A農場では平成29年3月に当DX技術を導入したことから、28年(導入前)、30年(導入初期)、令和2〜4年(導入後、飼料費高騰などの外部環境の変動下)における経営診断を実施した。DX技術の導入効果を検証するに当たり、「労働生産性」「家畜生産性」「経済性」の三つの観点から評価を行った。
(1)労働生産性
表2を見ると、労働力員数は、導入前の平成28年で3.5人であったが、導入後の令和3年には3.3人に減少し、4年には3.7人に増加した(平成28年比6%増)。一方、経産牛飼養頭数は、2年にかけて33頭から42.6頭へと増加し、3年は40頭に減少したものの、4年には43.9頭に増加した(同33%増)。従って、労働力1人当たり経産牛飼養頭数は、9.5頭から11.9頭に増加した(同25%増)。その結果、表3の損益計算書の推移(経産牛1頭当たり)の雇人費も5万6348円から4万7082円と同16%削減できた。
4年からは自給飼料利用による牧草の裁断作業が加わったことで、経営者の労働時間は増加したものの、DX技術導入による乳量連動給餌や給餌作業の省力化、搾乳作業の軽労化により、表4の通り3年時で投下労働時間は6275時間へと平成28年比で6%削減できている。また、導入の主たる動機であった「搾乳機器が重く、担いで移動することが年々苦痛になり、パルセーターの抜き差しで手首も痛くなってきた」という労働強度の軽減についても、数値として表れていないが、経営者への聞き取りで「担ぐ必要がなくなり、楽になった」との感想があり、達成されている。
上記の点から、作業の軽労化・省力化については、労働生産性の面からは一定の効果があったといえる。
(2)家畜生産性
表2の経産牛1頭当たり年間産乳量は、導入前は8865キログラム、導入初期の平成30年は8117キログラムと減少したが、その後、令和2年は8554キログラムまで回復し、3年は9342キログラムまで増加したものの、4年には8607キログラムと減少した。(平成28年比97%)。一方、乳質については、DX技術導入前後で変化は見られない。この背景には、飼料高騰による給与メニューの変更があると思われる。
また、繁殖関連項目については、受胎に要した種付け回数が2.4回から2.7回に増加し、空胎日数は208.8日から232日に延長している。平均分娩間隔についても、令和4年岡山県牛群検定成績の平均値435日に対して、導入前の平成28年と導入後の30年、令和2〜4年までのいずれも470日を超えており、改善すべき最重要項目である。
さらに、A農場は、経産牛頭数に対して育成牛の飼養頭数割合が高く、更新率も導入前から33%を超えており、令和4年も45.6%と高い。また、経産牛廃用時の平均産次数が年々下がっており、同年は2.4産と若い点も要注意事項である。
(3)収益性
表2および3を見ると、導入前と比較して、労働力1人当たり経産牛飼養頭数が9.5頭から11.9頭へ増加し(平成28年比25%増)、経産牛1頭当たりの所得が12万3000円から▲11万1000円へ減少したことから、労働力1人当たり経常所得は116万7000円から▲106万8000円に減少した。
飼料費については、経産牛1頭当たり購入費が47ポイント、生乳1キログラム当たり飼料費では52ポイント上昇しているが、令和4年度/平成28年度比の配合飼料価格が53ポイント(農林水産省「飼料月報」〈速報版〉、(公益社団法人配合飼料供給安定機構「飼料月報」より)上昇していることを考慮すると、現状維持に近いものといえる。
また、繁殖成績の低迷が、経産牛1頭当たりの種付料・診療衛生費の増加に影響している。