その間の科学技術の進展や、消費者の行動や意識の変化に対応できていないとして、規則改正の必要が訴えられていた。
 また、現状調査(Fitness Check)の結果、(1)輸送中の動物に対するAWは、特定の輸送条件では機能しておらず、近代的で効果的な取り締まり手段が欠如していること(2)EUレベルで共通して要求されている水準が、執行段階では必ずしも十分に達成されていないこと(3)国レベルで制定されている輸送中のAWのための国内法の違い(注1)によって、域内各国の競争条件が不均等になっていること―など輸送中の動物に対するAW上の問題点が判明したことが、改正の必要性として挙げられている。
 欧州委員会は今回のAW改正案について、輸送中の動物に対するAWの向上のために不可欠な要素として次の四つに焦点を当てている。
● 輸送時間の制限と休憩時間の増加
   これまで、食肉処理場までの輸送時間には緩やかな制限(畜種により24〜29時間の輸送
   が認められ、その後24時間の休憩の後、再び輸送させることができる)が設けられていた
   だけであったが、制限の厳格化により動物の負担が軽減された。また、輸送時間の制限
   は、ドラ
イバ−の権利保護に関する法律と歩調が取られているため、より実行に移しやす
   いものとなっている。
● 1頭当たりのスペ−スの増加
     畜種と生体の重量に応じて、輸送中に確保すべき最低限のスペ−スが規定された。こうし
   た基準は欧州食品安全機関(EFSA)の勧告に準じたものであり、動物が輸送中に安全に
   体勢を整え、休息することを可能にしている。
● 輸出時の輸送条件の改善
   
EU域外への輸出時にも、規則の適用が求められる要件が含まれている。これには、海路
   による輸送について厳格化された規則や、動物輸出に関する独立した監査・認証制度が
   含まれる。
● 外気温度による輸送制限と脆弱ぜいじゃくな状態にある動物の輸送制限
   
輸送される動物は高温や低温など、不快な外気温度から保護される。高温時には、輸送
   時間の制限やより大きなスペ−スの確保、輸送を夜間に限定するといった措置が取られ
   る。低温時には、輸送車両などに冷風を防ぐカバ−を取り付けるとともに、輸送時間が制
    限される。妊娠中の動物、排卵期間を終えた雌鶏(廃鶏)、離乳していない子牛など脆弱
   な動物の輸送に関しては、特別規定がある。
 
(注1)EUの法令には、主に「規則」(Regulation)、「指令」(Directive)、「決定」(Decision)があり、加盟国法に優越している。ただし、すべての加盟国で直接適用される「規則」や、対象者(特定の加盟国の政府や企業、個人)に直接拘束力を持つ「決定」と違い、現行のAWが定められている「指令」では、加盟国は基本的に「達成されるべき結果」は拘束される一方、結果を達成するための方法については、加盟国の国内法として制定し直すことから、国別の事情に即した制定が可能である一方、国別に差異が生じる。

3 生体輸送の現状と市民の関心

 欧州では動物の輸送が盛んに行われている。
 例えば、デンマ−クは豚肉の一大生産国である一方、肥育用もと豚やと場直行豚をドイツなどの周辺国に多く輸出している。また、アイルランドは放牧酪農による自然交配が多く行われるため、生まれる子牛の半数は雄であり、これら雄子牛は肥育もと牛や子牛肉向けとしてスペインやオランダに船舶で輸送されている。ル−マニアなどの東欧諸国では、トルコや中近東向けのヒツジやウシなどの生体輸出が重要な販売ルートとなる。他方でリビアなど国内の食肉生産基盤や食肉輸送インフラが未整備の国では、EUからの生体家畜の輸入が重要な食品流通ル−トであり、イスラエルやイスラム諸国も生体を輸入することで、自国内でと畜時に必要な宗教上の手続きが可能となる。さらに、EUの一部の加盟国では、域外の第三国への生体家畜の輸出を禁じているが、域内の移動が可能なため、北アフリカ地域をはじめとする第三国向けの輸出ル−トを持つスペインやフランスから、生体家畜の迂回うかい輸出が行われているとされる。
 一方、2019年にル−マニアからサウジアラビアに向けて食肉用のヒツジを輸送していた家畜運搬船が沈没し、ヒツジが溺死した事例や、22年のフランスからアルジェリアに向けて出港した運搬船が衛生証明書の不備により、シップバック(積み戻し)され多数のウシが殺処分された事例、同様にスペインからトルコに向かった2隻の船が雄牛を載せたまま3カ月係留された後、シップバック先の港で殺処分された事例などが発生したことで、家畜輸送に対する市民の関心が高まっている。
 また、AWに対する意識の高まりにより、欧州市民イニシアティブ(ECI:‘European Citizens’ Initiative)(注2)を利用し、「ケ−ジ時代を終わらせる」(End the Cage Age)が20年10月に欧州委員会に提出され、欧州委員会は21年6月、同イニシアティブに対応するため取るべき行動を定めた「コミュニケ」を採択している。
 
(注2)加盟国7カ国から合計100万人以上の署名を集めれば、欧州委員会に対して立法を提案することができる制度。
 

4 AW改正案の内容

 AW改正案の内容を以下に紹介する。
 なお、AW改正案に該当する条項を【番号】で表す。

 

(1)重要な語句と定義【3】

● 動物:
   生きている脊椎動物、頭足類、十脚類をいう。「水生動物」は魚類、頭足類、十脚類で、「陸
 上動物」はウシ(子牛を含む)、ブタ、ヒツジ、飼育されているウマ、その他哺乳類、家きん類
● 出発地:
   
出発の1週間前から動物が収容され最初の輸送手段に積み込まれる場所、または動物が
 100キロメートル以内の範囲で集積される集合センター
● 集合センター:
     (EU)規則2016/429 に基づき公的に登録されたセンター(集積場所)であり、複数の保
 有地からのウシ、ヒツジ、ウマ、ブタを集めグル−プ別に分けるため
 管理ポスト:
     (EU)規則1255/97 に基づき公的に登録された場所であり、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタを
 少なくとも24時間収容するための中継地点
● 目的地:
   
食肉処理場または動物が輸送手段から降ろされ、その後出発するまで1週間以上収容さ
  れる場所
● 旅程:
   
出発地での輸送手段への動物の積み込みから、目的地での動物の積み下ろしまでの一連
 の業務
 長時間の旅程:
     
9時間を超える旅程
 主催者:
   
自ら輸送を行う者、または他の輸送者に動物の輸送を委託する者
 輸送者:
   
経済活動のために自己または第三者のために動物を輸送する者
 輸送手段:
   
動物の輸送に使用される道路車両、鉄道車両、船舶および航空機
 畜産用船舶:
   
家きん類またはウサギ以外の陸上動物の輸送のために建造・改造された外洋船。
   ただし、EU域内の港から10海里(18.52キロメートル) を超えない距離の輸送は対象と
 ならない。
 大型動物用コンテナ:
   
道路、鉄道またはコンテナ船による輸送手段において、家きんまたはウサギ以外の陸
 上動物の輸送に利用されるコンテナ
 

(2)地理的、輸送目的による適用範囲の違い

 AW改正案の地理的な適用範囲は、EU域内に限らず、(1)第三国の出発地からEU域内の目的地まで(2)EU域内の出発地から第三国の目的地まで(3)動物がEU域内を通過する時は、EU域内に入る国境管理所からEU域内を出る国境管理所まで―とされており、第三国内の移動についても適用される【2−1】。
 一方で、輸送目的によってAW改正案の適用範囲は限定され、(1)季節ごとに生産者が自ら家畜を輸送する移牧(2)畜舎から50キロメートル以内での生産者による自己の家畜の移動(移牧を除く)(3)展示会や協議会、馬術スポ−ツなどの活動への参加―には、一般規定(注3)のみが適用される【2−2】。
 さらに、経済活動ではない動物の輸送、治療目的の輸送、ワシントン条約に基づく保護種の輸送、動物園間の輸送や、観賞魚の輸送および小売業者への直接の水産動物の輸送は、規則から適用除外されている【2−3】。
 
(注3)この一般規定には、「何人も、動物に過度の苦痛を与え、または与える恐れのある方法で動物を輸送し、または輸送させてはならない」として、輸送目的別に関係者が配慮すべき注意点を掲げているが、具体的な制限内容や採るべき手段などは定められていない【4−1、 4−2】。
 

(3)主催者および輸送者の認可

 動物の輸送で重要な役割を果たすのは主催者と輸送者である。主催者および輸送者に対しては、表1のさまざまな要件が定められている。
 主催者が長距離輸送を主催するためには認可を受ける必要があり、EU加盟国内での法人設立または代表者の配置が条件となる。このため、EU域内に人を配置していない会社は、長距離輸送の主催者にはなれない。一方、生産者が輸送者に対して、と畜のために域内向けに9時間以内の短時間の域内旅程を依頼するなど、長時間の旅程の依頼でない時は、主催者としての認可を受ける必要はない。
 輸送者は、EU加盟国内での法人設立または代表者の配置および動物輸送のために必要十分な人員・能力を備えていることが条件となる。さらに、9時間以内の短時間の輸送を行う者と、9時間を超える長時間の輸送を行う者では求められる条件が異なり、長時間の旅程を行う場合は、(1)トラックなどの運送手段について認証を受けていること(2)輸送手段の動きを追跡し記録できること(3)運転手と速やかに連絡が取れること(4)輸送中の緊急事態への対応計画の策定が求められている。


 
 

(4)輸送手段について

 輸送者は、当局により輸送手段の検査および認証を受けない限り、動物を陸路または鉄道で長時間輸送することが不可となる。また、家きん類およびウサギ以外の陸上動物を道路や鉄道で輸送する時に用いるコンテナも同様に認証を受ける必要がある【12】。
 海路についても家畜用船舶の検査および認証を受けない限り、EU域内の港から10海里(18.52キロメートル)を超える距離の輸送が不可となる【13】。また、RORO船(注4)についても別の要件を満たす必要がある【11】。
 空路では、国際航空運送協会(IATA)の会員のみ輸送が可能と定められており、当規則による特段の制限は列挙されていない【11−4】。
 輸送者は、TRACES(注5)により上記の輸送を申請する必要がある。輸送手段は表2の通り、附属書Tの第U章および第Y章の要件に適合している必要がある【12】。
 動物の輸送手段やコンテナ(輸送手段など)には、輸送機能以外にもAWが求められる。また、輸送手段は洗浄・消毒され、輸送される動物の管理が可能となり、十分な照明や清浄な空気、餌や水の提供に加えて、排せつ物が漏れない構造の必要がある(付属表U 1.1、以下【付属表U−1.1】と表記する)。さらに、動物が自然に立ち上がったり座ったりできるよう、十分な空間を設ける必要がある【付属表U−1.2】。
 体重10キログラム未満の子豚、20キログラム未満の子羊、生後6カ月未満の子牛および生後4カ月未満の子馬には、十分な敷料を準備する【付属表U−1.5】。
 鉄道による輸送が3時間を超える場合、輸送中の傷病などにより安楽死が必要となった動物種に適した殺傷手段を指示書とともに、係員が理解できる言語で用意する【付属表U−2.4】。
 密閉されたデッキのRORO船の場合、船長は動物の積み込み前に、強制換気システムや、故障時の警報システムと二重電源の装備を確認する。オ−プンデッキの場合は、輸送される車両や動物が海水から保護されていなければならない。また、積み込まれた車両は両側に少なくとも1メートルの空きスペ−スを確保する【付属表U−3】。
 コンテナによる輸送の場合は、生きた動物の積載が外部から分かるよう、コンテナの上部に明確に判別できる標識をつける【付属表U−4.1】。
 
(注4)貨物を積載したトラックなどの車両が自走で乗船し、その車両を運搬する貨物船。AW改正案で、RORO船による動物運搬の要件が定められている。旅客船であるフェリーに比べ規格が緩く、船員数も少ない。
(注5)EUにおいて、動物、動物製品、非動物由来の食品および飼料、植物の貿易の手続きに使用されるシステム。

 

(5)輸送前から到着地までの関係者の義務

 輸送前から到着地に至るまで、関係者には表3の義務が割り当てられている。


 
 

(6)陸上動物の輸送条件

 陸上動物の輸送条件は図1の通りであり、(1)9時間を超える家きんなどを除く陸上動物の輸送(2)9時間以内の家きんなどを除く陸上動物の輸送(3)家きんなどの輸送(4)離乳前など脆弱な動物の輸送―によって輸送条件が異なる。


 
 

(7)第三国との間の輸送

 第三国との間の輸送には、次の追加的な義務が発生する。
 
ア 第三国への動物の輸送時
 主催者は、短時間および長時間のどちらの旅程であっても、旅程を作成し、かつ、目的地の輸送車および飼育者が実施すべき項目の記載を確認する【32−2】。
 また、旅程に家畜用船による輸送が含まれる場合、主催者は目的地の管轄当局が到着証明書に記入、署名し、出発地の管轄当局に証明書が返送されたことを確認する【32−3】。動物を第三国へ輸出する時は、加盟国が指定した地点を通過する必要がある【32−4】。
 さらに、主催者は第三国の目的地までの初回の旅程を評価するために、認証機関を手配しなければならない【33−1】。認証機関は、最初に行われる旅程について、表4の内容を確認する【33−2】。これらの条件を満たした時、認証機関は第三国への動物輸送について5年間有効な証明書を主催者に発行し【33−3】、主催者はその証明書を、主催者を認可した管轄当局に送付しなければならない【33−4】。
 認証機関が確認した内容が規則を満たしていないと判断された時、主催者の第三国への輸送の許可は停止される【33−6】。また、認証機関は、証明書の有効期間である5年間において、少なくとも2回の抜き打ち検査を実施する【33−7】。
 第三国の管理ポストも同規則の要件を満たす必要があり、欧州委員会は管理ポストのリストを作成し、承認する【34−1〜4】。認証機関または欧州委員会の監査により、基準を満たさないと判断された時は、リストから削除される。

 
イ 第三国からの動物の輸送やEUを通過する輸送時
 第三国の出発地からEU域内の目的地まで、本規則と同等の条件に従った輸送であること、第三国の出発地および出発時刻をTRACESに登録し、輸送される動物に添付する衛生証明書で、出発地の管轄当局により、本規則と同等の条件で輸送されると証明されなければならない【35】。
 また、EUを通過する時には最大輸送時間に関する規定を除き、域内での輸送について、本規則を順守することが必要となる【36】。
 

(8)動物の取り扱いについて

 輸送中の動物に必要な1頭羽当たりの面積は、図2の方程式を用いて計算される。

 また、計算された面積の例は表5の通りである。


 
 面積に加えて高さも定められており、ウシについては図3の方程式で計算される。
 またヒツジは、最も背の高い品種の頂点(体長)から天井までを、(1)機械換気を行っている場合は15センチメートル(2)行っていない場合は30センチメートル―開ける必要があり、家きんの場合は、姿勢を変えたときに、鶏冠や頭が天井に触れない高さでなければならない【付属表T−3−6】。
 その他、輸送時の取り扱いとして積み込みや、積み下ろし時の積載用スロ−プの角度を制限、落下を防ぐための柵、表面が滑りにくい床にするといった取り決めがされている。また、家きんの積み下ろし時には、人間が足を一度につかむことができる家きんの羽数は3羽までと決められている【付属表T−3−2.3】。
 また、電気ショックが許可される動物は、体重が80キログラム以上のウシとブタ、理由なく全く動かない動物に限定され、回数は最大2回、時間は1回1秒以内で後ろ足の筋肉部に対してのみ使用できる【付属表T−3−3】。
 鼻輪の装着や角や脚を縛ること、子牛に口輪をつけることは禁じられている【付属表T−3−3】。
 異なる動物種、大きさや年齢が著しく異なる動物、繁殖用のブタや種馬、成熟した雄と雌、角のある動物とない動物、対立している動物、縛られている動物と縛られていない動物は、個別に取り扱う【付属表T−3−4】。また、動物種および年齢に応じ、適切な間隔で水、飼料および休憩の機会を与えなければならない【付属表T−3−5】。

5 業界団体による反応

 EU最大の農業生産者団体である欧州農業組織委員会・欧州農業協同組合委員会(Copa−Cogeca)は、2023年12月7日付のプレスリリ−スで、(1)輸送時間などがより厳しく制限される幼体の年齢の引き上げにより、酪農家などへ甚大な影響が生じ、一部は廃業に追い込まれる危険があること(2)輸送時間の制限により、と畜場への輸送が限定され、インフラが整備されていない地域や山岳地帯を抱える加盟国に悪影響が生じること(3)外気温による輸送制限は夏に気温が高くなる南欧諸国にとって影響が大きいだけでなく、夜間の移動は昼行性の家畜にとって負担となること(4)密度規制により一度に運べる家畜が減少し、必要なトラックが増加することで、必要な労働者のみならず温室効果ガス排出量も増加すること―などを指摘し見直しを強く求めている。
 同様に欧州道路運送業者機構(OTRE)(注6)も24年3月27日付のプレスリリ−スで、(1)動物間の間隔が広がることにより輸送中の態勢が不安定となり、転倒などによりけがを負うリスクが高まる(2)走行状態の記録など輸送者の管理負担が増えることや、規制案で定めているTRACESシステムでカバ−されていない地域での移動が多く、輸送のリアルタイムモニタリングは不可能である(3)長距離輸送後の休息義務については、休息施設がない地域が数多く存在することや場所により衛生環境に大きな格差があるため、運送業者は給餌システムなどが装備された輸送手段を用意する必要がある―としている。
 一方、動物のためのユ−ログル−プ(Eurogroup for Animals)(注7)は、23年12月11日付のプレスリリ−スで同規則案を評価しつつも、(1)提案内容は水準が低く、一部内容は欧州食品安全機関(EFSA)による勧告内容から後退していること(2)と畜以外の目的であれば3日間で42時間の輸送が認められること(3)当初予定されていた他の三つの規則、特にケ−ジ飼育の廃止に関する農場段階の規則案が提案されなかったこと―などに不満を表明している。
 AW改正案は、23年12月6日の発表予定から1日遅れた上、詳細な条件を定めた附属表についてはさらに数日公表が遅れるなど、直前まで調整が続いていたとみられている。また、同月7日に行われた説明会では、生産者団体および動物保護団体から強い不満が表明されるなど、今後の審議過程で、厳しい調整が続くとみられる。
 
(注6)生体動物輸送などを行う道路運送会社3400社以上が加盟する団体。
(注7)欧州各地の団体100以上が会員となっている動物保護のNGO団体。

6 おわりに

 今後、AW改正案は欧州議会とEU理事会の審議にかけられることになる。
 日本に関して、欧州から輸入される種畜の輸送や両地域・国間での競走馬の輸送が対象になると考えられるため、今後の審議を注視する必要がある。現在、航空機による輸送には大きな制限はないが、日本に到着した後の陸上輸送において、主催者および輸送者も欧州委員会が定める研修の受講が必須とされた場合、どの程度現実的な対応が可能か見極める必要がある。また、第三国でも動物の位置情報を追跡する器具を装着し、TRACESに連携させることについて、どの程度の労力や費用が掛かるかは不明である。
 さらに、主催者による最初の輸送について、認定機関が綿密な確認を行うことになるが、この段階で不適切と判定されると、欧州から日本への動物輸送について問題が発生する恐れがある。
 一方、現在日本では、EU向け牛肉輸出の認定施設に搬入される牛に課せられるAW要件は、と畜について規定したEU規則(1099/2009)に基づくものであり、今回のAW改正案とは別の規則であることから、EU向け牛肉輸出への影響はないと考えられる。
 
 
(平石 康久(JETROブリュッセル))