(1)B農場の調査結果と改善提案
B農場の労働力は、経営主と妻の2人である。経産牛頭数は約50頭であり、放牧期以外はパドックに放している。搾乳・飼養管理の1日当たり延べ作業時間は14.2時間と、調査した4戸と比較して長い傾向であった(表)。
調査結果としてB農場の問題点をまとめ、その解決に向けた改善提案を行った(図4)。特にB農場では、改善項目の中に、農場内にある建物や設備などの見直しや改良など、取り組むまでに手間やコストを要するものが多くあると想定された。そこで、理想とするB農場の将来構想を具現化してB農場に提示し、導入に向けた考えや方針、資金面での条件などを丁寧にくみ取りながら、今後B農場が取り組んでいく内容に優先順位をつけていった(図5)。
(2)B農場の改善効果と行動変化
提案の結果、搾乳手技が改善され、ミルカー内への空気の流入が減った。これにより、乳の評価指標である、体細胞リニアスコアは、2.2から2.0に減少した(改善前後の12カ月平均)。一方で、B農場では改善提案後も胴締め器の使用を継続してはいるものの、B氏は「おとなしい牛が多くなっている」と感じているという。
また、粗飼料の食い込み度合いを示すルーメンフィルスコア(RFS)
(注)を改善前後で調査したところ、ロールベールサイレージをほぐしてから給与したことで、平均RFSが2.9から3.6に改善された(図6)。このことにより、採食量が増加したと考えられる。その結果が乳量にも反映し、搾乳牛1頭当たり管理乳量は1日当たり0.7キログラム増加した。
労働時間の短縮など直接的な労働改善は果たせていないが、体細胞数の減少や乳量の増加により労働生産性は向上した。B氏は、「飼料給与の将来構想が提案内容と一致していたので、時期を見て取り組みたい」と、酪農家と普及センターで前向きな方向性の共有ができた。その後、パドックにおける牛の安楽性向上と水はけ改善のため、溝切りを実施した。将来構想の実現に向けて着実に前進している。
(注)牛のルーメンの充満度を5段階で示すもので、スコアが高いほど乾物摂取量が多い。