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海外情報 中国 畜産の情報 2024年7月号

中国の畜産物を中心とした食料消費の現状と今後の展望

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調査情報部

【要約】

 中国の食料消費量はこれまで増加基調にあり、大豆、豚肉、牛肉などは世界最大の輸入国である。しかし、総人口は2022年に減少に転じ、今後も増加する見込みはない。農村住民の生活水準が都市住民に近づくことで当面は消費量の拡大が見込まれるものの、都市住民の消費意識が変化していることなどから拡大幅は縮小し、また、食品の購入方法がオフラインからオンラインに移行していることにより、消費の在り方自体も大きく転換すると見込まれる。長期的には、中国の食料消費量は総量としても食品分類ごとの量としても減少するとともに、この減少は食料の大きな供給構造、さらには生産現場の変革も伴うとみられる。

1 はじめに

 世界最大の豚肉生産国である中国は、飼料となる大豆の8割以上を輸入している。また、牛肉輸入量も世界最多で、かつ、その量は世界第3位の輸入国である日本の4倍にも及んでいる。このため、中国は日本の生産現場で用いられる物資や市場に流通する食材などの国際相場を左右する存在となっており、日本の生産現場、消費市場の双方に大きな影響をもたらしている。しかしながら、このような中国の影響力が今後さらに拡大していく、と考えるのは少し性急かもしれない。
 中国の総人口が減少に転じたのは2022年のことである。その5年以上前の15年、「一人っ子政策」と呼ばれる出産制限が緩和された。これは、すでにその時点で労働人口が減少に転じ、消費人口もいずれ減少することが確実となっていたことによる。
 日本で報じられている中国の姿は、マクロ的には、(@)経済大国で日本企業の投資、進出先でもあり、日本産品の主要輸出先市場でもあるといった側面、あるいは、(A)オンライン化があらゆる分野で進んでいるといった社会的な変化について、またミクロ的には、(B)ペット産業やアウトドア産業が伸びているといった市場動向や個別企業の成功事例、などが多いようである。
 本稿では、中国のもう一つの側面、同国が日本の食卓に影響を及ぼす消費大国である、ということに着目し、その食料消費の現状と今後の見通しについて、畜産品を中心に見渡すとともに多角的に紹介する。
 なお、本稿中の為替レートは、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均為替相場」の2024年5月末日TTS相場の1元=21.91円を使用した。

2 中国人の食事の量

 中国では過去数十年にわたり、人口総数も1人当たりの食料消費量も共に急激に増加してきた。「中国の食料消費」と聞けば、人口は日本の10倍以上となる14億人、しかもその消費量の増加から食料の輸入量も増えているかなりの食料消費大国、という漠然としたイメージを持つ方は多いだろう。
 中国では、食料消費量の増加に伴い、生産量も拡大してきた。しかしその一方で、「国家級貧困県」(県は日本の町に相当)と呼ばれる経済的に貧しい地域として中国政府から指定され、重点的な支援を受けていた地域が公的に解消されたのは2020年と最近のことである。食べたい物を食べたい量だけ食べることのできない国民がまだ多数存在する、ということも中国の一つの事実である。
 今後、中国の食料消費量はどこまで増えるのであろうか。
 

(1)中国人1人当たり食料消費量

 中国人はどのくらい食べるのか。中国人1人当たり食料消費量に関する国家統計局の統計データを見ると、20年前から消費傾向が大きく変わり、また、近年は消費量が増加傾向にあることがわかる(表1)。この20年で主食に当たる穀物の消費量は大きく減少し、他方、副食に当たる肉類、水産物、乳製品などの消費量は大きく増加した。中でも特に肉類の増加幅が大きい。
 この中国人の食料消費量が「多い」のか、について参考に日本人と比較すると、統計データからは、総じて、穀物(穀類)の消費量は中国人の方が多く、水産物(魚介類)と牛乳・乳製品の消費量は日本人の方が多いことがわかる(表2)。特に目を引くのは牛乳・乳製品の消費量の違いである。中国の小売店では、牛乳もヨーグルト類も多種多様な商品が並べられているが、実はその半分が廃棄されているとも言われている。一定数の中国人は牛乳を飲まない、乳製品を食べない、とも言われており、そのことが統計データに如実に表れた形となっている。現在、日中間で食料の消費の内訳は大きく異なること、また、中国では食事について地域差も大きいこと(後述)から断言することは難しいが、今後中国で消費される品目やその比重は変化する可能性があり、品目によっては増減があると見込むことは可能だろう。




 
 

(2)中国で推奨される食事バランス

 今後の中国の食料消費量の増減を考えるため、まず中国で理想的とされる消費量を確認する。
 中国にも日本と同じく、政府が推奨する中国版「食事バランスガイド」がある(図1)。そこでは、適量とされる食材の量はおおむね日本と同じである(表3)。また、中国政府は、国民の健康を管理する観点から「三減三健」運動を進めている。この「三減三健」とは、減塩、減油、減糖、健康な口腔環境、健康な体重、健康な骨格を示している。この運動は、2018年、中国国家衛生健康委員会が、「近年、生活習慣と密接に関係する慢性病が中国国民の主な死亡原因となっており、中でも高血圧、高血糖、高脂血等の慢性病は最大の国民共通の敵である」としたことから本格的に始まり、22年、中国の基本政策である「“十四五”国民健康規画」で明確に規定された(注1)



 
 食料の消費量と摂取バランスの関係については、国家統計局の評価が参考となる。22年の1人当たり食料消費量は、穀物が前年比5.4%の減少となる一方、肉類と卵類はそれぞれ同5.0%、同2.4%の増加となった。食料消費量を含む統計データは国家統計局が担当しており、同局はこれらの変化について「食事バランスが改善した」との評価を公表した。ただし、中国政府が食料安全保障の観点から力を入れる穀物の減少にも、また、農業農村部が供給の安定化の観点から生産を管理する豚肉にも言及はされていない。
 
(注1)中国国家衛生健康委員会は中国国務院の下部組織であり、その所掌範囲は日本の旧厚生省に近い。「“十四五”国民健康規画」とは、中国のあらゆる行政分野で策定される第十四次の5カ年計画のうち国民の健康に関するもののことである。同委員会は、高血圧、糖尿病、高脂血症それぞれに対応する「食事ガイド(2023年版)」も公表しており、ガイドの中で、中国の七つの区域(東北、西北、華北、華東、華中、西南、華南)ごとにその地域の食生活に合わせた推奨メニューを紹介している。
 
 

(3)都市と農村の違い、食事志向の変化

 今後の中国の食料消費量の増減見通しをより深く理解するため、次に都市住民と農村住民の消費量を比較する。
中国では、都市と農村とで異なる戸籍制度(注2)が適用されてきた。急速な経済発展の陰で、この2地域の住民間の収入や生活水準の大きな格差が問題となり、その解消が長らく政治的な課題とされてきた。その過程で、農村住民の生活水準を都市住民に劣らない水準にすることを目指したため、今後の中国の食料消費の傾向を考える上で、この2地域間の格差と都市住民の消費傾向が参考になる。
現在、2地域の格差は、食生活を含む生活水準全体で是正傾向にあるとされている。近年消費が伸びている主菜の畜産物など(水産物を含む)の1人当たり消費量(注3)を比較すると、2016年の農村住民の消費量は都市住民の65.5%にとどまっていたが、22年には83.6%に達している。7年間で農村住民の消費量は実に1.45倍も伸びたことになる。(図2)。
 このように、農村住民の消費傾向が都市住民に近づくことで食料消費量は今後も拡大が見込まれるが、その拡大幅は縮小すると見込まれる。農村住民の都市化は食生活だけではなく移住という形でも行われ、政府による都市化推進政策も相まって、農村住民の数自体が減少しているためである(注4)
 今後の食料消費量を見通すとき、消費量が減少に転じた食品群があることにも注意が必要である。具体的には、食用油、砂糖および牛乳・乳製品は、都市住民でも国民全体で見ても21年以降、減少に転じている(表4〜6)。その背景には、都市を中心に「減糖」「減油」「減脂肪」といった健康的な食生活を志向する消費者の増加が考えられる。
 中国政府による「三減三健」運動に加え、国民の間でも健康志向が強まっていることは、食料の需要量が全体的かつ将来的に減少する可能性を示すものと考える。
 
(注2)中国の戸籍はかつて農業戸籍と非農業戸籍に分けられていた。その後、都市戸籍の整備を含む制度改正が数度行われた後、2014年に戸籍の統一化、居住証制度の導入などが宣言され(「戸籍制度改革を更に一歩推進することについての意見」(2014年国務院第25号))、一部大都市を除く戸籍取得制限の撤廃や、格差が大きいとされていた社会福祉および教育の分野などにおける両者間の格差是正が進んでいる。本稿では、「中国統計年鑑2023」(中国国家統計局)の調査方法に合わせ、都市(城鎮)に居住する者を都市住民とし、農村に居住する者を農村住民とした。
(注3)「中国統計年鑑2023」のうち「城鎮居民人均主要食料消費量」および「農村居民人均主要食料消費量」の「肉類」(豚、牛、羊、ロバなど)、「禽(きん)類」(鶏、あひるなど)、「水産物」(海産物および淡水産品)、「蛋(卵)類」および「乳製品」(中国語では「?類」。牛乳を含む。)の合計。
(注4)都市と農村地域の総人口に占める割合は、2022年時点で65.22%と34.78%と都市住民が多く、1949年建国当時の10.64%と89.36%から大きく逆転している。








3 中国の人口動態(少子化、高齢化、不婚化の進展)

 食品の食料消費量を左右する人口全体に関して、中国では急速に少子化、高齢化、そして「不婚化」(後述)と呼ばれる現象が進んでいる。これまで見てきた消費傾向の変化、その根底に横たわるのは不可逆的な総人口の減少である。
 中国の人口は、1949年建国当時の5億4167万人から、2021年には14億1260万人に増加し、11年からの10年間だけでも6344万人が増加した。平均寿命も延び続けて20年には77.93歳になり、今後、20年から25年までの5年間でさらに1歳延ばすことが「“十四五”国民健康規画」で掲げられている。
 ところが、22年以降、人口は減少に転じ、同年には新生児出生数が初めて1000万人を下回った。1000万人を下回っただけではなく、前年に比べて106万人と1割を超える幅で減少したことについて、中国国民の受け止めは、「いよいよ」「とうとう」というものであった。いわゆる「一人っ子政策」と呼ばれる一夫婦当たりの子供の出生数を制限する政策が大幅に緩和された15年当時、まだ1655万人の出生数があったことを思えば、少子化の進展速度に驚かされる。出生率(女性1人が一生の間に産む子供の数)について中国国家統計局が24年1月に発表した速報値によれば、23年は1.0前後と見込まれ、これは1990年の半分、20年の1.3に比べても低い水準となる。一人っ子政策は1979年に開始されたことから、近年の急激な減少は政策開始後に生まれた親世代の人口の減少によるものとされており、少子化は今後も加速すると見込まれている。
 また、少子化の裏返しとして高齢化も進行し、65歳以上の人口比率は22年に14.9%となった。扶養率(15〜64歳までの労働人口に対する65歳以上の比率)で見れば、21.83%である。
 さらに、日本と同様、生涯未婚率の上昇や晩婚化も進んでいる。中国ではこれらを合わせて「不婚化」と呼ぶことがある。21年に民間企業が発表した「2021年中国現代不婚現象白書」(注5)では、4分の1に及ぶ男女が「結婚は絶対にしない」「結婚しないと思う」と回答した。以前は一人っ子政策の悪影響として男女比の偏りが指摘され、男性は結婚したくても結婚できない、家と自動車を持ち、両親が元気で、本人も「三高」(給料、身長、そして「顔値」と呼ばれる見た目の三つがいずれも高いこと)でなければ結婚できない、と言われていたが、今では「結婚できない」のではなく「結婚しない」若者が男女を問わず増えている。
 婚姻率の向上に向けた取り組みを行う地方政府もある(写真1)が、人口動態から見れば、今後、中国の食料消費量はかなりの確率で減少していくことが見込まれる。
 
(注5)20〜45歳までの3893名が回答したオンライン調査の結果を分析したもの。
 
 

4 中国政府の食料供給政策

 以上のような消費動向に対して、中国政府はどのような食料供給政策を取っているだろうか。
 中国の食料政策の特徴は、建国以来、食糧とそれ以外を厳然と分けてきたことにある(注6)。食糧とは、穀物(コメ、小麦およびトウモロコシ)のことであり、大豆、雑穀など(緑豆、ばれいしょ、かんしょなど)を含むこともある。中国は食料の生産大国であると同時に輸入大国でもあり、2022年の穀物や大豆、豚肉、牛肉および羊肉の輸入量はいずれも世界第1位であったが、これらの中で政策として自給率の維持、向上を進めているのは穀物だけである。
中国政府が進めるすべての政策は、基本となる5カ年の方針、「国民の経済と社会の発展に関する第14次5カ年計画および2035年までの長期目標綱要」に基づいて策定、推進されている。第14次5カ年とは21〜25年までの期間を指し、「十四五」の三文字が付く政府文書はいずれもこの第14次5カ年計画に関係する政策、ということになる。35年までの長期目標を実現するための25年までの目標を定めた同綱要で農林水産業の生産に関する数値目標として掲げられたのは食糧、中でも穀物についてのものであった。綱要は、穀物に係る目標を安全保障の類型に属するものと分類した上で、穀物総合生産能力は6億5000万トン以上を堅持するとした。中国政府にとって、国民の暮らし、食を保障することはその存在意義につながることである。「6億5000万トン」は、農民が達成すべき生産目標ではなく中国政府が達成すべき供給目標のことであり、その供給量の確保および堅持が政府の食料政策の要である。
他方で、食糧以外の食料、たとえば畜産物に関する生産目標は、綱要ではなく、農業農村部が綱要に基づいて策定した「“十四五” 全国畜産獣医産業発展計画」(注7)(以下「畜産計画」という)で記載されており、その数値の位置づけも、食糧のような「拘束性」のあるものとしてではなく、個別品目(豚肉、牛肉など)ごとの「予測性」または「発展目標」としての記載にとどまった(表7)(注8)。さらに、畜産物の中で政府による生産管理が実施されているのは主要食肉である豚の母豚飼養頭数だけ(注9)である。牛肉は、23年には輸入量が過去最高の273万7000トンとなり、国内生産量の約3分の1に迫る勢いにまで増加したにも関わらず、自給に関する政策は打ち出されていない。
畜産計画に対する生産実績を見ると、25年の生産量の「発展目標」として、豚肉5500万トン、牛肉680万トン、羊肉500万トンが示されているが、計画が策定された21年時点ですでに豚肉生産量は5295万9000トン(翌22年には5541万4000トン)、牛肉は697万5000トン、羊肉は514万1000トンと、おおむね達成されていた。このことからも、畜産物については、5カ年計画で将来にわたる数カ年の目標を定められたというよりは、当時の生産状況を追認した数値を整理したとの見方も可能と思われる。中国政府が行う食料供給政策とは食糧供給政策のことであり、他品目、たとえば畜産物の供給について、その量を国家が管理しようとする明確な政策意思はそこから読み取れない(注10)
 
(注6)2023年12月29日、中国で初めての食料安全保障に関する法律、「食糧安全保障法」が制定、公布された(施行日は24年6月1日)。同法の対象は食糧であり、食料ではない(同法の食糧とは、小麦、稲、トウモロコシ、大豆、雑穀およびこれらを製粉したものを指す。同法第73条)。
(注7)『畜産の情報』2024年3月号「中国における畜産業の生産基盤強化に向けた取り組み」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_003138.html)をご参照ください。
(注8)「拘束性」指標とは、「予測性」指標を基本にしつつ、政府が国民に約束し、責任を持って達成することを明確にするものである。「予測性」指標とは、基本的には企業などによる市場の自主的な行動で達成されることを期待する発展目標である。発展目標と「予測性」指標の違いは、計画の進捗および達成の度合いを測るときに使用される指標であるか否かにある。このように、中国では指標に基づく業績評価制度が採用されている。計画文書に記載される目標指標が、拘束性か予測性か、そもそも指標にもされていない値(期待する発展の方向としての発展目標)なのかを見ることで、その分野の政策的な位置づけ、重要性を判断することができる。
(注9)2021年9月、農業農村部は関係部署との連名で母豚の飼養頭数を管理する「豚生産能力管理調整方策(暫定版)」を公表し、24年2月にはその改訂版として「豚生産能力管理調整方策」を公表した。豚の生産調整だけが行われている理由は、18年、アフリカ豚熱の発生およびまん延により豚飼養頭数が3割近く減少したこと、そしてその後短期間で急激に回復したことでかえって豚肉価格の低迷が問題となったという、近年の豚肉価格の乱高下にある。詳細は、海外情報「中国農業農村部、豚の飼養頭数調整のための方策を改訂(中国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003728.html)をご参照ください。なお、現在、中国への豚肉輸出が可能な国は20以上に及ぶが、これは18年当時のように国内で豚肉が供給できなくなる場合を見越した予防的措置に過ぎず、かつ、輸出元を特定の国に偏らせないためである。一方、中国政府には輸入を増やために輸入可能国を増やす意図はないと中国養豚業界はみている。
(注10)生産面ではなく、市民生活の保護の面、具体的には、食料の安全確保と大幅な価格変動の抑制については、畜産物に関する関連通知が公表されている。また、流通面や消費面でも、流通過程における食品ロスの抑制や食べ残し撲滅運動といった点から、市中に流通する量について政府の関心を読み取ることは可能である。

 

5 変化する食品の購入方法

 前章まで、中国の消費動向、中でも1人当たりの消費量について、統計データに基づいて俯瞰ふかんしてきた。本章では、消費者の側から、中国国民の消費動向がどのように変わってきたのか、食品の購入方法に着目して紹介する。
 

(1)食品購入のオンライン化

 中国では、社会インフラとしての交通網・物流の整備が日本や欧米諸国に比べて遅れていたことから、2010年代になるとデジタル・マネーに象徴されるデジタル技術の利用と普及が急激に、これらの諸外国以上の速さで進展した。食料の供給・消費、またその物流についても、デジタル技術の活用がサプライチェーンの各部分で同時並行的に、チェーン全体では飛躍的に向上することとなった。
豚肉の小売り状況を例にすると、かつて、街中に農貿市場(農畜水産物を販売する市場。都市・地域によって名称は異なる)があり、中国の消費者はその日食べるものはその日に市場で買っていた。市場では豚肉専門店が軒を並べ、部位ごとに大まかに切り分けられた豚肉を並べていて、消費者はそこから目当ての店や肉を探し、売り手と交渉した上で自分が欲しい部位を欲しい分だけ購入した。都市・地域によって規制は異なるが、今でもそのような市場の光景は目にすることができる(写真2、3)。
 これが、10年代の電子商取引の発達、物流の整備などによって大きく変化した。都市では、スマートフォンにインストールしたアプリで食品や生活用品を購入することがすでに一般的となった。食肉の購買についても、「市場に出向いて、好きな部位を好きな量だけ買う」行動から、「携帯の画面で、特定の部位を特定の切り方で、重さ別にパック包装された商品の中から一つを選んで、指定された価格でそれを買う」行動に変化した。このような日々の購買行動の変化には、供給側に変化をもたらした冷蔵物流や加工施設の普及、食品の安全性の向上などにより、「信頼する、顔の見える豚肉専門店から」買うのではなく、「包装に貼られた豚肉加工会社やブランドの表示を信じて」買うという消費意識の変化が見て取れる。選ぶ対象が、「市場の豚肉専門店」から「豚肉加工会社」へ変わったように、選ぶ基準、または手がかりも、近所の住民や同じ市場を利用する消費者からの口コミではなく、アプリが表示する情報やその他ネット上の情報などへ変化しつつある。中国では養豚企業や豚肉加工企業の大規模化が進んでいるが、そこには信頼のおける企業やブランドによる安全な商品の安定的な提供と、利便性の向上を求める消費志向の強まりが見られる。また、この消費志向に対応するためには、統一的な生産基準、商品規格を常に満たし、それを消費者に適時に届けることのできる物流網を整備・維持する体力が企業に求められ、それができない企業は淘汰とうたされていくという現実が内包されている。





 

(2)オンライン化に見る地域間差と食品供給の変化

 第2章では、食品の消費には都市と農村の間の格差があり、それが是正されることにより、農村住民の都市住民化という形で食料の消費構造も影響を受ける、ということを紹介した。この、農村住民の消費傾向が都市住民に近づくという変化は、食品購入のオンライン化、すなわち、消費構造の変化に伴う食品の供給構造の変化と、これにより供給を担う事業者の淘汰が進むという変化も促している。
 食品のオンラインの売上比率は、中国商務部によれば、2023年には27.2%(注11)に達していた。そのうち「生鮮電商」と呼ばれる生鮮品の電子商取引(eコマース)市場規模は、中商産業研究院という民間研究機関の発表によると、18年の1950億元(4兆2725億円)から22年には5504億元(12兆593億円)に急増している。商務部の報告書は、中国を四つの地域、すなわち「東部」(北京市、上海市、深?市といった中国有数の大都市が立地する地域。「沿岸地域」とも呼ばれる)と、その他の「西部」「中部」および「東北地区」(黒竜江省、吉林省および遼寧省の3省のことを指す。大連市は遼寧省に含まれる)に分けており、「東部」のオンライン売上比率は全国の83.9%を占めるとされる。この東部への著しい偏重は農村地域だけでも同様である(図3)。
 消費量について、農村住民のそれが都市住民の水準に近づいていくのと同じく、食品購入のオンライン利用についても、その他の地域はいずれ東部に近づいていくと見込まれるが、このような都市化による変化は、どのような形で供給構造を変えていくのだろうか。
 中国の養豚業界は、1社で数百万頭の飼育頭数を有するような巨大企業だけではなく、大多数の小規模養豚農家によっても構成されている。巨大養豚企業は、加工から小売りまでの各過程のうち複数の過程を自社で、あるいは、過程ごとにその分野の巨大企業と協力し、デジタル技術を駆使して一本の強力な供給チェーンを構成し、規格化された商品をオンラインで主に都市の消費者に供給する。一方、農貿市場に毎日足を運ぶような消費者を抱える地域では、小規模農家が肥育を担い、地元政府が豚の卸市場を提供し、小規模な加工企業、運送会社が農貿市場に豚肉を供給する。中国では、このような都市住民を主要顧客とする圧倒的大規模の供給チェーンと、各地域に根差し、低所得の農村住民を主要顧客とする零細生産者、零細事業者とによる供給構造とが混在している。


 
 大企業側の供給体制を消費者側、川下の小売業側から言い換えれば、消費のオンライン化とは、インターネット上に食品のスーパーマーケットが増えていく状態のことでもある。このような「ネットスーパー」を展開する小売企業の多くは、独自の、あるいは連携先企業と提携した物流・配達網を整備しており、この物流網によって食品の低価格化が進み、オフライン店と呼ばれる、消費者が足を運ぶ形式の小売店の淘汰が進んでいる。オンラインショップ、すなわちネットスーパー間でも、価格とサービスは公開され、常に消費者による比較にさらされている。このようなオフラインショップとオンラインショップ間の競争、また、ネットスーパー間の競争は、より安い価格で、あるいは他の店にはない商品を提供するためのプライベート・ブランド商品の開発と、そのような形で小売店が直接加工企業から商品を仕入れるという供給チェーンの簡素化、中抜きの原動力となっている。
 食品購買行動のオンライン化が一般化している、ということは、このような供給側での変革が常に起きていることと同義である。
 
(注11)「2022年中国ネット小売市場発展報告」における社会消費品小売総額に対する比率。「社会消費品小売総額」とは中国の消費動向を示す指標で、卸売業、小売業、宿泊業および飲食業が個人消費者や社会団体に販売した消費財・サービスの総額を示す。

コラム スマホで豚肉を買おう

  都市では、スマートフォンにインストールしたアプリで食品や生活用品を購入することがすでに一般的となっている(コラム−写真)。今では、買い物は「市場に行って選ぶ」行動から、「自宅で選び、配送されるのを待つ」行動となった。A社の買い物アプリなら、39元(855円)以上の注文で配送料が無料となり、平均30分程度で自宅の玄関先(マンションであれば通常入口に設置されている配送物専用の置き棚)に届けられる。39元とは、例えば、牛乳950ミリリットル1本9.8元(215円)、生でも食べられることを「売り」にするB社ブランド鶏卵6個14.93元(327円)、C社ブランド冷蔵炒め用豚バラ肉120グラムパック8.9元(195円)、D社ブランドミニトマト1パック(250グラム)12.8元(280円)、合計46.43元(1017円)分の買い物に相当する。
 アプリで商品を購入する際、商品群ごとに画面上で累計販売個数、閲覧時点の割引率または価格のいずれかによって商品を並び替え、自分がこだわるその並び替え基準の中で最も評価が高い商品を選択することができる。時間に余裕があれば、商品ごとに付される簡単な紹介(保存方法は冷蔵か冷凍か、飼料は何を使用しているのか、また、出品者のお勧めポイントは何か〈例:健康な飼育方法をしている、肉質が柔らかくおいしい、子供のころの味がするなど〉)や、商品ごとに他の購入者が投稿した口コミや写真、%で示される「評価率」と評価された点(新鮮だったか、質がよかったか、清潔であったか、再購入の価値があるかなど)も見て選ぶことができる。
 これらの支払いは当然電子マネーで、注文の時点、つまり配送される前に先払いをする。果物や野菜は、例えば「〇〇産不知火しらぬい(かんきつ類)」について、パック売りの商品もあれば、〇グラムか●グラムかといった2、3の重量候補の中から一つを選ぶ商品もある。後者の場合、収穫・出荷状況のため所定の重量に満たない商品が配達されたときは、先払いしていた金額からの差額が0.01元(0.22円)単位で配達直後に返金される。配達時の通知はアプリによる通知のほか配達スタッフによる電話が選択可能で(スタッフには電話番号は非通知表示)、配送されたものの受け取り時間も自由に選べるため、外出先で購入し、自宅に帰る前に届けてもらうことも可能となる。
 届いた商品に不満があれば、写真付きで評価を投稿したり返金を要求したりすることもでき、商品によっては交換を依頼することも可能である。

6 おわりに

 本稿では、中国の食料消費量、特に畜産物の消費について、(@)国民1人当たりの食料消費量と人口動態の二つの面、そこに、(A)食料供給政策、(B)個人の消費行動の視点を加えて、食料消費の現状と今後の見通しを俯瞰した。
 これらの側面から総じてうかがえることは、長期的には、中国の消費量は総量としても食品分類ごとの量としても減少傾向となり、また、消費傾向、消費形態の変化は大きな供給構造の変革を伴うだろう、ということである。中期的には、農村住民の都市住民化に伴い、両者で消費量に差異がある食品(特に水産品と乳製品)や都市住民でも消費量が増えている食品(特に牛肉)は、当面、消費量の増加が見込まれる。しかし、両者の消費量に差異が無く、都市住民でも消費量が減っている食品(食用油と砂糖)は消費量の減少が早く現れるとみられる。また、食料消費の傾向、特に食料としての畜産物の生産量について、中国政府による政策の効果あるいは影響を直接的に見出すことは難しいこと、さらに、供給面の変革は、中国政府の政策ではなく消費の変化に強く影響されている、ということが言えるだろう。
 この中期的な変化がいつ、どの程度の消費量の増減を伴って表れるのか、ということについては、本稿では触れていない年齢構成の変化と、所得上昇の緩慢化が影響する可能性がある。中国の消費は、相応の人口規模を誇り、消費意欲が旺盛で実際に消費する資金もある20〜30代の層が牽引けんいんするとみられる。この世代はデジタル技術に親しみ、量よりも質を求める傾向にある。その牽引力は、中国の食生活の変化、ひいては食の消費構造そのものの変化にも発揮されるだろう。同時に、24歳以下の労働人口の失業率が高く、平均所得の増加が鈍っているという事実は、消費力の低減の表れであり、オンライン化の進展と合わせ、これまで以上に供給コストの低減と供給の効率化を強く促すとみられる。この効率化には、立ち遅れていた物流の過程で無駄になっていた食料、いわゆる食品ロスの低減や、売れる分だけ生産するという生産過程の効率化も含まれる。消費・供給のオンライン化と物流の改善によってすでにこれらの効率化は進んでいるが、その進展の程度は、統計データとしての食料消費量の低減速度を左右する要因の一つとなる。
 中国の食品消費の動向は、日本の生産現場と消費市場の双方に大きな影響をもたらしている。日本が受ける影響は、日本が国際市場に依存している物品に関し、今でも直接的に感じ取ることができる。より注意が必要なことは、中国の食料消費の変化の裏で起きている供給構造の変革と、それによってもたらされる中国の生産現場、食品関係産業全般の競争力の強化、さらにはそれがいずれ日本に及ぼす影響ではないかと思われる。
 
(山田 智子(日中経済協会北京事務所))