本研究では、黒毛和種繁殖雌牛の発情および非発情個体から頸管粘液を採取し、(1)嗅覚官能試験(2)化学分析(3)ニオイセンサー分析―という三つの手法を用いて、発情と非発情個体の判別に関する基礎データの集積を目的とした。嗅覚官能評価においては、頸管粘液試料の匂いの印象によって、発情および非発情をおおよそ判別できる可能性が示唆された。化学分析においては、 GC-O/FIDを利用した結果、非発情(妊娠)のアロマグラム上に1カ所から特徴的な匂い活性(獣臭)が感知された。将来的に特徴的な匂いである獣臭をGC-MSを用いて同定することが望まれる。加えて、これら試料をニオイセンサー分析に供試したところ、発情と非発情(妊娠)個体の試料の間に差を検出することができなかった。
将来的な研究の成果としてセンサーによる判別が可能となった場合、小型化した廉価な“普及モデル”の開発をメーカーと協議している。普及モデルのニオイセンサーが完成すれば、それらをインターネットに接続(ICT化)し、黒毛和種の超早期妊娠個体の状況を常時監視できる技術の開発につなげていくことを計画している(写真3)。本取り組みは新たな“スマート畜産技術”として、業界における人手不足に対応する革新的な技術になると期待される。
引用文献
1)Arshak, K., Moore, E., Lyons, G. M., Harris, J., Clifford, S.: A review of gas sensors employed in electronic nose applications, Sens. Rev., 24, 181-198, (2004). 10.1108/02602280410525977.
2)松本英顕, 江原史雄, 小山玲音, 笹川智史, 原口智和, 宮本英揮, 龍田典子, 上野大介: におい嗅ぎガスクロマトグラフを用いた和牛の皮膚ガス分析技術の基礎的検討, におい・かおり環境学会誌, 52, 233-239, (2021). https://doi.org/10.2171/jao.52.233.
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