(1)連邦政府および生産者団体による制度の運用
連邦政府におけるAWの規制はUSDAが所管しており、現状では(1)ペットや実験動物などを対象とした「動物福祉法(AWA)」(2)馬の展示、販売、輸送などを規制する「馬保護法(HPA)」(3)家畜の輸送時の取り扱いを規制する「28時間法」(4)と畜場における家畜の取り扱い方法を定めた「家畜の人道的と畜法(注1)」―が定められている。
一方、いわゆる家畜の生産段階における取り扱い方法については、連邦政府による統一的な規制やガイドラインは存在しない。生産段階における家畜の取り扱い方法などについては、各生産者団体による認証プログラム、基準やマニュアルが定められており、USDAのウェブサイトでも公表されている(注2)。さらには生産者団体とは独立した団体による認証プログラムについても存在しており、USDAからの認定などが与えられているわけではないが、代表的なものが一部掲載されている(図1)。
(注1)家きんは対象動物に含まれていないが、米国農務省食品安全検査局(USDA/FSIS)が所管する食鳥検査法(PPIA)および連邦通知(Treatment of Live Poultry Before Slaughter)により、食鳥処理場内での取り扱いが定められている。
(2)各州政府による規制
生産段階における家畜の取り扱い方法については、特に閉鎖的な環境で飼育されているという印象が強い家畜、すなわち豚、採卵鶏および子牛の飼育方法について関心が集中しやすく、消費者側または関連する団体の活動から論争が生じることで、結果的に大消費地となる人口が多い州を中心にAWに関する州法が成立している。このため、州法で定められた規制については類似する部分があり、例えば豚と採卵鶏の農場における動物が動けるスペースの確保や、母豚用の妊娠ストール、子牛のクレート(1頭ごとに収容される小さな枠)および採卵鶏に対するバタリーケージの使用の制限または禁止が主な内容となっている(写真1、2)。
家畜の飼育に関する州法については、2002年のフロリダ州による豚の飼育禁止法の成立に始まり、最近施行された州法としては、カルフォルニア州による州法第12号(Prop12)とマサチューセッツ州による州法第3号(Q3)がある。USDA経済調査局(ERS)によると、25年1月現在、合計15の州で家畜の飼育方法を規定する州法が成立している(図2)。これらの州のうち、豚の妊娠ストールに関する規制を行っている州は11州(注3)あるが、米国の豚肉の生産量の1%以上を占めている州はオハイオ州とミシガン州のみであり、米国全体に占めるこれらの州の豚肉の生産量の割合はそれほど多くはない。
子牛については、10州(注4)がクレートの使用を禁止している。子牛のクレートは、歴史的に動物の個別管理による健康管理と肉質の向上を目的として使用されてきたが、子牛の生産者団体によれば、生産者はすでにクレートの使用をやめ、子牛を小さな群にまとめて管理する方法に切り替えているとされる。また、採卵鶏のケージについては、11州(注5)が規制を設けており、1羽当たりの最小スペースの設定またはバタリーケージの使用禁止について定められている。生産者は、バタリーケージの代替として、垂直に自由に移動できるタイプのケージや平飼いの形態への移行を行っている(写真3、4)。
また、多くの州法と異なり、前述のProp12およびQ3は、単に州内における家畜の飼育に対する規制を適応するだけではなく、それぞれの州法に準拠していない州外で生産された豚肉や卵も州内での販売を禁止するという措置をとっている。そのため、これらの州法は当該州のみならず、当該州に販売を行う全米の生産現場に影響を与えている。
(注3)アリゾナ州、オハイオ州、オレゴン州、カリフォルニア州、コロラド州、フロリダ州、マサチューセッツ州、ミシガン州、ユタ州、ロードアイランド州、ワシントン州。
(注4)アリゾナ州、オハイオ州、カリフォルニア州、ケンタッキー州、コロラド州、フロリダ州、マサチューセッツ州、ミシガン州、メイン州、ロードアイランド州。
(注5)アリゾナ州、オハイオ州、オレゴン州、カリフォルニア州、コロラド州、ネバダ州、マサチューセッツ州、ミシガン州、ユタ州、ロードアイランド州、ワシントン州。