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話題 畜産の情報 2025年12月号

ほとんどの肉・肉製品は日本に持ち込めない!  〜家畜伝染病の侵入防止対策強化のための動物検疫所の取り組み〜

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農林水産省 動物検疫所 國分 玲子

1 はじめに

 海外からの肉や肉製品の持ち込みは、日本の法律で厳しく制限されており、多くのものは持ち込むことができない(図1)。これは海外から日本に家畜伝染病が侵入するのを防ぐためであり、免税店で購入した商品や機内で提供される機内食であっても、肉製品を含んでいれば持ち込むことは許されない。本稿では、クリスマスや春節など大規模に人や物が移動するシーズンを前に、動物検疫をめぐる情勢と動物検疫所が行う国内への家畜伝染病の侵入防止対策を紹介する。

 

2 諸外国における家畜伝染病の発生状況と訪日外客数の推移

 海外では、口蹄疫(FMD)やアフリカ豚熱(ASF)といった日本では現在発生していない家畜伝染病が発生している(図2、3)。これらの病気は、感染した家畜由来の肉や肉製品を介して感染することが知られており、実際に食肉を介して遠く離れた国に家畜伝染病が広がった事例が複数報告されている。また、平成30年に中国でASFが発生した際には、中国国内で急速に拡大し、一時的に同国内の豚の飼養頭数が約4割減り、豚肉価格が高騰した。このように、仮に家畜伝染病が日本に侵入すると、国内の畜産業に甚大な被害をもたらすのみならず、侵入した地域の社会経済活動にも大きな影響を及ぼす恐れがある。






 
 31年4月には、中国からの旅客の携帯品として持ち込まれた豚肉製品からASFウイルスが分離され、実際に感染力を持つウイルスがわが国の水際まで到達していることが確認された。
 このような中、令和6年の年間訪日外客数は3600万人を超え、過去最高であったコロナ禍前の元年の記録を更新し、7年は6月時点の同人数がすでに2000万人を超えており、年間では4000万人を超える見込みと予想されている。動物検疫所における6年の携帯品による輸入禁止品などの違反処分件数は、自主廃棄も含め過去最多の20万2000件(速報値)となり、元年の同約11万件と比較すると1.8倍以上に増加している(図4)。

3 家畜伝染病の侵入経路など

 海外から動物や畜産物が輸入される経路には、生きた動物、商用畜産物、入国者が持ち込む携帯品、国際郵便物などがあるが、携帯品と国際郵便物以外は商業ベースで行われている。当然のことながら、家畜伝染病が発生している地域からのこれらの輸入は禁止されており、また、それ以外の地域から輸入する場合であっても、輸出国で検査を受け、発行された検査証明書を添付して輸入される(図5)。さらに、わが国でも輸入検査を受けることになるため、これらを介した家畜伝染病の侵入リスクは低いと考えられる。一方、入国者が持ち込む携帯品や個人間でやり取りされる国際郵便物は、輸出国で検査を受けていない物品がほとんどであるため、国内への家畜伝染病の侵入リスクは商業ベースのものに比べて高いことから、動物検疫所では、特に携帯品や国際郵便物として輸入される畜産物の検査対応を強化している。


 

4 家畜伝染病の侵入防止のための取り組み・対策

 動物検疫所が強化している携帯品・国際郵便物による家畜伝染病の侵入防止の対策は、(1)相手国から持ち出させない対策、(2)わが国に入れさせない対策−に大別される(図6)

(1)相手国から持ち出させない対策
 家畜伝染病の侵入防止には、わが国へ輸入できない畜産物の持ち込みを、輸出される前に未然に防ぐことが最も有効であることから、動物検疫所は海外への事前対応型広報を戦略的に展開している。具体的には、中国やベトナムなど違法持ち込みが多い国を対象に、1)ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS) や海外メディア向けのニュースリリースでの情報発信、2)多言語動画による動物検疫制度の配信、3)航空会社に依頼して現地の空港カウンターでのポスターやリーフレットの掲示と機内アナウンスによる注意喚起−などを行っている。




 
(2)わが国に入れさせない対策
 動物検疫所では、ASFの発生地域など疾病の侵入リスクの高い国からの便に対して、1)令和2年に一部改正された家畜伝染病予防法により家畜防疫官(注)に新たに権限が付与された出入国者に対する口頭質問、2)同年に140頭体制に拡充された動植物検疫探知犬(以下「探知犬」という)を活用した携帯品検査の重点実施、3)畜産物の違法な持込みに対する対応の厳格化(違反者情報のデータベース化、警告書の交付、警察への通報や告発)、4)国際郵便物の検査強化−などを行っている(写真)。
 探知犬は、主要な国際空港に加え、全国の地方空港やクルーズ船ターミナル、国際郵便を取り扱う郵便局でも探知活動を行っている。探知犬を契機とした輸入禁止品などの摘発件数は多く、探知犬は水際検疫の頼もしいパートナーとして欠かせない存在となっている。また、探知犬は、多くのメディアに取り上げられるなど注目度が高く、広報活動にも大きく貢献している。
 
(注)家畜伝染病予防法に基づき、獣医師または家畜の伝染性疾病に関し学識経験のある者のうち農林水産大臣に任命された者。


 

5 海外から入国する際の注意

 海外から入国する場合、肉製品などの畜産物の持込みは日本の法律で厳しく制限されていることはすでに述べた通りだが、万が一、海外から肉製品など(機内食を含む)を持ってきてしまった場合は、税関検査場内にある動物検疫カウンターで申告して検査を受ける必要がある。仮に、申告をせずに持ち込もうとした手荷物の中に肉製品などの畜産物が確認され、違法持ち込みと判断された場合は、罰金(個人300万円以下、法人5000万円以下)又は拘禁刑(3年間以下)という罰則の対象となる。また、輸入検査の手続きでは、パスポートや搭乗券の情報を記録するため、検査に時間を要することとなるので、十分に注意いただきたい。
 肉製品などのおみやげの持ち込みの詳細については、当所ウェブサイト(https://www.maff.go.jp/aqs/tetuzuki/product/aq2.html)に掲載されているのでご確認いただきたい。
 また、肉製品と同様に、ほとんどの果物・野菜なども持ち込みが禁止されていることにも注意が必要である。
 詳細は、植物防疫所のウェブサイト(https://www.maff.go.jp/pps/j/trip/keikouhin.html)をご確認いただきたい。
 読者の皆様におかれては、家畜伝染病のわが国への侵入防止のため、海外に行かれる方やお知り合いの在留外国人の方などへ、1)海外からほとんどの肉などの畜産物の持ち込みができないこと、2)万が一持ち込んでしまった場合は検査を受ける必要があること、3)同様に、国際郵便物などで違法な畜産物と思われるものを受け取ってしまった場合も、最寄りの動物検疫所(https://www.maff.go.jp/aqs/sosiki/contact.html#products)にその旨を連絡して、検査を受けなければならないこと−をお伝えいただくようご協力いただきたい。

6 おわりに

 動物検疫所は、引き続き水際検疫の強化や制度周知に努めていく。読者の皆様にも、この機会に動物検疫について知っていただき、今後とも家畜伝染病のわが国への侵入防止にご理解とご協力を賜れれば幸いである。
 
【プロフィール】
國分こくぶん 玲子れいこ
農林水産省 動物検疫所 企画管理部長
1995年 帯広畜産大学 畜産学部 獣医学科卒業
        同年農林水産省(動物検疫所)入省
2025年4月から現職