飲用乳を含む牛乳乳製品の輸出拡大の取り組みとしては、2022年5月に改正された「農林水産物及び食品の輸出の促進に関する法律」(以下「輸出促進法」という)に基づき、一般社団法人日本畜産物輸出促進協会(以下「畜産物輸出促進協会」という)が23年11月に「品目団体」(注3)として認定された。
また、よつ葉乳業としては、台湾、シンガポール、マレーシア、香港への輸出拡大に向け、生産者・乳業者・輸出事業者が生産から輸出まで一貫して輸出促進を図る「よつ葉輸出促進協議会(コンソーシアム〈共同事業体〉)」を設立し、国の畜産物輸出コンソーシアム事業(輸出先国のマーケット調査や販売促進活動などへの支援)を活用している。
(注3)「品目団体」とは、「輸出促進法」に基づき、実行戦略で定める輸出重点品目について、生産から販売に至る関係事業者を構成員とし、当該品目についてオールジャパンで輸出促進活動を行う体制を備えた団体。
(1)輸出向け製品の生産の特徴
ア 殺菌方法
〇 LL牛乳(国内では135〜150度で1〜3秒間減菌)
LL牛乳は、国内流通分と同じ取り扱いとなる。LL牛乳の賞味期限は、商品にもよるが、常温で1〜3カ月程度、写真1の製品については100日間となっている。
〇 チルド牛乳(国内では120〜130度で1〜3秒間殺菌)
チルド牛乳は、ESL製法により製造しており、国内向けよりも一段高い殺菌温度(130〜140度)としている。
イ 鮮度保持・品質保持(賞味期限延長)技術の開発や導入など
〇 LL牛乳
もともと腐敗しにくく長期保存が可能であることから、国内向けと同仕様である。
〇 チルド牛乳
1)風味保持を目的として高仕様な包装資材を採用している。
2)衛生性向上を目的として充?前に容器内面を殺菌している。
ウ 輸出先が求める条件(ハラール対応など)に応じた輸出施設の整備
同社では、輸出先の輸入条件に合わせて適切に管理、運用するように努めている。ハラールについては、同社の子会社である、くみあい乳業株式会社(以下「くみあい乳業」という)ほか一部工場で、特定非営利活動法人日本ハラール協会の認証を受けている。
例えば、くみあい乳業が製造しているコーヒー入り乳飲料の場合、ハラール製品として、コーヒー豆や使用する砂糖、梱包資材まで認証を受けている。
(2)飲用乳の輸出拡大の課題
ア 競合製品との価格差
東南アジア各国には輸入によって安価なオセアニア産、もしくは東南アジア域内などの牛乳が市場に広く浸透しており、よつ葉乳業と競合他社の製品では2倍以上の価格差となることもある(表4)。よつ葉乳業の飲用乳の販路拡大には、この価格差が大きな課題の一つと考えられる。
イ 輸送コスト
液体物である飲用乳は輸送コストが高くなりやすいことから、他品目との混載など、輸送状況の改善が必要である。同社では輸送ロットの確保および輸送効率化のための小口混載、また、鮮度保持輸送体系の構築(ドライコンテナ(常温で輸送されるコンテナ)やリーファコンテナ(温度管理が可能なコンテナ)の利用による共同輸送システム実証試験)に取り組んでいるところであり、コンテナへの積載効率が悪いと収益の悪化、現地売価の価格転嫁に直結するため大きな課題である。
ウ 輸出先におけるコールドチェーンの整備状況
輸出先のコールドチェーン(低温物流体系)が未発達の場合や輸送時間が長時間に及ぶ場合、チルド牛乳を低温度に保つ必要がある(台湾の場合は7度以下、シンガポールは4度以下、日本は10度以下など国・地域により異なる)。温度の違いにより菌の増殖度合が異なるが、コールドチェーンの整備状況で、必然的にLL牛乳しか輸出することができない国・地域もある。
エ LL牛乳増産のボトルネック
よつ葉乳業の子会社であるくみあい乳業によると、LL牛乳の製造工程においては、一般的なチルド牛乳よりも高度な衛生性が求められ、その分製造コストが多くかかるという。
また、品質検査中の保管期間(乳及び乳製品の成分規格等に関する命令で定められている35度14日間保管後の検査のための期間)も長い。また、製造設備、人材など各方面に増産に向けた課題がある。増産に向けては慎重な検討が必要とのことであった。
(3)輸出拡大に向けた取り組み
ア 製品の差別化
実行戦略では、日本産製品の認知度向上に向けた取り組みが必要とされているが、よつば乳業のコーポレートスローガンにある「北海道のおいしさを、まっすぐ」には、よつ葉ブランドの生乳、乳原料はすべて「北海道産」であることを定義している。同社では、北海道ブランドを前面に押し出し、北海道の良質な原料を使用した牛乳乳製品を、現地で指名買いしてもらうよう取り組んでいる。
その一つとして、観光で日本を訪れた外国人向けには、帰国後もよつ葉製品を購入してもらえるよう、あえて国内向け・海外向けを問わず同様のパッケージを採用するといった工夫にも取り組んでいる。また、海外では、現地小売店での試飲、試食プロモーションを実施しており、毎回好評を得ている。
北海道産の良質な原料を使用していること、また、よつ葉ブランドは「北海道+おいしい製品」であるということを現地の消費者に訴求することが重要であると考えており、台湾、シンガポール、マレーシアではフェイスブックなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)による販促活動などの取り組みを積極的に実施している。
イ コンテナ積載率の向上
シンガポール、台湾向けは、基幹商品となる商品を育て、定期的に輸出する体制を構築し、次の段階として、商品の販売品目の拡充をすることで不定期なバラ積みをなくし、コンテナ積載率の向上に取り組んだ。
一方で、小口混載サービスもあり、トライアル販売の際など一部では利用することもある。しかし、破損のリスクが高く、それほど頻度は高くない。なお、現時点で冷蔵混載のサービスはない。
ウ 今後の輸出先国
2024年の輸出額は減少したものの、今後の経済成長に伴い、輸出増加が見込まれるマレーシアではLL牛乳、LL乳飲料を定期的に輸出しており、今後もさらなる輸出拡大を目指して取り組むこととしている。インドネシア(現在、輸出解禁を協議中)やその他の東南アジア諸国も人口増加、国内総生産(GDP)の増加が見込まれており、輸出先の候補である。
なお、輸出先のコールドチェーンが確保されていない地域ではLL牛乳が流通している一方、近年は船便の遅延の常態化が契機で、LL牛乳が代替品として流通するようになった地域もある。
エ 実行戦略に基づいた今後の輸出拡大
実行戦略では、今後は「品目別団体を中心とした販路開拓」を実施するとしており、畜産物輸出促進協会の会員である牛乳乳製品輸出協議会が、「個別コンソーシアム」の事例を踏まえ、オールジャパン体制で品目別・輸出先別の販売戦略を検討している。
その販売戦略に基づき、輸出先でのマーケティングや、メーカー・産地横断的な輸出促進活動について、独立行政法人日本貿易振興機構(以下「ジェトロ」という)、日本食品海外プロモーションセンター(以下「ジェーフード」という)や輸出支援プラットフォーム(注4)などと連携して実施するとされている。よつ葉乳業としても、今後、オールジャパン体制で輸出促進を実施することの利点を生かし、この取り組みに参画したいと考えており、海外向けに販路を拡大することは、日本の人口が減少する中でも酪農家が安心して搾乳を続けられる環境整備につながると考えている。
特に乳製品などの加工品になると、安価な外国産品と差別化が難しいため、香港や台湾などで認知されている「北海道産ブランド」を掲げて飲用向けの販路を拡大したいと考えている。
(注4)実行戦略に基づき、輸出先国・地域において輸出事業者を包括的・専門的・継続的に支援するために設立。 在外公館、ジェトロ海外事務所、ジェーフード海外駐在員が主な構成員。