ここからは、スリック遺伝子に関わる研究の一つとして、米国のフロリダ大学の研究結果をご紹介します。以下より、通常のホルスタイン雌牛を通常牛、スリック種雄牛から生まれた被毛が短い雌牛をスリック牛として表記します。
図1では、夏季(5〜7月)、冬季(10〜12月)それぞれに分娩した通常牛とスリック牛の分娩後90日間の乳量を示しています。夏季に分娩した通常牛は、冬季分娩に比べて乳量の差が平均3.7キログラム落ち込んだのに対して、スリック牛は同1.3キログラムと、夏場の乳量低下が少ない結果が得られました。
さらに同研究では、発汗量や直腸温度、呼吸数の計測も実施され、スリック牛は通常牛よりも発汗量が多く、効率的に体から放熱出来ることが明らかになりました。通常牛の直腸温度の平均値は40.5度であったのに対し、スリック牛は39.6度、また1分間の呼吸数は通常牛において平均107回、スリック牛は同93回でした。牛は暑さを感じると呼吸数やよだれの量を増やし体の熱を放散させようとしますが、スリック牛は発汗による放熱量が多いため、通常牛よりも呼吸数が少なくても体温を低く保つことが出来るためと同研究では考えています。
なお、米国フロリダ州は温暖湿潤気候に当てはまり、前述のフロリダ大学で実施された試験は最高気温30度、湿度70〜95%の環境で行われています。また、気温と湿度から暑熱ストレスを数値化し、牛の不快指数ともいわれる温湿度指数(THI:Temperature-humidity-index)は、一般的に68を超え始めると乳量の減少が認められるとされていますが、同試験環境では74〜81程度でした。
同研究は日本のジメジメとした夏場に近い環境で行われていることから、今後、日本国内でも同様の効果を得られることが期待されます。