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話題 畜産の情報 2026年1月号

日本航空が“地域”とつなげる “ヒト”と“モノ” ―JAL公式産直ECショップ「SORAKARA OTODOKE」(空からお届け)

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日本航空株式会社 貨物郵便本部事業推進部 マネジャー 遠藤 朋美

1 はじめに:JAL公式産直ECショップ「SORAKARA OTODOKE(空からお届け)」とは

 JAL公式産直EC(電子商取引)ショップ「SORAKARA OTODOKE(空からお届け)」(以下「JAL産直ECショップ」という)は、日本航空株式会社(JAL)がJALモール(注1)内に開設した産地直送(産直)のECショップです(写真1)。「旅で出会った“日本の地域の逸品”を、“旅アト”に生産者から産直で購入できる」点が特徴となっており、2023年5月の開業以降、累計で約300の事業者より約1500の地域産品をご出品いただいています(2025年11月現在)。
また、一部商品は、 JALグループの航空輸送ネットワークを活用し、地域から採れたての生鮮品や作りたてのスイーツなどを「空輸」で最短即日にお届けする「新しい産直」です。
 
(注1)約3000万人のJALマイレージバンク会員を主要顧客とする総合ショッピングサイトで、JALのマイルが「つかえる」、「たまる」ことが特徴です。
 

 
<特徴:新感覚の産直体験を>
(1) JAL厳選の生産者のこだわり旬食材
(2) JALだからできる最短即日「空からお届け便」

2 事業開始の背景:なぜJALが産直をはじめたのか?

 2023年の事業開始の背景として、1)物流の2024年問題、2)地域の高齢化、3)コロナ禍による対面中心の販路の縮小−などの社会課題への対応が挙げられます。JALが地域の生産者とともに「地域産品の魅力を発信する」ことで、微力ながら地域活性化やフードロス削減、物流対策への一助になるべく、本事業を開始しました。
 今中期経営計画(2021〜25年度)においても、JALグループでは、ESG(注2)戦略の一環として「『移動』を通じた『関係・つながり』を創造する」ことを掲げており、当事業はその具体策の一つです。
 当事業を通じてJALが「地域の翼」になり、“地域”、“ヒト”、“モノ”をつなぐ好循環に貢献してまいります。
 現地に行かないと食べられない「地域の逸品」をお客様に産直でお運びするとともに、JALの産直体験を通じて「地域へ人を呼ぶ」といった新たなつながりの創出に、JALグループの事業横断で取り組んでいます。
 
(注2)「Environment(環境)」、「Social(社会)」、「Governance(ガバナンス/企業統治)」の三つの頭文字を組み合わせた言葉。企業経営や投資判断の中心的なテーマである「持続可能性」を測る基準として注目されている。

3 出品事例のご紹介

(1)福岡県柳川市
豊作ファーム/株式会社&rich(エンリッチ)
 黒毛和牛「豊作和牛」を出品中の福岡県柳川市の豊作ファーム/株式会社&rich(エンリッチ)は、「福岡県肉畜共進会」での農林水産大臣賞受賞をはじめ、福岡県・九州管内においても多くの賞を受賞しており、JAL産直ECショップでもリピーターが多い出品者です(写真2)。
 





 
 豊作ファームは、循環型農業を基盤に「唯一無二の味わい」を追求する「豊作和牛」とお米を生産しています。先代である父の江口農産牧場から続く循環型農業を引き継ぎ、環境と地域に優しいサスティナブルな農業を約40年間実践し続けています。
 
 <豊作ファームのこだわり>
1)自家配合の飼料
 自家配合の飼料を使用し、ビール粕を主成分にしたオリジナル飼料を牛の体調に合わせて細かく調整し、牛に負担をかけないように与えています。
2)循環型農業
豊作ファームは柳川市に8町(注3)の水田を有する米農家でもあり、減農薬米を育てています。減農薬米の水田で牛由来の堆肥を活かし、多様な微生物が分解して作り出される肥沃ひよくな土壌で甘みと芳醇さのある米を生産しています。また、秋の稲刈りを終えた後に乾燥させた稲わらを牛に与え、豊作和牛の唯一無二の味わいを生み出しています。
 
(注3)1町は、約0.99ヘクタール。
 
3)生産から販売まで
 生産から販売までを包括的に手がけていることも特筆すべき点です。
 弟の江口豊作氏が豊作和牛の生産を担当(豊作ファーム)、兄の幸司氏が食肉流通の経験を活かして精肉の加工と販売を担当(株式会社&rich)しています。福岡食肉市場で豊作ファーム産の1頭を競り落とし、信頼のおける食肉精肉工場に委託した後、飲食店や消費者に「豊作和牛」として届けています。
 
コロナ禍で開始したEC販売が軌道に乗る中、JALからの打診
 豊作ファーム/株式会社&richが他の産直サイトにて一般販売を開始したのは、まさにコロナ禍の時期でした。当社がJAL産直ECショップへの出品を打診したのは、少しずつその影響が和らぎ、「販売をより広げていきたい!」と思っていたタイミングだったといいます。『空からお届け』という新しいサービスの理念と、「豊作和牛」をより多くの方に知っていただきたい・食べていただきたいという想いが合致し、出品を決意されました。
 JALの担当責任者と福岡食肉市場で豊作ファームの枝肉や市場内を見学し、お肉業界や産直についてお話させていただいたことが、今でもとても印象に残っているとのことです。
 立ち上がったばかりのJAL産直ECショップでしたので、ゆっくりのスタートかな…と思っていらっしゃったそうですが、お客様からのリアクションが早く、1年目からたくさんの発注があったことはうれしい驚きだったとおっしゃっていました。「『空からお届け』に出品することで、全国津々浦々、多くの方に『豊作和牛』をお届けできていることをとても感謝している」と評価いただいています。
 
(2)山形県・寒河江市
株式会社アンスリーファーム
 株式会社アンスリーファームは、山形県寒河江さがえ市でサクランボ、桃、ブドウ、西洋梨などを生産しています。JAL産直ECショップ開業時より本事業に参加され、JAL産直ECショップにおける年間売り上げ上位の生産者を表彰する「SORAKARA OTODOKE年間アワード」を、2024年、25年に連続で獲得されました(写真3)。
 


 
地域の高齢化に伴う耕作放棄地の増加と農業担い手不足の深刻化
 株式会社アンスリーファームの所在する寒河江市では、近年、地域の高齢化により耕作放棄地が増加し、農業の担い手不足が深刻化しています。こうした状況の中、2016年に20〜30代の若手数名で株式会社アンスリーファームを設立。農業界の高齢化によって担い手が減少し、耕作放棄地が増え続ける中、場を借り受けて生産を続けています。
 
コロナ禍により催事・対面販売中心の販路が縮小。地域や対面にとどまらない販売拡大が必須に
 事業開始後は、畑の面積拡大に伴い、催事や対面での販売が中心でしたが、2020年以降はコロナ禍の影響を受け、地域や対面にとどまらない販路を開拓する必要があると考えられていたそうです。
 そのような中、23年にオープン間近のJAL産直ECショップを知り、出品を開始されました。これにより、従来の地域限定の販路から一歩進み、全国の航空機利用者や消費者へ直接商品を届けることができるようになり、新たな顧客層との出会いにつながったといいます。
 また、JALが開催するイベントにて、朝に収穫したての農産品を空輸して当日中に試食を提供するなど、JALとの連携イベントで新たなファンを獲得することができたともおっしゃっていました(写真4)。


4 出品の効果

JALならではの「空輸」で即日配送、「空からお届け便」
 JALならではの航空輸送ネットワークを活用し、地域から首都圏へ採れたての生鮮品や作りたての加工品を「空輸」で最短即日にお客様にお届けできる「空からお届け便」は、他の産直にないサービスです。
 豊作ファームおよび株式会社&richは、希少な黒毛和牛の「生牛タン」を福岡空港から、また、株式会社アンスリーファームは、朝収穫したてのサクランボを山形空港から、それぞれ羽田空港を経由し、JAL便で首都圏のお客様にその日のうちにお届けしています。
 両出品者より、「鮮度に差が出る商品を空輸で一番おいしいタイミングでお客様にお届けできるのはJALだけ」と当サービスを評価いただいています。「一般的に手に入りにくい黒毛和牛のタン、しかも『一度も冷凍していない生のタンを空輸』で、特別に新鮮なままお客様の元へお届けできるのはJALならではであり、画期的」と豊作ファーム/株式会社&richの江口幸司氏はおっしゃっています。
 
JALのブランドと信頼を活用したプロモーション
 豊作ファーム/株式会社&rich の江口幸司氏は、JAL産直ECショップを通じて「生産にかける情熱・こだわり」や、お客様がお肉を購入する際には見ることのできない「生産背景のストーリーを発信できる」点も評価しています。また、ECサイトのお客様からのフィードバックを得られることで、サービス改善にもつながり、生産者と消費者がつながる循環型消費を実現する一助となっているとのことです。
 株式会社アンスリーファーム専務取締役の川合祥吾氏は、「JAL産直ECショップの信頼あるブランドを背に、サイト内の特集掲載や、JAL産直ECショップのSORAKARA OTODOKE年間アワード受賞による注目度アップが販路拡大の後押しとなっている」と出品の効果を評価しています。
 また、お客様の声を活かし、商品の改良や発送対応の最適化を進めることで、「顧客満足度向上と口コミによる販路拡大がかない、当ファームへの引き合いや訪問者の増加、信頼向上も実現しています」とも語られていました。
 JALは、上述の事例に挙げた企業様をはじめ、地域の魅力発信や課題解決を共創させていただける全国地域の生産者様によるJAL産直ECショップへのご出品をお待ちしております。

5 海外へ地域の魅力発信、新たな取り組み紹介

 JAL産直ECショップのほか、地域の魅力ある産品を海外へ発信する新たな取り組みとして、日本が誇る「和牛」を対象とした海外向けお土産サービスを2024年秋より開始いたしました。このような活動を通じ、地域の魅力ある日本の食文化を海外に届ける一助となることで、JALは一層の地域の価値向上をめざしています。
 
■JAL和牛お土産サービス
 (米国、シンガポール向け)
 「JAL和牛お土産サービス」では、和牛肉の「調達」、「梱包」、「輸出検疫」をお客様に代わりJALが代行します(写真5)。厳選した高品質な和牛肉を、ストレスフリーにかつ、現地販売価格より安価にお土産としてご購入いただける便利でお得なサービスです。
 
 
 
 今回皆様にご紹介した、JAL公式産直ECショップ『SORAKARA OTODOKE(空からお届け)』や、JAL和牛お土産サービスといった取り組みは、JALが手掛ける地域事業の一つにすぎませんが、これらの取り組みを通じ、JALは「地域の翼」として国内外の多様なニーズに応えてまいります。
 また、地域産品の販路拡大にとどまらず、JALグループの事業横断で地域の架け橋となり、わが国の農林水産物・食品の新たな需要を創出するとともに、地域資源を活かした観光振興や交流人口の拡大に努め、地域社会や日本全体の活性化のモデルづくりを推進してまいります。
 
 
【プロフィール】
遠藤 朋美(えんどう ともみ)
日本航空株式会社 貨物郵便本部事業推進部 マネジャー
2023年より、JAL公式産直ECショップ「SORAKARA OTODOKE(空からお届け)」、JAL和牛お土産サービスの新規事業立ち上げから、運営を担当。