(1)豊富牛乳公社の概要
2024年10月に、北海道豊富町の豊富牛乳公社本社工場を訪問し、代表取締役社長の藤原直人氏をはじめとする担当者に対面調査を実施した(写真2)。
豊富牛乳公社は農協出資の乳業メーカーとして設立され、1985年に豊富町の出資による第三セクター化を経て、96年にコンビニエンスストア事業を展開する株式会社セイコーマート(現株式会社セコマ)が同社に出資してグループ会社化された。2023年度の売上高は90億2900万円、従業員数は74人(2025年3月末時点)である。23年度の買入乳量は5万3000トンで、豊富町で生産された生乳のみを取り扱っている。製造品目は、牛乳、低脂肪牛乳、成分調整牛乳、ヨーグルト、クリーム・バター、業務用殺菌乳である。セイコーマート向けのプライベート・ブランド(以下「PB」という)製品の他、都府県の量販店向けの自社ブランド製品や業務用製品を販売している。
豊富牛乳公社の特徴は、小売・卸売事業、原料生産・製造事業、物流事業を一体的に展開するセコマのグループ企業28社の一員として企業活動を行っている点にある(丸谷・脇谷2021)。豊富牛乳公社に関わる受注と物流は株式会社セイコーフレッシュフーズ(以下「SFF」という)(注6)と株式会社オリタ物流(協力運送会社を含む)、営業活動はセコマが担い、豊富牛乳公社は製造に特化する分業体制である。
(注6)SFFは、道内主要都市に配送センターを設置し、セコマグループ加盟の小売店舗や、グループ外の飲食チェーンやホテルなどへ卸販売を行っている。
(2)現時点における牛乳の物流
図6に、豊富牛乳公社を中心とする牛乳の物流パターンを示した。通常の製造業者であれば、空荷のトレーラー・トラックが工場に来て、そこが物流の起点となる。しかし、事例の場合、豊富牛乳公社は物流の起点ではなく経由地で、空荷区間のほとんどない効率的な物流体制であることがわかる。重要な役割を果たすのは、SFFが全道各地に設置する配送センターである。
牛乳は、冷蔵(チルド)管理が可能なトレーラーやトラックで輸配送を行う。図示したパターンの過程では同一車両による一貫運行が基本で、途中の車両変更はない。
まず、北海道内のセコマグループ加盟店向け物流である。
ア パターン1
稚内周辺の加盟店向け商品を積載してSFF札幌センターを出発し、SFF稚内センターで荷下ろしをする。その後、豊富牛乳公社で牛乳を受領し、SFF札幌センターに納品する。その後は道内各地のSFFセンターに牛乳は輸送され、そこから各地の加盟店へ牛乳以外の製品とも混載されて配送される。
イ パターン2
2は、1と異なり、豊富牛乳公社へ直行するパターンである。豊富牛乳公社向けのダンボール・牛乳カートンなどの包装資材やパレットなどの物流資材を積んでSFF札幌センターを出発、豊富牛乳公社にこれら資材を納品するとともに、牛乳を受領する。それ以降は1と同様である。
ウ パターン3
3はSFF旭川センター起点で、10トントラックを用いる。同センターから豊富牛乳公社へ輸送する資材を積載して出発し、豊富牛乳公社に納品する。その後、豊富牛乳公社から牛乳を受領して、SFF旭川センターに納品する。その後は同センター周辺の加盟店に牛乳は配送される。
エ パターン4
4はSFF稚内センター起点で、加盟店配送に使用される8トントラックが基本である。同センターから稚内周辺の加盟店向け商品を積載して出発、加盟店へ商品を配送する。その後、豊富牛乳公社に立ち寄って牛乳を受領し、SFF稚内センターへ牛乳を納品する。これらの牛乳は、同センターから周辺の加盟店へ配送される。
次に、本州の量販店などへの外部販売を中心とした物流である。20トントレーラーによる輸送となる。
SFF札幌センターから豊富牛乳公社に至る経路は、極力、2と同様に同社向けの包装・物流資材を積載する。協力運送会社の場合は、この経路の一部でセコマグループ外の荷物を扱うこともある。
オ パターン5
5は関東向けである。SFF札幌センターを出発し、豊富牛乳公社で牛乳を受領、再び同センターで道内加盟店向けの牛乳など一部を荷下ろし、本州向け製品を積載する。苫小牧港から大洗港、あるいはひたちなか港までフェリーで輸送、SFF茨城センターに納品される。同センターからは他の製品と混載されて埼玉県や茨城県の加盟店、あるいは牛乳のみで量販店などに配送される。
カ パターン6
6も関東向けだが、5と異なって札幌SFFセンターを経由しない。豊富牛乳公社出発の時点でトレーラーを本州向け牛乳で満載できれば、札幌SFFセンターに立ち寄る必要はなくなる。この場合は、SFF茨城センターを経由せず、量販店に直接、納品されることもある。
(3)物流の持続可能性の向上に向けた取り組み
近年における豊富牛乳公社に関わる物流の改善策を、以下に列挙する。
第1にドライバーの長時間拘束が必要な幹線輸送(注7)区間の分割である。SFF札幌センターからSFF旭川センターを経由し、豊富牛乳公社に集荷に向かう輸送を行うドライバーの拘束時間が長時間化していた。そのため、旭川起点の豊富牛乳公社行きの往復便と、札幌起点の旭川行きの往復便に分け、それぞれのドライバーの労働時間を短縮した。
第2に、外部販売向け牛乳の配送便の積載率の向上である。外部販売向け牛乳に、セイコーマート加盟店向け牛乳や業務用牛乳(バックインボックスなどに充 填
)を混載し、積載率を引き上げ、豊富牛乳公社から札幌までの運行便数を削減した。また、関東向けの場合は、SFF札幌センターで茨城県などの加盟店向けの製品を混載して積載率の上昇を図った。
第3に、本州における冷蔵トレーラーの滞留防止策である。セコマグループの物流では、北海道から本州へ行く便では冷蔵(チルド)トレーラーの使用率が高く、逆に本州から北海道へ行く便は常温(ドライ)トレーラーが多い。その結果、本州で冷蔵トレーラーが滞留する傾向になる。これを緩和するため、一般的に冷蔵トレーラーは常温トレーラーよりも積載量は低下するものの、本州の量販店向け牛乳を納品した冷蔵トレーラーで、道内加盟店向けの常温管理製品を本州で集荷(電源を入れずに常温利用)し、北海道へ戻す便を適宜運行している。
第4に、関東地方における特定の外部販売向け牛乳の週4回配送から週5回配送への増便である。1日当たり配送車両数の平準化を通じて物流業者の車両手配業務の改善やドライバーの拘束時間の短縮を意図している。
同様に、他の取引先においても特定の曜日に納品が集中しないよう事前調整し、曜日を分散することで車両運行数の平準化を図っている。
第5に、3軸トレーラー(被けん引車両)の増車による1車当たり輸送能力の増強である。従来、トレーラーは2軸タイプが一般的であるが、3軸タイプのトレーラー導入によって、輸送能力を増強できる。2020年頃から導入を開始し、現時点で全体の3分の1程度が3軸トレーラーとなった。
第6に、台風や暴風雪など季節的な災害発生時における納入リードタイムの緩和である。事前に取引先に協力を求め、理解を得ている。近年は、悪天候による欠航頻度が上がり、代替手段のないフェリー欠航の影響が大きくなっている。
(注7)幹線輸送は、配送センターに荷物を集約してから大型のトレーラーなどで輸送する方法である。