(1)物流業界の現状
物流業界が直面している大きな問題の一つが人手不足である。特にトラックドライバーの不足は輸送能力の低下に直結するが、貨物自動車運転手の有効求人倍率は、全職業の平均と比べてかなり高い水準にあり、令和元年には3.0倍を超えた(図1)。新型コロナウイルス感染症の感染拡大が影響したと考えられる令和2〜3年ごろにかけては、一時2.0倍を下回ったものの、4年ごろから漸増傾向にあり、波はあったものの近年は常に高い水準で人材不足感があることがわかる。
また、道路貨物運送業の就業人数と年齢構成の推移を見ると、就業人数はここ10年ほどでほぼ横ばいであるものの、平成25年時点では36.3%程度であった50歳以上の就業人数の割合が、令和5年には50.0%にまで増加している(図2)。従って、物流業界では今後担い手の減少が急速に進行すると推測される。
このような状況下で、令和6年度から、働き方改革による時間外労働の上限規制などが適用(図3)され、トラックドライバーの労働時間、拘束時間、運転時間、休息時間などに関してさまざまな規制が加わった。これによって、1)荷物の1日当たり運搬量の減少 2)トラック事業者の売り上げ・利益の減少 3)トラックドライバーの減収 4)収入減による担い手不足―などが懸念されている。
(2)飼料輸送の現状
ア 運送会社における飼料輸送業務の課題
物流の中でも、飼料の輸送については、その特殊性とも相まってさまざまな課題が存在する。
第一は、飼料工場の立地に起因する輸送距離の長短による地域間の運賃格差と飼料輸送の持続可能性の格差があることである。わが国における飼料工場(関税定率法第13条第1項に基づく承認を受けた工場(注2)および関税暫定措置法第9条の2第1項に基づく承認を受けた工場(注3))の分布を見ると、茨城県の鹿島港、鹿児島県の鹿児島港および志布志港など、飼料原料の輸入に有利な港湾の近辺であり、畜産の主産地に近い太平洋側の地域に偏在していることがわかる(図4)。
太平洋側の地域に飼料工場が偏在していることにより、日本海側など飼料工場から距離のある地域の畜産生産者は、飼料を購入する際に、飼料工場近辺の畜産生産者よりも多くの輸送運賃を支払う必要がある。公益社団法人配合飼料供給安定機構の調査によれば、純バラ(包装しない)輸送の場合、輸送距離が50キロメートル未満の場合に比べ300キロメートル以上の場合では、飼料1トン当たりの平均輸送運賃が2.3〜2.7倍になっている(表2)。加えて、工場から距離のある地域の畜産生産者は、今後「物流の2024年問題」などの影響で地域の運送会社の輸送能力が低下し、輸送範囲が狭まることで、飼料輸送に対応する運送会社が減少またはなくなってしまうリスクも、飼料工場近辺の畜産生産者より高いと言える。
(注2)関税定率法第13条第1項の規定に基づき、飼料原料として輸入するトウモロコシなどに係る関税の減免について、税関長の承認を受けている工場。
(注3)関税暫定措置法第9条の2第1項の規定に基づき、経済連携協定に基づく関税の譲許の適用を受ける国から飼料原料として輸入する大麦および小麦に係る関税の減免について、税関長の承認を受けている工場。
第二は、飼料輸送においては、納品時に危険な高所作業を要する場合が多いことである。高いものでは10メートル近くにもなる飼料タンクに配合飼料を納品するためには、高所に上がって最上部の蓋を開ける必要がある。高所かつ不安定なはしごの上で重いタンクの蓋を開ける作業は危険が伴う。そのため、飼料タンクの適切な管理などについて、農林水産省が注意喚起をしている(注4)ほか、運送会社による業界団体が安全性の確保について行政に要望を行っている事例(表3)もある。
イ 飼料の発注に係る課題
次に、飼料の発注の段階においては、納品期限が極端に短い発注が課題となっている。家畜の導入や出荷のタイミング、天候や季節に起因する食下量(食べる飼料の量)の変動などにより飼料の消費量は一定ではないことなどの理由により飼料の残量を正確に把握できていないこと、単純に発注処理を失念してしまうことなどが原因とされる。
納品期限が短ければ、畜産生産者が納品を希望する日の運送会社の配送計画も作成されてしまっており、輸送を請け負う運送会社を確保することが難しくなる。運送会社においては、ドライバーのシフトおよび配送計画を再調整する必要が生じる可能性があり、効率的な配送計画の構築が難しくなる。また、飼料メーカーにおいては、発注内容が指定配合飼料や在庫が少ない銘柄の飼料である場合には、工場の製造計画や原料調達計画にも影響を与えてしまうおそれがある。
加えて、正確な飼料残量を把握できていないと、数量を過大に発注してしまい、飼料タンクに飼料が入り切らなかったり、逆に過少に発注してしまい、追加の発注を行わなければならないリスクもある。
ウ 行政の対応
ここまで述べた飼料輸送に係る課題の解決を含む飼料流通の合理化に向けて、農林水産省は令和2年度に4回にわたり「飼料流通の合理化に関する検討会」を開催した。同検討会で議論された課題やその改善の方向性などについては、「飼料流通の合理化に関する検討会 中間とりまとめ報告書」(注5)として取りまとめられている。同報告書では、リードタイム(商品発注から納品までに要する時間)を確保することが輸送コストや製造コストの削減につながることについての理解醸成、流通の効率化のための新たな仕組みやIoT(モノのインターネット)を含む新技術の導入の検討などについて、畜産生産者を含む業界が一体となって取り組むべきである旨提言されているほか、同検討会の参加者らは連名で余裕を持った発注や発注頻度の集約、工場での荷待ち時間の削減などを呼びかけている(注6)。
また、農林水産省は、飼料流通の効率化および標準化の取り組みへの支援措置として、4年度からセンサーや飼料タンクの蓋の開閉装置を用いた飼料の在庫管理、配送管理の効率化などの実証を支援する「飼料穀物備蓄・流通合理化事業」を実施している。次項では、同事業を活用した鹿児島県下での取り組みを紹介する。