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畜産 25年3月号 〔特集〕諸外国におけるアニマルウェルフェア(AW)の現状と課題

米国のアニマルウェルフェアをめぐる情勢と業界団体における取り組み

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調査情報部

【要約】

 米国では、アニマルウェルフェア(AW)に関して、米国農務省による規制のほか、国際的な動向や消費者の関心の高まりなどを背景として、州独自の規制や、業界団体が定めるガイドラインも策定されている。特に、近年の一部の州における規制の強化により、生産者は追加的な対応を求められている他、食肉消費においても価格上昇などの影響が生じている。
 米国内でのAWに関する規制について予測は難しいものの、各州における規制を中心に、規制の強化傾向は続いていくと考えられる。さらに、米政権の交代が行われた中で、今後、連邦政府が新たな農業法の成立を通じて州規制に関与する可能性も考えられる。

1 はじめに

 米国では、アニマルウェルフェア(AW)に関して、米国農務省(USDA)による規制に加え、州独自の規制や、業界団体の定めるガイドラインなどが存在する。USDAの規制では、移動時やと畜場における動物の適切な取り扱いなどを定めているものの、対象範囲は限定的である。一方、一部地域では、消費者の関心の高まりなどにより、州法による追加的な規制が設けられている。州法の中には、当該州内で流通する他州の食肉生産に適用されるものもあるため、全米の生産現場にも影響を与えている。こうした中、生産者は必要に応じて生産者団体などのサポートを受けながら、追加的な対策を講じている。
 本稿では、米国におけるAWを巡る情勢を整理し、代表的な地域や業界団体の取り組みを報告する。
 なお、本文中の為替レートは、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」2025年1月末TTS相場の1米ドル155.43円を使用した。

2 米国におけるAWに関する政策の概要および制度の運用

(1)連邦政府および生産者団体による制度の運用

 連邦政府におけるAWの規制はUSDAが所管しており、現状では(1)ペットや実験動物などを対象とした「動物福祉法(AWA)」(2)馬の展示、販売、輸送などを規制する「馬保護法(HPA)」(3)家畜の輸送時の取り扱いを規制する「28時間法」(4)と畜場における家畜の取り扱い方法を定めた「家畜の人道的と畜法(注1)」―が定められている。
 一方、いわゆる家畜の生産段階における取り扱い方法については、連邦政府による統一的な規制やガイドラインは存在しない。生産段階における家畜の取り扱い方法などについては、各生産者団体による認証プログラム、基準やマニュアルが定められており、USDAのウェブサイトでも公表されている(注2)。さらには生産者団体とは独立した団体による認証プログラムについても存在しており、USDAからの認定などが与えられているわけではないが、代表的なものが一部掲載されている(図1)。
 
(注1)家きんは対象動物に含まれていないが、米国農務省食品安全検査局(USDA/FSIS)が所管する食鳥検査法(PPIA)および連邦通知(Treatment of Live Poultry Before Slaughter)により、食鳥処理場内での取り扱いが定められている。
(注2)『畜産の情報』2022年8月号「米国畜産業におけるアニマルウェルフェアへの対応について(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_002306.html)」も併せてご参照ください。
 

 

(2)各州政府による規制

 生産段階における家畜の取り扱い方法については、特に閉鎖的な環境で飼育されているという印象が強い家畜、すなわち豚、採卵鶏および子牛の飼育方法について関心が集中しやすく、消費者側または関連する団体の活動から論争が生じることで、結果的に大消費地となる人口が多い州を中心にAWに関する州法が成立している。このため、州法で定められた規制については類似する部分があり、例えば豚と採卵鶏の農場における動物が動けるスペースの確保や、母豚用の妊娠ストール、子牛のクレート(1頭ごとに収容される小さな枠)および採卵鶏に対するバタリーケージの使用の制限または禁止が主な内容となっている(写真1、2)。




 
 
 
 家畜の飼育に関する州法については、2002年のフロリダ州による豚の飼育禁止法の成立に始まり、最近施行された州法としては、カルフォルニア州による州法第12号(Prop12)とマサチューセッツ州による州法第3号(Q3)がある。USDA経済調査局(ERS)によると、25年1月現在、合計15の州で家畜の飼育方法を規定する州法が成立している(図2)。これらの州のうち、豚の妊娠ストールに関する規制を行っている州は11州(注3)あるが、米国の豚肉の生産量の1%以上を占めている州はオハイオ州とミシガン州のみであり、米国全体に占めるこれらの州の豚肉の生産量の割合はそれほど多くはない。
 子牛については、10州(注4)がクレートの使用を禁止している。子牛のクレートは、歴史的に動物の個別管理による健康管理と肉質の向上を目的として使用されてきたが、子牛の生産者団体によれば、生産者はすでにクレートの使用をやめ、子牛を小さな群にまとめて管理する方法に切り替えているとされる。また、採卵鶏のケージについては、11州(注5)が規制を設けており、1羽当たりの最小スペースの設定またはバタリーケージの使用禁止について定められている。生産者は、バタリーケージの代替として、垂直に自由に移動できるタイプのケージや平飼いの形態への移行を行っている(写真3、4)。
 また、多くの州法と異なり、前述のProp12およびQ3は、単に州内における家畜の飼育に対する規制を適応するだけではなく、それぞれの州法に準拠していない州外で生産された豚肉や卵も州内での販売を禁止するという措置をとっている。そのため、これらの州法は当該州のみならず、当該州に販売を行う全米の生産現場に影響を与えている。
 
(注3)アリゾナ州、オハイオ州、オレゴン州、カリフォルニア州、コロラド州、フロリダ州、マサチューセッツ州、ミシガン州、ユタ州、ロードアイランド州、ワシントン州。
(注4)アリゾナ州、オハイオ州、カリフォルニア州、ケンタッキー州、コロラド州、フロリダ州、マサチューセッツ州、ミシガン州、メイン州、ロードアイランド州。
(注5)アリゾナ州、オハイオ州、オレゴン州、カリフォルニア州、コロラド州、ネバダ州、マサチューセッツ州、ミシガン州、ユタ州、ロードアイランド州、ワシントン州。
 







コラム1 子牛もしかめっ面をする?

 2024年10月27日の国際的な科学誌Natureに、痛みによる子牛の表情の評価に関する論文が掲載された(コラム1−注)。この研究は、子牛の感じる痛みについて、迅速かつ生体への負担が少ない方法により評価する方法(CGS)を確立することを目的として、カナダの研究チームにより行われた。
 
1 調査概要
 研究では、アンガス牛の雄の子牛(生後6〜8週齢)を対象に調査が行われた。子牛を、去勢を行うグループと偽去勢を行うグループに分け、処置の前、最中、後における頭部の画像を解析した。頭部を正面から観察した画像と側面から観察した画像を抽出し、子牛が顔をしかめる度合いを評価するために適切な要素を選定し、痛みおよびストレス(痛み以外の、外的要因による影響)との相関を検証した。
 
2 結果概要
 調査によって子牛の顔面をしかめる度合いを評価するための要素として(i)耳の向き(A)眼瞼まぶたの開き(B)目の上部の緊張(C)鼻孔びこうの拡張(D)咀嚼そしゃく筋の緊張(E)口の開きが選定された(コラム1−図)。
 調査の結果(1)(i)耳の向き(A)眼瞼の開き(C)鼻孔の拡張については、痛みによって変化しやすいこと(痛みがあると耳が後ろを向き、眼瞼を細め、鼻孔を拡張する傾向にある)(2)(B)目の上部の緊張(D)咀嚼筋の緊張については、環境の変化に伴うストレスなどの外的要因によって変化した可能性があること(3)(E)口の開きについては、急性の痛みと相関がある一方、継続的な痛みの指標にはならない可能性があることが示唆された。
 
(コラム1−注)『Development of the calf grimace scale for pain and stress assessment in castrated Angus beef calves(M. Farghal et al.)』

3 生産者団体による受け止めと対応

 家畜の飼育に対する規制は生産者に追加的な投資を求めることになるため、多くの生産者団体は各州法の成立に反対してきた。
 特に米国全体への影響が大きいカリフォルニア州のProp12に対して、全米豚肉生産者協議会(NPPC)は、米国農業者連盟(AFBD)と共同で、カリフォルニア州食品農業局(CDFA)数名を相手に提訴を行った(注6)。提訴の内容としては、妊娠ストールを使用して生産した豚肉のカリフォルニア州内の販売禁止が米国憲法に定められた州際通商(州間商取引)条項の侵害となるとして、Prop12の破棄を求めるものであった。最高裁判所での審理の結果、2023年5月にProp12を支持する判決が下された。ただし、同裁判所は同法が豚肉産業に潜在的な影響があることを認め、今後このような措置に対する論拠も異なる法的理論に基づいて覆される可能性があることを補足し、立法による解決が必要である可能性を示唆している。
 また、マサチューセッツ州のQ3は23年8月23日に施行される予定であった(注7)が、その後、ミズーリ州の豚肉企業であるトライアンフ・フーズ社と複数の養豚農家が同年7月、同州法は連邦法に違反しているとの提訴を行った。これに対し連邦地方裁判所は24年2月、Q3自体は違反していないとしつつ、適用除外条項の一つが商取引法に違反するという判決を下した。Q3では、マサチューセッツ州内の連邦検査施設(食肉処理施設)で生産された豚肉は、施設敷地内の店舗で販売された場合、適用除外条項により要件が免除される。これについて同裁判所は、仮に敷地内の店舗から消費者に直接販売されれば要件が免除されてしまうため、州外の食肉処理加工業者に対して不当に高いコストを課すこととなるとの判決を下した。トライアンフ・フーズ社は同裁定を不服として、控訴を行っている。
 このような活動が行われる一方で、生産者団体も各州法への対応を行っている。例として、豚の生産者団体の全米豚肉委員会(NPB)は、同団体が実施する認証プログラムに加え、個別の農場の依頼に応じて、出荷先となる州の規制に合わせて生産できるよう技術的な支援を行っている。また、場合によっては連邦政府からの補助金や助成金を活用して施設への投資を行うように案内を行っている。
 
(注6)海外情報「母豚の飼養基準と販売を規制する州法の動向(その1:カリフォルニア州)(米国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003572.html)も併せてご参照ください。
(注7)海外情報「母豚の飼養基準と販売を規制する州法の動向(その2:マサチューセッツ州)(米国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003574.html)も併せてご参照ください。

4 消費者への影響と受け止め

 AWに関する取り組みに関する消費者の関心については、2024年9月に栄養学で権威のあるAppetite誌に公表された論文で、21年8月〜9月にかけて、2158名を対象として行われたアンケート調査が紹介されている(注8)。同調査は、食肉および魚介類の消費の傾向、消費に与える要因、社会経済状況の違いによる傾向について把握することを目的として実施された。同調査によると、食肉の購入に影響を与える要因について、ほとんどの回答者が「品質」(85%)と「食味」(84%)が重要と回答した。その後、「健康」(63%)、「価格」(61%)などが続き、「AW」については、「環境への配慮」(29%)に次いで28%が重要と回答し、「その他」を除く項目の中では最も割合が低かった(図3)。この報告では、実際の食肉の消費量や購買量についてもアンケート調査を実施しており、食肉の消費量を削減する重要な要素は健康と価格であり、環境への持続可能性やAWではないとしている。


 
 AWに関して、特に飼育時の管理に関する規制が策定された場合、畜産物の生産コストの上昇により、一部は価格へ反映される。例えば、豚の生産において、妊娠ストールでは繁殖母豚1頭ずつ区画を分けて生産するため、同一区画内で複数頭を飼育するよりも、母豚の食事量を適切に管理することが可能であり、母豚間の競争による損害を低減するメリットがあるが、現在11州で使用が制限されている。オクラホマ州立大学による推計によれば、妊娠ストールから切り替えることにより、肥育豚の生産のために必要なコストが8.7%増加するとされている。USDAが24年3月に公表した報告書によれば、カリフォルニア州内の豚肉価格は、Prop12の施行以降コストの上昇と共に供給も減少したため、平均20%上昇し、中でもロインは最大となる41%の上昇となり、24年1月の全米の豚肉消費量に占めるカリフォルニア州の割合は、施行前の10%から8%へと低下したとされている(注9)
 また、採卵鶏の飼育時の規制による影響について、カリフォルニア大学の研究によると、州内の生産者は鶏卵の生産コストが最大20%増加すると推定している。カリフォルニア州以外でも、コロラド州、マサチューセッツ州、ミシガン州、ネバダ州、オレゴン州、ワシントン州の各州において、州の規制に準拠していない製品の販売を禁止している。これらの州は米国人口全体の23%以上を占めており、需要を満たすために、仕入れ業者は、各州の規制を満たした鶏卵を仕入れている。このため、これら各州以外の生産者に対して各州の規制に対する順守を強いることになり、州内外で鶏卵価格の上昇を引き起こしている。研究によると、カリフォルニア州の卵の価格は、州内の小売販売に関する規制が施行される前の14年1月から15年7月までの間に33〜70%上昇したと推定されている。また、高病原性鳥インフルエンザの影響も受けていると考えられるが、カリフォルニア州外の鶏卵の卸売価格も4〜6%上昇したと推定されている(注10)
 
(注8)Sustainability considerations are not influencing meat consumption in the US(S.M. Downs et al.)2158名を対象とし、回答者は1224名、回答率56.7%。
(注9)海外情報「カリフォルニア州の豚肉小売価格、州法第12号の影響から2割上昇(米国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003773.html)も併せてご参照ください。
(注10)Putting the chicken before the egg price: an ex post analysis of California’s battery cage ban(T. Malone and J. L. Lusk)

コラム2 全米豚肉委員会(NPB)の活動

 全米豚肉委員会(NPB)は、生産者団体として米国の養豚AWについてガイドラインを定めている。NPBは米国の豚肉チェックオフを運営する組織であり、2024年11月、アイオワ州デモインに所在するNPB本部を訪問し、チェックオフおよびAWなどに関する取り組みについて聞き取りを行った。以下はその概要である。
 
1 NPBおよび豚肉チェックオフの概要
 NPBによるポークチェックオフは米国全土の制度であり、NPBはUSDA農業マーケティングサービス局(AMS)が監督する22のチェックオフ団体の一つである。チェックオフ制度の特徴として、USDAが活動を監督するが、税金で賄われているわけではなく、プログラムのほとんどの費用はチェックオフ(豚が販売された際の価格100米ドル当たり35セント(54.4円)を徴収)で集められた資金で賄われている。チェックオフで実施している調査・研究、プロモーションなどのさまざまなプログラムの全体的な目標は、農家や牧場主、農業関連企業が市場を拡大し、成長を続け、製品を販売する機会を得られるようにすることである(コラム2−図)。
 米国には約6万戸の養豚農家がおり、NPBには全国の養豚農家と一年に一度、意見交換を行うための10人ほどのチームがあり、米国全土を回りながら丁寧に聴取を行い、生産者にとってどのようなことが課題であり、必要かという分析を行っている。農家にとってより多くの収入につながることを理解してもらえるよう活動を進めており、毎年投資をすれば少なくともその金額分は利益を得られるという価値を示しながら、農家のビジネスに貢献している。定期的にNPBに対する農家の評価について全国規模の調査を行っており、直近の調査では、80%の農家から「よくやっている」との評価がなされた。
 チェックオフシステムを始めるのは非常に難しいが、運営する組織自ら1軒1軒丁寧にチェックオフの価値を示しながら合意を取っていくことが、何よりも重要である。
 

 
2 AWに関する取り組み
 NPBでは、持続可能性の取り組みとして、「We Care」というプラットフォームを設置し、豚肉業界のために二つの主要なプログラムを運営している(コラム2−図)。
 一つは「PQAプラス」と呼ばれ、豚の最善の飼育方法を示すガイドラインである。例えば、豚への投薬方法、給餌方法、ハンドリング方法などに加え、豚を豚舎から別の豚舎へと移動させる方法なども含まれる。証明書をNPBが発行することにより、農家は信頼を得ることができる。ほぼすべての大手食肉処理場や国内企業がこのプログラムを利用しており、この国のほぼすべての農家が認定を受け、適切な豚の飼育方法を実践している。AWの概念も「PQAプラス」に含まれている。
 もう一つのプログラムは、「TQA」と呼ばれる輸送品質保証である。豚を移動または輸送する際の豚の輸送業者や生産者による取り扱いの向上を目的としており、豚が繁殖農場から肥育農場へ移動する際、そして、肥育農場から食肉処理場へ移動する際に適用される。「TQA」は豚と人の双方のストレスを最小限に抑えるように設計されており、トレーニングも実施している。

5 今後の展望・課題

 米国のAWをめぐる規制については、引き続き、各州独自の州法が策定される動きが継続していくと考えられる。これまで、豚、採卵鶏、子牛の飼育方法に注目されてきた中で、すでに規制が導入されている州では、今後、酪農や肉牛の生産が新たなターゲットになっていく可能性がある。
 カリフォルニア州のProp12のように州外の生産に対して影響があるものについては、畜産物の輸出入にも影響を与えている。米国から輸出される米国産豚肉の約4割はカルフォルニア州の港を経由するが、Prop12を満たしていない豚肉を輸出する場合は、カリフォルニア州内での小売販売には不適合であることをパッケージに表示する必要がある。また、輸入においてもカナダの豚肉生産者団体であるカナダ豚肉協議会(CPC)は、カナダで生産する豚肉は米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の枠組みに基づきカナダ国内の基準を満たすことで米国内での流通が認められるべきであり、カリフォルニア州とマサチューセッツ州の州法はUSMCAの枠組みに違反する非関税貿易障壁であると主張している。同団体は貿易協定の枠組みでの提訴に至る可能性もあるとしている。
 AWをめぐる規制に関しては2025年、新たな方針が定められる可能性がある。米国の農業政策の根幹を担っている農業法については、5年ごとに連邦議会での可決とされているが、現行の農業法は2018年に成立し23年までの期限であったものが、新たな農業法案を成立させることができず、現在は期限の延長により存続している。農業法案を巡る24年末時点の状況としては、民主党優勢であった上院が特に栄養の章に関する内容の充実と予算の維持、環境への負荷低減などを追求する中で、共和党優勢であった下院が作物保険の章に関する予算の拡大などを主張したため折り合いがつかず、成立に向けたプロセスは進まなかった。一方、24年5月に下院の農業委員会に提出された新たな農業法案には、州および地方政府は、対象となる家畜がその州または地方政府内に物理的に所在する場合を除き、その家畜の生産に関して条件や基準を課すことができないことを明確化する内容が盛り込まれており、同年5月末に一部の民主党議員の賛成票も得て農業委員会での可決まで持ち込んでいる。今後の家畜飼育時のAWに関する規制に関して予断を持って述べることは困難であるが、共和党大統領による新政権が発足する中、新たに始まった連邦議会では、上院下院共に共和党が優勢を占めており、地方で独自に定められている規制などへの影響が予想される。

6 おわりに

 生産段階における家畜の飼育に関するAWの対応を巡っては、一部の州で施行された州法により、広範囲の生産現場に影響を及ぼし、小売を含めたサプライチェーンにも価格の上昇などの影響が生じている。生産者団体をはじめとする業界団体によるさまざまなロビー活動は行われているが、全米でAWの規制が強化される傾向は続いていくと考えられる。米国国内における畜産物の生産性低下や価格上昇により、米国産畜産物の国際的な競争力が低下する可能性もあることから、今後のAWをめぐる新政権による農政の行方が注目される。
 
(中島 勝紘(JETROニューヨーク))