(1)試料調製
供試した発酵TMRは、熊本県内のTMRセンターで製造・販売されている製品である。本製品は飼料用米、醤油粕あるいはビール粕などの国産飼料を主原料としている。成分設計値として、粗タンパク質(CP)は22%DM(乾物量)、可消化養分総量(TDN)は65%DMである。これを同一製造ロットを指定して購入し、以下の嗜好試験に用いた。
(2)嗜好性試験
開封から一定期間を経た発酵TMRを用いて、和牛による嗜好性試験を実施した。嗜好性試験には、開封後13日間経過した発酵TMRを給与する変敗区と、試験当日の朝に開封する対照区を設けた。変敗区の発酵TMRは、開封後、ほぐしてから山積みにして好気条件で放置(1日1回攪拌)し、品温が30度以上になったことを確認してから試験に用いた。嗜好性試験は、黒毛和種育成牛4頭(平均月齢8.5カ月、平均体重238.8kg)を供試し、一対比較法で行った。一対比較法は、2種類の発酵TMRを左右別々の飼槽に同時に給与し、150分間の採食量をそれぞれ測定する方法で行った。牛が片方の飼槽の飼料を好んで摂取する可能性の影響(飼料の位置の影響)を排除するため、給与開始から30分後に左右の飼料の位置を入れ替えた。試験終了時に残飼を個別に回収し、重量を測定するとともに、給与量の差から飼料摂取量を算出した。嗜好性試験における飼料摂取量の差を分散分析により統計解析を行った。嗜好性試験に用いた発酵TMRサンプルは、嗜好性試験当日の朝に採取し、嗅覚官能評価および発酵品質等評価に用いた。
(3)嗅覚官能評価
ア 嗅覚官能評価
嗅覚官能評価とは、ヒトの嗅覚で捉えた匂いを言葉で表現して数値化するための手法である。ヒトの嗅覚は個人差があることから、嗅覚官能評価の嗅ぎ手(パネル)の選定には十分な配慮が必要である。パネルの選定は悪臭防止法に準拠し、5種基準臭(パネル選定用基準臭、第一薬品産業)を嗅ぎ分ける嗅覚試験に合格した20代の女性4人、男性4人(基礎疾患および喫煙歴は無し)を採用した。嗅覚官能評価に際しては、嗅覚測定法安全管理マニュアルに準じて十分に安全を期した。また、1)実験に使用する試料は一般生活環境に存在するものであること、2)実験中も途中退席が可能であること、3)個人データが特定できるような解析は行わないこと―をパネルに説明して了解を得た後に、当研究グループの管理の下で実施した。
採取された発酵TMR試料の嗅覚官能評価では、“匂い強度”と“匂いの印象”を評価した(写真)。匂い強度は、試料内容を隠した容器から匂いを直接嗅いで評価した。匂い強度表示法は、0:無臭、1:やっと感知できる、2:何かわかる、3:楽に感知できる、4:強い、5:強烈という表記をした。匂いの印象は、パネルによる自由回答とした。
イ 匂い物質の捕集法およびGC-O分析法
本研究では、発酵TMR試料の匂い物質を対象とした化学分析によって、主要な匂い物質の同定を試みた。それぞれの試料をガラスフラスコ内に封入して吸着材で捕集し、匂い嗅ぎガスクロマトグラフ(GC-O)を用いて分析した(図1)。匂い物質を含む揮発性有機化合物(VOCs)はMonoTrap(RGPS:ジーエルサイエンス、東京)を用いて捕集した。試料を採取した直後に、ガラス容器のヘッドスペースにMonoTrapを投入し、1時間捕集した。VOCsを捕集したMonoTrapは、速やかに加熱脱着装置用の脱着管に移して真鍮キャップを取り付けた。試料は4度で保管し、3時間以内に機器分析に供試した。
GC-O分析は、匂い嗅ぎ装置(スニッフィングポート、OP275:ジーエルサイエンス、東京)をGC-FID(GC2010Plus:島津製作所、京都)に装備したものである(以下「GC-O/FID」という)。捕集済みMonoTrapは、加熱脱着装置(ポータブルサーマルディソーバー、HandyTD TD265:ジーエルサイエンス、東京:ハンディTD)を用いて注入した。GCキャピラリカラムは、DB-5MS(長さ60メートル〈m〉、内径0.32ミリメートル〈mm〉、膜厚0.5マイクロメートル〈μm〉:Agilent J&W、CA、USA:DB5)、および異なる液相をもつInertCap Pure-WAX(長さ60m、内径0.32mm、膜厚0.5μm: ジーエルサイエンス、東京:WAX)を用いた。本研究では一つの試料を、DB-5MSを用いた分析(GC-O/FID(DB5))およびInertCap Pure-WAXカラムを用いた分析(GC-O/FID(WAX))に供試した。GC-O/FID分析前には、混合アルカン溶液(C6〜C20:ジーエルサイエンス、東京)を測定することで保持指標(Retention Index:RI)を算出した。
GC-O/FID分析を実施するパネルは、事前トレーニングとして同一の模擬試料を複数回分析し、良好な再現性が得られた3人(20代の女性パネル1人、男性パネル2人)を採用した。GC-O/FID分析でパネルが感知した匂いに関する三つの情報(匂いを感知したRI、匂いの印象、匂いの強度)は、音声認識ソフトウェア(Olfactory Voicegram:ジーエルサイエンス、東京)を用いて記録した。それらのGC-O分析で感知された情報は「匂い活性(Odor activity:OA)」と表記した。試料のGC-O/FID分析の結果は、パネル3人が3回ずつGC-O/FID分析を実施し、得られた全員の結果の中で3分の2以上の割合で保持時間と匂いの印象が一致したものをOAとして採用した。
ウ GC-MSノンターゲット分析法
匂い物質を含む幅広いVOCsを検出するため、ガスクロマトグラフィー質量分析計(TQ8040:島津製作所、京都。以下「GC-MS」という)を用いたGC-MSノンターゲット分析に着手した。分析にはGC-Oと同じWAXカラムを、検出にはElectron Impact(EI)スキャンモード(m/z 40-250)を用いた。分析前に混合アルカン溶液(C6〜C30)を測定し、RIを算出した。捕集済みMonoTrapに内部標準物質(シクロヘキサノン:1 ナノグラム〈ng〉相当)を添加し、HandyTDを用いて注入した。物質の仮同定(アノテーション)には、匂い物質に特化したデータベースであるAromaOffice(西川計測、東京)を用いた。AromaOfficeアロマサーチを用い、マスクロマトグラムをデコンボリューションするとともに、RIデータベースおよびマススペクトルライブラリ(NIST14)を同時検索することで物質を特定した。検索結果において、ライブラリ検索の一致率が70%以上、かつRIの差異が±30以内の物質をリストアップした。仮同定物質リストは、多変量解析で利用した。
エ 匂いセンサー分析
匂いセンサーとして、匂い識別装置(FF-2、島津製作所)を用いた。試料は、発酵TMRを3グラム(g)分取してサンプリングバッグ(3リットル)に封入し、高純度窒素ガス約2リットルを注入したものを40 ℃の乾燥庫内で1時間静置した。乾燥庫内からバッグを取り出して室温になじませたのち、新しいサンプリングバッグ(3リットル)の口と口とをテフロンチューブで接続し、ヘッドスペースガスのみを新しいバッグに移したものをサンプルガスとした。
(4)発酵品質、飼料成分およびアミノ酸組成分析
発酵TMRサンプルについて、変敗の指標として、発酵品質、飼料成分、微生物生菌数およびアミノ酸組成を測定した。発酵品質では、pH(水素イオン濃度)、揮発性塩基態窒素(VBN)/全窒素(T-N)および有機酸を測定した。pHは、ガラス電極pHメーターにより測定した。VBNは微量拡散法、T-Nは燃焼法(改良デュマ法)窒素・タンパク質測定装置(デュマサーム、ゲルハルト・ジャパン)で測定した。有機酸含量の測定は、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)による方法で行った。飼料成分は粗脂肪(EE)、CP、粗灰分(CA)、中性デタージェント繊維(NDFom)、酸性デタージェント繊維(ADFom)および酸性デタージェントリグニン(ADL)を常法により定量した。微生物生菌数の測定は、平板培養法を用いて行った。サンプリングおよび分注したコンパクトドライ(YMおよびTC、ニッスイ)を25℃で3〜5日間培養し、一般細菌、カビおよび酵母の生菌数をカウントした。生菌数(CFU/gFM)はカウント数×希釈率を用いて行った。アミノ酸の分析では、試料を6N塩酸で110℃、24時間の酸加水分解後、高速アミノ酸分析計(L-8900、日立ハイテクノロジーズ)により測定した。