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畜産 25年3月号 〔特集〕諸外国におけるアニマルウェルフェア(AW)の現状と課題

ニュージーランドにおけるアニマルウェルフェア政策の変遷と新たな展開〜行政の役割とは何か〜

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調査情報部

【要約】

 ニュージーランド(NZ)では、アニマルウェルフェア(AW)の推進を輸出市場での信頼性を高める付加価値として認識し、畜産業界と連携しながらAWの向上に取り組んでいる。また、消費者の間でもAWの価値観を認識し、AWに対するプレミアム価格を支払う意思があることが報告されている。一方で、生体家畜の海上輸送の再開や豚の分娩ストールの廃止など、新たなAWをめぐる動きに対して、NZ畜産業界や動物愛護団体からそれぞれ強い反発の声があり、NZ政府は対応に追われている。今後、生産者が持続可能な形でAWを実践するため、NZ政府と各業界がどのような取り組みを行っていくのか、動向が注目される。

1 はじめに

 ニュージーランド(NZ)では、農林水産業が国内の基幹産業であり、物品の総輸出額で見ると農林水産物が約8割を占めている(図1)。このため、農林水産物の国際需要や国際価格の変動は同国の経済に大きな影響を与える。こうした背景から、NZ政府にとって農林水産物の国際競争力確保は重要な政策課題であり、その中でもアニマルウェルフェア(AW)の推進は、輸出市場で“信頼性を高める付加価値”として認識されている。この認識は畜産業界にも共有されており、AWに関する法規制の強化や新たな基準の設定の際は、業界に有益なものとなるよう業界団体が積極的に関与する姿勢が見られる。一方で、先進的な規制の導入に対しては反発の声も上がっており、NZ政府はAWの推進に当たって難しい舵取りが求められている。
 


 
 本稿では、主にNZ政府によるAWの規制状況や推進体制、各業界団体の取り組みのほか、AWに対する消費者意識の実態について報告する。また、それらの現状から、今後のNZのAW政策の見通しについて考察する。
 なお、本稿中特に断りのない限り、NZの年度は7月〜翌6月、為替レートは1NZドル=88.87円(注1)を使用した。
 
(注1)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2025年1月末TTS相場。

2 NZはAW先進国か?

 NZでは、1999年に動物福祉法が制定された。この背景には、70〜90年代にかけて、NZ畜産物の重要な輸出先であった英国が加盟するEC(欧州共同体)において、「農用目的で飼育される動物の保護に関する欧州協定」(注2)が締結されるなど、AWに関する規制が本格化したことが挙げられる。この流れを受けて、NZ国内でも輸出への影響が懸念されたことからAWの向上を求める声が高まった。約10年の歳月をかけて検討・成立した同法は、動物への虐待防止を限定的に規定していた動物保護法(1960年)を抜本的に改革し、動物の所有者や管理者に対して「5つの自由」(注3)の確保を義務付けた世界初の法律とされている(図2)。
 
(注2)動物が不必要な苦痛やけがを負うことを避け、飼養環境を快適に保つことを目的として、1976年に締結、78年にEEC(欧州経済共同体)理事会に承認されたAWの法的枠組み。締結以降、本協定を実現するためさまざまなAW規制が制定されている。
(注3)1965年に英国で提唱されたAWの理想的な状態を定義する枠組み。「飢え、渇きおよび栄養不良からの自由」「恐怖および苦悩からの自由」「身体的および熱の不快からの自由」「苦痛、傷害および疾病からの自由」「通常の行動様式を発現する自由」の五つからなる。
 

 
 一方、同法の施行に当たっては、さまざまな問題点が指摘されている。同法では40以上の具体的な犯罪行為(虐待罪など)を規定しているが、「5つの自由」の確保を義務付けている第10条、11条に明確な基準は設けられていない。違反行為があっても福祉規範(COW:Code of Welfare)(注4)を順守していれば、抗弁が可能な罰則体系となっていた。そのCOW自体に法的拘束力はなく、同法の義務の順守に支障を与えるCOWを容認する例外規定が存在したことから、法の目的と実態に乖離かいりがあるとして、国内外からの評価は徐々に低下していった。加えて、資金や人員の不足により、農場における法の順守状況の把握が難しいことや、COWの策定・見直しプロセスが迅速に進まないことが課題として認識されていった。
 このような状況を背景に、2015年に動物福祉法が大幅に改正された。特筆すべきは、同法の義務とCOWの最低基準との間の乖離を埋めるため、新たに「規則」の制定が可能となったことにある(表1)。「規則」を制定することで、法律で規定されている重大な犯罪行為に該当しない軽〜中度のAW義務違反であっても、罰則の適用が可能となる。動物福祉法の改正後、業界の要請に応える形でさまざまな「規則」が導入された。一方で、資金・人員不足による基準策定プロセスの停滞や、同法の5つの自由を確保するためのAWの水準と、規則やCOWの順守事項とのかい離といった課題は依然として指摘されている。実際に、豚のCOWおよび関連規則で限定的な利用が認められていた分娩ストールと交配ストールについて、5つの自由の義務に反するとして20年に訴訟が起こされ、高等裁判所はCOWおよび関連規則の該当条項を「違法かつ無効」と判決を下している。
 このように、法制度の早期構築という点では、NZがAW先進国という評価に違和感はないものの、その内実には課題を抱えていることが分かる。14年に国際的な動物保護団体World Animal Protectionが公表した国別の動物保護指数(API)(注5)ランキングでは、NZは最高評価の「A」を獲得しているが、20年に更新されたランキングでは、規則やCOWの基準が動物福祉法の義務の順守に不十分であることなどの理由から、その評価が「C」に引き下げられている。次章からは、NZの最新のAW政策の全体像や業界の取り組みを俯瞰ふかんする。
 
(注4)特定の動物種、施設などの取り扱いに関する最低限のAW基準と推奨事項を定めたもの。動物福祉法によって作成プロセスなどが規定されている。
(注5)World Animal Protectionが策定した指数。畜産が盛んな50カ国を対象に、動物愛護に関する法律や規制の有無、政策の動向などを評価し、国別にランク付けしたもの。

3 AW政策の全体像

(1)関連規則・COWの詳細

 2025年1月時点で、「食肉用家畜の生体輸出」および「動物の取り扱いおよび処置」に関する二つの規則、動物種・施設・状況別に19のCOWがそれぞれ策定されている(図3)。規則については、「動物の取り扱いおよび処置」に関する規則に条項が追加される形で、新たな規制が順次導入されており、直近では21年に動物への外科的処置に関する規制が追加されている。COWについては、AWを所管するNZ第一次産業省(MPI)の担当者によると、25年に三つ、26年に二つの見直しが予定されており、特に分娩ストールと交配ストールの利用に関する豚のCOWの見直しが優先的に進められている(図4)。



 
 

(2)国家動物福祉諮問委員会の役割

 NZのAW政策において、国家動物福祉諮問委員会(NAWAC:National Animal Welfare Advisory Committee)の役割は重要である。MPIは、行政機関として第一次産業の生産性向上を推進する役割も担っているが、生産性とAWの向上は対立してしまいかねない懸念がある。この影響を緩和するため、MPIは動物福祉法に基づき独立したAWの諮問機関として、NAWACを設置している。その主な役割は、(1)AWに関する問題について担当大臣への助言(2)COWの作成(3)新たな規則案の勧告―となっている(図5)。また、特定の慣行(例:採卵鶏のバタリーケージ)が動物福祉法の義務に反していると判断された場合の移行期間の設定や、移行に伴う経済的影響の分析などを行っている。

 

(3)VADEモデルに基づくコンプライアンス戦略

 MPIは、規則やCOWの策定・改善を通じて、AWに関する法的対応体制の強化を図るとともに、規制が意図した成果を上げているか適切に評価・管理するため、VADEモデルに基づいた執行活動を行っている(図6)。VADEとは、Voluntary、Assisted、Directed、Enforcedの頭文字であり、コンプライアンス違反の状況に応じ、最適な介入プログラム(ツール)の選択を支援するモデルとなっている。MPIと動物福祉法に基づき管理団体として承認されているNZ動物虐待防止協会(SPCA:Society for the Prevention of Cruelty to Animals)に所属する動物福祉検査官(注6)が法執行を担っており、MPIは産業動物、SPCAは伴侶動物を主な対象としている。両組織は協力覚書を締結しており、資金提供や検査官の共同トレーニングなどの分野で連携することで、法執行の一貫性を確保している。
 
(注6)動物福祉法に基づき承認された管理団体が任命することができる職位。農場への立ち入り検査やAW違反行為に対する捜査令状を執行する権限を持つ。
 
 

(4)畜産業界との連帯

 NZのAW政策は、法律によるトップダウンの規制に加え、畜産業界との連帯感を高めることを重視している。2010年、MPI(当時はNZ農林省〈MAF〉)は、「動物を守り、名声を守る(Safeguarding our Animals, Safeguarding our Reputation)」と呼ばれる政策文書を発表した。同文書は、主に畜産農家のAWに関するコンプライアンス意識の自主的な向上を促すことを目的として、業界全体が一丸となったAWコンプライアンス・システムの推進を提案している(表2)。
 システムの中核となるコーディネーション・グループは、年に数回会合(Farm to Processor Animal Welfare Forum)を開き、畜産業界とMPIの連携強化、畜産分野全体のAWリスクの特定・対策の検討などが行われている(図7)。同システムの推進により、よりAWに配慮した冬季放牧の実践や、ボビー子牛(注7)のAW改善案などが業界主導で議論され、ガイドラインの発行や規則およびCOWの見直しにつながっている。
 
(注7)酪農部門で乳用・育成に供さず、加工向けに回される余剰子牛。



 

4 各畜種のAW政策の最新動向と業界の対応

(1)生体家畜の海上輸送の再開(乳用牛・肉用牛)

 2023年4月、NZ政府はAWに対するNZの国際的評価を維持するため、生体家畜の海上輸出を全面禁止とする動物福祉法の改正案を提出し、同月中に国会で可決された(注8)。しかし、同年11月に新政権となった連立与党(国民党・ACT党・NZファースト党)は、より厳しい基準である「ゴールド・スタンダード」の下で海上輸送を再開する方針を示した。業界団体であるNZ家畜輸出協会(LENZ:Livestock Export NZ)もこの動きに呼応し、輸出再開に向けた100万NZドル(8887万円)規模のロビー活動を行うとともに、輸出禁止による経済影響分析を行い、生体牛輸出が生産者に与える便益を強調して伝えている(図8)。一方、動物愛護団体を中心とした反対運動は激しさを増しており、24年6月に議会に提出された請願書には5万7000人以上の署名が集まっている。昨年予定されていた公開協議が延期されるなど、「ゴールド・スタンダード」の詳細は現時点で明らかになっていないが、MPIの担当者によると、現在、技術面および運用面の詰めの協議が行われており、25年中に特別委員会で改正法案が審議される予定とされている。
 
(注8)『畜産の情報』2022年11月号「豪州およびニュージーランドにおける生体牛輸出の現状」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_002464.html)をご参照ください。
 
 
 

(2)分娩ストールの廃止・輸入豚肉製品へのAW規制の強化(養豚)

 2010年、MPIは豚のCOWを改訂した。15年までの妊娠ストール(豚房)(注9)の段階的廃止を決定した一方で、分娩ストールの使用については、フリー分娩ペン(注10)のような代替システムへの完全移行は性急であるとして、使用できる期間を分娩前の5日間および分娩後の4週間に限定する方針を示した。その後、MPIはNZ養豚産業委員会(NZ Pоrk)やNAWACと連携しながら、分娩ストールの移行に伴う詳細な経済分析を行うなど、継続的な議論を続けたが、養豚業界からの反対もあり、さらなる規制の強化には至らなかった。そのような中、20年に起きた訴訟によって、分娩ストールと交配ストールの使用は違法であると判断されたことから、MPIは緊急的に「動物の取り扱いおよび処置」に関する規則を改正し、現行のCOWの基準を25年末までの時限的な措置とした。この間、豚のCOWと関連規則の見直し案の協議が進んでおり、25年中に最終案が大臣に勧告される予定となっている(表3)。
 NZ Pоrkは、今回の一連の規制強化への対応は国内の豚肉価格を押し上げ、輸入品との公正な競争環境が失われるとして、輸入品にもNZと同水準のAW基準を順守させるべきとNZ政府に請願している。動物愛護団体もこの動きに同調しており、動物愛護団体Animal Policy Internationalは、NZの豚肉の主要輸入先であるスペイン、ドイツ、ポーランド、カナダなどはいずれもNZに比べて豚のAW水準が低く、規制に大きなギャップがあるとする報告書を24年3月に公表し、NZ政府にAW格差をなくすよう求めている(表4)。
 
(注9)雌豚を妊娠期間中に個別飼育するための豚房を指す。人工授精のために雌豚を収容する交配ストールや、出産の直前から子豚の離乳まで雌豚を収容する分娩ストールとは用途が異なる。
(注10)ストールで仕切られていない豚房の形態の一つ。母豚は常に移動することができ、巣作りができる環境が提供される。



 
 

(3)バタリーケージの段階的廃止(採卵鶏)

 2012年、MPIは採卵鶏のCOWの改正の一環として、バタリーケージの段階的廃止を決定した。この改正には、10年間の移行期間が設定されており、業界団体であるNZ鶏卵生産者連盟(EPF:Egg producers Federation)は、代替の採卵鶏飼養システムへの移行に向けた進捗状況をまとめた年次報告書の提出を義務付けられた。22年12月に公表された最終報告書によると、公表時点でバタリーケージを使用している採卵鶏の割合は10.7%とされている(図9)。


 
 その後のMPIの調査により、23年1月時点でバタリーケージを使用している国内の養鶏場は一つのみと確認され、この養鶏場に対して同年4月までに是正措置を求めるコンプライアンス違反通知を発出している。その後、さらなる強制措置が行われた情報は確認できないことから、現在、NZでバタリーケージの使用は完全に廃止されていると考えられる。
 一方で、現行の採卵鶏のCOWでは、各飼養システムにおける鶏1羽当たりの最低飼養面積(表5)を定めているが、ケージ自体の使用は禁止されていない。従来の規格のバタリーケージでは達成が困難な要件ではあるが、大型のエンリッチドケージや複数羽の収納を前提としたコロニーケージは、面積要件を順守すれば使用可能であり、22年時点では、コロニーケージの使用割合は33%と報告されている。この点について、動物愛護団体からは反発の声が上がっている。また、主要な消費者団体であるコンシューマーNZが18年に行った調査によると、フリーレンジ卵(屋外アクセス可能な平飼いの環境で生産された卵)の需要が過去2年間で18%増と急増しており、AWにプレミアム価格を支払う意思がある消費者が増えていると分析している。このような背景もあり、NZ国内の2大小売大手のウールワースNZとフードスタッフスは、それぞれ25年末、27年末までにケージ卵の取り扱いを終了すると宣言しており、小売側からの圧力も高まっている状況にある。

 

5 AW教育の実践と消費者の意識

 NZのAW政策において、AWの認知度・付加価値の意識向上に向けた教育活動は重要な取り組みと認識されている。その一例として、動物愛護団体であるSPCAは、無料のオンラインAW教育プログラムを開発し、子供向けと教職員向けのポータルサイトを通じて、専用の学習教材を提供している(図10)。また、NZの全小中学校2117校に無償で教材を配布するなど、教材の開発費から印刷郵送費まで、多額のコストを投じている。SPCAの担当者によると、いくつかの調査結果から、効果的な行動変容を促すためには7〜12歳をターゲットにするべきと考え、現在のプログラムを開発したとしている。近年は、その対象を3〜15歳まで拡大しており、より良いAWを未来への投資と捉え、今後も重点的に取り組んでいく分野であるとのことであった。


 
 これまでの取り組みを踏まえ、NZ国民はどのようにAWを認知しているのか。NZ国民1100人を対象に23年に実施された調査会社ホライズンリサーチによるAWに関する世論調査の結果を報告する。
 同調査結果によると、NZ国民の90%がNZの畜産動物の福祉を保護することは重要と回答している(図11)。地域や年齢、世帯収入を問わず結果は一貫して高いことから、総じてNZ国民のAWに対する意識は高いと考えられる。また、71%がNZ政府は畜産動物の福祉に対する国際的な評価を高めるため、より一層の取り組みを行うべきであると回答しており、NZ政府の現在の対応に対する不満が示唆される(図12)。
 また、別の視点としてNZ政府が設立している研究開発イニシアチブ「Our Land and Water National Science Challenge」(注11)が21年に行った「持続可能性やその他の属性(AWなど)に対する消費者の支払い意思に関する調査」によると、消費者は、よりAWに配慮した畜産物に対してプレミアム価格を支払う意思があることが報告されている(図13)。
加えて、23年に実施された政府系研究機関のアグリサーチによる赤身肉および代替肉の消費に関する消費者意識調査によると、調査対象者の58.1%が食肉製品を購入する際にAW認証を重視すると回答している(図14)。また、食肉生産の持続可能性を定義する上で最も重要な要素は何か回答する設問では、AWが最も多く回答されている(図15)。
 
(注11)NZのトップレベルの科学者が分野、機関、国境を越えて協力し、国家的課題を解決することを目的として2014年に設立された研究開発イニシアチブ。









 

コラム AWに関連する認証プログラムについて

 NZでは、消費者の需要に対応するため、AWを含むさまざまな側面に焦点を当てた認証プログラムが開発されている(コラム−表)。本コラムでは、NZFAP(New Zealand Farm Assurance Program)およびNZFAP Plusプログラムについて紹介する。
 NZFAPは、各食肉企業が保有していた独自の認証プログラムを統一し、NZ産赤身肉(牛肉・羊肉・鹿肉)および羊毛のブランドを確立することを目的として、2017年に開発された。現在、NZの赤身肉・羊毛加工会社のほぼすべてがNZFAPを利用しており、約8000農場(赤身肉、羊毛生産の95%以上)が認証を取得している。NZFAPには三つの基本要素として、「原産地とトレーサビリティ」「食品の安全性」「AW」があり、AWの基準は動物福祉法に準拠している。また、この三つの要素に加え、会員企業は消費者の期待に応えるために追加の基準を設定することが可能となっている。NZFAP Plusは、NZFAPにさらに三つの要素「人権保護」「環境」「バイオセキュリティ」を追加した、より高いレベルの認証プログラムとなっており、これらの取り組みはNZのAW向上に大きく貢献していると評価されている。

 

6 おわりに

 消費者意識調査の結果を踏まえると、NZでは、畜産物価格へのAW対応による追加コストの転嫁は比較的容易な印象を受ける。また、コラムで触れたように、動物福祉法のAW基準を超える品質保証プログラムを民間サイドが開発し、生産者主導のアプローチでAWの向上が図られている点からも、NZ政府の自主的な意識向上を促す取り組みは、一定の成果が出ていると考えられる。一方で、豚の分娩ストールの廃止案に伴う議論など、さらなるAW規制強化の動きに対しては、NZ政府に直接的な支援を求める声が強くなりつつある。これは、補助金に頼らず畜産業界との連帯を重視するAW政策の方向性に影響を与える可能性があり、今後の動向が注目される。
 日本においても、AWの向上は「動物への配慮」という倫理的な感情にとどまらず、畜産物輸出の促進や持続可能な食料システムの構築に必要な取り組みであるとして、近年、議論が活発化している。AWに対応した飼養管理の普及および推進を図っていくためには、生産者や消費者のAWに対する認知度・付加価値の意識向上が重要であると考えられる。意識向上に向けたさまざまなアプローチを検討するに当たり、本稿が何らかの参考になれば幸いである。
 
(渡部 卓人(JETROシドニー))