(1)中国の大豆の生産動向
全体的に見て、中国の大豆生産は緩やかに拡大している(図1)。
生産量を見ると、中国は世界第4位の大豆生産国となるが、米国、ブラジル、アルゼンチンとの間にはかなり大きな差がある。中国の大豆生産量は、1990年から2022年までの間に、1100万トンから2028万トンへと1.8倍に増加し、この間の年平均増加率は1.9%であった。
この変化は、大きく三つの段階を経たものと考えられる。
(第一段階)
2005年以前は、大豆需要の拡大に伴う輸入量の増加が国内の大豆生産に与える影響は顕在化していなかった。02年の政府による第一次大豆振興計画の効果により、国内の大豆生産量は増加を続け、04年に1740万トンと過去最高を記録した。
(第二段階)
国外からの影響として、2005年以降、海外の安価な大豆が国内市場に大量に流入したことにより、国内の大豆産業の成長が停滞した。一方、国内では、1)生産者に対して不十分な補助金制度、2)主要産地の悪天候−が重なり、農家は大豆と比較してより収益が見込めるトウモロコシなどの競合作物の栽培へと次々に転向した。これらの国内外からの二重の影響によって大豆生産量は減少を続け、15年には1179万トンとなり、直近の25年間で最低を記録した。
(第三段階)
2016年以降、政府による農業の供給側の構造改革の推進が始まった。トウモロコシの臨時備蓄政策(機構注2)を取りやめ、大豆生産者への補助金政策を策定し、大豆の栽培が奨励されるようになった。これにより、18年の大豆生産量は1597万トンにまで回復した。さらに、19年以降は政府の第二次大豆振興計画によって、大豆油糧作物生産能力向上事業などの政策が推進され、22年の大豆生産量は2028万トンに達し、1949年以来の最高記録となった。
また、単位面積当たりの生産量(単収)の推移を見ると、その低さが、中国の大豆生産性向上が緩やかであることの要因であり、これまでの変化は三つの段階に分類することができる。
(第一段階)
1990年から2000年代初頭まで単収は急速に増加し、02年には1ヘクタール当たり1892キログラムに達した(図1)。
(第二段階)
2003年以降は変動が大きく、07年は単収が1ヘクタール当たり1453キログラムとなり、1992年の実績に相当する数値にまで落ち込んだ。
(第三段階)
2008年以降、機械化、栽培面積の拡大、育種技術などの向上が進み、22年には単収が1ヘクタール当たり1980キログラムに回復した。この時期には、主産地の異常気象の影響も見られたが、全体としては増加傾向であった。
しかし、22年の主要大豆生産国の単収と比較した場合、米国は1ヘクタール当たり3332キログラム(中国の1.7倍)、ブラジルは同2954キログラム(同1.5倍)、アルゼンチンは同2763キログラム(同1.4倍)であった。また、中国は単収の低さだけではなく、農産物間の価格調整機能も欠けている。農家にとって、トウモロコシなどの競合作物を栽培する方がより高い収益が得られるため、大豆栽培に適した耕地にこれらの競合作物を栽培することで、大豆の単収が向上しないといった悪循環が生じる。
(2)中国の大豆の消費動向
大豆は生産性の向上が緩やかである一方、中国国内の大豆需要は急速に増加した(図2)。消費量の推移を見ると、1990年の1168万トンから2022年には1億1396万トンと約9.8倍に増加し、この間の年平均増加率は約7.4%であった。用途別に見ると、最も消費量が多いのは大豆油かす用の圧搾需要である。1990年から2020年には、圧搾消費量は570万トンから9368万トンへと増加し、この間の年平均増加率は9.1%であり、圧搾需要が大豆消費量全体に占める割合も48.9%から82.2%へと拡大した。食生活の構造が転換した初期には、食用油の消費が動物性油脂と菜種油中心であったが、大豆油へと変化したことで大豆油の消費が圧搾需要の急速な増加をけん引した。食生活の構造がさらに変化すると、動物性食品、特に肉類の消費が増加し、家畜飼料用としての大豆油かすの需要が拡大したことで大豆の圧搾需要が高まった。こうした構造の転換により、大豆油は大豆油かすを生産する過程の副産物に転じた。このほか、食用やその他の消費量にもそれぞれ増加したが、22年の消費量全体に占める割合は、食用が6.6%(755万トン)、その他が11.2%(1272万トン)と、全体に占める割合はそれぞれ低かった。
(3)中国の大豆輸入動向
国内の大豆生産は、急増する圧搾需要を満たすことができず、需給のギャップが拡大し、輸入量が年々増加した(図3)。1996年から中国は大豆の純輸入国となり、大豆需給のギャップは96年の475万トンから2022年には9366万トンと、19.7倍に増加した。22年の大豆輸入量は9108万トンで、世界の輸出量の59.7%、国内の消費量の80.6%を占めた。輸入先の内訳は、米国が2953万トン(前年比273万トン減)で輸入量全体の32.4%、ブラジルが5439万トン(同375万トン減)で同59.7%となった。このほか、アルゼンチン、ウルグアイからの大豆輸入量も増えているが、輸入量全体に占める割合はあまり高くない。