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調査・報告 乳業メーカー  畜産の情報 2025年8月号

持続可能なミルク・サプライチェーン構築に向けた乳業メーカーの物流イノベーション 〜よつ葉乳業株式会社と株式会社豊富牛乳公社を事例に〜

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北海道大学大学院農学研究院基盤研究部門農業経済学分野 准教授 清水池 義治

【要約】

 本稿は、北海道北部・宗谷地域のよつ葉乳業株式会社宗谷工場と株式会社豊富牛乳公社を事例に、「物流危機」に対応した物流改革を分析し、ミルク・サプライチェーンの持続性を考察する。
 よつ葉乳業は、全粉乳の工場出荷をパレット化して手積み作業を廃止し、運送担当従業員の負担軽減、ならびに出荷時間の削減でドライバーの労働時間を短縮している。パレット化のために、製品形状と重量の変更も実施した。豊富牛乳公社は、同社を含むセコマグループが一体となって空荷区間のほとんどない効率的な物流を運行し、物流の持続性を優先した各種事業の構築を行っている。こうした中、ミルク・サプライチェーンも、物流をベースに編成すべき現状になっている。

1 はじめに

 近年、物流維持が困難となる「物流危機」が顕在化し、関連対策を実施すべきという社会的な認識が高まっている。その象徴が「物流の2024年問題」である。これは、2024年4月にトラックドライバーの時間外労働時間規制が強化され、それによってドライバーの労働時間が減少し、輸送能力の低下が生じることによって起きる一連の問題である。農村部に供給地域が多い農畜産物では、すでに物流面で多大な影響が生じており、持続可能な物流に向けた取り組みが進んでいる。
 日本のミルク・サプライチェーンは、その起点である酪農地帯から消費地まで非常に長い空間的・時間的距離を有する。特に、乳製品工場は都市部ではなく遠隔地に立地する事例が多い。また、北海道の場合は、製造される牛乳・乳製品の大部分、そしてかなりの量の生乳が道外へ移出されている。そのため、酪農乳業では、物流がボトルネックとなったサプライチェーン上の問題がこれまでも生じてきた(注1)
 本稿の課題は、北海道内でも遠隔地である北海道北部・宗谷地域に工場を立地させる乳業メーカーを対象に、「物流危機」に対応した物流イノベーションの取り組みを分析し、ミルク・サプライチェーンを持続的に維持する条件を考察することである。調査対象は、よつ葉乳業株式会社(以下「よつ葉乳業」という)宗谷工場と、株式会社豊富牛乳公社(以下「豊富牛乳公社」という)である。よつ葉乳業宗谷工場は浜頓別町(本社所在地は札幌市)、豊富牛乳公社工場は豊富町に所在する(図1)。なお、本稿に関する対面調査は、24年10月にそれぞれの工場所在地で実施した。
 以上の課題を解明するため、まず、「物流の2024年問題」の影響と、農畜産物の物流問題の特徴を確認する。次に、よつ葉乳業宗谷工場の全粉乳出荷段階におけるパレット化の取り組み、続いて、豊富牛乳公社をはじめとする株式会社セコマ(以下「セコマ」という)のグループ企業が一体となった物流効率化の取り組みを検討する。
 
(注1)災害や突発的な需要増加による物流制約が要因で起きた牛乳不足の事例は、清水池ら(2021)と清水池(2021)を参照。


 

2 「物流の2024年問題」と農畜産物における物流課題

(1)「物流の2024年問題」の影響

 2021年における日本の代表輸送機関別流動量(国土交通省2023、p.6)は、合計1954万6000トン(重量ベース)である。そのうち、比率が高い輸送機関から順に挙げると、営業用トラック68.8%、自家用トラック16.7%、海運(コンテナ船・RORO船・その他船舶)12.4%、鉄道1.4%、フェリー0.7%である。トラック(営業用・自家用)合計で全体の85.5%を占め、日本の物流ではトラック輸送への依存度が非常に高い。2010年の同比率は88.6%であったことからやや低下したものの、依然として高水準である。
 そのため、24年4月からのトラックドライバーの時間外労働時間規制の強化は、物流全体に及ぼす影響が大きい。24年以前から、トラックドライバーは長時間労働が常態化し、労働力不足が深刻化していた。ドライバー不足の中での時間外労働時間規制の強化は、輸送能力のさらなる低下に直結する。
 「物流の2024年問題」に具体的な対応を行わなかった場合の影響としては、以下の試算(持続可能な物流の実現に向けた検討会2023)がある。不足する輸送能力の割合は24年度で14.2%、30年度には34.1%、不足する営業用トラックの輸送トン数は24年度で4億トン、30年度には9億4000トンに拡大する(注2)。持続可能な物流の実現に向けた検討会(2023)は,輸送能力の低下に対し、 1)荷主企業や消費者の意識改革 2)非効率な商習慣・構造是正や取引の適正化、着荷主の協力といった物流プロセスの課題の解決 3)物流標準化・効率化の推進に向けた環境整備−の必要性を指摘する。
 
(注2)年間拘束時間の上限を3300時間とした場合。2030年度はドライバー数減少による影響も加味している。詳細は持続可能な物流の実現に向けた検討会(2023)を参照。
 

(2)北海道と農畜産物における物流の特徴

 北海道の農村部では、輸送手段や輸送を担う労働力がもともと少なく、物流の供給制約が強い。加えて、人口が少ない上に人口密度は希薄で、物流効率は高くない。
 北海道の物流の特徴は以下の4点である(相浦2019・2023)。第1に長距離輸送である。北海道の面積は国土面積の約2割を占めるほど広大で、道内輸送でも長距離となる(図1)。また、物流起点から道外向けの港湾や貨物ターミナル駅に至る道路輸送距離も、他地方と比して非常に長い(相浦2023、p.49)。第2に季節変動(波動)が大きい。北海道は多くの農畜産物・水産物を産出するが、これらの産品の出荷は特定時期に偏在する。そのため、物流の繁忙期と閑散期が生じ、そのギャップは大きい。第3に「片荷」問題である。物流手段であるトラックやコンテナは、発地から着地を経て再び発地へ戻る必要があり、行き便・帰り便の双方で製品を輸送できると効率的である。だが、北海道の場合、農畜産物・水産物を中心とする北海道から都府県へ出ていく荷物と、都府県から北海道へ入ってくる荷物とを比べると、前者の方が多い。そのため、帰り便が「空荷」、つまり「片荷」になりやすい。これは物流コストを上昇させる一因でもある。第4に厳しい冬である。冬季の積雪および路面凍結は、陸送時の輸送時間を長くするほか、暴風雪の発生は物流を寸断する。
 表1に、「物流の2024年問題」で不足する輸送能力の発荷主業界別割合を示した(2019年度データ)。その中で、農村部に多く立地する「農林・水産品出荷団体」は32.5%と、全業界で最も高く、2位の「特積み」(23.6%)以下との差も大きい。
 農畜産物・水産物で物流問題が深刻化しやすい要因に、以下の4点がある(原田2024、山下2024)。第1に出荷量の日々の変動や季節変動が大きく、計画的輸送が困難なことがある。第2に大都市圏への長距離輸送が多く、ドライバーの拘束時間が長い。第3に温度管理が必要な品目が多く、対応可能な輸送事業者が限定される。第4に出荷団体数が多く、出荷規格などが不統一な上に幹線輸送の集約化が遅れていて、輸送が個別分散的である。これらのうち、1点目から3点目は、特に生乳や牛乳・乳製品が該当する。


 

3 全粉乳製造工場の出荷段階におけるパレット化の取り組み 〜よつ葉乳業宗谷工場を事例に〜

(1)よつ葉乳業宗谷工場の概要

 2024年10月に、北海道浜頓別町のよつ葉乳業宗谷工場を訪問し、宗谷工場長の佐藤幸彦氏をはじめとする担当者に対面調査を実施した(写真1)。加えて、24年11月に、札幌市でよつ葉乳業営業統括部担当者を対象とした補足的な対面調査を実施した。



 
 よつ葉乳業は、1967年に十勝管内8農協(上士幌、士幌、音更、鹿追、川西、幕別、豊頃、中札内)を中心とする出資で設立された乳業メーカーである。2024年度売上高は1273億円、同年買入乳量は79万トン、従業員数は882人(2025年3月31日時点)である。主な製造品目はバター・脱脂粉乳・クリーム・牛乳で、特に業務用乳製品で高い市場シェアを持つ。現在、北海道で宗谷工場を含む4工場、千葉県で1工場が稼働している。
 宗谷工場は1984年に操業を開始し、当初は脱脂粉乳と全粉乳を製造していたが、社内における製造集約の結果、現在は全粉乳のみを製造する。宗谷工場は、東宗谷農業協同組合(浜頓別町・中頓別町・猿払村)と宗谷南農業協同組合(枝幸町)から生乳を受け入れている。宗谷工場の受入乳量は2023年度で約10万5000トン、工場加工乳量は約7万5000トンとなっている(注3)。従業員数は、自社社員35人と協力会社従業員6人である(2024年8月時点)。
 
(注3)差額の約3万トンの生乳は、ホクレンなど系統農協組織の管理下で、主に都府県向けに生乳のまま移出されている。
 

(2)全粉乳の製造・出荷工程

 全粉乳は、生乳からほとんどの水分を除去して粉末状にした乳製品で、脱脂粉乳と異なって多くの乳脂肪分を含有する。全粉乳の主な用途は菓子・デザート類、発酵乳・乳酸菌飲料、調理食品などである。2023年度に宗谷工場で製造された全粉乳は約9100トンで、これは全国生産量の実に84%に達する(注4)。なお、製造される全粉乳のうち、半分強が自社製品、残りが他の乳業メーカーからの受託製造分である。
 全粉乳の製造工程は、以下の通りである。1日目は受け入れた生乳をクリームと脱脂乳に分離し、成分を調整した後に貯乳する。生乳は季節によって成分が異なるため、事前の成分調整が必要である。2日目は殺菌・濃縮・乾燥を経て粉状にし、3日目は充塡じゅうてんして袋詰めする。4日目以降に検査を行い、工場から出荷される。なお、宗谷工場には長期間の在庫を保管する倉庫機能はない。
 図2は、宗谷工場を起点とする全粉乳の物流パターンである。
 基本的には、宗谷工場から十勝地域・芽室町の営業倉庫に20トントレーラーで陸送された全粉乳は、そこで一時的に保管される。芽室町は、よつ葉乳業最大の工場である十勝主管工場(音更町)に近い場所である。芽室町の営業倉庫から、埼玉県・愛知県・大阪府の営業倉庫を経て、最寄りの府県の実需者に配送される。少ないが、実需者への直送もある。北海道から府県への輸送モードはフェリーと鉄道で、前者が大半を占める。フェリーの場合はトレーラー輸送が基本で、関東方面向けは苫小牧港から大洗港、関西・中部方面向けは苫小牧港から敦賀港の航路が利用される。鉄道の場合は、帯広市の貨物ターミナルから各地域へコンテナ輸送でされる。受託製造品は、宗谷工場で受託元に引き渡している。

(注4)2023年度の全粉乳生産量は1万764トンである(農林水産省「牛乳乳製品統計」)。
 


 
 

(3)出荷方法のパレット化

 よつ葉乳業は、宗谷工場における全粉乳の出荷方法を、2024年9月に従来の手積みからパレット積みに変更した。その主な理由は、1)出荷作業を担う協力会社従業員の労働負荷の軽減 2)出荷時間の短縮―である。
 図3は、パレット化前の全粉乳の出荷方法である。宗谷工場では、1袋当たり25キログラムの製品を、1.2メートル×1.5メートルのパレット(以下「従来型パレット」という)に1段当たり6製品、10段(重量合計1500キログラム)に積み上げて保管していた。フォークリフトで製品を載せたパレットを持ち上げ、パレットから直接、あるいはパレットをトレーラー内に入れた上で、手作業で製品を床面上に積み上げる方法であった。
 

 
 次に、図4はパレット化後の出荷方法である。パレット化後は、1袋当たり20キログラムの製品を、1.1メートル×1.1メートルのパレット(以下「11型パレット」という)に1段当たり4製品、11段(重量合計880キログラム)に積み上げる保管形態に変わった。フォークリフトでパレットごとトレーラー内に搬入し、パレットに製品が載った状態で最大20パレットを積むことができ、手積み作業は不要となる。
 


 
 パレット化の前後における主な変更点は、(@)従来型から11型へのパレットの変更(A)製品袋の形状変更と1袋当たり重量の削減−である。
 図5に、パレット化前後における製品袋の形状と製品のパレット荷姿の変化を示した。まず、トレーラー内の床面に隙間なくパレットを敷き詰めるには、11型パレットへのサイズ変更が必要であった((@)の理由)。その上で11型パレットから製品がはみ出ないように製品を積むことが求められたが、従来の袋形状ではそれは難しい。従来の袋は横から見ると両端とも先細りの形状で(図5中の上の画像の真ん中のパレット)、どちらかがはみ出してしまう。そこで、袋の底面の形状を平らにして、その面をパレット外側に向けて積み上げる方法とした(下の画像)。だが、25キログラム容量のままでは11型パレットにフィットする形状にできず、製品重量を20キログラムに削減した(注5)
 
(注5)全粉乳は脂肪分を多く含むため、袋の形状に合わせて粉が流動し難い点が指摘されていた。
 



 

(4)パレット化の効果と今後の課題

 出荷方法のパレット化は、直接には出荷・輸送を担う運送会社に大きなメリットがある。大きくは、1)手積み解消による省力化 2)出荷時間の短縮(1時間半から1時間へ)−である。宗谷工場から芽室町の営業倉庫までは、最短でも5時間30分程度の走行時間を要する。よって、30分の時間短縮はドライバーの時間外労働削減に寄与し、運送会社の評価は高い。また、従来は、営業倉庫到着時に保管用パレットへ手積みし直す作業が必要であったが、パレット一貫輸送によって不要となった。一方、よつ葉乳業の側では、1袋当たり製品重量の削減による充填効率の低下(製造時間の増加)やパレット重量の加算による1トレーラー当たり製品輸送量の低下といった、生産性低下とコスト増加はあるものの、コスト上昇を最大限にとどめた形で持続可能な体制構築と評価している。
 課題の一つは、荷崩れ対応である。手積みと比べて、パレット積みは隙間があるため荷崩れしやすく、荷崩れが起きれば受入作業時間が大幅に増える。のりによる製品同士の固定に加えて、ラップを巻く補強作業が一部で実施されているが、追加の作業は出荷時間の削減効果を低下させる。また、北海道の物流に一般的な「片荷」問題もあり、今後は、業種を超えた連携強化が必要である。

4 グループ企業が一体となった物流の持続可能性向上の取り組み 〜セコマグループの豊富牛乳公社を事例に〜

(1)豊富牛乳公社の概要

 2024年10月に、北海道豊富町の豊富牛乳公社本社工場を訪問し、代表取締役社長の藤原直人氏をはじめとする担当者に対面調査を実施した(写真2)。


 
 豊富牛乳公社は農協出資の乳業メーカーとして設立され、1985年に豊富町の出資による第三セクター化を経て、96年にコンビニエンスストア事業を展開する株式会社セイコーマート(現株式会社セコマ)が同社に出資してグループ会社化された。2023年度の売上高は90億2900万円、従業員数は74人(2025年3月末時点)である。23年度の買入乳量は5万3000トンで、豊富町で生産された生乳のみを取り扱っている。製造品目は、牛乳、低脂肪牛乳、成分調整牛乳、ヨーグルト、クリーム・バター、業務用殺菌乳である。セイコーマート向けのプライベート・ブランド(以下「PB」という)製品の他、都府県の量販店向けの自社ブランド製品や業務用製品を販売している。
 豊富牛乳公社の特徴は、小売・卸売事業、原料生産・製造事業、物流事業を一体的に展開するセコマのグループ企業28社の一員として企業活動を行っている点にある(丸谷・脇谷2021)。豊富牛乳公社に関わる受注と物流は株式会社セイコーフレッシュフーズ(以下「SFF」という)(注6)と株式会社オリタ物流(協力運送会社を含む)、営業活動はセコマが担い、豊富牛乳公社は製造に特化する分業体制である。
 
(注6)SFFは、道内主要都市に配送センターを設置し、セコマグループ加盟の小売店舗や、グループ外の飲食チェーンやホテルなどへ卸販売を行っている。
 

(2)現時点における牛乳の物流

 図6に、豊富牛乳公社を中心とする牛乳の物流パターンを示した。通常の製造業者であれば、空荷のトレーラー・トラックが工場に来て、そこが物流の起点となる。しかし、事例の場合、豊富牛乳公社は物流の起点ではなく経由地で、空荷区間のほとんどない効率的な物流体制であることがわかる。重要な役割を果たすのは、SFFが全道各地に設置する配送センターである。
 牛乳は、冷蔵(チルド)管理が可能なトレーラーやトラックで輸配送を行う。図示したパターンの過程では同一車両による一貫運行が基本で、途中の車両変更はない。
 まず、北海道内のセコマグループ加盟店向け物流である。
 
 

 
 
ア パターン1
 稚内周辺の加盟店向け商品を積載してSFF札幌センターを出発し、SFF稚内センターで荷下ろしをする。その後、豊富牛乳公社で牛乳を受領し、SFF札幌センターに納品する。その後は道内各地のSFFセンターに牛乳は輸送され、そこから各地の加盟店へ牛乳以外の製品とも混載されて配送される。
 
イ パターン2
 2は、1と異なり、豊富牛乳公社へ直行するパターンである。豊富牛乳公社向けのダンボール・牛乳カートンなどの包装資材やパレットなどの物流資材を積んでSFF札幌センターを出発、豊富牛乳公社にこれら資材を納品するとともに、牛乳を受領する。それ以降は1と同様である。
 
ウ パターン3
 3はSFF旭川センター起点で、10トントラックを用いる。同センターから豊富牛乳公社へ輸送する資材を積載して出発し、豊富牛乳公社に納品する。その後、豊富牛乳公社から牛乳を受領して、SFF旭川センターに納品する。その後は同センター周辺の加盟店に牛乳は配送される。
 
エ パターン4
 4はSFF稚内センター起点で、加盟店配送に使用される8トントラックが基本である。同センターから稚内周辺の加盟店向け商品を積載して出発、加盟店へ商品を配送する。その後、豊富牛乳公社に立ち寄って牛乳を受領し、SFF稚内センターへ牛乳を納品する。これらの牛乳は、同センターから周辺の加盟店へ配送される。
 
 次に、本州の量販店などへの外部販売を中心とした物流である。20トントレーラーによる輸送となる。
 SFF札幌センターから豊富牛乳公社に至る経路は、極力、2と同様に同社向けの包装・物流資材を積載する。協力運送会社の場合は、この経路の一部でセコマグループ外の荷物を扱うこともある。
 
オ パターン5
 5は関東向けである。SFF札幌センターを出発し、豊富牛乳公社で牛乳を受領、再び同センターで道内加盟店向けの牛乳など一部を荷下ろし、本州向け製品を積載する。苫小牧港から大洗港、あるいはひたちなか港までフェリーで輸送、SFF茨城センターに納品される。同センターからは他の製品と混載されて埼玉県や茨城県の加盟店、あるいは牛乳のみで量販店などに配送される。
 
カ パターン6
 6も関東向けだが、5と異なって札幌SFFセンターを経由しない。豊富牛乳公社出発の時点でトレーラーを本州向け牛乳で満載できれば、札幌SFFセンターに立ち寄る必要はなくなる。この場合は、SFF茨城センターを経由せず、量販店に直接、納品されることもある。
 

(3)物流の持続可能性の向上に向けた取り組み

 近年における豊富牛乳公社に関わる物流の改善策を、以下に列挙する。
 第1にドライバーの長時間拘束が必要な幹線輸送(注7)区間の分割である。SFF札幌センターからSFF旭川センターを経由し、豊富牛乳公社に集荷に向かう輸送を行うドライバーの拘束時間が長時間化していた。そのため、旭川起点の豊富牛乳公社行きの往復便と、札幌起点の旭川行きの往復便に分け、それぞれのドライバーの労働時間を短縮した。
 第2に、外部販売向け牛乳の配送便の積載率の向上である。外部販売向け牛乳に、セイコーマート加盟店向け牛乳や業務用牛乳(バックインボックスなどに充
)を混載し、積載率を引き上げ、豊富牛乳公社から札幌までの運行便数を削減した。また、関東向けの場合は、SFF札幌センターで茨城県などの加盟店向けの製品を混載して積載率の上昇を図った。
 第3に、本州における冷蔵トレーラーの滞留防止策である。セコマグループの物流では、北海道から本州へ行く便では冷蔵(チルド)トレーラーの使用率が高く、逆に本州から北海道へ行く便は常温(ドライ)トレーラーが多い。その結果、本州で冷蔵トレーラーが滞留する傾向になる。これを緩和するため、一般的に冷蔵トレーラーは常温トレーラーよりも積載量は低下するものの、本州の量販店向け牛乳を納品した冷蔵トレーラーで、道内加盟店向けの常温管理製品を本州で集荷(電源を入れずに常温利用)し、北海道へ戻す便を適宜運行している。
 第4に、関東地方における特定の外部販売向け牛乳の週4回配送から週5回配送への増便である。1日当たり配送車両数の平準化を通じて物流業者の車両手配業務の改善やドライバーの拘束時間の短縮を意図している。
 同様に、他の取引先においても特定の曜日に納品が集中しないよう事前調整し、曜日を分散することで車両運行数の平準化を図っている。
 第5に、3軸トレーラー(被けん引車両)の増車による1車当たり輸送能力の増強である。従来、トレーラーは2軸タイプが一般的であるが、3軸タイプのトレーラー導入によって、輸送能力を増強できる。2020年頃から導入を開始し、現時点で全体の3分の1程度が3軸トレーラーとなった。
 第6に、台風や暴風雪など季節的な災害発生時における納入リードタイムの緩和である。事前に取引先に協力を求め、理解を得ている。近年は、悪天候による欠航頻度が上がり、代替手段のないフェリー欠航の影響が大きくなっている。
 
(注7)幹線輸送は、配送センターに荷物を集約してから大型のトレーラーなどで輸送する方法である。

5 おわりに

 最後に、以上の事例分析を踏まえ、ミルク・サプライチェーンを持続的に維持する条件を考察する。事例分析が示すことは、サプライチェーンを維持するためには物流の持続性を優先して検討する必要があるということである。
 よつ葉乳業の事例では、全粉乳出荷のパレット化のために、製品袋の形状および重量変更を実施した。これによって、乳業メーカーとしては製造・物流効率の低下(既述)、営業倉庫では異なるパレット形状の混在による保管効率の低下が起きている。また、実需者の側では、工場の受入設備・体制の変更が必要だったと推測される。よつ葉乳業は、実需者・関係業者への説明から理解醸成、実施まで数年間をかけて慎重かつ着実に実行した。「物流の2024年問題」を通じて物流問題の社会的な認知が高まるにつれて、物流体制の変更を交渉しやすい環境になっているとよつ葉乳業は評価する。
 豊富牛乳公社の事例は、「物流危機」の中で、豊富牛乳公社を含むセコマグループの強みと革新性を示している。物流事業の効率的な運用をベースとして小売業・卸売業・製造事業などが構築され、受注と物流を一体的に管理するSFFがセコマグループ事業全体の核となっている。事例分析では、加盟店向けに設置された配送センターが、効率的かつ柔軟な物流体制に果たしている役割が明らかとなった。物流なくして企業の中核となる収益事業もないという点が、よく理解できる事例である。
 物流は、これまでは商流(商的流通)に規定された従属的な活動であった。つまり、物流は、商品販売や原材料調達の必要に応じて検討される対象であった。しかしながら、特に現在の農村部では、企業活動やサプライチェーンを維持する上で、物流がボトルネックになる事例が増加しつつある。必要最低限の物流ネットワークを関係者の努力を通じて維持した上で、その物流をベースとして企業・農業者の生産・販売活動やサプライチェーンのあり方を検討すべき時代になっているといえよう。
 
引用文献
・相浦宣徳(2019)「北海道物流の課題と農業への影響」相浦宣徳・冨田義昭『激変する農産物輸送』北海道農業ジャーナリストの会、pp.13-43
・相浦宣徳(2023)「食料基地北海道の農産部品の供給制約が全国各地にもたらす影響分析」
・阿部秀明編『食料基地北海道を支える物流ネットワークの課題と強靱化に向けた戦略』共同文化社、pp.32-64
・原田昌彦(2024)「業界全体で協調し持続可能な物流へ」『AFCフォーラム』72(4)、pp.3-6
・持続可能な物流の実現に向けた検討会(2023)「持続可能な物流の実現に向けた検討会 最終取りまとめ」、https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001626756.pdf(2025年6月20日参照)
・国土交通省総合政策局物流政策課(2023)『貨物輸送の現況について(令和5年7月)』、https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/content/001622302.pdf(2025年6月20日参照)
・丸谷智保・脇谷祐子(2021)「北海道における食ビジネスと物流戦略−株式会社セコマのサプライチェーン構築−」『農業市場研究』30(2)、pp.52-59
・清水池義治・安田驍・戴容秦思(2021)「地震災害がミルクサプライチェーンに及ぼす影響と既存対策の課題−平成30年北海道胆振東部地震を事例として−」『フードシステム研究』28(1)、pp.16-28、https://doi.org/10.5874/jfsr.28.1_16
・清水池義治(2021)「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)危機の酪農乳業への影響と需給調整システム」『フードシステム研究』28(3)、pp.172–185、https://doi.org/10.5874/jfsr.21_00041
・山下真史(2024)「持続可能な物流体制構築へのホクレンの対応について」『地域と農業』132、pp.13-21