直近のカナダの豚肉需給動向を見ると、豚肉生産量および輸出量はおおむね増加傾向で推移している(表1)。豚肉生産量の約6割が輸出向けであり、生産量、輸出量はともに2020年をピークに横ばいで推移しており、過去10年平均で見ると高い水準を維持している。
(1)生産動向
ア 豚飼養頭数
カナダの養豚産業は主要4州に集中しており、マニトバ州、オンタリオ州、ケベック州、アルバータ州で全体の飼養頭数の9割以上を占めている(図1)。地域ごとの養豚生産には違いがあり、西部では輸出中心の企業型の大規模経営が多い一方、東部では小規模の家族経営型の農場が多い。また、飼料についても一般的に西部では自給可能な麦類主体による肥育、東部ではトウモロコシや大豆かすによる肥育が行われ、米国産トウモロコシも利用している。
豚飼養頭数は2018年にピークに達して以降、ほぼ横ばいもしくは微減で推移している(図2)。
飼養農場数は減少傾向にあり、24年1月時点で7010戸(10年比9.0%減)となった。一方で、同年の1戸当たりの飼養頭数は1994頭(同23.2%増)と大幅に増加しており、規模拡大が進んでいる。
イ と畜頭数
と畜頭数は2020年までは増加傾向で推移していたが、新型コロナウイルス感染症(COVID−19)のまん延やそれに伴う食肉処理加工施設の稼働率低下により、21〜22年にかけて大きく減少し、その後はほぼ横ばいで推移している(図3)。一方、24年の1頭当たり枝肉重量は110キログラム(15年比9.8%増)とほぼ一貫して増加傾向で推移している。
食肉処理加工施設における労働者不足の実態は州や企業により異なるが、これまで多くの施設では移民が貴重な労働力とされてきた。一方、近年は移民を制限する動きもみられ、カナダ政府が24年10月に発表した「2025〜27年の移民計画」の中で、外国人労働者の資格要件の厳格化が公表されている。マニトバ豚肉評議会などの業界団体からは「一時滞在者の制限は人材不足につながる」として、反発の声も挙がっている。
ウ 豚肉生産量
豚肉生産量は過去10年、と畜頭数の増加や1頭当たり枝肉重量の増加などから堅調に推移し、2020年には212万トンに達した(図4)。それ以降はほぼ横ばいで推移しており、過去10年平均と比較すると高い水準で推移している。25年はと畜頭数の回復から前年比1.9%の増加が予測されている。
エ 経営状況
近年の養豚経営の状況を見ると、肥育豚価格の上昇などから、2023年の平均収益は19年から増加している(図5、表2)。一方で、飼料や家畜用治療薬などの生産コストが増加しており、生産者の利幅を圧迫している。特に飼料費がいずれの州でも大幅に増加しており、中でもアルバータ州は干ばつの影響により著しく増加している。飼料価格はその年の穀物の生産状況などに左右され、24年に入り同価格は緩和傾向にあるものの、資材や家畜用医薬品の高騰などによる生産コストの高止まりが続いている。
(2)生体豚輸出
生体豚輸出頭数は、9割以上を米国向けが占めている。特に2021年以降は、カナダ国内のと畜能力の低下から高い水準で推移している(図6)。
今後の生体豚輸出については、米国で24年に改正された米国原産地表示制度(vCOOL)(注1)が注目される。表示は任意であるものの、同制度の改正により、今後カナダから輸入された肥育もと豚に対する表示規制に加え、米国産の肥育豚との仕分けに伴うコストの発生といった影響が生じる可能性がある。カナダ政府や業界団体としては、08年にも米国での義務的原産地表示制度(mCOOL)の導入に対して世界貿易機関(WTO)への提訴などを行い、15年に廃止された経緯がある(表3)。今回の米国での制度改正がカナダの生体輸出を制限するものとして、業界団体からは懸念の声が挙がっている。
(注1)従来の制度では、他国で産出〜加工された豚などに由来する食肉であっても、米国農務省認証施設で再加工・再包装された場合には米国で生産された製品であるとみなされ、米国原産などの表示が可能であった。改正後は、米国内で産出〜加工された豚などに由来する食肉製品のみに「米国原産(Product of USA)」等表示することが認められた。
(3)国内消費
2016年以降、カナダ国内の豚肉消費量は牛肉を下回って推移している。コロナ禍(20年、21年)では特に落ち込み、それ以降は牛肉価格の高騰による牛肉需要の減退により増加傾向に転じ、23年には牛肉の消費量を上回った(図7)。消費は精肉より主にハムやベーコンといった加工肉が中心となるが、近年はひき肉を原料としたミートボールなどの半調理食品などの需要も高まりつつある(写真)。24年は、輸出が増加する中で、国内仕向け量の減少などから消費量は減少している。
(4)豚肉輸出
豚肉輸出量は2014年以降、生産量の増加に伴い堅調に推移し、20年には中国からの需要増により大幅に増加した(図8)。これは、中国で18年に発生したアフリカ豚熱(ASF)で飼養頭数が大幅に減少したことによるものであったが、21年以降は中国国内の豚肉生産の回復などから減少している。しかし、過去平均と比較すると高い水準を維持している。USMCA(注2)下で無関税での輸出が可能な米国向けは最大の輸出先として輸出量の約3割を占め、メキシコ向けも堅調な需要から3番手につけている(表4)。
(注2)米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)は2020年7月に北米(米国、メキシコ、カナダ)の3カ国間で発効された貿易協定であり、豚肉含め多くの商品において関税はゼロとされている。