AW改正案の内容を以下に紹介する。
なお、AW改正案に該当する条項を【番号】で表す。
(1)重要な語句と定義【3】
● 動物:
生きている脊椎動物、頭足類、十脚類をいう。「水生動物」は魚類、頭足類、十脚類で、「陸
上動物」はウシ(子牛を含む)、ブタ、ヒツジ、飼育されているウマ、その他哺乳類、家きん類
● 出発地:
出発の1週間前から動物が収容され最初の輸送手段に積み込まれる場所、または動物が
100キロメートル以内の範囲で集積される集合センター
● 集合センター:
(EU)規則2016/429 に基づき公的に登録されたセンター(集積場所)であり、複数の保
有地からのウシ、ヒツジ、ウマ、ブタを集めグル−プ別に分けるため
● 管理ポスト:
(EU)規則1255/97 に基づき公的に登録された場所であり、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタを
少なくとも24時間収容するための中継地点
● 目的地:
食肉処理場または動物が輸送手段から降ろされ、その後出発するまで1週間以上収容さ
れる場所
● 旅程:
出発地での輸送手段への動物の積み込みから、目的地での動物の積み下ろしまでの一連
の業務
● 長時間の旅程:
9時間を超える旅程
● 主催者:
自ら輸送を行う者、または他の輸送者に動物の輸送を委託する者
● 輸送者:
経済活動のために自己または第三者のために動物を輸送する者
● 輸送手段:
動物の輸送に使用される道路車両、鉄道車両、船舶および航空機
● 畜産用船舶:
家きん類またはウサギ以外の陸上動物の輸送のために建造・改造された外洋船。
ただし、EU域内の港から10海里(18.52キロメートル) を超えない距離の輸送は対象と
ならない。
● 大型動物用コンテナ:
道路、鉄道またはコンテナ船による輸送手段において、家きんまたはウサギ以外の陸
上動物の輸送に利用されるコンテナ
(2)地理的、輸送目的による適用範囲の違い
AW改正案の地理的な適用範囲は、EU域内に限らず、(1)第三国の出発地からEU域内の目的地まで(2)EU域内の出発地から第三国の目的地まで(3)動物がEU域内を通過する時は、EU域内に入る国境管理所からEU域内を出る国境管理所まで―とされており、第三国内の移動についても適用される【2−1】。
一方で、輸送目的によってAW改正案の適用範囲は限定され、(1)季節ごとに生産者が自ら家畜を輸送する移牧(2)畜舎から50キロメートル以内での生産者による自己の家畜の移動(移牧を除く)(3)展示会や協議会、馬術スポ−ツなどの活動への参加―には、一般規定(注3)のみが適用される【2−2】。
さらに、経済活動ではない動物の輸送、治療目的の輸送、ワシントン条約に基づく保護種の輸送、動物園間の輸送や、観賞魚の輸送および小売業者への直接の水産動物の輸送は、規則から適用除外されている【2−3】。
(注3)この一般規定には、「何人も、動物に過度の苦痛を与え、または与える恐れのある方法で動物を輸送し、または輸送させてはならない」として、輸送目的別に関係者が配慮すべき注意点を掲げているが、具体的な制限内容や採るべき手段などは定められていない【4−1、 4−2】。
(3)主催者および輸送者の認可
動物の輸送で重要な役割を果たすのは主催者と輸送者である。主催者および輸送者に対しては、表1のさまざまな要件が定められている。
主催者が長距離輸送を主催するためには認可を受ける必要があり、EU加盟国内での法人設立または代表者の配置が条件となる。このため、EU域内に人を配置していない会社は、長距離輸送の主催者にはなれない。一方、生産者が輸送者に対して、と畜のために域内向けに9時間以内の短時間の域内旅程を依頼するなど、長時間の旅程の依頼でない時は、主催者としての認可を受ける必要はない。
輸送者は、EU加盟国内での法人設立または代表者の配置および動物輸送のために必要十分な人員・能力を備えていることが条件となる。さらに、9時間以内の短時間の輸送を行う者と、9時間を超える長時間の輸送を行う者では求められる条件が異なり、長時間の旅程を行う場合は、(1)トラックなどの運送手段について認証を受けていること(2)輸送手段の動きを追跡し記録できること(3)運転手と速やかに連絡が取れること(4)輸送中の緊急事態への対応計画の策定―が求められている。
(4)輸送手段について
輸送者は、当局により輸送手段の検査および認証を受けない限り、動物を陸路または鉄道で長時間輸送することが不可となる。また、家きん類およびウサギ以外の陸上動物を道路や鉄道で輸送する時に用いるコンテナも同様に認証を受ける必要がある【12】。
海路についても家畜用船舶の検査および認証を受けない限り、EU域内の港から10海里(18.52キロメートル)を超える距離の輸送が不可となる【13】。また、RORO船(注4)についても別の要件を満たす必要がある【11】。
空路では、国際航空運送協会(IATA)の会員のみ輸送が可能と定められており、当規則による特段の制限は列挙されていない【11−4】。
輸送者は、TRACES(注5)により上記の輸送を申請する必要がある。輸送手段は表2の通り、附属書Tの第U章および第Y章の要件に適合している必要がある【12】。
動物の輸送手段やコンテナ(輸送手段など)には、輸送機能以外にもAWが求められる。また、輸送手段は洗浄・消毒され、輸送される動物の管理が可能となり、十分な照明や清浄な空気、餌や水の提供に加えて、排せつ物が漏れない構造の必要がある(付属表U 1.1、以下【付属表U−1.1】と表記する)。さらに、動物が自然に立ち上がったり座ったりできるよう、十分な空間を設ける必要がある【付属表U−1.2】。
体重10キログラム未満の子豚、20キログラム未満の子羊、生後6カ月未満の子牛および生後4カ月未満の子馬には、十分な敷料を準備する【付属表U−1.5】。
鉄道による輸送が3時間を超える場合、輸送中の傷病などにより安楽死が必要となった動物種に適した殺傷手段を指示書とともに、係員が理解できる言語で用意する【付属表U−2.4】。
密閉されたデッキのRORO船の場合、船長は動物の積み込み前に、強制換気システムや、故障時の警報システムと二重電源の装備を確認する。オ−プンデッキの場合は、輸送される車両や動物が海水から保護されていなければならない。また、積み込まれた車両は両側に少なくとも1メートルの空きスペ−スを確保する【付属表U−3】。
コンテナによる輸送の場合は、生きた動物の積載が外部から分かるよう、コンテナの上部に明確に判別できる標識をつける【付属表U−4.1】。
(注4)貨物を積載したトラックなどの車両が自走で乗船し、その車両を運搬する貨物船。AW改正案で、RORO船による動物運搬の要件が定められている。旅客船であるフェリーに比べ規格が緩く、船員数も少ない。
(注5)EUにおいて、動物、動物製品、非動物由来の食品および飼料、植物の貿易の手続きに使用されるシステム。
(5)輸送前から到着地までの関係者の義務
輸送前から到着地に至るまで、関係者には表3の義務が割り当てられている。
(6)陸上動物の輸送条件
陸上動物の輸送条件は図1の通りであり、(1)9時間を超える家きんなどを除く陸上動物の輸送(2)9時間以内の家きんなどを除く陸上動物の輸送(3)家きんなどの輸送(4)離乳前など脆弱な動物の輸送―によって輸送条件が異なる。
(7)第三国との間の輸送
第三国との間の輸送には、次の追加的な義務が発生する。
ア 第三国への動物の輸送時
主催者は、短時間および長時間のどちらの旅程であっても、旅程を作成し、かつ、目的地の輸送車および飼育者が実施すべき項目の記載を確認する【32−2】。
また、旅程に家畜用船による輸送が含まれる場合、主催者は目的地の管轄当局が到着証明書に記入、署名し、出発地の管轄当局に証明書が返送されたことを確認する【32−3】。動物を第三国へ輸出する時は、加盟国が指定した地点を通過する必要がある【32−4】。
さらに、主催者は第三国の目的地までの初回の旅程を評価するために、認証機関を手配しなければならない【33−1】。認証機関は、最初に行われる旅程について、表4の内容を確認する【33−2】。これらの条件を満たした時、認証機関は第三国への動物輸送について5年間有効な証明書を主催者に発行し【33−3】、主催者はその証明書を、主催者を認可した管轄当局に送付しなければならない【33−4】。
認証機関が確認した内容が規則を満たしていないと判断された時、主催者の第三国への輸送の許可は停止される【33−6】。また、認証機関は、証明書の有効期間である5年間において、少なくとも2回の抜き打ち検査を実施する【33−7】。
第三国の管理ポストも同規則の要件を満たす必要があり、欧州委員会は管理ポストのリストを作成し、承認する【34−1〜4】。認証機関または欧州委員会の監査により、基準を満たさないと判断された時は、リストから削除される。
イ 第三国からの動物の輸送やEUを通過する輸送時
第三国の出発地からEU域内の目的地まで、本規則と同等の条件に従った輸送であること、第三国の出発地および出発時刻をTRACESに登録し、輸送される動物に添付する衛生証明書で、出発地の管轄当局により、本規則と同等の条件で輸送されると証明されなければならない【35】。
また、EUを通過する時には最大輸送時間に関する規定を除き、域内での輸送について、本規則を順守することが必要となる【36】。
(8)動物の取り扱いについて
輸送中の動物に必要な1頭羽当たりの面積は、図2の方程式を用いて計算される。
また、計算された面積の例は表5の通りである。
面積に加えて高さも定められており、ウシについては図3の方程式で計算される。
またヒツジは、最も背の高い品種の頂点(体長)から天井までを、(1)機械換気を行っている場合は15センチメートル(2)行っていない場合は30センチメートル―開ける必要があり、家きんの場合は、姿勢を変えたときに、鶏冠や頭が天井に触れない高さでなければならない【付属表T−3−6】。
その他、輸送時の取り扱いとして積み込みや、積み下ろし時の積載用スロ−プの角度を制限、落下を防ぐための柵、表面が滑りにくい床にするといった取り決めがされている。また、家きんの積み下ろし時には、人間が足を一度につかむことができる家きんの羽数は3羽までと決められている【付属表T−3−2.3】。
また、電気ショックが許可される動物は、体重が80キログラム以上のウシとブタ、理由なく全く動かない動物に限定され、回数は最大2回、時間は1回1秒以内で後ろ足の筋肉部に対してのみ使用できる【付属表T−3−3】。
鼻輪の装着や角や脚を縛ること、子牛に口輪をつけることは禁じられている【付属表T−3−3】。
異なる動物種、大きさや年齢が著しく異なる動物、繁殖用のブタや種馬、成熟した雄と雌、角のある動物とない動物、対立している動物、縛られている動物と縛られていない動物は、個別に取り扱う【付属表T−3−4】。また、動物種および年齢に応じ、適切な間隔で水、飼料および休憩の機会を与えなければならない【付属表T−3−5】。