(1)農作物農場における労働力確保
トウモロコシ、大豆、小麦や綿花などの農作物の生産については、青果物や畜産物などと異なり多くの作業においては機械化や自動化が進んでいる。このため、恒常的な運営の多くは家族経営的な労働で賄うことができ、農業経済の専門家からも労働力の減少による大きな生産性の低下は見込まれないとされているが、播種、除草、収穫などは完全には自動化ができないため、季節労働者やコンバインの操作などを行うオペレーターを雇うことになる。
そのため、農作物の生産にとっては、高齢化と雇用労働費のコスト上昇が課題となっており、2025年6月初頭、AFBFは連邦議会での証言において、現在全農家の約4割が定年退職年齢に達しているか超えている状態であり、35歳未満の若年層は8%程度であると述べた。また、H−2Aを活用する場合の対応について柔軟性を持たせることが重要であるとし、特に季節的な需要に加え通年での労働力の需要を満たす雇用オプションを可能にし、さらに合理的な賃金を設定するような改革が必要であるとしている。コストの上昇については、雇用者が支払う最低賃金の上昇に加え、住居費や交通費の上昇も伴うとしている。また、H−2Aを活用したビザの発行作業を行うために弁護士を雇う場合が多く、交通費や弁護士費用を合計すると、地域によっては1人当たり5000米ドル(72万9050円)を超えることもあるという。
(2)食肉処理・加工施設の労働力確保
食肉処理・加工施設の雇用労働者は、肉体的な負担などの労働環境から離職率が非常に高く、労働者を置き換えるコストが高くなっている。なお、賃金については上昇が続いているものの、雇用労働者の長期的な採用のためにはさらなる賃金の値上げや、保育施設や年金制度の創設などのインセンティブを設けることも重要とされている。
また、労働力の確保が困難な要因の一つとして、食肉加工企業は施設の従業員の米国滞在の適正について、E−Verifyを使用し確認していることがある。 E−Verifyとは、米国政府が運営するサービスであり、求職者が合法的な就労資格を有しているかをウェブサイトで確認できるようになっている。一方でシステムが煩雑で使いづらく、求職者への加入を義務付けている州が一部にとどまっているなどの課題が挙げられている。そのため、NAMIとしては、労働力確保と同時にICEによる捜査が行われた際に適切に応対ができるよう、H−2Aプログラムの改善とともにE−Verifyの改善を求めるとし、食肉加工企業が安定した合法的な労働力を確保していくとしている。
(3)酪農業界における労働力確保
現在、全米生乳生産者連盟(NMPF)では、高い賃金と福利厚生を農場が提供しても米国内の労働者を採用し長期間定着させることに苦労しているとし、移民による労働力が重要な役割を持っているとしている。そのため、現在農場で雇用している労働者に対しては、一律で米国での永住権を付与するなど、安定的な生産に必要な移民プログラムを求めており、それと同時に生産現場での雇用環境の改善も図っている。
また、国際乳食品協会(IDFA)は、酪農については、関連産業なども含めれば、米国では300万人以上の労働者に支えられているとしているが、労働人口の減少と高齢化が進んでおり、牛乳・乳製品のサプライチェーンの維持のため、自動化および最新技術の導入に取り組むことが重要としている。そして、牛乳・乳製品業界の業務について若年層にアピールするため、業界として、柔軟な勤務時間の設定と、より安全な作業手順や社会福祉制度の導入により、従業員にとって魅力的な環境を創出していくとしている。労働力については、年間を通じて安定した従業員を確保するため、H−2Aを酪農分野にも適用でき、労働者が通年で滞在が可能となることや、同一の労働者を再度雇用する際に義務付けられている一定期間の帰国の除外などを、連邦政府に対して求めている。