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海外情報 豪州 畜産の情報 2024年11月号

豪州におけるアニマルウェルフェアの現状と今後の見通し

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調査情報部

【要約】

 豪州政府では、アニマルウェルフェア(AW)の基準およびガイドラインの策定が畜種別に順次進められている。このような動きの中、各畜産業界がAWに関する戦略に基づき、サプライチェーンにおける生産者団体、加工・流通業界、小売業界それぞれがさまざまな取り組みを行っている。また消費者の間でも、動物福祉団体やAW研究者などの助言を得ながら、AWを法律で規定すべきといった声が多数派を占めている。他方で、豚の妊娠ストールや採卵鶏のバタリーケージの廃止など、政府が今後どのように進めて農家が受け入れられるAWを達成するのか、課題も残っている。

1 はじめに

 豪州では近年、若年層を中心に、カーボンニュートラルやプラスチック削減などの環境問題のほか、アニマルウェルフェア(AW)への配慮など、持続可能性に関する関心が高まっている。他方で牛肉や乳製品など、主に輸出型の産業構造である同国畜産業の経済貢献を最大化させるため、自由貿易協定を見据えた環境対策、AWの規制やガイドラインの整備を進める動きがある。特にAWに関しては、畜産の各業界でもこれらの規制やガイドラインに即して生産者や消費者への理解醸成活動、認証制度の運用などが行われている。
 本稿では、主に家畜が農場から加工施設に入る前までにおいて、政府などによるAWに関する規制やガイドラインの整備・施行状況のほか、畜産業界や小売業界でのAWの取り組みの詳細について報告する。
 なお、本稿中特に断りのない限り、豪州の年度は7月〜翌6月、為替レートは1豪ドル=100.73円(注1)を使用した。

(注1)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2024年9月末TTS相場。

2 政府などによるAWに関する規制およびガイドライン

(1)豪州の政府構造とそれぞれの役割


 豪州政府は、連邦憲法に根拠規程を置く連邦政府と州憲法に基づく六つの州政府、自治権を持つ二つの特別地域(北部準州・首都特別地域)政府、州・準州の下部組織である地方自治体からなる(図1)。
 AWに関する主要な権限は州・準州政府が有しており、連邦政府は州・準州の法律によるAW関連規制の一貫性を確保する責務や、動物および動物由来製品の輸出入に関する法律を制定する権限などを持つ(図2)。
 






 
 

(2)連邦政府による規制・ガイドライン

ア 輸出管理法2020
 「輸出管理法2020」は、輸出許可証の取得や輸出時の賦課金の徴収、独立監査機関による輸出業者の監視などを義務付けた法律である。AWについては、輸出業者が家畜を輸出する際に順守すべき最低限の要件として、同法および関連規則に基づく豪州家畜輸出基準(ASEL)、輸出業者サプライチェーン保証システム(ESCAS)の二つのシステム(注2)によって管理されている(図3)。

(注2)『畜産の情報』2022年11月号「豪州およびニュージーランドにおける生体牛輸出の現状(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_002464.html)をご参照ください。
 



 
イ 豪州AW基準・ガイドライン(AAWSG: Australian Animal Welfare Standards and Guidelines)
 AAWSGは、従前から豪州のAW基準に位置づけられていた「AWのためのモデル行動規範(MCOP: Model Code of Practice for the Welfare of Animals)」(注3)に置き換わるものとして、開発・導入が進められているものである。AAWSGは各州・準州の法令を改正し、要件化することを前提とした「基準」と、任意の推奨事項である「ガイドライン」に分かれており、これまでに家畜の陸上輸送、牛、羊、家畜市場・出荷場、展示動物、家きん向けが開発されている(表1)。

(注3)1980年代から2000年代にかけて、第一産業大臣審議会制度の基で運営されていた動物福祉委員会(Animal Welfare Committee)が作成したAWについて推奨される最低限の基準と実践を定めたもの。
 


 

(3)州・準州政府による規制


 各州・準州はAWに関する立法責任を持ち、例外なくAWまたは動物虐待の防止に関する法律が整備されている(表2)。いずれの法律も動物への残虐的な行為を禁止しており、その下位法(注4)に位置する関連規則や規範では、各州・準州の特徴(家畜生産の規模など)に合わせた独自の規制も多く見られる(図4)。

(注4)法解釈における概念。豪州では、法令の下に位置付けられる規則や規範を指し、法令と同様に法の効力を有する。制定する権限を国会から行政機関に委任されていることから、「委任立法」と呼ばれることが多い。
 
 



 

(4)AW戦略の改定とそれに至る経緯

 州・準州が主導する形でのAW問題への対応は、一貫性を欠き国民に混乱を与えるとして、これまでさまざまな議論が行われてきた。1980年代には、AWの基準設定には全国統一的な対応が必要という機運が高まり、連邦政府主導でMCOPの開発が進められたが、科学的根拠の不足など、その基準策定のあり方を問題視された経緯もあり、各州・準州の法令などへの適用は限定的な範囲にとどまった。
 その後、特にAW分野で全国的に統一した基準設定を行うため、2004年に豪州AW戦略(AAWS:Australian Animal Welfare Strategy)が策定された。本戦略に基づき、豪州動物衛生局(Animal Health Australia)が主となり、MCOPをAAWSGに転換する取り組みが進められたが、AW関連の研究資金投入が少なく、必要なデータ収集の困難性などの理由により、進捗(しんちょく)は非常に遅かった。その結果、14年に政府公約の一環としてAAWSが失効されるまでに策定されたAAWSGは、家畜の陸上輸送のみが対象となった。現在では、AWを所管する各州・準州の政府部門およびDAFFの代表者、ニュージーランド第一次産業省の代表(オブザーバー)から構成されるAWタスクグループが新たにAAWSGの開発を主導している。
 23年5月、連邦政府は23/24年度予算案の中で、AAWSを改定することを目的として、4年間(23〜27年)で500万豪ドル(5億365万円)を措置すると発表した。24年3月から改定に向けた協議が始まっており、連邦政府から示された草案(注5)では、目指すべき方向性として三つの目標を提示している。

  1)主要な利害関係者が互いに納得できる国家的枠組みの確立
  2)国際・地域社会からの期待に応える豪州におけるAWの方向性の提示
  3)科学的根拠に基づいた近代的で持続可能なAWの実践

 この新たな戦略は今後3年間の協議期間を経て、27年に最終版が公表される予定となっている。また、連邦政府は、新たな戦略の策定を主導し、国内外に対して豪州がAW対応を重視していることを示すため、24年度中に「AWに関する国家声明(National Statement of Animal Welfare)」を発表する予定としており、新たな戦略の方向性と合わせてその動向が注目されている。

(注5)議論を円滑に進めるための参考資料。参考となる情報や論点を提示し、関係者から意見を求める際に利用される。
 

(5)注目すべき最近の動向

 これまで豪州では、欧米に比べて家きん用バタリーケージに対する規制の議論が進んでおらず、小売大手がケージ卵の販売を停止するなど、民間側の取り組みが主となっていた。このような中、連邦政府が2023年に策定した家きんのAAWSGにおいて、ケージ飼養システムで鶏1羽当たりの最低飼養面積(注6)が定められた。これは、従来規格のバタリーケージでは達成が困難な要件であり、実質的にはバタリーケージの使用を禁止する規制とされている。このため、飼養システムの移行には最大36年までの猶予期間が設けられており、業界は本規制への対応を迫られている状況にある。採卵鶏の業界団体である豪州鶏卵協会(Australian Eggs)は、卵の供給に影響が出る可能性があるとした上で、猶予期間の延長とシステム移行に要する支援パッケージの構築を連邦政府に求めているが、現在(24年9月時点)までに特段の対応はみられない。一方で、動物福祉団体からは猶予期間を短縮すべきという声も出ており、実行には課題を残す状況となっている。

(注6)1羽を一つのケージで飼養する場合は1000平方センチメートル以上、2羽以上をケージで飼養する場合は1羽当たり750平方センチメートル以上の飼養面積が必要とされている。

3 動物福祉団体と畜産業界団体の動向

 豪州の一部の動物福祉団体と畜産業界団体は、政府による規制とガイドラインの構築に貢献しつつ、相互にノウハウや関連情報を共有しながらAWの最善策を模索し、各業界のAWの取り組みに反映している。ここでは、各業界における最近のAWに関する特徴的な動向について紹介する。
 

(1)動物福祉業界

 各州・準州にそれぞれ独立した組織を持つ非営利団体である王立動物虐待防止協会(RSPCA:Royal Society for the Prevention of Cruelty to Animals)が、家畜などの産業動物のほか、犬猫などのコンパニオンアニマル、競走馬などのAWの改善に関する各種活動を展開している。
 キャンベラにある同組織への取材では、政府との関係性や各畜産業界における具体的な働きかけなどについて、以下を確認した。

ア 連邦政府との関係性
 前述したAAWS改定の動きを歓迎するとしつつも、割り当てられた予算は不十分であり、4年間で800万豪ドル(8億584万円)まで増額するよう連邦政府に要望している。AAWGSの各州・準州での法制化に向けたAWの専門家の派遣、また、豪州が他国との自由貿易協定締結に向けた交渉が行われる際、協定文書にAWの章が盛り込まれるよう、科学的根拠に基づいた協力と提唱を行っている。

イ 畜産業界への働きかけ
 養豚・豚肉業界では、豚舎で分娩ストールが使用されているが、同業界に分娩ストールを段階的に廃止させようという機運が盛り上がらないことが課題であり、今後、連邦政府と同業界に働きかけていくとしている。
 採卵鶏業界では、既述のように、2036年までに段階的にバタリーケージ飼育が廃止されることとなっているが、その後はケージ内で鶏が動き回ることが可能となり、巣箱などが設置されたエイビアリーケージなども、段階的に廃止しようとする動きが出てくることも想定される。このため、長期的な視点に立った投資として、現在のケージシステム(図5)を屋内平飼い(バーン)システムやフリーレンジシステムに円滑に移行できるよう、連邦政府による減税や無利子融資などの支援策が措置されることを支持している。要すればRSPCAも財政的支援に協力する用意がある。
 また、同団体は、後述のコラムで紹介するAW農場認証制度を運営している。


 

(2)肉用牛業界

 豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)への取材によると、肉用牛・牛肉業界では、2004年から開始された農場認証プログラムである家畜生産保証制度(LPA)により、農場と食肉加工施設までの輸送における家畜の取り扱いがAAWSGに合致しているかを確認している。本プログラムにより、農家と運送業者にAAWSGに関する定期的な研修を受講させ、AWの対応水準を維持している。毎年監査が行われ、不適合な事例にはLPAによる是正勧告が行われるが、悪質な場合には連邦政府に通知された後、罰金を課されるケースもある。特に同業界では、牛を農場から食肉加工施設まで、場合によっては2500キロメートルもの長距離輸送を行う場合もあるが、MLAでは、豪州家畜農村輸送協会(Australian Livestock & Rural Transporters Association)が運営する輸送に関するAWプログラムであるトラックセーフ認証制度などを基に、推奨される牛の水分補給の間隔や積載密度などに関する情報を定めている(図6、表3)。一方で、州・準州間を超えて牛を輸送することもあるため、州・準州政府による異なる基準を適用する難しさも存在する。







 
 また同業界では、レッドミート諮問委員会(Red Meat Advisory Council)が中心となり、17年に発足した「豪州牛肉持続可能性枠組み」によって、AW向上の一環として、適切な鎮痛剤の使用や、飼養上の事故と外科的な除角による牛への負担を削減するため、無角牛の遺伝子を特定し、系統造成する試みも進められている。
 
 

(3)酪農業界

 酪農業界では、デイリー・オーストラリア(DA)など業界団体により2012年に開始された「豪州酪農持続可能性枠組み」の中で、AW向上の目標設定と進捗状況が公表されている(表4)。このうち特に、乳用・育成に適さない余剰子牛(ボビー子牛)の管理が主要な課題となっている。DAによると、22年に全国の乳用子牛の28%がボビー子牛として販売、または安楽死にされている。
 これに関し豪州酪農家連盟(ADF:Australian Dairy Farmers)は、豪州酪農産業余剰子牛政策タスクフォースを立ち上げ、22年9月までにボビー子牛の管理に関する提言を取りまとめている。本提言には、35年までにすべての乳用子牛を価値あるサプライチェーンに組み込むことや、他に選択肢がない場合を除き、生存可能な子牛を農場内で安楽死させないという目標が含まれている。本提言を基に同業界は、肉用牛関連団体と連携しつつ、ボビー子牛に関するロードマップを24年内に発表する予定としている。




 
 

(4)養豚業界

 養豚業界団体のAPL(Australian Pork Limited)では、AWに関する独自の行動規範を設定し、妊娠ストール廃止の奨励やフリーレンジ豚肉の認証基準の設定など、さまざまな取り組みを行っている(注2)

(注2)『畜産の情報』2021年12月号「豪州養豚産業の概要と近年の取り組み」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_001871.html)をご参照ください。
 

(5)肉用鶏/採卵鶏業界

 豪州の農業研究開発公社であるアグリフューチャーズ(Agri Futures)と豪州鶏肉連盟(Australian Chicken Meat Federation)は2024年8月、『豪州鶏肉産業持続可能性枠組み』を発表し、肉用鶏のAWに関する(1)栄養(2)物理的環境(3)健康(4)行動(5)飼養者の経験−の最善の方法を示している。また22年時点で、市場全体の92.3%がRSPCAなどのAWに関する第三者認証を取得しているが、本枠組みで30年までに同95%にする目標を掲げている。
 また、採卵鶏業界においても、豪州鶏卵協会(Australian Eggs)による「豪州鶏卵産業持続可能性枠組み」の中で、ビデオカメラによる監視と機械学習により、採卵鶏の生産性とAWを向上させる取り組みなどが行われている。

4 小売・外食業界の動向

(1)小売業界

 豪州の小売業界は寡占化が進展しており、ウールワース、コールスで全体の65%の市場シェア(占有率)を有している(図7)。両社は、英国に拠点を置く独立系の投資専門グループによって運営される、世界の小売・食品の大手企業150社を対象としたAWのベンチマーク評価指標である「BBFAW:Business Benchmark on Farm Animal Welfare」で評価されている。本指標では、取り扱う家畜の(1)過密飼育(2)遺伝子組み換え技術やクローン動物の活用(3)抗生物質や成長促進剤の使用、家畜の体の一部の切断(4)と畜時の気絶処理(5)長距離の生体輸送―などの分野により、6段階で評価される。階層1がAWについて業界を主導する立場として最も高い評価となっており、階層6はいかなるAWの実践や方針の表明も行われていない企業と評価される。23年の報告では、ウールワースが階層4(AW順守率27〜43%)、コールスは階層5(同11〜26%)に位置している(表5)。





 
 
 BBFAWでは、両社をAWに関する世界的なリーディングカンパニーとは言い難い評価としているが、両社のAWに関する特徴的な取り組みは、以下の通りである。

ア  ウールワース
 同グループでは、畜産農場における飼育から輸送、と畜に至るサプライチェーン全体の家畜のAW向上に向け、「ウールワースグループ持続可能性計画2025」により、2025年までに達成すべきAWの具体的な目標を設定している。すでに15年に自社ブランドのケージ卵の販売を禁止しているが、本計画により、25年までに自社ブランド製品の原料をケージフリー卵のみとし、同時に同社が販売するサプライヤーブランドの鶏卵をすべてケージフリーにすることを宣言している。また23年以降、RSPCAが提供しているAW農場認定制度の基準を満たした成長の遅い鶏種の鶏肉も販売している。AW対応に関する進捗状況をAWパフォーマンス報告で毎年公表している(表6)ほか、食肉加工施設におけるAW基準の順守する認証制度(AAWCS:Australian Livestock Processing Industry Animal Welfare Certification System)に準拠した独自のAW訓練プログラムにより、従業員の教育を実践している。



 
 
イ  コールス
 2014年に策定されたコールス農場プログラムは、ケージフリー(平飼い・フリーレンジ)卵や成長ホルモン剤を使用しない牧草肥育牛(GRAZEプログラム)などに関する農家におけるAWの自主基準の順守と、第三者機関による監査を受けるもので、コールスグループで販売される畜産物の標準的な基準として採用されている。
 同グループは、フリーレンジのRSPCA認定鶏肉を18年から販売している。また、同社向けの養鶏は、1日8時間以上、屋外へのアクセスが可能な農場で飼養される一方、厳格なバイオセキュリティ対策により、抗生物質を一切使用していないとしている。13年に自社ブランドの鶏卵はすでにケージフリー卵となっているが、ウールワース同様、25年までに自社ブランド製品の原料と、同社が販売するサプライヤーブランドの鶏卵を、すべてケージフリーにすることを宣言している。
 

(2)外食業界

 代表的な外食業者であるマクドナルド・オーストラリアでは、第三者機関による監査を受けた独自のAW指導原則を設けており、2017年からケージフリー卵を使用しているほか、21年からRSPCA認定の鶏肉を使用している。ファストフード業界でも、全量RSPCA認定の鶏肉やフリーレンジ卵を使用している企業が多くあるほか、スターバックスでは25年までにRSPCA認定の鶏肉と、ソースなどを含めた卵を用いた食材をすべてフリーレンジ卵に移行することを宣言するなど、RSPCA認定などの畜産物は、外食業界で用いられる食材の標準になりつつある。

コラム 小売商品のAW表示

小売店で販売される畜産物には、前述のRSPCAのほか、食肉業界団体や米国の認証団体による認証ラベルの表示が見られる。実際のラベル表示例(コラム−表)とともに、それぞれのラベルの内容を紹介したい。
 



 
1 RSPCA認証プログラム
 大小の小売店、飲食店の鶏肉、鶏卵、豚肉、七面鳥肉のほか養殖サーモンの商品やメニューなどで、認証ラベルが多く見られる。特に鶏肉製品は最も広範に展開しており、37業態が同認証製品を扱っている(コラム−図1)。認証ラベルの利用ライセンス料は、ラベルを使用する製品の出荷量に応じて計算される。
 


 

2 豪州食肉産業協議会認証プログラム
 豪州食肉産業協議会(AMIC)が業界団体と連携し、食肉加工施設におけるAW基準を順守する認証制度であるAAWCSを策定・運用している。牛肉および羊肉の加工業者を対象に認定されるが、現在、豪州の牛肉・羊肉加工業者の65%が認証を取得し、生産される牛肉・羊肉の約80%をカバーしている。

3 フリーレンジ鶏卵肉(FREPA:Free Range Egg and Poultry Australia Ltd)認証プログラム
 鶏卵および鶏肉における非営利のフリーレンジ認証に関する会員制組織であり、基準を満たす肉用鶏および採卵鶏農家と鶏卵肉加工施設を対象とした認証制度を運営している。第三者機関による定期的な監査により、AWにおける(1)栄養(2)環境(3)健康(4)行動−などについて評価される。

4 HFAC(Humane Farm Animal Care)認証プログラム
 米国の国際的な非営利認証組織における農場のAW認証プログラムであり、米国や豪州のほか、アルゼンチン、バハマ、ブラジル、カナダ、チリなど、世界25カ国で認証事業と関連製品を展開している。
 本プログラムによる認証農場の畜産物を取り扱う小売・外食企業数は、2024年時9月点で326社登録されており、世界中のどの店舗で認証製品が購入可能か検索することができる。

5 GAP(Global Animal Partnership)認証プログラム
 北米最大の非営利認証組織によるAW認証プログラムであり、認証農場は世界11カ国、2500品目以上が販売されている。段階的なラベルプログラムがあり、ラベルに表示された数字が大きいほど、家畜にとって望ましいAW環境で飼養されたことを示している(コラム−図2)。


5 消費者の認知

 前項までのように、畜産物のサプライチェーンにおけるAWの取り組みを踏まえ、消費者はどのようにAWを認知しているのか、豪州人1029人を対象に2023年に実施された豪モナシュ大学や関連シンクタンクによる消費者動向調査の結果を紹介する。
 本調査結果によると、産業動物である牛や豚は、回答者の約8割が知覚力を持っていると認識しているが(図8)、豪州人の約9割はすべての知覚力のある動物に適切なAWが提供されることを法律で義務付けるべきと回答している。また、回答者の86.5%は、すべての知覚力のある動物に適切なAWが提供されることを法律によって義務付けるべきと回答している(図9)。これは、AWに関して、連邦政府や州政府などが豪州人の期待に十分応えられていないことを示唆している。
 





 
 
 豪州人のAW関連組織への信頼に関する調査では、RSPCAやAWの研究者への信頼が高く、一方で政党や小売・食品製造業、商業目的で動物を使用する産業などへの信頼が低いという結果となっている(図10)。これはAWに関する政策決定において、どのような組織が最も発言権を持ち、影響力を及ぼすべきかという豪州人の考えを反映したものとなっている。また、AW政策に影響を与える要因として、動物への影響や科学的知識と根拠を挙げる豪州人が多かった(図11)。
 これらの結果を踏まえ、連邦政府は社会の期待に応えるために、信頼されているRSPCAなどの関係機関と連携し、科学的根拠に基づいて、AW政策を更新すべきと結論付けている。





6 おわりに

 今回の調査では、豪州連邦政府の規則やガイドライン、RSPCAによる認証制度などに基づき、家畜の生産から加工・流通、小売段階に至るまで、畜産物のサプライチェーン全体でAWに配慮した取り組みが行われていることがわかった。また、RSPCAやAW研究者が発信する情報の信頼性も手伝って、消費者もAWの重要性を理解し、法律によって保護されるべきとする意見が多く見られた。
 一方でRSPCAによると、養豚業界では妊娠ストールの廃止が最も大きな課題としており、今後作成が予定されているAAWSGの内容にどのように反映されるのか、注目される。また、家きんのAAWSGによって2036年までに採卵鶏におけるバタリーケージを段階的に廃止することに関しては、現時点で連邦政府による具体的な支援パッケージやスケジュールなどが示されていない。一部の採卵鶏農家からは、連邦政府が適切な支援パッケージを提供しない場合、集団訴訟に踏み切ると言った声も聞かれる。農家の再生産可能なAW導入が、いかにして連邦政府の政策と各業界の取り組みにより担保されていくのか、引き続き今後の動向を注視する必要がある。
 
(赤松 大暢、渡部 卓人(JETROシドニー))