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調査・報告 消費者心理 畜産の情報 2025年12月号

アニマルウェルフェアに配慮した鶏卵・鶏肉に対する消費者の購買心理と特徴

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東京農工大学 ディープテック産業開発機構 入交 眞巳

【要約】

 アニマルウェルフェア(動物福祉)に配慮した畜産は、西欧諸国で先行的に広く取り入れられており、わが国もアニマルウェルフェアを踏まえた家畜の飼養管理の普及を進めているが、世界的な水準までは達していない。筆者は、生産者が積極的に動けない理由の一つとして、消費者の理解が進んでおらず、差別化を図ることが難しいため、新たにアニマルウェルフェアに配慮した飼養方法を取り入れることが難しいのではないかと考えた。そこで、鶏肉・鶏卵に関して、消費者がどのような意識で商品を選択・購入しているのか、4000人の消費者を対象にアンケートによる意識調査を行った。
 結果として、7割近くの回答者がアニマルウェルフェアの言葉を聞いたことがなく、知識がないことがわかった。一般に消費者が商品を購入する際には価格、消費期限などが重要視されるが、簡単なアニマルウェルフェアに関する情報を見てもらうだけで、6割以上の回答者が、アニマルウェルフェアに配慮して生産された畜産物の購入に興味を持ち、今以上に高価であってもよいと回答した。
 2004(平成16)年から国際的規約として展開されているアニマルウェルフェアの概念(佐藤2019)だが、残念ながらアニマルウェルフェアに関する知識を有する消費者の割合はさほど増加していない。今後、より多くの消費者にアニマルウェルフェアに対する正しい認識と知識が提供されれば、消費者は理解し、購入行動につながる可能性があるので、アニマルウェルフェアを取り入れた畜産物の生産は生産者にも受け入れやすくなると考える。

1 はじめに

 アニマルウェルフェア(動物福祉、AW)に配慮した畜産と畜産食品はEUから先行的に広がり、国際獣疫事務局(WOAH)の勧告により、わが国も農林水産省がAWを踏まえた家畜の飼養管理の普及を進めている。これを受け、公益社団法人畜産技術協会が平成25年からAWを考慮した飼養管理に関してさまざまな取り組みを行っている。令和5年には、「畜種ごとの飼養管理等に関する技術的な指針」が新たに策定された。その中で農林水産省としては、畜産物の輸出拡大や重要性が増すSDGs(持続可能な開発目標)への対応などの国際的な動向を踏まえ、わが国として、国際基準であるOIE(現WOAH)コードにより示されるAWの水準を満たしていく方向であるとしている。今回の指針でAWの具体的な取り組み方が公表されたが、生産現場において即時に飼養施設を建て替えたり、従業員の数を増やしたりすることなどは困難である。また、この指針に基づく飼養方法に変更する場合でも、生産者は飼養頭数を減らす、従業員を増やすなどの必要が出てくる可能性が高い。その結果、畜産物の価格上昇につながってしまう恐れがある。そうなった場合、消費者の買い控えや、より安価な畜産物を手に入れようとする心理から、結果的にAWを考慮した飼養管理を努力して取り入れようとしている生産者にはプラスにならないのではないかと考えている。このような状況下では、生産者は農林水産省が提唱するAWの基準を満たさない従来の生産行為を続けざるを得なくなる。実際に、令和2年の公表で日本はWOAHによる国際動物福祉基準(World Animal Protection IndexのOIE animal welfare standard)のランクは高いとは言えず、国際競争の中、グローバリゼーションを推進していくためには、少しでも同基準のランクを上げていく必要があり、そうしないと、AWに配慮した畜産物を積極的に導入しようとする需要者への販売に支障を来すことになる。
 そこで今回筆者は、1)実際に消費者が鶏肉や鶏卵を購買する際に何を重要視しているのか、2)今後AWを取り入れた生産技術の導入は生産者にとって利益につながるのか、3)AWに配慮した飼養方法の導入が生産者の努力や商品価格などの面も含め、消費者に理解され、購入につながるのか−などを考察するため、消費者を対象としたアンケート調査を実施した。
 アンケート調査の実施に当たり、対象を全国の消費者とした。また、同時期に回答を得るためにはウェブサイトでアンケートを配布することが重要であるため、ウェブ方式によるアンケート調査とした。ただし、調査がウェブ方式であった場合に、多くの人が自宅などで回答するため、買い物をしているときの心理状態で回答できない可能性もある。そこでマーケティング会社の使用する通常のアンケート形態(質問が記載されていて、回答を選ぶ方法)で回答する鶏肉・鶏卵の消費者各1000人に加え、回答前に「スーパーで買い物をしていることを想定して回答してください」と記載した上で、スーパーマーケットの入り口、売り場、レジの写真を見せ、回答する鶏肉・鶏卵の消費者各1000人に調査表を配布した。こうすることで、通常のウェブ方式のマーケティングリサーチで消費行動を回答する人たちだけではなく、買い物中の心理に近い状態で回答する人からもデータを得られるため、実際の消費行動に近い回答が得られる可能性が高くなる。通常の回答と、買い物中の心理状態に近い回答に統計的な違いがあれば、その結果を受けて、売り場の工夫で消費行動を変容させることが期待でき、もし統計的な違いがなければ、消費者の消費行動を変容させたい場合は、売り場だけではなく根本的な対応が必要であると考察できる。
 また、今回の大規模なアンケートにおいて、「動物福祉」、「アニマルウェルフェア」という言葉や意味に関しての認識や理解についての項目を設けており、日本においても畜産業をはじめ、実験動物、展示動物の分野で10年以上提唱されているAWに関して、令和6年時点で消費者にどれだけ浸透しているのか、「アニマルウェルフェア」の言葉と意味を知った場合、その消費行動に変化は見られるのかを確認できる。

2 調査方法

 上述の通り、民間のマーケティング調査会社(株式会社クロス・マーケティング)に依頼し、4000人の消費者に鶏肉・鶏卵を購入する際に何を重要視しているかのアンケート調査を行った。具体的には、以下の四つのグループ区分ごとに、1000人ずつ調査票を送信した。
 
なお、回答者は、日本国内に住む20歳以上の月に1回以上は鶏肉あるいは鶏卵を購入している人とした。
 
A 鶏肉を購入する際の心理を問うた2グループ
(1)アンケートに設問と選択式の回答が掲載され、選択肢から回答する(写真なし)。
(2)アンケートの回答前に、スーパーマーケットの入口、売場、レジの写真を見せ、アンケートの冒頭で普段行くスーパーマーケットにいると仮定して回答するよう求めた上で、(1)と同じアンケートに回答する(写真あり)。
 
B 鶏卵を購入する際の心理を問うた2グループ
(1)Aの鶏肉購入に関する(1)と同様の方法による(写真なし)。
(2)Aの鶏肉購入に関する(2)と同様の方法による(写真あり)。
 
 アンケートは、マーケティング調査会社とつながりのある一般消費者に無作為に配布され、全員オンラインで回答してもらった。回答者4000人は、同一人物が二つ以上のアンケートに回答しないようなアルゴリズムになっている。
 回答者が条件に合わなかった場合は、他の回答者に回答をしてもらう方法で各グループから1000人ずつ、合計4000人の回答を得た。
<鶏肉に関するアンケートの質問内容>
基本事項:住居、年代、性別、職業、家族の人数、世帯年収
本調査:
Q1 令和6年の鶏のもも肉100gの全国平均は140円です(農林水産省調べ)。この販売価
       格についてあなたはどう思いますか。
Q2 令和6年の鶏のむね肉100gの平均は91円です(海外メディア調べ)。この販売価格に
       ついてあなたはどう思いますか。
Q3 あなたは日ごろ「鶏肉」を購入する際に以下項目についてどの程度重視していますか。
    以下の5つの選択肢の中からあなたの気持ちに一
    番近いものを1つお選びください。(項目:価格、消費期限、産地、鶏の飼育方法、生産農
    家の名前、肉の色や見栄え、特売品であること、銘柄(ブランド)、料理の用途、部位、
    HACCP認証(厚生労働省が定めた衛生管理に沿った鶏肉)、その他)
Q4 「動物福祉」あるいは「アニマルウェルフェア」という言葉をご存知ですか。
Q5 下記は「動物福祉(アニマルウェルフェア)」についての説明です。ご覧になった上で、
    あなたはどのような印象を受けましたか。
Q6 日本のスーパーマーケットで、「地鶏」と「銘柄鶏(ブランド鶏)」、「国産鶏(国産わかどり・
    ブロイラー)」をよく見ますが、これらの違いをご存じですか。
Q7 ブロイラーとは、短期間で出荷可能な肉用若鶏の総称で、「国産若どり」もブロイラー種
    であることが多いです。ブロイラーは成長が早く、飼料効率に優れており、通常およそ
    50日で成長します。また、歩留まり(加工後の肉の割合)が良いため、日本では高い需要
    があります。それに対して、「地鶏」や「銘柄(ブランド)鶏」は、地方の在来種や味わいに
    優れた鶏を利用して、品種改良を行ったものです。これらは特別な飼育条件のもとで
    育てられます。「地鶏」の飼育条件については、「(JAS)農林水産省日本農林規格」
    で以下のように定められています。あなたは、ブロイラーの飼育条件をご存知でしたか。
Q8 動物福祉(アニマルウェルフェア)」についての考え方や、実際の飼育方法の画像をご覧
    いただいた結果、あなたは今後「鶏肉」を購入する際に、以下項目についてどの程度
    重視しようと思いますか。以下の5つの選択肢の中からあなたの気持ちに一番近いもの
    を1つお選びください。(項目:価格、消費期限、産地、鶏の飼育方法、生産農家の名前、
    肉の色や見栄え、特売品であること、銘柄(ブランド)、料理の用途、部位、HACCP認証
    (厚生労働省が定めた衛生管理に沿った鶏肉)、その他)
Q9 「動物福祉(アニマルウェルフェア)」の観点から、国産鶏(わかどり)を地鶏のように鶏
    本来の習性に配慮した、より良い環境で飼育すると、鶏のストレスは軽減されます。
    一方で、この飼育方法により、鶏肉の価格は上がる可能性があります。地域による差
    はあると思いますが、現在、全国平均で「国産鶏(わかどり・ブロイラー)」のもも肉の
    販売価格は、税込100gあたり140円です。よりよい環境で飼育された鶏のもも肉の価
       格が、100gあたり140円よりどれくらい高くなっても購入を検討しますか。
Q10 あなたは、「鶏肉」をスーパーマーケットで購入する際に、パッケージに鶏肉の飼育方法
    の記載があれば、購入の参考にすると思いますか。
 
<卵に関するアンケートの質問内容>
基本事項:住居、年代、性別、職業、家族の人数、世帯年収
本調査:
Q1 鶏のたまご(Lサイズ)10個あたり税込260円(1個26円、令和6年7月平均)という販売
       価格についてあなたはどう思いますか。
Q2 あなたは日ごろ「鶏のたまご」を購入する際に下記項目についてどの程度重視していま
       すか。(項目:価格、消費期限、産地、鶏の飼育方法、生産農家の名前、たまごの殻
       の色、特売品であること、銘柄(ブランド)、HACCP認証(厚生労働省が定めた衛生
       管理に沿ったたまご)、鶏のエサ(特別な成分が入っている)、無農薬や有機飼料
       での飼育、その他)
Q3 「動物福祉」あるいは「アニマルウェルフェア」という言葉をご存知ですか。
Q4 下記は「動物福祉(アニマルウェルフェア)」についての説明です。ご覧になった上で、
       あなたはどのような印象を受けましたか。
Q5 日本では、たまごを産む鶏が飼育されている鶏舎の94%以上がバタリーケージに
       よる飼育法(バタリーケージ飼育法)です(令和3年農林水産省)。バタリーケージ
       飼育法について、ご存知でしたか。
Q6 写真のような飼育環境の場合は、バタリーケージ飼育とは異なり、鶏が下に降りて砂
       をつついたり、卵を産むために産卵箱に好きに移動することができるので鶏本来の
       行動がとれます。あなたは、日本においても可能であれば、鶏も動物福祉(アニマル
       ウェルフェア)を考慮した飼育法に変えたほうがよいと思いますか。
Q7 「動物福祉(アニマルウェルフェア)」についての考え方や、実際の飼育方法の画像
       をご覧いただきましたが、この情報を受けてあらためて、あなたは今後「鶏のたまご」
       を購入する際に下記のどの項目を重視しますか。(項目:価格、消費期限、産地、
       鶏の飼育方法、生産農家の名前、たまごの殻の色、特売品であること、銘柄
       (ブラン ド)、HACCP認証(厚生労働省が定めた衛生管理に沿ったたまご)、
    鶏のエサ(特別な成分が入っている)、無農薬や有機飼料での飼育、その他)
Q8 「動物福祉(アニマルウェルフェア)」の観点から、鶏をバタリーケージから解放して飼育
       すると、鶏のストレスが軽減されます。一方で、この飼育方法により、たまごの販売価格
       が上がる可能性があります。現在、従来のバタリーケージ飼育で生産されたたまごの
       価格は、税込みで10個入り1パック260円です。バタリーケージから解放した飼育方法
       で生産されたたまごの価格がどの程度高くなったとしても、あなたは購入を検討します
       か。
Q9 現在、「平飼い卵」という記載をしたたまごがスーパーマーケットでも販売されています
       が、ご存知でしたか。
Q10 あなたは、「鶏のたまご」をスーパーマーケットで購入する際に、パッケージに鶏の飼育
        方法の記載があれば、購入の参考にすると思いますか。

3 調査結果

 鶏肉に関して通常のアンケートを行った1000人とスーパーマーケットに行った状況を想像してもらった上でアンケートを行った1000人で比較したところ、ほとんどの項目で2群に差が認められなかったが、回答者の偏りとして、居住地では山形県、神奈川県、島根県、職業において学生の割合、家族において大人一人家庭における子供の数、において回答者の割合にP<0.05で違いが認められた。また、本調査の意識の違いに関しては料理の部位を選択する人の割合に違いは認められたが、ほとんどの項目に有意な差がなく、有意差のあったものを5件法(注1)で数量化して平均値で検定を行ったところ、すべての項目において有意な差はなかった。スーパーマーケットの写真などなく文字のみのアンケートに回答した場合でも、写真を見た上で回答した場合でも、有意な違いがなかった。
 
(注1)アンケートでよく使われる方法で、1〜5の順序尺度(ordinal scale)で回答を得る方法。英語では Likert scale(リッカート尺度)と呼ぶ。例えばこの商品に満足していますか?という質問に対し、以下のような選択肢から答える方法。
1.全くそう思わない 2.あまりそう思わない 3.どちらともいえない 4.ややそう思う 5.とてもそう思う
 
 鶏卵においても基本項目として、居住地では福井県、三重県において、また、写真ありの群では月に1〜3回卵を購入すると回答した人が、写真なしで回答した群よりも有意に多く、年収に関しても200万円未満の人が有意に多かった。ほかの項目に関しては2群に有意差はなかった。有意差のあった項目(肉を選ぶときの選択肢である肉の部位、価格、肉の色、料理の用途)を5件法で数量化して平均値で検定を行ったところ、すべての項目において有意な差はなかった。スーパーマーケットの写真などなく文字のみのアンケートに回答した場合でも、写真を見た上で回答した場合でも、鶏肉のアンケート同様に、回答に有意な差がなかった。
 結果として、普通にアンケートに回答した場合でも、写真を見た上で回答した場合でも、回答された情報に統計的な差がないことが分かった。AWや鶏肉・鶏卵に関する消費行動に関しては、写真の有無により考えが大きく変わることはなく、写真ありと写真なしの両群の回答を一緒に考えても問題はないと言える。よって、本研究の統計処理は鶏肉の消費者2000人、卵の消費者2000人の結果として算出した。
 
<鶏肉に関するアンケート>
 アンケートに回答した2000人の内訳は、男性1144人(57.2%)、女性845人(42.3%)、答えたくない11人(0.6%)であった。年代としては、50代と60代の回答者が多かった(図1)。職業は、正社員の会社員が748人(37.4%)と最も多かった(図2)。また、家族年収は200万円から400万円が500人(25%)と多く、1000万円以上の家庭は13.6%であった(図3)。
 アンケート回答者の居住地はすべて都道府県で聞いているが、地域ごとにまとめると関東地方が最も多く、都道府県別では東京都が303人(15.2%)で最も多く、次いで大阪府の179人(9.0%)、神奈川県の176人(8.8%)、他100人以上の回答数が得られたのは埼玉県、千葉県、愛知県、兵庫県であった。一方、少数回答は5人(0.3%)の沖縄県と9人(0.5%)の福井県であった。回答者は、アンケートに回答する条件として1カ月に1回以上は鶏肉を購入していることとしたが、回答者の購入頻度は37.9%の人が週に1回程度鶏肉を購入しており、32.7%の人が月に2〜3回購入していた。
 鶏肉を購入する際にどのようなことを重視するのか、価格、消費期限、産地などの項目について、「とても重視する」から「全く重視しない」までの五つの選択肢からそれぞれ一つずつ選んでもらった。価格、消費期限、産地、肉の色や見栄え、部位、料理の用途は選ぶ際に重要視する傾向があるが、鶏の飼育方法や生産農家の名前、さらに銘柄(ブランド)に関してはあまり気にしていないことがわかった(図4)。
 鶏肉を購入する際の価値の置き方を聞いた上で、AWに関する知識を確認したところ、「聞いたことがない」、「全く知らない」と回答した人が2000人中1400人以上おり(70%以上)、残念ながら消費者には「アニマルウェルフェア」の言葉が浸透していないことが確認された(図5)。男女差をカイ二乗検定(注2)で統計処理をすると、男性の方が認知度が有意に高かった(p<0.001)が、男女ともにAWに関して「全く見聞きしたことはない」人が圧倒的に多かった。
 
(注2)カイ二乗検定は「観測されたデータ」と「期待されるデータ(理論上の分布)」の間に差があるかどうかを調べる統計的検定。
 
 アンケート上に、AWとは何かを記載し、その考え方は大切かを聞いたところ、474人(23.7%)が「とても大切だと思う」と回答し、811人(40.6%)が「まあまあ大切なことだと思う」と回答している。587人(29.4%)が「どちらともいえない」、残りが「大切とは思わない」と回答した。
 アンケート上でAWについて記載した上で、ブロイラーと地鶏の飼育の違いを記載し、改めて図4に示した内容と全く同じ質問をしたところ、回答に変化が見られた。価格や消費期限、産地などは同様に重要視されるが、鶏の飼育法に関しては重要視したいとした人がわずかに増えている。AWとそれを取り入れるために努力をしている生産者に関しては、情報を伝えることで意識が変化することが分かった(図6)。
 価格について、「とても重視する」を1、「どちらともいえない」を3、「まったく重視しない」を5として購入時の意識を聞くと、価格を重要視する人の平均値は1.79±0.797であったが、動物福祉についての記載を読んだ後の同平均値は1.91±0.803になった。一元配置分散分析(注3)により、価格に対する意識は有意に変化した(p<0.001)。
 また、飼育方法に関しては、重要度の平均値は3.14±0.968であったが、AWについての記載を読んだ後の同平均値は2.66±0.961となり、一元配置分散分析により、飼育方法に関してより重要性を見出す回答者が有意に増加した(p<0.001)。
 
(注3)一元配置分散分析とは、3群以上の平均の差を検定するための統計的方法。
 
 もし、AWを考慮した飼育をすることで鶏肉の値段が上がった場合に購入できるかを問うたところ、価格が上がると買い控えする人は2000人中687人(34.4%)いるが、価格の変動の理由が分かれば、生産者を応援したい消費者もいることが今回明らかになった(図7)。
 また、スーパーマーケットで鶏肉を購入する際にパッケージに鶏の飼育方法が記載されていた場合、購入の参考にするか問うたところ、「ややそう思う」、「とてもそう思う」と回答した人が942人(47.1%)であった(図8)。年収による考えの違いをグラフに著したが、AWの知識を得た前後の行動に大きな違いはなかった(図9)。

 
 





  

















 
 
<卵に関するアンケート>
 アンケートに回答した2000人の内訳は、男性1190人(59.5%)、女性807人(40.4%)、答えたくない3人(0.2%)であった。年代としては、50代と60代の回答者が多かった(図10)。職業は、正社員の会社員が725人(36.3%)と最も多かった(図11)。また、家族年収は、200万円から400万円が488人(24.4%)と多く、1000万円以上の家庭は13.0%であった(図12)。
 アンケート回答者の居住地はすべて都道府県で聞いているが、地域ごとにまとめると関東地方が最も多く、都道府県別では東京都が311人(15.6%)で最も多く、次いで神奈川県の179人(9.0%)、大阪府の174人(8.7%)、100人以上の回答数が得られたのは埼玉県、千葉県、愛知県、兵庫県、北海道であった。少数回答は4人(0.2%)の島根県、5人(0.3%)の鳥取県と高知県、6人(0.3%)の沖縄県であった。回答者は、アンケートに回答する条件として月に1回以上は卵を購入していることとしたが、回答者の購入頻度は46.9%の人が週に1回程度卵を購入しており、30.7%の人が月に2〜3回、1.75%の人がほぼ毎日購入していた。
 卵の販売価格(令和6年7月平均)については、「とても高いと思う」が416人(20.8%)、「やや高いと思う」が823人(41.2%)と両者で6割以上を占めた(図13)。
 卵を購入する際に重要視する項目については、価格と消費期限が重要視される傾向が見られるが、鶏肉同様に、鶏の飼育方法や生産農家の名前、銘柄(ブランド)などに関してはあまり重要視されていなかった(図14)。
 卵に関しての回答者にも、鶏肉のアンケート同様にAWに関する認知度を問うたところ、1077人(53.9%)が「全く見聞きしはことはない(本アンケートで初めて見聞きした)」と回答し、AWという言葉を「見聞きしたことはないと思う」と回答した人が277人(13.9%)いた。両者を合計すると、7割近くに及んだ(図15)。しかし、AWに関してアンケート上で説明することで、AWは「とても大切だと思う」が531人(26.6%)、「まあまあ大切なことだと思う」が826人(41.3%)と両者で7割近くを占め、「あまり大切なことだと思わない・全く大切なことだと思わない」と回答した90人(4.5%)を大きく超えた。この傾向は、鶏肉のアンケートと同様である。
 AWの説明を行った上で、図14で示した内容と同じ質問をしたところ、図16のような結果となった。説明前の回答と同様に卵の価格は重要であるが、鶏の飼い方に関する興味が少し増加しているのが見える(図16)。
 価格について、「とても重視する」を1、「どちらともいえない」を3、「まったく重視しない」を5として購入の時の意識を聞くと、価格を重要視する人の平均値は1.68±0.768だったが、AWについての記載を読んだ後の同平均値は1.85±0.801になった。一元配置分散分析により、価格に対する意識は有意に変化した(p<0.001)。
 また、飼育方法に関しては、重要度の平均は「どちらともいえない」が多く、その値は3.28±1.029であったが、AWについての記載を読んだ後の飼育方法に関する価値の平均は、「やや重視する」、「とても重視する」を選ぶ人が多く2.67±1.034となり、一元配置分散分析により、飼育方法に関してより重要性を見出す回答者が有意に増加した(p<0.001)。
 AWに興味があっても、卵の値段が上がってしまう場合に購入するかの質問に対しては、2000人の回答者数のうち764人(38.2%)がその時の平均的な価格(令和6年7月当時はLサイズ10個当たり税込260円)以上の値段になったら購入しないと回答しているが、300円なら購入したいと回答した人が446人(22.3%)おり、265円から300円までなら購入するとした回答者の計は1033人(51.7%)に及んだ。400円以上になってもよいと回答した人も、58人(2.9%)存在した。この結果から、6割程度の人は、生産者の努力に対して対価を支払うことは「可能」としている(図17)。
 今後、卵を購入する際に、鶏の飼育方法の記載があれば参考にしたいと考える人は、2000人のうち927人(46.4%)であった。668人(33.4%)は「どちらともいえない」を選んでいる(図18)。飼育方法を記載して販売することで、AWや飼育方法に関する知識があれば、それを選択する消費者は増える可能性がある。
 また、「平飼いたまご」はさまざまなスーパーマーケットでも見られるようになり、あえて購入している消費者も増えているので、アンケートで回答してもらった。実際には、「まったく見聞きしたことはない(本アンケートで初めて見聞きした)」および「見聞きしたことはないと思う」と回答した人が1093人(54.7%)という結果となり、AWという言葉や考え方とともに、平飼いなどの生産者の取り組みが消費者にあまり伝わっていないことが示唆された(図19)。
 最後に年収によってその考えの違いをグラフに著したが、AWへの知識を得た前後の行動に大きな違いはない(図20)。































4 考察

 AW(動物福祉)に関する意識は以前より高くなっているはずだが(Clark et al. 2016、Gautron et al. 2021)、実際にはいかに安く購入できるかが重要視され、普段の知識や感情と実際の消費行動に乖離かいりがあるのではないかと考え、AWの知識と消費行動に関するアンケート調査を実施した。
 今回のアンケートを通して、AWに対する知識や興味を持っている人がそもそも少ない、あるいは知識がない人が圧倒的に多いことがわかった。一般消費者はAWや畜産現場のことを知らないため、スーパーマーケットに行っても、AWを考慮して生産された畜産物を優先的に購入したいなどの考えを持つことがなく、商品に記載された範囲の情報で商品を選択・購入していることが多いことが分かった。消費者にはAWに関する知識を持ってもらい、西欧の先進諸国のようにどのような商品を選び、購入したいか、消費者が自ら考えて選択できるような素地を作る必要がある。
 今回の調査では、AWとは何か、なぜ大切かを農林水産省のウェブサイトの文言で説明し、AWを考慮した生産がなぜ大切かを簡単にアンケート紙面に説明するだけで、回答者は興味を持つようになり、情報の内容によっては今以上の値段を支払ってもよいと考えていることが分かった。AWを導入していく世界の動向は今後も変わらないものと考えられる。AWを考慮した畜産物を消費者にもっと積極的に伝える方法として、例えば小学校・中学校の食育の時に伝えたり、生鮮食品売り場で伝えたりしていくこと、あるいはリスキリングなど、大人の学習の場で広げていくことで消費者は理解し、今より少し値段が上がっても、AWを取り入れている生産者を応援すべく、商品を購入していくのではないか。
2016年にはISO/TS34700が発行され、国際的な認証制度の基盤が整いつつある(佐藤 2019)。よりグローバルに受け入れられる畜産を目指せるように今後の消費者への啓発と教育が肝要であり、また、どこにどのような形で啓発していけばより効率的かを考えていく必要がある。
 
【参考文献】
佐藤衆介 2019「アニマルウェルフェア向上の畜産的意義と国内外の動き」 J of Farm Animal in Infectious Disease 8(2)35-41
農林水産省 アニマルウェルフェアに関する飼養指針
Animal Protection Index
Clark B, Stewart GB, Panzone LA, Kyriazakis I, Frewer LJ. A Systematic
    Review of Public Attitudes, Perceptions and Behaviours Towards
    Production Diseases Associated with Farm Animal Welfare.
    Journal of Agricultural and Environmental Ethics. 2016;29(3)
         :455-478.doi:10.1007/s10806-016-9615-x
Gautron J, Réhault-Godbert S, van de Braak TGH, Dunn IC. Review:
         What are the challenges facing the table egg industry in the
         next decades and what can be done to address them?
          Animal. 2021;15. doi:10.1016/j.animal.2021.100282