NZは、放牧主体の飼養形態であるため、畜産農家の経営収支に影響するものとして、降雨に伴う土壌水分量が挙げられる。NZ国立水・大気研究所(NIWA)によると、2012年から13年にかけての干ばつにより、第一次産業では額にして13億NZドル(1298億円)以上の被害が発生した。その後は22/23年度のハリケーンの襲来などにより牧草の生育に影響が見られたものの、近年は安定した降雨により土壌水分量が確保されており、牧草の生育状況は安定している(図2)。
(1)酪農経営
ア 生産・飼養動向
NZの酪農家戸数は、高齢の農業従事者の引退などにより近年減少傾向にあるが、各農家の規模拡大により1戸当たりの搾乳牛飼養頭数はおおむね増加傾向で推移している(表1)。NZの農林水産物・食品の輸出額の45.3%(2022年度)を占める乳製品を産出する酪農業はNZの基幹産業であり、生産量の9割以上が輸出に仕向けられている。NZ第一次産業省(MPI)によると、今後は増頭ではなく1頭当たり生乳生産量の増加による全体の生乳生産量増加が見込まれており、これに伴い乳製品輸出量も増加するとされている。
イ 経営収支
NZ酪農の経営形態は、オーナー経営のほか、シェアミルカー経営、コントラクトミルカー経営に大別されるが(注2)、ここでは日本の一般的な酪農家の経営形態と同様の、NZ酪農の過半を占めるオーナー経営について、近年の収支状況を紹介する(図3)。
直近5カ年度の経営収支を見ると、農業所得は2021/22年度(6月〜翌5月)に76万3433NZドル(7621万円)、経営利益は57万9076NZドル(5780万円)をそれぞれ記録した後、減少に転じている(表2)。収益性が高かった同年度は、過去最高となった生産者乳価が最も如実に反映されたものとなっている(図4)。酪農では、農業粗収益に占める生乳販売収入の割合が9割以上を占めているため、日本と同様に、生産者乳価の動きが経営を直接的に左右する状況となっている。
一方で、酪農家(オーナー経営)の農業経営費は、飼料費、人件費、肥料費が約半数を占めているが(図5)、これらは昨今のインフレによる消費者物価指数の上昇(図6)などを反映し、21/22年度から急激に上昇している。また、表2の収支表には整理上、利息を計上していないが、借入金の多い酪農経営では、近年の政策金利の高止まりに伴い利息が増加している状況にある(図7)。業界団体であるDairyNZによると、近年の人件費の上昇に伴い、労働者の確保も困難な状況にあるとしている。
23/24年度の経営収支(予測値)では、インフレの緩和による農業経営費の下落が見込まれているが、農業粗収益も下落するため、農業所得は59万1273NZドル(5902万円、前年度比1.6%減)、経営利益は40万788NZドル(4001万円、同4.4%減)とされている。
(2)肉用牛経営
ア 生産・飼養動向
肉用牛農家戸数は、酪農と同じく高齢の農業従事者の引退などにより減少傾向にあるが、各農家の規模拡大により、1戸当たりの肉用牛飼養頭数や牛肉生産量は増加している(表3)。NZの農林水産物・食品の輸出額の8.0%(乳製品の2割弱)を占める牛肉は、生産量の9割以上が輸出に仕向けられている中で、MPIによると、牛肉生産量と輸出量はほぼ横ばいで推移する一方、国際的な需給見通しを要因とした輸出単価の上昇と輸出額の増加が見込まれている。
イ 経営収支
NZの肉用牛経営は、肉羊との複合経営が一般的となる。これは、肉用牛を放牧した後、丈の短くなった牧草地に羊を放牧できるなど、牧草地の有効活用による収益源の多角化が図られるためである。このため、NZの統計データも肉用牛・羊農家の経営として整理されている。
直近5カ年度の農業粗収益を見ると、羊肉向けの羊販売による収入が最も多く、粗収益合計の約半分近くを占める一方、肉用牛販売による収益は3割程度にとどまっている(表4)。生乳販売収入という単一の収益源に依存している酪農経営と異なり、肉用牛・羊経営は比較的リスク分散を図りやすい経営形態となっている。2021/22年度には、肉用牛販売価格の大幅な上昇(前年度比17.7%高)により(図8)、農業所得も22万9106NZドル(2287万円)と高水準を記録したが、その後は農業経営費の上昇から大きく減少に転じている。
肉用牛・羊経営の農業経営費の内訳は、肥料費、人件費、飼料費などが主な費目となっている(図9)。業界団体のビーフ&ラムNZ(BLNZ)および肉用牛・羊農家への取材に対し、昨今のインフレと金利上昇に伴い、その他経費に含まれる利息の増加が最も大きな支出費目になっていると回答しているが、収益源が多角化されており、経営のリスク分散が図られているため、酪農家との比較では経営費増嵩が経営に及ぼす影響がそれほど厳しくはないと感じられた。