中国には日本のような卸売市場が存在せず、2021年から大連商品交易所で始まった生体豚の先物取引が価格形成機能を果たすことを期待されている(中国期貨業協会2021)。中国の豚肉の流通の仕組みを見ると、1997年に「生猪屠宰管理条例(生体豚と畜管理条例)」が公布され、これにより、98年から県級以上の地方政府の認可と監視を受けると畜場(定点と畜場)のみが豚の解体を行うことができる、いわゆる「定点屠畜場制度」が実施されている。しかし、農村部における自家用の解体は定点と畜場を経由しなくても良いとされており、表3で見るように、全国で出荷される生体豚のうち、定点と畜場を経由しているのは43.8%と半分以下である。定点と畜場の経由率が100%を超える地域は、北京市、浙江省、広東省との3カ所であり、これは、生体豚が省・市外から輸送され、域内でと畜されていることを意味している。
また、表3には、17年と21年における各地の定点と畜場の数を示している。上記の「生体豚の運送」から「豚肉の運送」への転換が進むなかで、多くの地域で定点と畜場数が増加していることが分かる。生体豚の飼養頭数・出荷頭数が最も多い四川省では、17年の265カ所から21年には1051カ所に増加した。生産地でのと畜量が確実に増えているのである。
と畜場を経由する豚肉の流通だけでもさまざまな形態が存在し、複雑である。伝統的な生体豚の流通方法は、仲買人が農村で生体豚を買付け、そこで集荷したものをより大規模な仲買人やと畜場、と畜・加工企業に提供することが多い。と畜場で解体された後は、白条豚(注4)または枝肉の状態で卸売商人に渡され、卸売商人がこれを消費市場に運ぶ(鄭・ケ・王・肖2014)。と畜場は、消費地と畜場と、生産地と畜場に分けることができるが、と畜場が養豚農家・農場から直接生体豚を買い付けることはあまりない(『北方牧業』2016年第9期)。この流通過程において、養豚農家(場)・生体豚の仲買人・と畜場・豚肉の卸売商人・小売商人が存在しており、複数回の取引が行われる。
(注4)内臓や頭部、足部などを除去し、その他の加工は一切していないもの。
生体豚の仲買人は企業形態と個人で営む場合があるが、活動範囲は500キロメートルを超えず、200キロメートル前後の範囲で活動することが適切といわれている。仲買人は、生体豚の流通過程において異なる流通段階間(川上と川下間)で価格を伝達する役割を果たしており、生体豚の買付価格に諸々の取引費用を上乗せしてと畜場に販売するため、生体豚買付価格そのものは、豚肉仲買人の利益にあまり影響がないとされる(『北方牧業』2016年第9期)。
と畜場には大型と畜場と、小型と畜場がある。大型と畜場は、大規模養豚場から直接購入した生体豚や仲買人が集荷した生体豚をと畜するが、と畜費用は、生体豚の重量如何にかかわらず1頭当たりのと畜費用として計算する傾向があり、16年時点で1頭当たりと畜費用は約43元(907円)であった。そのため大型と畜場は、豚肉をより多く得られる生体豚の重量を重要視する傾向がある。と畜場の費用には、生体豚の購入価格、エネルギー価格(石炭価格・天然ガス価格・水道電気代)、固定資産投資、検査検疫費用などが影響するといわれるが、そのうち、生体豚の購入価格が最も重要である(『北方牧業』2016年第9期)。
小型と畜場の場合は、と畜料のみを稼ぐこと(いわゆる委託と畜)も多く、この場合は、生体豚の仲買人と、と畜された後の白条豚や枝肉を買い付ける人(・企業)が同一の人(・企業)となる。このため、生体豚価格の変動が、このような小型と畜場の利益に影響を及ぼすことはない(『北方牧業』2016年第9期)。
豚肉流通においては、小売商が卸売商を兼ねる場合もあれば、農村で生体豚の買付けを行う仲買人が豚肉の小売商人である場合もあり、その形態はさまざまで、かつ、複雑である。その中で、豚肉流通過程における商人(企業)も生体豚仲買人と同様に異なる流通段階間で価格を伝達する役割を果たしており、消費者に届くまでの価格に影響するのは、と畜場における白条豚販売価格と流通過程で発生する輸送費である。また、白条豚価格に影響する最終的な要因は、生体豚の買付価格である(『北方牧業』2016年第9期)。
養豚農家(場)と生体豚仲買人の間の取引では、買付価格は飼養費用を上回る水準であると理解される。ピッグサイクルによって価格が下がった際に農家は赤字で出荷するとの議論があり、実例も存在すると思われる。しかし、養豚農家の飼養費用のうち、機会費用として擬制的に計上される家族労働費は実際には農家収入となるので、赤字経営にはならない(李2023;同2024)。