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調査・報告 【学術調査】 畜産の情報 2024年12月号

エコフィードを用いた黒毛和種繁殖肥育一貫生産システムの環境負荷軽減効果

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国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 西日本農業研究センター
周年放牧研究領域周年放牧グループ 上級研究員 堤 道生

【要約】

 輸入濃厚飼料を多給するわが国の慣行肉用牛生産システムでは、飼料生産と飼料輸送のプロセスに起因する温室効果ガス排出量がシステム全体の3〜4割程度を占める。食品製造副産物や余剰食品などを利用して製造された家畜用飼料「エコフィード」は、肉用牛生産においても近年普及しつつあり、生産コスト削減だけでなく環境負荷軽減への寄与も期待できる。本報告では、エコフィードを活用した肉用牛生産に関する環境影響評価を行い、慣行生産と比較することで、エコフィードを活用した肉用牛生産の環境負荷軽減効果を定量化するとともに、さらなる環境負荷軽減に向けた考察を行う。

1 はじめに

 持続可能な開発目標(SDGs)が国内外に浸透しており、農畜産業に対してもその持続可能性、とりわけ環境負荷が注目されるようになった。農畜産業から生じる環境負荷の軽減は長年の課題であるが、近年、水質汚染など地域レベルの環境負荷だけでなく、グローバルな問題である気候変動への影響(温室効果ガス排出量)も注目されるようになっている。
 わが国の畜産経営の特徴として、飼料の国外への依存が挙げられる。わが国の粗飼料自給率は令和5年度概算で80%である一方、濃厚飼料自給率は同13%であり、長年低迷している。その結果、輸入濃厚飼料を多給するわが国の慣行肉用牛生産による温室効果ガス排出量は、飼料生産のプロセスによる寄与が全体の2割程度、飼料輸送でも同様に2割程度を占めており、諸外国と比較して高い割合にある。このような状況にもかかわらず、わが国の慣行肉用牛生産による温室効果ガス排出量は諸外国と同等かやや上回る程度の水準にある。これはわが国の生産効率が極めて高いためと考えられる。従って、濃厚飼料が自給できれば飼料輸送に係る環境負荷の軽減が可能となり、環境負荷を諸外国と比較しても低い水準に抑制することが可能となる。
 「エコフィード」とは、食品製造副産物や余剰食品などを利用して製造された家畜用飼料である。肉用牛生産においても近年普及しつつあり、生産コスト削減だけでなく環境負荷軽減への寄与も期待できる。エコフィードとして活用が可能な未利用資源は十分に存在しており、増産が見込める。輸入濃厚飼料をエコフィードで代替することにより、肉用牛生産における飼料輸送に加え、飼料生産に係る環境負荷の軽減も可能となる。
 和歌山県に所在するエコマネジメント株式会社(以下「エコマネジメント」という)では、エコフィードの製造・販売とともに、それを用いた自社牧場での黒毛和種繁殖肥育一貫生産が行われている。同社の取り組みは本誌2019年9月号(注)にも紹介されており、経営面で高く評価されている。本研究では、同牧場の肉用牛生産に関する環境影響評価を行い、慣行生産と比較することで、エコフィードを活用した肉用牛生産の環境負荷軽減効果を定量化する。

(注)『畜産の情報』2019年9月号「肉用牛へのエコフィードの利用に向けた取り組みと連携〜和歌山県のエコマネジメント株式会社が製造するエコフィードを事例として〜」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_000745.html)をご参照ください。

2 紀州和華牛

 エコマネジメントは産業廃棄物処理業者であり、さまざまな事業を展開しているが、その一環としてエコフィードの製造・販売を行っている。さらに、和歌山県内の自社牧場で、黒毛和種の繁殖・肥育一貫生産を行っており、自社製造のエコフィードを給与している。同社で生産された牛肉は「紀州和華牛わかうし」のブランドで流通している(写真1)。紀州和華牛和華牛の認定を受けるためには、次の(1)〜(3)のすべてを満たすことが必要である。

(1)飼養期間の最も長い場所が和歌山県内であり、協議会が指定する飼養方法により肥育し
   た、協議会会員が所有する23カ月齢(2023年3月以前は24カ月齢)以上の黒毛和種去
     勢牛または未経産雌牛から生産された枝肉であること。
(2)(1)の枝肉は、和歌山県内で製造された飼料原料を含む飼料を給与した牛から生産され
     たものであること。
(3)(1)の枝肉は、公益社団法人日本食肉格付協会による枝肉格付が、A2〜A4またはB2〜
     B4のいずれかであること。この他の特徴として、ビタミン制限を行わないことが挙げ
     られ、程よくサシ(脂肪交雑)の入った赤身肉を売りにしている。ちなみに、枝肉格付
     がA5等級になることもあるが、その場合には紀州和華牛の認定が受けられない。

 この他の特徴として、ビタミン制限を行わないことが挙げられ、程よくサシ(脂肪交雑)の入った赤身肉を売りにしている。ちなみに、枝肉格付がA5等級になることもあるが、その場合には紀州和華牛の認定が受けられない。


3 肉用牛向けのエコフィード

 エコマネジメントは、繁殖雌牛用および肥育牛用のエコフィード配合飼料を製造している(写真2)。エコフィード原料の集積および製造を行う同社の「エコの里桃山工場」は、食品製造工場が集中する地域に立地しており、輸送コストと同時に環境負荷も軽減できる工夫がなされている(写真3)。エコフィードの原料はほとんどが和歌山県内で発生したものである。原料は食品製造副産物と余剰食品(賞味期限切れや規格外など)に分けられる。食品製造副産物として、豆腐かす、ミカンジュースかす、麦茶かす、緑茶かす、しょうゆかす、ダイズ皮および破砕ウメ種子が挙げられる(写真4)。余剰食品には、チョコレート、破砕ダイズおよびオオムギが挙げられる。水分含有量の多い原料はサイレージ化や乾燥処理が行われる。なお、乾燥処理はすべて天日により行われており、ここにも環境負荷軽減の工夫が見られる(写真5)。




 
 繁殖雌牛用エコフィード配合の可消化養分総量(TDN)含有率は市販の繁殖雌牛用配合飼料の値をやや下回っていたが、粗タンパク質(CP)含有率では上回った(表)。肥育牛用エコフィード配合のTDNおよびCP含有率はともに市販の肥育牛用配合飼料の値を上回っていた。11種類の材料にはTDN含有率の高いものが多く、ウメ種子以外はおおむね60%以上であった。エコフィード配合飼料のうち繁殖雌牛用配合は一般の農家向けに販売されており、口コミでの評判から、飼料価格の高騰も相まってシェアを伸ばし、現在では和歌山県内の肉用牛繁殖農家の約9割で給与が行われている。
 エコフィードの原料は、飼料として活用される以前にはすべて産業廃棄物として処理されていた。そのうちのほとんどは堆肥化処理され、一部は焼却処分されていた。従って、エコフィードとして活用されることにより廃棄物処理が不要となるため、飼料としての活用自体に環境負荷軽減効果があると見なすことができる。







4 エコフィードを活用した肉用牛生産システム

 エコマネジメントの自社牧場は、和歌山県内の湯浅町(湯浅牧場)と御坊ごぼう市(御坊牧場)に所在する(写真6)。湯浅牧場では繁殖・肥育の一貫生産を行っており、飼養頭数は247頭である(2023年8月現在)。肥育牛には市場調達の預託牛も含まれる。御坊牧場は預託牛の肥育を担っており、飼養頭数は70頭である(同上)。
 繁殖雌牛への給与飼料は乾草(イタリアンライグラス)と前述の繁殖雌牛用エコフィード配合であり、分娩前後のみ少量の配合飼料(市販)が追加される。初産日齢は747日であり、慣行(770日)と比較して良好である。分娩間隔は406日であり、慣行と同等であるが、これには市場調達の繁殖雌牛に長期不受胎牛が含まれたことが影響しており、自家産の保留牛に限れば慣行と比較して分娩間隔は短縮されている。子牛および育成牛への給与飼料は乾草(チモシー、イタリアンライグラス)と配合飼料(市販)であり、エコフィードは給与していない。
 肥育牛への給与飼料は、乾草(イタリアンライグラス)、配合飼料(市販)および前述の肥育牛用エコフィード配合である。肥育期間中の全濃厚飼料給与量に対するエコフィードの給与割合は64%(TDNベース)、全飼料に対する割合は54%である。出荷月齢は27.2カ月であり、慣行(29.6カ月)と比較して2カ月以上の早期出荷である。このため、出荷枝肉重量は479キログラムと、慣行(513キログラム)を下回るが、増体成績は慣行並みと考えられる。
 和歌山県の畜産の産出額は都道府県別で45位であり、肉用牛の飼養戸数(同42位)および飼養頭数(同44位)も少ない。そのため、同県は飼料基盤が脆弱ぜいじゃくであり、県内では自給飼料の調達が難しい。エコマネジメントの2牧場による肉用牛生産においても、エコフィード以外の飼料はすべて輸入に依存している。そのため同社では将来的な計画として、飼料コスト削減や環境負荷削減を目的に、輸入イタリアンライグラスに代わる粗飼料の自給を検討している。

5 エコフィードを活用した肉用牛生産の環境負荷軽減効果

 前述の通り、エコマネジメントによる肉用牛生産では、エコフィードの活用、それに伴う市販配合飼料の給与量の削減と同時に、慣行生産と同等以上の生産効率を達成しており、環境負荷の軽減が期待される。そこで、エコフィードを活用した肉用牛生産の環境負荷軽減効果を定量化する。環境負荷に関する影響項目は、気候変動(温室効果ガス排出量)、酸性化(水質や土壌の汚染)、富栄養化(水質汚染)およびエネルギー消費量とした。
 エコマネジメントによる肉用牛生産システムと慣行の肉用牛生産システム(ともに黒毛和種去勢雄牛)における飼料生産、飼料輸送、舎内での家畜管理、消化管活動、排せつ物および堆肥化(堆積発酵)過程における環境負荷を計算した。なお、エコフィード原料の製造および発生地までの輸送に関する環境負荷は考慮しないこととした。さらに、慣行の肉用牛生産に係る環境負荷に、エコフィード原料の廃棄物処理より生じていた環境負荷を上乗せし、これからエコマネジメントにおける肉用牛生産に係る環境負荷を差し引くことで、エコフィードの活用による環境負荷軽減効果を推定した。また、これにさきがけ、同様の手法にてエコフィード配合の調達に係る環境負荷を繁殖雌牛用および肥育牛用で算出し、市販の配合飼料(繁殖雌牛用あるいは肥育牛用)の調達に係る環境負荷と比較した。
 エコフィード配合の調達に係る環境負荷では、生産に係る環境負荷が全くないものと見なされ、輸送に係る環境負荷が計上される。また、廃棄物処理方法のほとんどを占める堆肥化処理の過程ではメタン(温室効果ガスの一つ)が大量に発生するが、エコフィードとしての活用によりこれが削減される。その結果、エコフィードとしての活用による廃棄物処理の不要化が、温室効果ガス排出量の軽減に大きく寄与することがわかった(図1)。エコフィードの活用は、すべての影響項目において環境負荷軽減効果が大きく、エコフィード配合(繁殖雌牛用および肥育牛用)と市販の配合飼料の調達に係る環境負荷を比較すると、繁殖雌牛用エコフィード配合は各項目で93.8〜99.5%、肥育牛用エコフィード配合も同様に95.3〜99.5%市販の配合飼料の値を下回ることが明らかとなった。先に述べた通り、繁殖雌牛用のエコフィード配合は一般農家向けに販売されており、和歌山県内の肉用牛繁殖農家の約9割が利用している。従って、エコマネジメント自社牧場だけでなく、地域全体での大きな環境負荷軽減効果が期待される。
 図2に肉用牛システム全体における環境負荷をプロセスごとに示した。エコフィードの活用により、飼料生産に係る環境負荷が各項目で14〜27%、飼料輸送に係る環境負荷は同じく14〜18%軽減されていた。図1に示した通り、廃棄物処理により生じていた温室効果ガス排出による環境負荷は非常に大きかったため、全体での環境負荷軽減効果も温室効果ガス排出量で大きく、慣行比52.2%減となった。この他の項目においても全体での環境負荷軽減効果が認められ、その効果はエネルギー消費量、酸性化、富栄養化の順に大きく、慣行比においてそれぞれ24.4%、6.8%、2.7%が軽減されていた。
 図2と同一のデータを生産段階(肥育もと牛生産、肥育)別に示したものが図3である。これを見ると、エコフィードの活用による環境負荷軽減効果は、肥育段階での温室効果ガス排出量およびエネルギー消費量で大きく、それぞれ58.0%および33.0%であった。これらの影響項目における軽減効果は肥育もと牛段階でも大きく、温室効果ガス排出量およびエネルギー消費量でそれぞれ44.2%および15.1%であった。図1より、エコフィードの給与量が多いほど環境負荷が軽減する。エコフィードの給与量は肥育段階で多く、このことが肥育段階における大きな環境負荷軽減につながったものと考えられる。







6 さらなる環境負荷軽減に向けて

 前述の通り、エコマネジメントの肉用牛生産では、エコフィード以外の飼料をすべて輸入に依存している。このうち、子牛向けの高品質乾草の自給は困難とみられるが、イタリアンライグラス乾草あるいはそれに代わる粗飼料を自給することは技術的に可能と考えられる。従って、現状で粗飼料の大半を占めるイタリアンライグラス乾草を自給することで、粗飼料の輸入に係る環境負荷を削減することが可能である。そこで、エコマネジメントにおける現状の肉用牛生産システムにおいて、イタリアンライグラス乾草を輸入から自給に転換した場合に環境負荷がどの程度軽減されるかについて、解析を行った。
 イタリアンライグラス乾草を輸入から自給に切り替えることで、肉用牛生産システム全体の飼料自給率(TDNベース:エコフィードを自給飼料と見なした)は34%から65%に上昇する。粗飼料の大半を自給に転換することで、飼料の輸送に係る環境負荷が各項目で半減すると推定された。その結果、温室効果ガス排出量は現状からさらに8.0%軽減されることが見込まれた。この他の項目においても環境負荷軽減効果が認められ、その効果は酸性化、富栄養化、エネルギー消費量の順に大きく、現状からの軽減幅はそれぞれ29.3%、23.7%、20.4%と推定された。
 これまでに示した通り、エコフィードの給与量が多いほど環境負荷は軽減される。従って、粗飼料自給以外の環境負荷削減策として、エコフィードの給与対象の拡大および給与量の増加が考えられる。すなわち、現状ではエコフィードの給与が実施されていない子牛・育成牛への対象拡大、肥育牛へのエコフィード給与量増加である。エコフィードは限られた原料から製造されており、これらの策を実行することは容易でないと考えられるが、今後の技術開発に期待したい。

7 おわりに

 エコマネジメントのエコフィードの特徴の一つに、地域特産品(ミカン、ウメ、しょうゆ)の活用が挙げられる。これらの活用により「和歌山らしさ」を押し出すことで、ブランド価値を向上させていると考えられる。もう一つの特徴は、大都市郊外の食品工場の集中する立地条件によって、多種のエコフィード原料が近距離から大量に調達可能であることが挙げられる。
 活用可能であるにもかかわらず廃棄物処理されているエコフィードの原料は全国に存在するものと考えられる。エコマネジメントの生産システムを他地域でそのまま適用することは極めて困難であるが、上述の点を参考にしてエコフィード活用を推進することで、環境負荷軽減だけでなく、生産コスト削減による肉用牛生産の振興や、地域の特性を生かした牛肉のブランド化にもつながることが期待される。

謝辞
 本稿の執筆に当たり、阪口宗平社長をはじめとするエコマネジメント株式会社の皆さま、湯浅牧場・御坊牧場で管理獣医師を務める山中克己氏には多大なるご尽力を賜りました。心より感謝申し上げます。