(1)改正プロセス
FMMO制度には、酪農・乳業業界の変化、業界や消費者の需給動向に対応すべく、規則を改正するための手続きが定められている。改正手続きは生産者、酪農協、乳業会社など、酪農・乳業関係者による提案と公聴会開催の要請から始まる。提案書の提出を受けたUSDAは情報説明会と公聴会を開催し、提案者や公聴会参加者は公聴会を踏まえた意見書を提出する。それを受け、USDAが推奨決定と呼ばれる最終規則案の公表とパブリックコメントの実施を経て、最終規則が施行される。
現行のFMMO制度は2000年を最後に包括的な改正を行っておらず、08年に限定的な改正を行ったに過ぎない。よって、実質20年以上が経過し、酪農家や乳業会社の生産コストや牛乳・乳製品の需給など酪農・乳業業界には大きな変化が生じている。そして23年、制度が実態に追い付いていないとして、業界からFMMO制度の改正を求める声が高まった結果、酪農生産者団体、酪農協、乳業会社から制度改正の提案書の提出と公聴会開催の要請がなされた。これを受けてUSDAは、23年8月から24年1月にかけて公聴会を開催し、24年4月1日までに提案者および公聴会参加者から意見書が提出された。今後、7月上旬までにUSDAが推奨決定を公表予定である。
(2)改正の主な論点
今回の改正プロセスでは、酪農・乳業界の10組織からの22項目の提案が始まりとなった。USDAは、これらの提案をその内容によって五つの項目に分類している。その中でも、主な論点となっている内容について紹介する。
ア クラスVおよびWの算定式に用いる「乳製品卸売価格の製造コスト見合い」
現行法の製造コスト見合いには、2006年および07年のデータに基づいて08年に算出された値を用いている。それから現在に至るまで、製造コストは大幅に上昇しており、酪農家も乳業会社も値を更新すべきであると提案している。
ただし、前述の通り、各クラスの算定式に用いる成分単価の算出の考え方として、乳製品の卸売価格から製造コスト見合いを差し引いた上で、歩留まり係数を乗じて算出することが基本である。そのため、製造コスト見合いを増額すると、酪農家の手に渡る乳価の最低取引価格が低下することになる。一方で、製造コスト見合いの増額が不十分であると、乳製品加工への投資意欲の減衰につながる。
つまり、乳業会社の収益性を維持し、世界的にも需要が高まっている米国産乳製品への投資意欲を維持・向上させつつ、酪農家の手に渡る乳価の最低取引価格を最低限確保するためには、適正な水準を見つけなくてはならない。そのためにも、酪農家と乳業会社はUSDAに製造コストの定期的な調査を実施する法的権限の付与を次期農業法案に盛り込むよう米議会に働きかけている。
イ クラスTの算定式に用いる「脱脂乳成分単価の算出方法」
現行法のクラスTの算定式で用いる脱脂乳成分単価には、クラスVおよびWの脱脂乳成分単価の平均値に加算分100ポンド当たり0.74米ドル(117円、1キログラム当たり3円)を加えた値を用いている。これは、2018年農業法によって改正されたものであり、それまではクラスVおよびWの脱脂乳成分単価の高い方の値が用いられてきた。
これに対して、酪農家は乳価の下降局面では大きなリスクにさらされるにもかかわらず、
上昇局面ではその恩恵が限定的になるとして、「高い方の値」による算出への改正を提案している。この背景には、国際需要の高まりなどを受けて、チーズなどの保存性に優れた乳製品の供給過多と在庫量増加の傾向が続き、クラスV乳価が低迷していることがある。これが「平均値」を下げ、クラスT乳価にも影響を及ぼしていると主張している。
一方で、乳業会社は、クラスWの市場は他のクラスと比較して限定的であり、限られた市場から算出された値を単独で用いるべきではないとして、「平均値」による算出の継続を主張している。
ウ クラスVおよびWの算定式に用いる「乳成分量係数」
現行法では、クラスV脱脂乳成分単価の算出に当たって、乳たんぱく質量を脱脂乳成分100ポンド当たり3.1ポンド、その他固形分量を同5.9ポンドとして計算している。また、クラスW脱脂乳成分単価の算出に当たっては、無脂固形分量を同9.0ポンドとして計算している。これに対して、酪農家は20年以上の間に、乳用牛の遺伝的改良や飼養管理の改善により、乳脂肪、乳たんぱく質および無脂固形分など乳成分含有割合の向上に成功しているとし、クラスVおよびWの算定に用いる乳成分量係数の見直しを提案している。
エ 各クラスの算定式に用いる「卸売価格の対象乳製品」
前述の通り、各クラスの算定式に用いられている乳製品卸売価格はバター、チェダーチーズ、脱脂粉乳、ドライホエイである。その中でも、バターは有塩バターのみ、チェダーチーズは40ポンド(18キログラム)・ブロックおよび500ポンド(227キログラム)・バレル(注6)のみを対象としている。
(注6)チェダーチーズの製造工程のうち、生乳をレンネットで凝固してできるカードを圧縮し、塩味を付して熟成させる過程において、40ポンドあるいは640ポンドのブロックの標準サイズに成形、あるいは500ポンドのドラム缶に詰められる。40ポンド・ブロックおよび640ポンド・ブロックは小売用スライスチーズなどに加工されることが多く、500ポンド・バレルは粉チーズなどの二次加工に用いられることが多い。
これに対して、酪農家は、近年40ポンド・ブロックから640ポンド(290キログラム)・ブロックへとチェダーチーズの需要がシフトしているとして、640ポンド・ブロックのチェダーチーズを卸売価格の算出に追加することを提案している。また、同様に、バターの販売量の約40%を占めると推定されている無塩バターを、バターの卸売価格の算出に追加することを提案しており、近年の乳製品の需要の実態を踏まえ、対象となる乳製品を追加することで、より適正な卸売価格が各クラスの算定に用いられることになると主張している。
オ 群単位で設定されている「クラスT差額」
前述の通り、クラスT差額は生乳供給が需要に対して不足する地域の飲用乳製造施設への生乳供給の確保を目的としている。酪農家は、現行法の差額である100ポンド当たり1.60〜6.00米ドル(252〜946円、1キログラム当たり6〜21円)では地域への生乳供給の確保が困難となっているほか、飲用乳の消費量が減少していることでクラスTのプールが減少しているとし、クラスT差額の引き上げを提案している。