(1)導入戸数の推移
本県畜産業におけるICT機器の導入戸数は、平成26年度以降、増加傾向にあります(表)。担い手不足を背景に、空いた時間を別の作業に振り分けることができる効率的な作業への転換が進められたためと考えられます。30年ごろまでのICT機器といえば、大家畜向け発情発見装置、分娩監視装置、管理台帳システム、搾乳ロボットが主なものでした(図3、4、写真1)。近年では、後述する飼料残量測定装置などのICT機器も利用されています。
(2)宮崎県畜産試験場における研究の取り組み
また、宮崎県畜産試験場では、畜種ごとにICT機器を導入し、その活用方法や効果について次の通り研究しています。
○酪農部門では、スマート酪農への移行を促進することを目的に「オートメーション化された
乳用牛の飼養管理技術の開発」に取り組み、本県でも普及が進みつつある搾乳ロボット
の導入が繁殖性や生産性に及ぼす影響などを調査・研究しています。
○肉用牛部門では、飼養管理の省力化・軽労化を図ることを目的に、「ICT・IoT技術を活用し
た飼養管理効率化技術の開発」に取り組み、生体センシング技術を活用した分娩や発情
の予測、疾病の早期発見技術について研究しています(図5)。
○飼料生産部門では、自給飼料生産のオートメーション化を促進することを目的に「自給飼料
生産のオートメーション化に向けた機械体系化確立試験」に取り組み、ロボットトラクターや
ドローンを活用した飼料作物の播種から収穫までの作業の省力化、ドローンを活用した飼
料作物の生育状況モニタリングによる防除作業体系の構築に向けた研究を行っています
(写真2)。
○豚部門では、スマート養豚に向けた装置などの開発を行うことを目的に、「みやざきスマート
養豚生産技術向上試験」に取り組み、宮崎大学と連携して、豚の体重が推定可能な
装置などを開発しています(写真3)。
○環境部門では、汚水処理のスマート化を促進することを目的に、令和5年度からは「持続
可能なスマート畜産環境対策技術の開発・実証」に取り組み、BOD(生物化学的酸素
要求量)バイオセンサーを活用した自動曝気システムの実証などを行っています(図6)。
このように、畜産試験場では、今後の県内畜産農家の生産性向上および生産基盤強化のため、ICT機器の開発・選定・導入に向けた基礎データを収集し、その効果について検証することで、畜産農家が導入する際に必要な技術や知識を提供しています。
(3)2024年問題への対応
さらに、ICT機器の活用は、生産現場におけるスマート化だけではなく、昨今の懸念事項として挙げられている「物流の2024年問題」に対しても、畜産農家や関係機関とともに取り組みが進められています。
国内における慢性的な配送ドライバー不足が問題となっている中、畜産飼料配送も例外ではなく、2024年問題などを背景としたさまざまな課題への対応として、畜産農家や配送ドライバーにおける生産および畜産流通の現場における働き方改革の推進や農場での安全性確保の対策が取り組まれているところです。具体的には、システムを活用して飼料の余分な発注防止を図ることで配送の効率化を図り、高所作業を解消する遠隔開閉可能なタンク蓋などが導入されています。
国においても、トラックドライバー不足や労働時間の削減を踏まえ、生産物の運搬や貨物の輸送方法への対策、利用者への周知が進められているところです。本県においては、令和6年度に国の交付金を活用し、飼料残量測定装置や飼料添加物ブレンダー、遠隔開閉機能付き飼料タンク蓋など飼料配送におけるDX化を推進する機械などの導入支援を行っています。このような機械を導入することにより、飼料の節減を図るとともに、飼料配送の効率化を推進する効果を狙っています。
加えて、これまでの慣習により、畜産農家ではなく配送ドライバーがタンク残飼量の目視確認や添加剤の投入を行う、いわゆる附帯作業を削減するという側面もあります。
令和6年10月末には、九州で配合飼料を輸送する上で生じている課題解決に向けた、運送事業者や畜産農家、関係団体および国・県などの関係機関が集まった研修会が本県で開催され、経済連や企業における取り組みやシステム・機器の紹介が行われるとともに、活発な意見交換が行われました(写真4)。
(4)防疫対策
また、本県では、家畜伝染病の発生時における初動防疫の一層の迅速化を図るため、官民連携協定に基づく取り組みの一つとして、県内での疾病の発生状況がリアルタイムで把握できるよう、防疫対策のデジタル化を検討しているほか、牛の顔を撮影することで個体を識別する技術や、病歴や検査履歴などの個体情報がスマートフォンやスマートグラスに可視化され、情報共有を効率化する技術についても、将来の実用化に向けて研究しているところです。
(5)機器導入の普及に向けた取り組み
併せて、スマート農業の現場活用に向けた農家への働きかけも行っています。例えば、搾乳ロボットの導入においては、導入時の注意点をチェックシートにまとめ活用しています。チェックシートは、先行して導入している酪農家において聞き取り調査で把握した、導入後の困った事や、追加で必要となった経費など、導入前に知っておくことを見える化したものです。このチェックシートは、各酪農家や関係機関が購読する広報誌の「酪農宮崎」にも掲載し、広く周知しています。現在では、これから導入を考えている農家の補助金活用や融資などの相談にも対応できる補足資料も作成しています。
また、畜産試験場が県内3地域で実証した結果をもとに、県内5戸の農家において繁殖管理クラウドツールを試験的に導入し、地域の関係機関がデータを共有できる体制を整えることで技術支援体制の構築を目指した事例もあります。ICT機器の現場実装試験の延長として畜産試験場が主導し、地域の関係機関と農家を集めて研修会を開催し、情報を発信し、理解を醸成することからはじめたものです。その後、5戸が試験的に導入し、その活用方法などについて検証を重ね、一部の農家で本格導入に至っています。