山口市子実コーン協議会は、畜産農家、耕種農家、小売・飲食事業者によって構成され、子実用トウモロコシの生産を推進する組織体である(図1)。大きな特徴は、子実用トウモロコシの生産のみを扱うのではなく、商工業者を巻き込むことによりトウモロコシを利用した地域農産物の付加価値化を実現し、当該協議会が取り組む事業全体で構成員が利益を得ることができるよう活動を進める点にある。
山口市子実コーン協議会の活動地域である山口市および宇部市は山口県の中央部瀬戸内海側に位置する。この地域の農業は水田作が中心であり、農業生産における水稲の割合が約8割と非常に高い。しかし、棚田や干拓などで農地が開拓された歴史的背景もあって農地の条件が多様であることと、近隣に工業地帯を抱えるために兼業機会が多く、農家の高齢化も重なり耕作放棄地が恒常的に発生していた。このことを踏まえ、協議会の発足する前に山口市では市の事業である「もうかる農業創生事業」の中で、域内の畜産経営を対象にアンケート調査を行った。この事業は2015年から始まったものであり、市内の農産物の生産流通構造の改善を図ることで、域内農業生産者の収益確保を積極的に支援するための政策である。結果、調達コストの安定といった費用的な面のみならず、安全・安心な食料生産、付加価値の形成といった理由で国産トウモロコシの飼料需要が高いことが明らかになった。これにより、子実用トウモロコシの試作が17年より始まった。同市の農林政策課が全面的に支援をし、水田作物しか作付けをしたことのない生産者2戸がまず27アールの農地に子実用トウモロコシの作付けを行った。特に、同課の佐々木一志氏は、県の農林総合技術センターや種苗・機械メーカーと連携し、耕種経営者への情報提供や事業に関する書類事務、畜産経営者との意見交換などで中心的な役割を果たし、山口市子実コーン協議会が発足し、部署を異動してからは事務局長も務めている(写真1)。
子実用トウモロコシの作型は2類型あり、春播種作型が4月に播種し8月中に収穫するもの、夏播種作型が7月中旬に播種し11〜12月に収穫するものである。これは、5月のアワノメイガ(注2)による食害、6月の梅雨による湿害、9月の台風による風害を回避するための措置である。春播種作型では、子実用トウモロコシ収穫後に裏作として同じく飼料用トウモロコシを栽培し、コーンサイレージとして収穫する取り組みも始まっている。相対日数は130日の晩生品種を使っているが、湿害を防ぐために株間を広く取らなければならず、栽植密度は10アール当たり6000〜7000本である(写真2)。先進的に子実用トウモロコシに取り組む地域の事例では同9000〜1万本であることから、この点では生産性に関して課題を抱えている。初年度は除草作業や排水対策などに苦労し、最終的な単収は10アール当たり約360kgであったが、労働時間を調べたところ同6時間と水稲の同20時間と比較して非常に低いことが改めて確認でき、労働生産性が高い作物として評価された。2018年には、6戸の生産者が国の助成事業を使用して実証展示や収穫実演会などの取り組みを行った(写真3)。この中で、先進地視察や地域版の栽培マニュアルの整備が行われ、子実用トウモロコシの栽培が未経験の生産者への普及活動を広めていった。域内生産が一定程度軌道に乗ったことから、翌年に協議会の発足に至った(図2)。
協議会ではまず2020年に、国の補助事業を用いて子実用トウモロコシ専用の播種機と収穫機を購入した。水田作経営ではトウモロコシを播種・収穫する機械がなく、導入に当たっての目下最大のネックとなっていたためである。地域における子実用トウモロコシの作付面積と収穫量の推移を表3に示す。特に2020〜21年の単収が少ないのは、台風による風害を受けた影響であり、その他にも排水対策が十分でないことによる湿害などの生産に関する課題も当初はあったが、24年は10アール当たり400キログラムが見込まれ、生産性も徐々に向上してきている。
(注2)幼虫がトウモロコシの稈や雌穂の中に侵入するガの一種で、最も普通にみられる重要害虫。