育種改良によって速く育つようになったFG鶏種の弱点を解決するため、SG鶏種の利用は増えつつある。FG鶏種とSG鶏種は日増体量で区分されるが、FG鶏種は常に育種改良されて日増体量も変化するため、区分方法は固定されない点に留意すべきだろう。また、FG鶏種の健康面も改良されているため、本調査で整理したFG鶏種の弱点も変化し得る。
欧州や北米では、民間企業主導でSG鶏種への移行を進める動きが見られる。しかし、AWへの関心が高い欧州であっても、SG鶏種とFG鶏種のシェアは逆転していない。この理由は、供給量の不足や、SG鶏種とAWの関連が十分に認知されていないことによる、高い販売価格に対する消費者受容性の低さと考えられる。西欧では鶏舎の新設は環境規制などで困難と見られ、鶏肉生産量の維持を考慮するとSG鶏種への完全移行は難しいと推測されるものの、輸出国のブラジルやタイでSG鶏種の飼育が拡大すれば、生産面の課題は解決する可能性もある。
日本では、SG鶏種に相当する肉用鶏の割合は欧州の一部と比べて低く、鶏の健康に着目した調達事例も少ない。このような観点でのSG需要がわずかなのは、日本人は欧米と比べAWへの関心が低く、鶏種に関する知識も普及していないためと考えられる。ヤマモトのように消費者に直接PRする事例が増えることで、消費者が鶏種の違いを理解し、鶏肉に対する需要の幅が広がると期待される。
欧米の事例を見ると、日増体量が小さい鶏種か、日増体量が基準値以内で、FG鶏種で発生しやすい疾病などにかかりにくい鶏種をSG鶏種として用いている。したがって、海外のSG鶏種と同一の鶏種でなくても、これらの条件を満たせばSG鶏種として評価されると考えられる。赤鶏は、欧米でSG鶏種として使われるHubbard社の種鶏を両親とし、G.A.P.などで採用された交配様式で飼育する企業も国内にあるため、SG鶏種としての需要を期待できる。国産鶏種や地鶏も、日増体量や歩様スコアなどの福祉指標の測定結果を示すことで、SG鶏種として調達されやすくなるだろう。ただし、生産量の比較的多い国産鶏種や赤鶏は、大量生産を行う食品メーカーや小売業者などの需要を比較的満たしやすいが、地鶏の多くの銘柄は生産量が少なく、生産コストも高いため、価格転嫁の進みやすい高級ホテルなどからの調達に限定されるだろう。
日本では、川下企業の調達方針の変更に伴うSG鶏種への移行は現状見られないものの、今後このような動きがあった場合、前述の対応を取れば、既存の生産体制で需要を満たせる可能性がある。ただし、消費者がSG鶏種のメリットに共感しなければSG鶏種の需要は拡大しない。消費者のSG鶏種への反応や受容性を調査し、日本の消費者に合った販売戦略の検討も求められる。
謝辞
本調査にご協力いただいた、独立行政法人家畜改良センター兵庫牧場、一般社団法人日本赤鶏協会、一般社団法人日本食鳥協会、群馬農協チキンフーズ株式会社、全農チキンフーズ株式会社、株式会社ニチレイフレッシュ、生活クラブ事業連合生活協同組合連合会、FAIRR、The Humane Leagueをはじめとする皆さま方に深く感謝の意を表します。
参考文献
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