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海外情報 米国牛肉輸出 畜産の情報 2026年1月号

米国向け日本産牛肉輸出促進に向けた業界などにおける取り組み

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調査情報部

【要約】

  日本産牛肉の米国向け輸出については、ニューヨークなどの大都市を中心に商流を拡大してきた。今後の日本産牛肉の商流拡大には、新興地域や日系以外の現地系流通業者への展開が重要となる。民間事業者による営業活動に加え、関係機関によるプロモーションなども実施されている。関係機関が連携し、プロモーション活動および通関などの課題解決に取り組んでいくとともに、米国国内での存在感をより強くアピールしていく必要がある。

1 はじめに

 日本産農林水産物・食品の海外輸出促進については、民間事業者などによる活動に対して、農林水産省を中心とした関係機関がそれぞれの目的に応じて側面的な支援を実施している。ここでは、米国向けの主要な輸出品目である牛肉について、現地での販売状況や課題に加え、関係機関の役割分担や具体的な活動内容について紹介する。なお、日本から米国へ輸出される牛肉のほとんどは和牛肉であることから、本稿では和牛肉について記載している。
なお、本文中の為替レートは、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」2025年11月末TTS相場の1米ドル157.63円を使用した。

2 米国における食肉・牛肉の生産・消費動向

(1)米国の食肉生産動向

 米国では、2021〜23年に発生した大規模な干ばつや、メキシコで確認されたラセンウジバエによる生体牛の輸入停止などの影響により、牛飼養頭数が減少し、牛肉生産量も減少している。米国農務省(USDA)が11月に公表した世界農業需給予測(WASDE)によれば、25年の年間牛肉生産量は1171万7000トンと予測されており、これは前年比で4.5%減少することとなる。牛肉の生産量減少は、飼料であるトウモロコシ価格の下落による豚肉や鶏肉の生産量の増加とは対照的な状況である。米国連邦政府は25年10月に牛肉産業強化計画(注1)を発表したものの、生産量の回復には数年単位の期間を要すると見込まれている。業界関係者への聞き取りによると、政府による政策の断続的な変更による不安定さも影響し、生産者が長期的な牛群再構築の計画を立てにくい状況が続いているとのことである。
 
(注1)詳細については、海外情報「アルゼンチン産牛肉の輸入拡大の意向と牛肉産業強化計画を発表(米国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_004236.html)をご参照ください。
 
 国内需要を補うため、米国は豪州、ブラジル、カナダなどから多くの牛肉を輸入している。25年1〜8月の米国の枝肉重量ベースの牛肉輸入量は173万353トンとなっており、前年同期比25.8%増となっている(表1、図1)。米国は同年4月以降、世界各国・地域に対して相互関税および追加関税を課しているが、価格高騰が顕著な牛肉を含む一部の品目については同年10月に相互関税を撤廃した。米国の牛肉輸入には低関税枠の数量が設けられており、豪州、ニュージーランド、アルゼンチン、ウルグアイのように単独で低関税枠の数量が定められる国とブラジルやEU、日本などのように「その他」カテゴリーとして低関税枠の数量を共有する国・地域がある。日本が含まれる「その他」においては、低関税枠内であれば、1キログラム当たり4.4米セント(6.9円)の従量税が課されるが、枠外では26.4%の従価税が課されることになっている。
 





 
 

(2)米国の食肉消費動向

 米国は世界最大の牛肉消費国であり、米国農務省経済調査局(USDA/ERS)によると、2025年の1人当たり牛肉消費量(製品重量ベース)は、前年比1.0%減の26.5キログラム、26年は25年と比較して2.7%減の25.8キログラムと予測されている。消費者の購買傾向としては、米国国内の景気減速に伴い外食需要が減少しているほか、牛肉価格の高騰も影響し、安価なひき肉への需要が高まっている。一方で、特別な日にステーキなどを消費する場合には、よりプレミア感のある商品の需要が高まっているとされており、「消費の二極化」が進んでいる。
 牛肉の購入・消費は、飲食店、スーパーマーケット、精肉店、通販などで行われている。ステーキで多く用いられるロイン系部位(リブロース、サーロイン、フィレ)に加え、バーベキュー用としてショートリブ(うちばら)やスペアリブ、ブリスケット(かたばら)、ローストビーフ用のもも肉などの非ロイン系部位も幅広く販売されている。また、近年、アジア系以外の小売店舗において、薄切り肉を販売する店舗が増えている。
 米国で特徴的なのは、ハンバーガー用パティが家庭調理用として販売されていることであり、食肉処理施設でもひき肉とともにパティを製造する動きも見られている(図2)。また、調味液で味付けされているなど、自宅においても簡単に調理ができるような商品も多くなっている。一方、レストランやステーキハウス、ファストフードなどの飲食店では提供スタイルが多様であるが、一般的な米国人の牛肉消費スタイルとしては、ステーキやハンバーガー、メキシコ料理のタコスなどが代表的である。


 

コラム 米国の飲食店での牛肉の消費形態について

 米国は、世界最大の牛肉生産量を誇るとともに、牛肉の消費量も世界最大である。主要な消費形態であるステーキは、会食を含め誕生日や記念日など幅広いシーンにおいて活用される(コラム―図1)。ステーキは比較的リーズナブルな価格帯から高価格帯まで幅広いバリエーションの飲食店において提供されるが、特に高級な店舗では骨付きのまま提供されることが多い。
 


 
 また、一部店舗では、ドライエイジング(乾燥熟成)を行った牛肉を仕入れている。ドライエイジングとは、牛肉を温度と気流を管理した貯蔵庫で一定期間保管することにより、風味と食感などを高めるものである(コラム―図2)。こうしたステーキの中には、自前の施設でドライエイジング処理が行われている場合もあり、ステーキハウス以外にも、高級ホテルやレストランにおいて特定の消費者の嗜好しこうやリクエストに応じて提供されることが多い。
 

 
 ハンバーガーのパティ原料は、チャックロールやブリスケットなどの非ロイン系やトリミング材部位が中心となっている。
 ひき肉用に用いられる牛肉は米国産のものも含まれるが、ブラジルや豪州などから輸入されたものが特に使用されている。ハンバーガーは、ファストフード店に限らず幅広い飲食店で提供されており、30種類以上のメニューをハンバーガーだけで占めている店舗もある。

3 日本産牛肉の米国内での流通および課題について

(1)日本産牛肉の米国への輸入状況について

 前述の通り、米国に輸入される牛肉には低関税の関税割当制度の数量枠(TRQ)が設けられている。日本は「その他」のカテゴリーに含まれ、TRQは6万5005トンである。2022年以降、この枠は毎年1月から5月の間に全量が消化されているが、近年では消化のタイミングがさらに早まっており、25年は1月17日に全量が消化された(図3)。枠の消化分の大半をブラジル産牛肉が占めており、24年は6万2458トン(その他TRQの96.8%)であった。また、TRQ内のほとんどは冷凍品であり、同年は6万3994トン(同98.2%)であった。これは、ブラジルが米国内で大きな需要があるひき肉用の牛肉を、年末にかけて米国の港内の保税エリアで冷凍保管して、年明けと同時に通関するためである。
 



 
 日本から米国への牛肉輸出は、指定施設で食肉処理されたものに限られている。25年5月1日にIHミートパッカー株式会社が新たに輸出可能な施設として認定され、対米国輸出施設における日本国内認定施設は合計17となった(図4)。




 
 米国における日本産牛肉の輸入量は、USDAの統計によると2024年は合計で1939.2トン(前年比19.6%増)と大幅に増加した(図5、表2)。輸入時期については、前述の通り、TRQ枠を活用してより多くの米国内での在庫を確保するため、近年では1〜2月の輸入量が最も多くなっており、TRQ枠の消化後は24年第3四半期までは毎月100トン前後、第4四半期以降は100数十トン前後で推移している。25年は1月の輸入量が特に多く、また、4月以降の相互関税措置を前に追加輸入が進んだ結果、6〜7月の輸入量は前年同期を大幅に上回った。1〜8月までの累計で前年の輸入量を超え、2082トンとなっており、米国内の流通や在庫は増加している。
 





 
 
 日本からの牛肉の輸入については、距離的なメリットやこれまでの取扱量が多く通関トラブルの頻度が低い、カリフォルニア州のロサンゼルス・ロングビーチ港(LA・LB港)やロサンゼルス空港が使用されることが多い(図6)。なお、LA・LB港は、米国が取引を行うコンテナ量の約4割が取り扱われているとされており、特にアジア圏との取引で大きな割合を占める。ハリケーンや吹雪などの影響を受けにくく天候が安定しており、鉄道やトラックへのアクセスの良いことが理由となっている。
 一部の日本産牛肉は、シカゴ(イリノイ州)、ニューアーク(ニュージャージー州)などから航空貨物として輸入されることもあり、輸入後は、主にトラックおよび鉄道で各企業の拠点まで配送される。
 



 
 日本産牛肉は、これまで人口が多く所得が高いエリアで消費されてきた。特に、ニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコ、マイアミ、ラスベガスなどの大都市ではこれまで多くの事業者が日本産牛肉の販売を行ってきたため、需要に対する供給はほぼ飽和状態であるとされる(図7)。一方、これらの地域においては、住宅費の高騰や税負担を背景に、新型コロナウイルス感染症(COVID−19)の感染拡大以降、テキサス州などの地域への移住が広がっており、日本産牛肉の消費地もそれに応じて徐々に広がりを見せている。シカゴ、フィラデルフィア、ヒューストン、ダラスなどはすでに日本産牛肉の流通が進んできているところであるが、サンアントニオ、オースティン、フェニックス、アトランタ、シャーロット、シアトル、デンバーなどが新たな注目地域となっている。 




 

(2)商流拡大に向けた課題について

 日本産牛肉の商流は、日本国内の産地から北米向け輸出施設や輸出事業者を経て、米国内の輸入事業者やディストリビューター(卸売事業者)からレストラン・小売店などの実需者に供給され、現地の消費者まで販売される仕組みとなっている(図8)。
 



 
 現時点で、米国内での日本産牛肉の輸入は、日系の輸入事業者が大部分を担っている。その先の流通については、米国内に拠点を置くディストリビューターや実需者の顧客基盤の維持・獲得が、輸出拡大に向けた重要な要素となる。特に大きなポイントは、1)大都市圏以外の地域における新たな商流の獲得、2)既存の商流の中における取引量や非ロイン系部位などの取扱商品の拡大−である(図9)。
 



 
 日本産牛肉は、日米間の商習慣や販売形態などの違いにより、日系およびアジア系のレストランや小売での商流を拡大しやすい傾向があり、実際に日系・アジア系の顧客を多く見かける。一方、大都市圏以外では日系・アジア系の人口割合が少なく、レストランや小売も少ないため、新興市場を開拓していくためには、そもそもの日本に対する認知度を高めつつ、現地の外食産業や食生活の中で活用される食材としての日本産牛肉のプロモーションを積極的に行っていくことが重要である。
 米国には畜産業に関する全米規模および州ごとの協議会や業界団体があり、独自のネットワークが食肉の流通に関する情報交換の場にもなっている。日系企業がこのようなネットワークへ参入するのは容易ではないが、地域の経済活動や教育活動への貢献が新たな商流につながる場合もある。最近では、中西部の総合大学において日系企業が協力した高校生向けの教育プログラムが地域内コミュニティで評価されたことにより、地域の畜産関係事業者間で情報が共有され、米国で数百店舗の展開を行う小売店と新たな日本産牛肉の販売に向けた取引が開始された例がある。
 輸出促進に取り組む日本の事業者にとっては、一般的な営業活動や流通管理だけではなく、プロモーション活動やきめ細やかなカスタマーサービス、教育指導ができるようなチームを構築することが有用となっている。米国内での販売を拡大するためには、パートナーとなる現地のディストリビューターや実需者の信頼を獲得し、消費者に対して価格に見合う納得感や感動を与えられるストーリーを説明してもらうことが不可欠である。日本産牛肉は米国内で流通する一般的な牛肉などと比較しておおよそ2〜3倍以上の高価格で販売されているが、付加価値を理解する顧客・消費者に対して、適正な価格で販売することで、サプライチェーンを通じて利益を出すことができる。価格競争を避けつつ、米国で特にハイエンドなマーケットへの商流を拡大するためには、例えば、最終消費者から食感についてクレームが発生したときに調理時のカットの方法や事前の下処理についてシェフに助言したり、季節や催しのスケジュールに合わせて販売する部位や形態の変更を精肉店のブッチャー(注2)へ提案したりするなど、宝石や車の販売にも通じるようなきめ細かな対応が求められると言える。
 なお、米国へ輸出されている日本産牛肉の大部分はロイン系部位であり、米国において日系・アジア系以外の飲食店や肉を専門に取り扱う精肉店では、非ロイン系部位はほとんど取り扱われることはなかった。引き続き、消費はロイン系部位を使用したステーキが中心ではあるが、飲食店においてはあぶりにした状態で寿司ネタとして提供するほか、前菜やどんぶりのような形態での提供も増加しつつある(図10)。また、最近では日系・アジア系の飲食スタイルである焼き肉や火鍋などのメニューにおいて、日本産牛肉の非ロイン系部位が使用されることもあり、そのような需要に応じた輸出も始まってきている。大都市以外では日本産牛肉の使用・喫食経験自体が無い実需者や消費者がほとんどであり、米国内で新規市場へ商流を拡大していく場合には、まずはロイン系部位のプロモーションを進め、流通量を確保しながら必要に応じて新たな部位として非ロイン系部位の提案を行っていくこととなる。
 
(注2)ブッチャーは、肉の品質を見極めながらブロックからステーキ用のポーションなどへ切り分けて提供することを専門とする職人。精肉店でブッチャー自らがオーナーとなって販売促進に取り組む例もある。
 



 
 また、米国内の販路拡大における課題に加え、輸入通関および米国内における流通・配送にもハードルがある。牛肉輸入については、前述の通りTRQが設けられており、輸入者にとっては消化時期が不明瞭である。予想以上に早く消化された場合、高額な関税が課されてコスト増につながってしまう。低関税枠内で輸入する場合、冷凍で輸入した上で長期間保管されることになるが、米国の飲食店では冷蔵牛肉をステーキなどに使用するため、冷凍で保管されてきた日本産牛肉については、実需者による品質に対する誤解や値下げの要求が生じる可能性がある。
 加えて、米国内の通関時に一定の課題があり、例えば、商品の箱に和牛(Wagyu)などの表記がある場合、事前に米国農務省食品安全検査局(USDA/FSIS)への品種登録が必要となる。登録がない場合、通関およびUSDA/FSISによる確認のため想定以上の時間がかかる場合がある。また、輸入時にはランダムで開封検査が行われ、開封されたブロック肉については、通関後の移動の最中に品質が著しく低下することがあるため、事業者にとっては大きな損失となってしまう(図11)。さらに、米国内の拠点での倉庫への積み下ろしや配送時などの物流体制についても、盗難のリスクや冷蔵・冷凍の商品が顧客の玄関口に放置される事例もあるため、適切な輸送パートナーを見つける必要がある。
 



 

(3)関係機関および業界の取り組み

 民間事業者が行う日本産牛肉の輸出については、農林水産省を中心とした関係機関がそれぞれの役割に応じて側面的な支援を実施している。主な活動機関としては、一般社団法人日本畜産物輸出促進協会(J–LEC)、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)および日本食品海外プロモーションセンター(JFOODO)などがある(図12)。
 


 
 J–LECについては、日本国内の会員企業や産地と調整しながら日本産牛肉をオールジャパンブランドとして世界各国・地域におけるプロモーションを行っている(図13)。米国においては、特にダラスやフェニックスといった新興地域を中心としたセミナーイベントを開催し、現地の実需者であるディストリビューターやレストランシェフなどを対象に日本産牛肉に関する情報提供・発信に加え、ブロック肉を小さなポーションに切り分けるカッティングデモンストレーションや日本産牛肉を活用したメニューの紹介、ビジネスマッチングなどを行っている。メニューの紹介については、非ロイン系部位を含め、米国の消費形態に合わせて各地域の著名なシェフが開発したレシピブックを取りまとめており、新たに日本産牛肉を導入したレストランなどでも速やかに活用できるようになっている。また、民間事業者と連携した米国への試験輸出による輸入通関時における課題調査、JETROと連携したシェフや精肉店のブッチャー養成機関(Culinary Institute of AmericaおよびRange Meat Academy)における教育活動や新規ディストリビューターの招聘しょうへいなどに取り組んでいる。
 


 
 JETROについては、日本国内に加え世界各国・地域において事務所があることから、現地の市場情報や規制状況などに関する情報提供やブリーフィングの実施、食品見本市への出展支援、現地企業とのマッチングや商談会の機会の提供などを行っている。特に米国への日本産牛肉の輸出については、ディストリビューターや実需者向け(B向け)と最終消費者向け(C向け)のプロモーションをそれぞれ個別商流に着目し、新興市場におけるプロモーションを実施している(図14)。具体的には、日本産牛肉輸入事業者とディストリビューターが組み合わさった実需者へのセミナー活動、実需者による最終消費者へのプロモーション活動などを組み合わせたものであり、振興地域を対象にした日本産牛肉の商流開拓に加え、既存の商流に対して非ロイン系部位の活用についても提案を行っている(図15)。また、上述のJ–LECが実施するものに加え、JETROにおいても牛肉を含む日本産食材に関する教育活動をシェフなどの養成機関で実施している。米国では食肉に関する団体や会合が多数あり、米国の関係事業者が集まるAnnual Meat Conferenceなどの会合・展示会での日本産牛肉のPRやウェブ掲載記事における周知活動などを通じて日本産牛肉の商流拡大に取り組んでいる。
 




 
 
 J–LECやJETROに加えて、JFOODOによる消費者向けに特化したプロモーションが行われているほか、都道府県によっては、自治体・生産者・輸出事業者が一体となったコンソーシアムが組織されており、米国において知事によるトップセールスや地域に特化したブランド牛のプロモーション活動が行われている。また、日本産牛肉をめぐる規制や関税などの課題を解決するため、在米日本大使館や日本総領事館は現地の専門家や関係団体と連携の上、当局間との交渉、規制情報の発信などを行っている。

4 今後の見通し(活動の方向性)

  日本産牛肉の輸出促進に向けては、既存商流を維持しつつ大都市圏以外の新興地域への展開を進めていくことが極めて重要である。大規模な見本市への出展などは継続的に実施されているが、日本産牛肉の輸出拡大に当たっては、より地方都市のコミュニティに入っていくため、各州において開催されるフェアや、現地の業界団体などが開催するような展示会・会合でのプレゼンスを示していくべきと考えられる。そのため、今後も食肉に関する展示会や会合について情報のアップデートを行いながら、米国内の業界団体内に向けた発信や日本産牛肉を取り扱う事業者に対する適切な市場情報の提供など行い、中長期的な期間でプロモーションに取り組んでいくことが重要である。
 また、米国において展開する日本の関連機関については、それぞれ独立したプロモーションを展開している状況であるため、現地の米系および日系企業からは各機関の役割分担や活動内容が分かりにくいという声も上がっている。そのため、各機関が実施しているプロモーション活動や情報をまとめて発信できるような仕組みや一体感を持った活動が行われるよう、調整が進められている。

5 おわりに

 米国においては、2025年の第二次トランプ政権発足以降、世界各国・地域に対する相互関税・追加関税が講じられ、各国・地域との二国間交渉や規制などの変更が断続的に続いている。また、これまでの記録の中で最長となった連邦政府機能の一部閉鎖や連邦政府職員の大幅な削減に向けた動きもあり、米国内の経済政策や統計情報に対して多くの不確実性が存在している状況である。そのような中、米国内の企業には、雇用を削減したり、食材の仕入れを延期させたりするような動きもあり、被雇用者である多くの消費者の支出も減少している状況である。
 高価格である日本産牛肉のレストランや小売店での販路拡大については、消費者の支出が減少することによって厳しい状況が続いているものの、新興市場および現地系商流獲得に向けては、活発な取り組みが行われている。米国内の特に日系輸入事業者・ディストリビューターの営業・プロモーション活動により、日本産牛肉の裾野は広がり続けており、今後も関係者の連携を促進し効率よく活動ができるよう貢献していきたい。
 
(JETROニューヨーク 中島 勝紘)