24年1〜5月の牛肉生産量、と畜頭数の減少から前年同期比7.8%減少
アルゼンチン経済省によると、2024年1〜5月の牛と畜頭数は551万3000頭(前年同期比8.3%減)、牛肉生産量は125万5000トン(同7.8%減)といずれも前年同期をかなりの程度下回った(図1)。これは、23年に70年ぶりといわれる厳しい干ばつに見舞われ、淘汰が進みと畜頭数が増加した結果、24年にと畜対象となる個体数の減少につながったことに加え、天候の回復に伴う飼養環境の改善から、肉用牛生産者による牛の保留傾向が強まったためとみられる。また、この間にと畜した1頭当たり平均枝肉重量は、227.5キログラム(同0.6%増)となった。
国家農畜産品衛生品質管理機構(SENASA)によると、23年12月31日現在の牛飼養頭数は5278万4000頭(前年同日比2.7%減)と前年同日をわずかに下回り、前年と比べ145万9000頭減少した。23年末時点では厳しい干ばつの影響で飼養頭数の減少が見込まれたが、当初予測より減少幅が縮小している。これは、繁殖効率の改善により子牛の出生率が上昇し、子牛飼養頭数の減少が小幅にとどまったためとされている。
24年1〜5月の牛肉輸出量は増加、輸出単価は引き続き下落傾向で推移
アルゼンチン国家統計院(INDEC)によると、2024年1〜5月の牛肉輸出量は30万8379トン(前年同期比12.7%増)と前年同期をかなり大きく上回った(表)。同国は23年12月、国内で需要の高い7品目の輸出禁止措置を解除したことも、輸出増を後押ししたとみられる。一方、輸出単価は、1トン当たり3791米ドル(61万4407円:1米ドル=162.07円(注1)、同10.8%安)とかなりの程度下落したため、輸出額(同0.4%増)はわずかな増加にとどまった。
輸出先別に見ると、輸出量全体の8割弱を占める中国向けは23万9176トン(同9.1%増)とかなりの程度増加したが、輸出単価は同2812米ドル(45万5741円、同16.3%安)と前年同期を大幅に下回った。これは、中国経済の動向が不透明な中で、酪農由来の牛と畜頭数の増加などによる牛肉需給の緩和に加え、豪州産牛肉などとの競合により、取引価格の下落につながったためとされている。中国向け輸出単価は、22年5〜11月にかけて4割下落し、その後も低下傾向で推移している(図2)。こうした中でアルゼンチンの牛肉業界は、中国向けの輸出依存度が高い状況に警戒を強めており、輸出市場の多様化を模索している。他の主要輸出先であるイスラエルおよび米国向けや、23年に輸出が再開されたメキシコ向けは、いずれも前年同期を上回った。
(注1)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2024年6月末TTS相場。
24年5月の肥育牛(去勢)出荷価格、前年同月比3.9倍に上昇
同国の肉用牛相対取引の指標となるアグロガナデロ家畜市場の2024年5月の肥育牛(去勢)出荷価格は、1キログラム当たり1777.35ペソ(320円:1ペソ=0.18円(注2))と、前年同月比294.1%増(約3.9倍)となった(図3)。これは、不安定な経済状況を反映した急激なインフレに加え、23年12月12日に実施された50%を超える公式為替レートの切り下げなどの影響とみられる。
アルゼンチンでは同年12月10日に新政権が発足し、インフレや債務再編など同国経済が抱える諸問題の原因である慢性的な財政赤字問題の解決に着手した。
24年5月の消費者物価指数(CPI)は前月比4.2%増となり、前月比の伸び率は5カ月連続で減速したものの、1〜5月の累計上昇率は71.9%となっている。現地報道によると、インフレにより肉用牛生産者は生産資材価格の上昇などで収益性が低下する中、国内消費者の購買力は低迷しているとされる。
(注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2024年6月末のTTS相場および現地参考為替相場(Selling)。
(調査情報部 井田 俊二)