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海外情報 ブラジル 畜産の情報 2024年9月号

ブラジルでの高病原性鳥インフルエンザ対策と鶏肉などの生産・輸出状況

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調査情報部

【要約】

 ブラジルでは2023年5月、初めて高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の感染が野鳥で確認され、これまで野鳥を中心に160件超(うち庭先養鶏農家3軒)に達した。このため、同国政府は家畜衛生緊急事態宣言を発表し、発生予防・まん延防止対策を強化している。同国の養鶏産業は規模が大きく、特に鶏肉については、世界第1位の鶏肉輸出国として地位を築いている。このため、同国のHPAIの動向は、国内需給のみならず、世界の鶏肉需給にも大きな影響を及ぼすため、その動向が注目される。

1 はじめに

 南米では、2022年10月にコロンビアでH5N1亜型の高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の感染が確認されて以降、これまで10カ国で野鳥や家きんでの感染が確認されている。ブラジルではHPAIへの警戒が高まる中、23年5月15日、初めて野鳥での感染が確認されて以降、これまでの感染事例は野鳥を中心に約160件(うち庭先養鶏農家3軒)に達した。このため、ブラジル農牧省(MAPA)は同年5月22日、家畜衛生緊急事態宣言を発令し、官民一体となってバイオセキュリティやサーベイランスの強化、HPAIに関する正しい知識の普及啓もうなど、発生予防・まん延防止対策に取り組んでいる。
 同国の養鶏産業は、安価な飼料穀物やHPAIフリーといった強みを背景に成長してきた中で、近年では輸出競合国でのHPAIの感染拡大やウクライナ情勢などによる混乱が、同国の養鶏産業にとってさらなる追い風となった。同国の鶏肉生産量は世界第2位、鶏卵は同第5位の規模であり、また、鶏肉輸出量は同第1位で150カ国以上に輸出している。このため、同国のHPAIの感染動向は、国内需給のみならず世界の鶏肉需給にも大きな影響を及ぼすとみられる。
 本稿では、ブラジルでのHPAIの発生状況と対策および鶏肉や鶏卵産業の状況などについて報告する。
 なお、本稿中の為替レートは、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月中・月末平均の為替相場」の2024年7月末日TTS相場および現地参考為替相場(Selling)の1米ドル=153.44円、1レアル=27.10円を使用した。
 また、特に断りのない限り、2024年3月時点のデータを基に作成している。

2 HPAIの発生状況

(1)南米

 南米では、2022年10月にコロンビアでHPAIの感染が確認されて以降、23年5月ごろにかけて10カ国で感染が確認された(図1)。これは、21年12月にカナダで発生したHPAIが、渡り鳥を介して南米にもたらされたものとされている。渡り鳥の飛来ルートは、(1)北米大陸の西海岸に沿ってアラスカから南米まで続く太平洋・アメリカ大陸経路(2)北極圏から米国ミシシッピ川流域に沿って南米まで続くミシシッピ・アメリカ大陸経路(3)北米海岸の東海岸に沿ってカナダ東部からカリブ海を経由し南米まで続く大西洋・アメリカ大陸経路―がある。また、北米から渡り鳥が飛来する時期は、11〜3月ごろとされている。

 

(2)ブラジル

 ブラジルでは2023年5月15日、南東部エスピリトサント州で、野鳥で初めてHPAIの感染が確認された(図2)。その後同年12月までの発生事例数は合計151件で、中でも6月は44件と最多となり、8月にかけて1度減少したが9月に再び増加し、その後12月にかけては減少した。
 地域別に見ると、大西洋沿岸を中心に八つの州で感染が確認され、州別では南東部サンパウロ州が53件と最も多い(図3)。感染が確認された多くは野鳥であるが、エスピリトサント州(セラ市)では同年6月27日、庭先養鶏農家で初めて感染が確認され、その後、同様に2軒の庭先養鶏農家(7月15日南部サンタカタリーナ州マラカジャ市、9月16日中西部マットグロッソドスル州ボニート市)で確認されたが、商業養鶏での発生はない。




 

3 HPAI対策

(1)関係規定

 ブラジルのHPAIに関する政策は、国家家きん衛生計画(PNSA)および農畜産物衛生システム(SUASA)によりサーベイランス、防疫体制が確立されてきた。
ア PNSAの概要
 PNSAは、生産部門と調和を図りながら、公衆衛生と家畜衛生に影響を及ぼす主要な家きんの疾病(鳥インフルエンザ、ニューカッスル病、サルモネラ症、マイコプラズマ症)の予防、管理、監視対策の確立を目指し、1994年に制定された(1994年9月19日 MAPA省令第193号)。主な目的は、(1)養鶏と公衆衛生に関する疾病の予防と管理(2)国内の家きんの健康状態を明らかにするための活動の定義(3)国内および海外市場向けの健全な家きん製品の生産奨励―である。同国の家きん衛生対策は、この計画に基づきさまざまな規則などが制定され実施されてきた。主なものは次の通りである。
(ア)施設の登録、バイオセキュリティおよびリスク管理
  ・家きん施設(繁殖、商業、教育および研究施設)の登録、監視および衛生管理の手順を規
   定(2007年)
  ・施設登録されていない小規模養鶏農家のような病原体の侵入や拡散を受けやすい
   家きん施設などに対する厳格なリスク管理プログラム(2013年)
(イ)鳥インフルエンザおよびニューカッスル病の予防、管理、サーベイランス
  ・鳥インフルエンザおよびニューカッスル病の予防のための国家予防計画(2006年)
  ・鳥インフルエンザおよびニューカッスル病の制御と根絶のための技術的
   サーベイランス基準(2002年)
  ・鳥インフルエンザおよびニューカッスル病の感染に関する種鶏農場、肉用鶏農場、
   ふ化場、鶏または七面鳥の家きん生産チェーンの区画化に関する衛生認証の
   技術基準(2014年)
  ・動物衛生緊急事態対応計画:一般編(2013年)
  ・鳥インフルエンザおよびニューカッスル病の緊急事態対応計画(2013年)
 
イ SUASAの概要
 SUASAは1998年に設立され、2006年に運営細則が定められた農畜産物の検査・監視システムである。このシステムは、動物衛生と植物防疫、農業活動で利用される投入物とサービスの検査、消費向け製品の均一性、品質、衛生・技術的安全性を保証することを目的としている。
 

(2)主な対策の実施状況など

ア 動物衛生緊急事態宣言
 MAPAは2023年5月22日、HPAI感染事例数の増加に対応するため180日間の動物衛生緊急事態宣言を発令した。これにより、政府は特別予算支出のほか、他省庁、各政府組織(連邦、州、市町村)、民間組織との連携が可能とされた。同宣言に基づき、6月には特別予算から2億レアル(約54億円)の支出が決定された。また、これと同時に、家きんを扱う展示会などの停止の無期限延長措置が採られたほか、鳥インフルエンザに関する対策の調整などを担う緊急オペレーションセンターが設置された。さらに、州レベルでは、MAPAの措置を受けて23年10月までに15の州が緊急事態宣言を発令した。なお、この動物衛生緊急事態宣言は、同年11月に適用期間が180日間延長され、24年5月にはさらに180日間延長されており、同年8月現在で継続中である。
 
イ 家きん施設などの登録
 家きんを飼養する施設は、採卵鶏、肉用鶏、種鶏など用途を問わず、政府への登録が義務付けられている(2023年3月29日 規範指示第56号。飼養羽数が1000羽以下の施設は登録免除)。登録は州単位で行われ、各州の農畜産局が登録手続きを管轄する。
 登録データ自体は公表されていないが、参考までにブラジル地理統計院(IBGE)が実施した農畜産センサス(17年)によると、総養鶏農家数は281万15戸で、このうち飼養羽数が1000羽以上の農家数は2万8567戸(全体の1%程度)とされる(表1)。

 
ウ サーベイランスの実施および感染確認後の対応
(ア)家きんおよび野鳥などのサーベイランスの実施
 MAPAによると、2023年のサーベイランス実施件数は、臨床検査1846件、サンプル検査645件であり、そのうち感染が確認されたのは151件であった。同年5月に初めてHPAIの感染が確認されて以降はサーベイランスが強化され、1カ月当たりの臨床検査は88件(1〜4月の平均)から187件(5〜12月の平均)に、また、サンプル検査も18件(1〜4月の平均)から72件(5〜12月の平均)に増加した(図4)。
 最近までの実施状況(24年7月20日現在)を累計で見ると、臨床検査3158件、サンプル検査888件であり、そのうち感染が確認されたのは166件であった。24年に入ってからの感染確認件数は、すべて野鳥で15件と落ち着いている。地域別実施状況を見ると、検査は広域で実施されている一方、感染確認場所はマットグロッソドスル州などでの事例を除き、ほとんどが南東部と南部の沿岸部である(図5)。



 
 
(イ)感染確認後の対応
 感染確認後の対応については、鳥インフルエンザおよびニューカッスル病の緊急事態対応計画(2013年)で規定されている。HPAIの感染の疑いのある家きんの連絡を受けた地域を所管する公的獣医局(SVO)の獣医が施設を訪問し臨床検査を実施する。感染の疑いがある場合には、検体は連邦農畜産防疫検査センター(LFDA、サンパウロ州カンピーナス)で検査される。結果が陽性の場合、MAPAの家畜衛生部(DSA)に報告され、国際獣疫事務局(WOAH)に通知される。
 現場での対応は、州疑似患畜発生時緊急対応特別グループ(GEASE)が担当し、汚染地域の境界の設定、交通規制、疫学調査などを行う。HPAIの感染が確認された場合、当該地点から3キロメートル圏内が隔離区域、隔離区域の外縁から7キロメートル以内が監視区域に指定される(図6)。


 
 
エ 養鶏場でのバイオセキュリティ
 ブラジルでの養鶏場のバイオセキュリティは、PNSAに即した施設の登録、検査、管理に関する技術基準がある。各州はこの技術基準に準拠し、さらに州の特殊性を考慮した基準を定めている。
 ブラジル農牧研究公社(EMBRAPA)が商業用採卵養鶏農家向けに作成した基本的なバイオセキュリティ要件によると、(1)施設の設置場所(2)構造(3)人の出入り(4)車両の進入(5)アクセスの記録(6)清掃と消毒(7)家きんに給与する水および飼料(8)生産サイクル終了後の清掃および消毒―などが規定されている(写真1〜4)。
 例として、サンパウロ州の養鶏農家が、養鶏施設登録(延長)時に提出する衛生対策申請書には、生産者が具備すべき要件としてチェック項目が列記されている(表2)。
 
養鶏農家でのバイオセキュリティ(パラナ州肉用鶏農家)



 
 
 
 
 
オ リスクコミュニケーション
(ア)MAPAによるコミュニケーション計画
 MAPAは、HPAIの予防と正しい知識の普及・啓もう活動を促進するため、生産者、衛生関係者、一般市民を対象とした戦略「HPAI予防・制御に向けたコミュニケーション計画(2023年)」を公表した。
 コミュニケーション手段として、対象者に合わせたコンテンツを提供し、HPAIに関する正しい知識や緊急時の公的獣医局への速やかな通報を促すこととしている。
 例えば予防のための広報メッセージでは、大規模養鶏農家、小規模養鶏農家、一般消費者、民間獣医師、環境警察官、先住民コミュニティ、環境管理者専門家、教育・研究・動物診療機関の専門家ごとに、HPAIに関する注意喚起を行っている(表3)。

 
(イ)コミュニケーション活動の事例
a MAPA
 MAPAのウェブサイトでは鳥インフルエンザのコンテンツを設置し、総合的に情報発信している。コミュニケーション手段としては、対象者別にビデオ(小規模生産者、民間獣医師、環境警察官、バードウォッチング愛好家、先住民コミュニティ向けの5種類)やリーフレット(一般市民、民間獣医師、環境警察官向け3種類)などを作成し、提供している(図7)。

 
b ブラジル動物性タンパク質協会(ABPA)
 鶏肉などの業界団体であるABPAは2023年5月、鳥インフルエンザについての簡潔で分かりやすいウェブサイトを作成した。また、同年末には、渡り鳥の飛来の可能性の高い海浜地帯へのツーリスト向けビデオを作成、キャンペーンなどを行っている。
 
c ブラジル農畜産研究公社(EMBRAPA)
 MAPA所管の研究機関であるEMBRAPAは、ウェブサイトに鳥インフルエンザ専門ページを開設し、総合的な情報提供を行っている。提供する情報は、Q&A方式の関係者向け解説、政府の通達、関連情報のリンク先および連絡先、バイオセキュリティのガイドライン、推奨する関連文献などがある。

コラム 鶏卵生産地サンパウロ州バストス市の状況

 バストス市は、サンパウロ州西部にある同州最大の鶏卵生産地で、2022年の鶏卵生産量は2億5000万ダース(同州生産量の21.5%)である。同市の養鶏の年間売上額は20億レアル(542億円)、直接雇用者は3000人(間接雇用を合わせると1万3000人)で、全人口(2万2000人)の半数を超えており養鶏が地域経済を支えている。
 バストス地域鶏卵生産者協会(APROBARE)によると、防疫対策は02年に発生した鶏伝染性気管支炎を契機に強化された。さらにMAPAは州農業防疫調整部(CDA)と連携し、アジア諸国でのHPAI発生を契機に関係者以外の鶏舎への立ち入り禁止措置の徹底など大規模な感染防止対策を講じ、その防疫体制が現在でも維持されている。
 また、同市の農村協会(約60の採卵鶏生産者)は、HPAI対策として、同州農業・供給局(SAA)の指導の下、生産者にバイオセキュリティの徹底など働きかけている(コラム―写真1〜3)。
 さらに23年に国内でHPAIの感染が確認されてからは、州政府の指導が一層厳しくなっており、それに対応するための投資は生産者にとってコスト増となっている。





      



 
 同協会では、一般市民への正しい知識の普及・啓もうにも注力している。市内すべての学校で生徒たちに鳥の病気について説明会を開き、漫画などを用いて自宅でペットの鳥や庭先の鶏が野鳥と接触しないよう注意喚起するなど知識の普及を図っている(コラム―写真4)。


 バストス市は鶏舎が集中しているため、万が一、商業養鶏でHPAIの感染が確認された場合、そのまん延リスクが高く、処分対象羽数の増加により被害が深刻化する恐れがある。
 仮に鶏舎で感染の疑いが見つかった場合には、サンパウロ州農畜産貿易課の事務所に通報し、24時間以内に公的獣医師が派遣される。獣医師によって感染の疑いが確認されるとカンピーナス市の連邦農畜産防疫検査センター(LFDA)に検体が送られ、24時間以内に結果が判明する。陽性だった場合、血清学的診断が行われ、その結果が出るのに約1カ月を要するという。ウイルス感染が陽性の時点で、当該鶏舎と近隣の鶏舎は閉鎖され、車両の往来や鶏卵の販売は血清検査の結果が判明するまで禁止される。

4 鶏肉、鶏卵などの需給および主要州での飼養、鶏肉処理施設の分布状況

(1)生産

ア 鶏肉
(ア)概要
 ABPAによると、2023年のブラジルの鶏肉生産量は1483万3000トン(と体換算)と、米国に次いで世界第2位である(図8)。近年の生産量は増加傾向で推移しており、14年(1269万1000トン)との比較では16.9%増加した。生産された鶏肉のうち65.3%が国内消費され、残りの34.7%が輸出される。また、23年の鶏肉総生産額は、市場価格の低下により前年を下回り916億4600万レアル(2兆4836億円)である。




 
 
 (イ)飼養羽数
 IBGEの畜産生産調査によると、2022年の肉用鶏飼養羽数(注)は13億2659万羽とされている(図9)。ブラジルの肉用鶏生産は、南部および南東部に集中しており、州別に見ると、南部パラナ州が全体の3分の1(33.4%)を占め、これに続く南部リオグランデドスル州(11.8%)、南東部サンパウロ州(11.0%)、南部サンタカタリーナ州(8.8%)の上位4州を合わせると全体の65.0%を占める。近年の飼養羽数は増加傾向で推移しており、13年(10億2100万羽)との比較では約3割増加した。
 
 
(注)IBGEは畜産生産調査で鶏全体と採卵鶏の飼養羽数を公表している。ここでは、鶏全体から採卵鶏を差し引いたものを肉用鶏羽数とした。

 
(ウ)主な州の飼養羽数分布
 HPAIが確認された場合、地域を区切って防疫対策などが講じられる。このため、ここでは、鶏肉主産地における飼養羽数分布状況を示すこととする。州の行政区分は、大地域(Mesorregião)と、さらに細分化した小地域(Microrregião)があるが、ここでは大区分の状況にとどめる。なお、図中の黄色の地域は、州内の肉用鶏飼養羽数比率が10%以上の地域を示す。
a パラナ州
 パラナ州の肉用鶏飼養羽数は4億4368万羽であり、うち、西部地域が州全体の3割を占めるなど、生産地域は州西部に多く集まっている(図10)。都市別では、西部のカスカベル市が最も多く、飼養羽数は1995万羽である。

 
b リオグランデドスル州
 リオグランデドスル州の肉用鶏飼養羽数は1億5656万羽であり、うち、北西部地域が州全体の4割を占めるなど、生産地域は州北部に多く集まっている(図11)。都市別では、中部オリエンタルにあるノヴァブレシア市が最も多く、飼養羽数は530万羽である。

 
c サンタカタリーナ州
 サンタカタリーナ州の肉用鶏飼養羽数は1億1608万羽であり、うち、西部地域が州全体の8割を占めている(図12)。このほか南部地域でも1割を占めている。都市別では、西部のコンコルディア市が最も多く、飼養羽数は359万羽である。なお、23年7月にHPAIが庭先養鶏で発生したマラカジャ市の飼養羽数は22万羽である(図3)。
 

 
イ 鶏卵
(ア)概要
 ABPAによると、2023年のブラジルの鶏卵生産量は524億4760万個と世界第5位である(図13)。近年の生産量を見ると、21年をピークにやや減少しているが、長期的には増加傾向で推移しており、14年(372億4513万個)との比較では40.8%増加した。生産された鶏卵は99%が国内で消費され、残りの1%が輸出される。23年の鶏卵総生産額は、245億2500万レアル(6646億円)である。
 

 
(イ)飼養羽数
 IBGEによると、2022年の採卵鶏飼養羽数は2億5945万羽である(図14)。州別に見ると、サンパウロ州(21.2%)が最大で、これに続くパラナ州(10.3%)、リオグランデドスル州(8.5%)、ミナスジェライス州(8.1%)の4州で全体の48.1%を占めている。ブラジルの採卵鶏生産は国内向けが主体であることから、比較的大消費地に近い南東部や南部州が上位を占めており、肉用鶏と比較して生産州が分散している。近年の飼養羽数は増加傾向で推移しており、13年(2億1968万羽)との比較では18.1%増加した。


 
 
(ウ)サンパウロ州の飼養羽数分布
 採卵鶏性産が最大となるサンパウロ州の採卵鶏飼養羽数は5489万羽であり、うち、マリーリアが全体の31.1%を占め、西部に隣接するプレジデンテ・プルデンテが12.3%と続き、これら西部の二つの地域で州全体の約44%を占める。都市別では、マリーリアにあるバストス市が最も多く、飼養羽数は1098万羽である(図15)。

 
 

 

(2)流通(鶏肉処理施設)

ア 鶏肉処理施設の概要
 ブラジルの鶏肉処理施設は、(1)連邦政府が所管する施設で輸出と他の州への販売が認められている連邦検査部登録施設(SIF)(2)州内のみで販売が認められている州検査部登録施設(SIE)(3)市内のみで販売が認められている市検査部登録施設(SIM)―の三つの種類がある。輸出が可能なSIFはブラジル全体で138カ所あり、州別ではパラナ州が37カ所と最も多く、リオグランデドスル州とサンタカタリーナ州が各20カ所と続いている(表4)。


 
 
イ 主な州の鶏肉処理施設の分布
 HPAIが確認された場合、地域を区切って防疫対策などが講じられる。このため、ここでは、鶏肉主産地の鶏肉処理施設分布状況を示すこととする。
(ア)パラナ州
 パラナ州の鶏肉処理施設数は37カ所あり、うち、北中部地域が10カ所と最も多く、北西部7カ所、西部7カ所、南西部6カ所と、生産地域である州西部を中心に広がっている(図16)。

 
(ア)リオグランデドスル州
 リオグランデドスル州の鶏肉処理施設数は20カ所あり、うち、北部地域が10カ所と最も多く、北東部6カ所と続いており、生産地域である州北部に多く集まっている(図17)。

 
(ウ)サンタカタリーナ州
サンタカタリーナ州の鶏肉処理施設数は20カ所あり、うち、西部地域が16カ所と最も多く、生産地域である州西部に多く集まっている(図18)。
 

 

(3)輸出

ア 鶏肉
(ア)概要
 ブラジル開発商工サービス貿易局(SECEX)によると、2023年の鶏肉輸出量は473万3000トン、輸出額は87億9086万米ドル(1兆3489億円)である(図19)。鶏肉輸出量は世界第1位で、同国にとって主要な農畜産物輸出品目の一つである。また、輸出先は、アジアや中東をはじめ150カ国以上に及ぶなど輸出先の多様化が進んでいる。近年の輸出量は増加傾向で推移しており、14年(364万5000トン)と比較して29.8%増加した。これは、豊富で安価な自国産穀物飼料が調達できることに加え、HPAI清浄地域であったことなどが、同国産鶏肉の競争力を高めたためである。
 

 
(イ)鶏肉の輸出動向
 ブラジルでは、庭先養鶏農家で3件、HPAIの発生が確認されたが、これに伴い日本は、当該州からの生きた家きん、家きん肉などの一時輸入停止措置を講じた(表5)。
 ブラジルにとって、日本は中国、アラブ首長国連邦に次ぐ第3位の主要な鶏肉輸出先である。上述の措置の影響で、2023年8〜10月の日本向け輸出量は、各月で前年同月比を25.2%、33.5%、15.0%下回った(図20)。特に、サンタカタリーナ州は同国第4位の鶏肉生産量(全生産量の8.8%)があり、日本の輸出停止措置の影響が輸出量に及んだとみられる。



 
 
イ 鶏卵
 ブラジルの鶏卵輸出量は生産量全体の1%程度である。ABPAによると、2023年のブラジルの鶏卵輸出量は2万5407トン、輸出額は6322万7000米ドル(97億155万円)といずれも前年を大幅に上回った(図21、22)。
 形態別でみると、生鮮(1万6564トン、22年は5393トン)、加工(8843トン、22年は4081トン)ともそれぞれ前年と比較して、約3.1倍、約2.2倍に増加した。
 輸出先別では、日本向けが1万375トンと最大であり、このうち生鮮品が前年比64.4%増、加工品が同35.6%増と大幅に増加した。これは、日本国内でのHPAIの発生により鶏卵供給量が不足し、ブラジルからの殻付き卵の輸入が増加したためである。このほか、台湾やチリ向けについても、飼料価格の上昇やHPAIの流行などによる国内での鶏卵不足から、輸出量は大幅に増加した。



 
 
ウ 初生ひな、ふ化卵
 ABPAによると、2023年の初生ひなの輸出量は1052トン、輸出額は1億1253万米ドル(172億6660万円)。また、ふ化卵の輸出量は2万5427トン、輸出額は1億2751万米ドル(195億6513万円)である。初生ひなとふ化卵の合計を輸出先別で見ると、メキシコ向けが1万3514トンと最大であり、セネガル、パラグアイ、南アフリカ共和国、ペルーと続き中南米やアフリカが主な輸出先となっている。

5 おわりに

 ブラジルは世界最大の鶏肉輸出国であり、米国農務省(USDA)によると鶏肉輸出量は世界全体の約35%(2023年)を占めるとともに、150カ国以上に輸出しているとされる。このため、同国でHPAIが発生した場合、国内および国際市場に及ぼす影響は大きいと予想される。また、鶏肉に比べて少ないものの、鶏卵や初生ひなおよびふ化卵についても輸出が行われている。
 ブラジル政府は23年5月から1年間以上にわたり、HPAIに関する家畜衛生緊急事態宣言下での態勢が続いている。また、現地調査によると、生産現場では、国内でのHPAI発生確認前から警戒感が高まり、バイオセキュリティなどのまん延防止対策が強化されており、生産者レベルでも、地方行政当局の指導の下、感染防止対策が講じられている。
 また、国内対策が進む一方で、報道によると、同国政府は鶏肉などの輸出先国に対し、HPAI発生時における輸出制限措置の適用地域の見直し(ゾーニングの導入)を働きかける動きなどもみられる。
 世界各地でHPAIの発生が続く状況下において、ブラジルがHPAIフリーのステータスを維持することの意義は大きいことから、引き続き同国におけるHPAIの動向を注視する必要がある。