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調査・報告 発酵TMR 畜産の情報 2026年2月号

好気的変敗が進行する発酵TMRの嗜好性に影響を及ぼす匂い物質とアミノ酸組成の変化

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東海大学 農学部 教授 服部 育男
佐賀大学 農学部 准教授 上野 大介
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター
暖地畜産研究領域 細田 謙次、今成 麻衣、森 欣順、河内 大介
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【要約】

 発酵TMRの好気的変敗による匂い、アミノ酸の変動と嗜好しこう性の関係を検討した。飼料用米、醤油粕などの国産飼料を主原料としている発酵TMRについて、開封後13日経過した飼料(変敗区)と、試験当日の朝に開封した飼料(対照区)を用い、黒毛和種育成牛4頭による嗜好性試験を行った。飼料摂取量は変敗区で有意に高く、変敗区の嗜好性が高かった。発酵TMRの匂い嗅ぎガスクロマトグラフ分析では、対照区と変敗区で明らかに異なる匂いの印象が検知された。変敗区の発酵TMRは好気性微生物の増殖、pHの上昇と酢酸の減少が認められたが、飼料成分に顕著な差は見られなかったことから、変敗の進行程度は初期段階であると考えられ、匂いの違いは酢酸などの分解に由来すると推察された。嗜好性の違いに酢酸が影響している可能性は高く、味覚と嗅覚の両方に作用していると考えられるが、どちらに強く作用しているかは不明であった。嗜好性に影響する匂いの成分、あるいは特徴は、匂いセンサーなどにより判別できる可能性が高いことが示唆された。

1 背景と目的

 わが国の畜産業で使用する飼料の自給率は26%(令和6年度概算)であり、飼料の多くを輸入に依存している。輸入飼料の価格は、生産地での異常気象や新興国との需要の競合、海上輸送費の上昇などにより上昇基調であったところに、世界情勢不安や円安が追い打ちをかけ、近年高い水準で推移している。今後、前述の飼料価格に影響を与える諸要因が飼料価格を下げる方向に劇的に変化することは考えにくいため、これまでの輸入飼料に依存した不安定な畜産の生産構造から、安定的に供給され低コストでもある国内飼料資源を活用した生産構造に転換することが急務である。
 国内飼料資源の有効利用に資する技術として、近年、完全混合飼料(TMR、給与される牛にとって必要な栄養成分が含まれている飼料)を発酵させて長期保存を可能にした発酵TMRとその製造、配布を行うTMRセンターが各地で設立されている。
 しかし、酪農経営では、発酵TMR による給与法が長年にわたり用いられてきた一方で、肉用牛経営では輸入品が主な原料である配合飼料と粗飼料を用いることが主流であったため、多くの肉用牛経営では発酵TMRになじみがなく、肉用牛向けの発酵TMR の普及が進んでいない。
 肉用牛の経営形態は繁殖、肥育および繁殖肥育一貫経営であるが、1戸当たりの飼養頭数は全国平均で76.3頭と、乳用牛の114.4頭と比較して少ない。また、頭数規模別経営体数を見ると、10頭未満の経営体が39%を占めている(農林水産省「畜産統計調査」)。そのため、一般的な500〜900キログラム程度に梱包された発酵TMRを利用する場合、酪農経営と比較して1梱包の使い切りに長い期間を要する。発酵TMRは50%程度の水分を含む「生もの」であることから、開封後、長期にわたって利用した場合、好気的変敗と呼ばれる腐敗が生じる。腐敗が生じた発酵TMRは嗜好性が低下することから、廃棄することとなる。好気的変敗は、発熱状況やカビの発生程度によって腐敗程度を評価しているのが現状であるが、これらは必ずしも牛の採食性の低下と一致しない。すなわち、変敗の程度によっては、発熱しなくても1日で採食量が減少するものもあれば、発熱が確認されても1週間程度は採食するものもある。そのため、廃棄の判断が難しく、このことが肉用牛経営が発酵TMRの導入をためらう要因の一つとなっている。
 そこで、本稿では牛の採食行動(飼料を給与すると最初に匂いを嗅ぐ)から嗜好性に大きな影響を及ぼすと考えられる匂いに着目し、変敗が進行した発酵TMRの嗜好性と匂いの関係、また、変敗により分解される物質の中で匂いに影響すると想定されるアミノ酸の変動との関係を明らかにする。

2 材料と方法

(1)試料調製

 供試した発酵TMRは、熊本県内のTMRセンターで製造・販売されている製品である。本製品は飼料用米、醤油粕あるいはビール粕などの国産飼料を主原料としている。成分設計値として、粗タンパク質(CP)は22%DM(乾物量)、可消化養分総量(TDN)は65%DMである。これを同一製造ロットを指定して購入し、以下の嗜好試験に用いた。
 

(2)嗜好性試験

 開封から一定期間を経た発酵TMRを用いて、和牛による嗜好性試験を実施した。嗜好性試験には、開封後13日間経過した発酵TMRを給与する変敗区と、試験当日の朝に開封する対照区を設けた。変敗区の発酵TMRは、開封後、ほぐしてから山積みにして好気条件で放置(1日1回攪拌かくはん)し、品温が30度以上になったことを確認してから試験に用いた。嗜好性試験は、黒毛和種育成牛4頭(平均月齢8.5カ月、平均体重238.8kg)を供試し、一対比較法で行った。一対比較法は、2種類の発酵TMRを左右別々の飼槽に同時に給与し、150分間の採食量をそれぞれ測定する方法で行った。牛が片方の飼槽の飼料を好んで摂取する可能性の影響(飼料の位置の影響)を排除するため、給与開始から30分後に左右の飼料の位置を入れ替えた。試験終了時に残飼を個別に回収し、重量を測定するとともに、給与量の差から飼料摂取量を算出した。嗜好性試験における飼料摂取量の差を分散分析により統計解析を行った。嗜好性試験に用いた発酵TMRサンプルは、嗜好性試験当日の朝に採取し、嗅覚官能評価および発酵品質等評価に用いた。
 

(3)嗅覚官能評価

ア 嗅覚官能評価
 嗅覚官能評価とは、ヒトの嗅覚で捉えた匂いを言葉で表現して数値化するための手法である。ヒトの嗅覚は個人差があることから、嗅覚官能評価の嗅ぎ手(パネル)の選定には十分な配慮が必要である。パネルの選定は悪臭防止法に準拠し、5種基準臭(パネル選定用基準臭、第一薬品産業)を嗅ぎ分ける嗅覚試験に合格した20代の女性4人、男性4人(基礎疾患および喫煙歴は無し)を採用した。嗅覚官能評価に際しては、嗅覚測定法安全管理マニュアルに準じて十分に安全を期した。また、1)実験に使用する試料は一般生活環境に存在するものであること、2)実験中も途中退席が可能であること、3)個人データが特定できるような解析は行わないこと―をパネルに説明して了解を得た後に、当研究グループの管理の下で実施した。
 採取された発酵TMR試料の嗅覚官能評価では、“匂い強度”と“匂いの印象”を評価した(写真)。匂い強度は、試料内容を隠した容器から匂いを直接嗅いで評価した。匂い強度表示法は、0:無臭、1:やっと感知できる、2:何かわかる、3:楽に感知できる、4:強い、5:強烈という表記をした。匂いの印象は、パネルによる自由回答とした。
 



 
イ 匂い物質の捕集法およびGC-O分析法
 本研究では、発酵TMR試料の匂い物質を対象とした化学分析によって、主要な匂い物質の同定を試みた。それぞれの試料をガラスフラスコ内に封入して吸着材で捕集し、匂い嗅ぎガスクロマトグラフ(GC-O)を用いて分析した(図1)。匂い物質を含む揮発性有機化合物(VOCs)はMonoTrap(RGPS:ジーエルサイエンス、東京)を用いて捕集した。試料を採取した直後に、ガラス容器のヘッドスペースにMonoTrapを投入し、1時間捕集した。VOCsを捕集したMonoTrapは、速やかに加熱脱着装置用の脱着管に移して真鍮しんちゅうキャップを取り付けた。試料は4度で保管し、3時間以内に機器分析に供試した。
 GC-O分析は、匂い嗅ぎ装置(スニッフィングポート、OP275:ジーエルサイエンス、東京)をGC-FID(GC2010Plus:島津製作所、京都)に装備したものである(以下「GC-O/FID」という)。捕集済みMonoTrapは、加熱脱着装置(ポータブルサーマルディソーバー、HandyTD TD265:ジーエルサイエンス、東京:ハンディTD)を用いて注入した。GCキャピラリカラムは、DB-5MS(長さ60メートル〈m〉、内径0.32ミリメートル〈mm〉、膜厚0.5マイクロメートル〈μm〉:Agilent J&W、CA、USA:DB5)、および異なる液相をもつInertCap Pure-WAX(長さ60m、内径0.32mm、膜厚0.5μm: ジーエルサイエンス、東京:WAX)を用いた。本研究では一つの試料を、DB-5MSを用いた分析(GC-O/FID(DB5))およびInertCap Pure-WAXカラムを用いた分析(GC-O/FID(WAX))に供試した。GC-O/FID分析前には、混合アルカン溶液(C6〜C20:ジーエルサイエンス、東京)を測定することで保持指標(Retention Index:RI)を算出した。
 GC-O/FID分析を実施するパネルは、事前トレーニングとして同一の模擬試料を複数回分析し、良好な再現性が得られた3人(20代の女性パネル1人、男性パネル2人)を採用した。GC-O/FID分析でパネルが感知した匂いに関する三つの情報(匂いを感知したRI、匂いの印象、匂いの強度)は、音声認識ソフトウェア(Olfactory Voicegram:ジーエルサイエンス、東京)を用いて記録した。それらのGC-O分析で感知された情報は「匂い活性(Odor activity:OA)」と表記した。試料のGC-O/FID分析の結果は、パネル3人が3回ずつGC-O/FID分析を実施し、得られた全員の結果の中で3分の2以上の割合で保持時間と匂いの印象が一致したものをOAとして採用した。
 



 
ウ GC-MSノンターゲット分析法
 匂い物質を含む幅広いVOCsを検出するため、ガスクロマトグラフィー質量分析計(TQ8040:島津製作所、京都。以下「GC-MS」という)を用いたGC-MSノンターゲット分析に着手した。分析にはGC-Oと同じWAXカラムを、検出にはElectron Impact(EI)スキャンモード(m/z 40-250)を用いた。分析前に混合アルカン溶液(C6〜C30)を測定し、RIを算出した。捕集済みMonoTrapに内部標準物質(シクロヘキサノン:1 ナノグラム〈ng〉相当)を添加し、HandyTDを用いて注入した。物質の仮同定(アノテーション)には、匂い物質に特化したデータベースであるAromaOffice(西川計測、東京)を用いた。AromaOfficeアロマサーチを用い、マスクロマトグラムをデコンボリューションするとともに、RIデータベースおよびマススペクトルライブラリ(NIST14)を同時検索することで物質を特定した。検索結果において、ライブラリ検索の一致率が70%以上、かつRIの差異が±30以内の物質をリストアップした。仮同定物質リストは、多変量解析で利用した。
 
エ 匂いセンサー分析
 匂いセンサーとして、匂い識別装置(FF-2、島津製作所)を用いた。試料は、発酵TMRを3グラム(g)分取してサンプリングバッグ(3リットル)に封入し、高純度窒素ガス約2リットルを注入したものを40 ℃の乾燥庫内で1時間静置した。乾燥庫内からバッグを取り出して室温になじませたのち、新しいサンプリングバッグ(3リットル)の口と口とをテフロンチューブで接続し、ヘッドスペースガスのみを新しいバッグに移したものをサンプルガスとした。
 

(4)発酵品質、飼料成分およびアミノ酸組成分析

 発酵TMRサンプルについて、変敗の指標として、発酵品質、飼料成分、微生物生菌数およびアミノ酸組成を測定した。発酵品質では、pH(水素イオン濃度)、揮発性塩基態窒素(VBN)/全窒素(T-N)および有機酸を測定した。pHは、ガラス電極pHメーターにより測定した。VBNは微量拡散法、T-Nは燃焼法(改良デュマ法)窒素・タンパク質測定装置(デュマサーム、ゲルハルト・ジャパン)で測定した。有機酸含量の測定は、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)による方法で行った。飼料成分は粗脂肪(EE)、CP、粗灰分(CA)、中性デタージェント繊維(NDFom)、酸性デタージェント繊維(ADFom)および酸性デタージェントリグニン(ADL)を常法により定量した。微生物生菌数の測定は、平板培養法を用いて行った。サンプリングおよび分注したコンパクトドライ(YMおよびTC、ニッスイ)を25℃で3〜5日間培養し、一般細菌、カビおよび酵母の生菌数をカウントした。生菌数(CFU/gFM)はカウント数×希釈率を用いて行った。アミノ酸の分析では、試料を6N塩酸で110℃、24時間の酸加水分解後、高速アミノ酸分析計(L-8900、日立ハイテクノロジーズ)により測定した。

3 結果

(1)嗜好性試験

 図2に嗜好性試験における飼料摂取量を示した。変敗区の飼料摂取量は、対照区のそれと比べて有意に高い値であった。この結果、本試験においては変敗区の嗜好性が高いことが明らかとなった。
 

(2)嗅覚官能評価

ア 嗅覚官能評価
 発酵TMRの嗅覚官能評価の結果を、表1にまとめた。臭気強度を比較すると、対照区は4(強い匂い)、変敗区は3(はっきり分かる匂い)であった。また、匂いの印象を比較すると、対照区からは「フルーティな、甘酒のような」という印象が、変敗区からは「ワラのような、酢酸のような」という印象が見られた。 このように、両試験区は匂いの印象が明確に異なることが明らかとなった。
 



 
イ GC-O分析法
 GC-O/FID分析の結果を図3にまとめた。分析の結果、対照区は保持時間が5〜12分の箇所に「フルーティ」という匂いの印象が感知された。一方で、変敗区の場合、対照区で見られた「フルーティ」という匂いの印象は感知されず、「青草様、ポテト様、甘酸っぱい」という匂いの印象が感知された。これらGC-O分析で感知された匂いの印象の違いは、嗅覚官能評価で感知された匂いの印象と同様のものであった。
 



 
ウ GC-MSノンターゲット分析
 上述したGC-O分析によって対照区および変敗区から放散される匂い物質は、それぞれ明確に異なることが明らかとなった。そこで、これらの匂い物質を特定するため、発酵TMRの匂い物質をGC-MS分析に供試した。分析の結果、約50のピークが検出され、それらピークをRIおよびマススペクトルを用いて仮同定した。それら物質を、表2および表3にまとめた。検出された物質の中では、エステル類が多く、続いてアルコール類が多く検出された。また、一部でアルデヒド類、ケトン類、酸類が検出された。エステル類は一般的に「甘い、フルーティ」な、アルコール類は「酒様の匂い」の印象を持つものが多いことから、発酵TMRの匂い物質として妥当であると考えられる。それらの中で、対照区と比較して変敗区でピークの高さが低減したものを表2に、上昇したものを表3にまとめた。結果として、変敗することでピークの高さが低減する匂い物質が21物質、上昇する物質が12物質検出された。変敗により低減する物質は主にエステル類であり、変敗は嗅覚官能評価によって「フルーティ」という匂いの印象が低減することと一致した。また、新鮮と比較して変敗で上昇する物質として、アルデヒド類やケトン類が挙げられ、これらは「生ぐさ様、油様」という匂いの印象がある。変敗試料の嗅覚官能評価で、「青草様、ポテト様」という匂いの印象が感知されたことと一致した。
 




 
 
エ 匂いセンサー分析
 上述した嗅覚官能評価および化学物質によって、匂いおよび匂い物質を利用して発酵TMRの変敗程度の評価が可能であることが示された。しかし、嗅覚官能評価は個人によって感じ方が異なることから、生産現場における定量的な評価が難しい。また、化学分析では定量的な判定ができるが、分析に手間も費用もかかることから、現実的な判定法とは言い難い。そのような中、本研究では匂いセンサーを利用した判別法に着手した。匂いセンサーによる分析結果を図4に示した。分析の結果、対照区と変敗区では、匂いセンサーの応答に明確な差が見られた。
 



 

(3)発酵品質、飼料成分およびアミノ酸組成分析

 微生物の生菌数を表4に示した。対照区と比較して、変敗区はカビおよび酵母の増殖が認められた。
 



 
 発酵品質の結果を表5に示した。変敗によりpHの上昇と酢酸含量の明らかな減少が認められた。乳酸および酢酸以外のVFA(揮発性脂肪酸:酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸など分子量の小さい脂肪酸)は両区で差はなかった。VBN/T-Nについても、両区に差はなかった。その結果、Vスコア(サイレージの発酵品質の化学的評価法の一つで、100点満点で評価)は対照区が83点、変敗区は89点でともに良の評価となった。
 

 
 飼料成分の結果を表6に示した。飼料成分はどの項目にも顕著な差は見られなかった。
 
 
 アミノ酸組成の結果を表7に示した。アミノ酸含量についても対照区と変敗区で顕著な変動は見られなかった。
 



 
 微生物の増殖状況や有機酸組成の変動から、変敗区では牧草類と同様の好気的変敗が生起したと考えられた。しかし、変敗区の飼料成分やVBN/TNは対照区とほとんど変動していないことから、変敗の進行程度は初期段階と考えられた。

4 考察

 本試験では、変敗した発酵TMRは嗜好性が低下するとの仮定の下、試験を実施したが、嗜好性試験では変敗区の嗜好性が高い結果となった。好気的変敗の進行程度は発酵TMRの品温を目安とし、試験実施 2日前に温度上昇が一度ピークに達したことから変敗が十分に進行したと判断し、嗜好性試験を開始した。しかし、発酵品質や飼料成分の分析結果で示されるように、変敗区の変敗の進行程度は、一般的なサイレージの好気的変敗の進行の第一段階、すなわち、酵母が増殖し、サイレージ中の糖や有機酸を利用することにより、発熱とpHの上昇が生じる段階であったと考えられ、第二段階であるカビによる有機酸の他、タンパク質や細胞壁物質が分解され、悪臭を発する過程にまで進行していなかったと考えられた。そのため、変敗区の嗜好性が悪影響を及ぼさなかったと考えられた。一方、匂い関連分析結果からは、両区に明らかな違いが認められた。官能評価における「刺激臭」や「酸っぱい」、あるいはGC-O分析における「フルーティ」な匂いの消失は、有機酸分析の結果から、変敗の初期段階として酢酸やプロピオン酸などの分解に由来する匂いの変化と推測された。
 一般に飼料中の繊維成分含量は、飼料の堅さや摂取後の第一胃の膨満度に関連し、採食量に影響を及ぼすと考えられている。本試験では、対照区と変敗区で同一製造ロットの発酵TMRを用いるとともに、分析によりすべての飼料成分に両区で差がないことを確認している。加えて、嗜好性試験における第一胃の膨満度への影響を少なくするため、試験期間を短く(150分間)設定した。これらのことから、本試験では飼料成分が嗜好性に及ぼす影響はほとんどなかったと考えられた。一方、飼料の嗜好性に影響を及ぼす化学因子としては、味覚あるいは嗅覚を刺激する化学物質が挙げられる。このうち、酢酸は 0.08%以上でウシが強い拒絶反応を示したことが報告されている(萬田ら1994)。本試験において、変敗区の酢酸含量は0.15%FMで対照区の1.1%FMより少なかったものの、先行研究と比較して拒絶反応を示す高濃度の酢酸を含有していた。従って、酸味が嗜好性の違いに影響しているかは不明である。一方、嗅覚への作用として、変敗区は酢酸の減少に由来すると考えられる「刺激臭」、「酸っぱい」および「フルーティな匂い」の消失が認められており、これら刺激臭などは一般的に嗜好性に負に作用すると考えられることから、嗜好性の改善に寄与したと考えらえた。従って、本嗜好性試験における嗜好性の違いに酢酸が影響している可能性は高く、味覚と嗅覚の両方に作用していると考えられるが、どちらに強く作用しているかは不明であった。一方、本試験における対照区と変敗区における匂いと嗜好性の明確な違いから、匂いが嗜好性に影響を及ぼし、その成分、あるいは匂いの特徴は匂いセンサーなどにより判別できる可能性が高いことが示唆された。また、発酵TMRの変敗に伴う、匂いの変化を測定・評価することにより、嗜好性の変化に基づく給与限界の判断が可能になると考えられた。今後はさらに変敗が進行し、嗜好性が低下した状況下での匂い成分、あるいは匂いの元となる原料の構成が異なる発酵TMRでの匂い成分と嗜好性の関係について、検討する必要がある。
 
【参考文献】
萬田正治・浦田克博・野日鉄也・渡邉昭三. 1994. 牛の味覚に関する行動学的研究. 日本畜産学会報, 65 (4): 362-367.