畜産 畜産分野の各種業務の情報、情報誌「畜産の情報」の記事、統計資料など

ホーム > 畜産 > 畜産の情報 > 中国の牛乳・乳製品産業の現状と発展の方向性

海外情報 中国乳製品 畜産の情報 2026年2月号

中国の牛乳・乳製品産業の現状と発展の方向性

印刷ページ
内蒙古財経大学 准教授 阿拉坦沙アラタンシャ
内蒙古財経大学 准教授 鄭芸テイゲイ
日本獣医生命科学大学 研究生 多藍オオアイ 
★記事の感想を募集しています★
(回答フォームに遷移します。)

【要約】

 近年、中国乳業は着実に発展し、生乳・乳製品生産量が安定的に増加するとともに、品質水準も先進国に匹敵し、市場競争力は強まり続けている。本稿では、中国の乳業・乳製品生産現状、直面している課題および将来の発展方向を総合的に分析し、牛乳・乳製品の高品質化への発展の道筋を探った。
 中国では、政府の政策的支援を通じ、牛乳・乳製品産業の基盤が強化され、新興消費需要と市場潜在力が発揮され、産業全体の「近代化、大規模化、標準化」が進んだ。一方、「低水準生産の能力過剰」と「高付加価値製品の供給不足」が並存する「構造的不均衡」が顕在化し、市場競争の非効率化を招いている。今後、中国政府は、支援・奨励政策をさらに強化し、牛乳・乳製品の品質向上、ブランド化、商品の多様化など高付加価値化を通じて消費者の信頼と評価を高め、牛乳・乳製品産業の最適化を図り、持続可能な発展を目指す必要がある。

1 中国の牛乳・乳製品産業の現状

(1)牛乳・乳製品の生産

 中国では、「伊利」、「蒙牛もうぎゅう」といった世界トップレベルの生産量を誇る乳業メーカーのほか、「光明」、「三元」、「天潤」、「新乳業」など大手の牛乳・乳製品(注1)生産の上場企業が多数存在する。これら乳業が業界をけん引することで、2024年の中国の年間生乳生産量は4079万トンに上り、乳製品(液状乳を含む)と液状乳(牛乳、加工乳、発酵乳など)の生産量(製品ベース)はそれぞれ2962万トン、2745万トンに達している。直近10年間の各生産量を見ると、生乳生産量は、15年から17年までは減少傾向で推移してきたが、17年以降は増加傾向で推移し、年平均増加率は3%を超えている(図1)。乳製品生産量は16年に一度増加した後、増減しつつも、近年は3000万トン前後で推移しており、液状乳生産量も同様の傾向を示すなど、全体として、中国の牛乳・乳製品の生産量は近年、安定した増加傾向で推移している。24年の各生産量は前年比で減少しているが、その要因は乳牛飼育の「周期的変動性」(注2)によるものという見方が強い。
 



 
 このように、中国の乳業は確実に発展している一方、「液状乳が独占的地位を占め(一強)、深度加工製品が不足する」(注3)状況が続いている。統計を見ると、24年の液状乳生産量は乳製品総量の92.7%を占めており(うち超高温殺菌乳(LL牛乳)の割合は7割程度)、バターやチーズなどの深度加工製品の割合は全体の7.3%に満たない(図2)。ホエイパウダーやラクトフェリンなど育児用調整粉乳の主要原料の輸入依存度は、90%を超えている。牛乳・乳製品の均一化は深刻であり、低温殺菌乳(注4)、機能性乳製品、高齢者向け乳製品など、細分化した需要に対する供給が不足し、多様化する消費者ニーズの高まりに対応できていない状況にある。欧米諸国では、生乳の高付加価値化を実現したチーズや育児用調製粉乳など、深度加工品の割合が40%近くであるのに対して、中国では同割合が10%に届かず(注3)、同国産業の改善の必要性が一層高まっている。
 
(注1)本論の「乳製品」、「液状乳」、「低温乳」などの用語については、中国の『企業の乳製品生産許可条件審査細則(2010年版)』に基づく国の監督・抜き取り検査体系の定義を採用している。
(注2)中国では、乳牛飼育の周期的変動性が存在し、市場の需要、業界の意思決定(方針)や輸入する生体牛の頭数の変化などの影響を受けて発生する。一般的に8〜9年周期といわれており、そのうち4〜5年間は「好景気」段階、3〜4年間は「不況」あるいは「調整」段階とされる。
(注3)梁冰清・惠「剩与消不足并存―提振乳品消亟待多方力」、農民日報(2025年7月25日)を参照。
(注4)中国の低温殺菌乳は60〜90度殺菌であり、日本の低温殺菌乳(63〜65度殺菌)とは定義が異なる。本稿中での低温殺菌乳は中国の定義に基づいて使用する。
 




 

(2)牛乳・乳製品の消費

 中国は人口が多く、食品の消費大国であり、牛乳・乳製品の消費も多い。長年にわたり、中国乳業が製造する主な乳製品は液状乳であり、消費者の食文化も牛乳主体で、他の乳製品はそれほど多く消費されないという特徴を有している。中国の1人当たり牛乳・乳製品消費量(製品ベース)を図3に整理した。



 
 
 1人当たり牛乳・乳製品消費量は、2020年まで40キログラムに達していなかったが、21年からは一貫して40キログラムを超えている。『中国住民食事ガイドブック(2022)』(注5)では、1人当たり1日300〜500グラムの牛乳・乳製品の摂取が推奨されているが、現状では同ガイドブックが推奨する摂取量の38%に過ぎず、目標の達成には程遠い。この数量は、中国総人口の平均値であり、牛乳・乳製品をよく消費する者とあまり消費しない者の間のばらつきが大きい点には留意が必要である。中国国家乳牛産業技術体系(注6)の首席科学者の李勝利氏は、「中国人口の約半数が牛乳をまったく飲む習慣がないことを踏まえると、実際の牛乳・乳製品消費者の1人当たり同消費量は80キログラムに達し、この水準は日本や韓国並みである。一方、伝統的な液状乳の消費量は成長の限界に直面している」(注7)と指摘している。
 中国の牛乳・乳製品消費量を地域別に見ると一定の特徴が見られる。まず、内モンゴル自治区、新疆しんきょうウイグル自治区、青海せいかい省、寧夏回族ねいかかいぞく自治区やチベット自治区などの伝統的な牛乳・乳製品生産地域では、サプライチェーンが短く、価格も低いことから、1人当たりの牛乳・乳製品の年間消費量は60〜90キログラムに達している。次に、北京市や上海市、浙江せっこう省、江蘇こうそ省、広東かんとん省などの経済発展が著しい都市部では、消費シーンの多様化などから同43〜55キログラムと多い。一方、南西部、華南地域の一部の省(広西こうせいチワン族自治区、貴州きしゅう省、雲南うんなん省、海南かいなん省、江西こうせい省)及び中部地域の一部の省(河南かなん省、安徽あんき省)では、1)大豆などの植物性たんぱく質の消費が中心であるといった食文化の差異、2)コールドチェーンのカバー率が50〜60%(全国平均は80%)であるといったサプライチェーンの脆弱性、3)1人当たり可処分所得が低いといった消費能力の制約−などから同25〜35キログラムにとどまっている。


 
 
 世界の1人当たり牛乳・乳製品消費量が140キログラムであることを踏まえると、中国の経済成長、国民所得の増加、食品の品質向上、健康意識の向上などから、中国の牛乳・乳製品消費量は今後も伸びると見込まれる。そのような中、「牛乳・乳製品の消費者をいかに増やせるか」、「乳製品の消費をどう拡大させるか」、「生乳の深度加工、多様かつ機能性が豊富な商品をどのように開発するか」、「牛乳・乳製品の品質向上とブランド化の取り組みをどうすべきか」の4点が中国における牛乳・乳製品の消費拡大において打破すべき喫緊の課題と言える。中国農業農村部の乳製品市場アナリストは、「中国の1人当たり牛乳・乳製品消費量はまだまだ少ないが、中国の経済発展に合わせて牛乳・乳製品の消費が急速に伸びていることは事実であり、今後乳製品の消費量が必ず一つ上のレベルに到達する」(注8)と主張している。
 
(注5)『中国居民膳食指南(2022)』、栄養学報(2022、44(6))を参照。
(注6)国家乳牛産業技術体系(National Dairy Industry and Technology System)は、中国現代農業産業技術体系の重要な部分であり、2007年10月に中国農業部(現農業農村部)の許可を得て中国農業大学下に設立された。中国酪農業の発展上の課題と国家戦略のニーズに応じて、酪農関連技術の研究開発、直面している重要な課題の解決、酪農業の政策研究、意思決定の支援などを目的とした団体。
(注7)中国乳製品工業協会第31次年会(2025年5月、南京市)における李勝利氏の講演内容を参照。
(注8)楊禎・程广燕・肖湘怡「国内外の乳製品消費規律とその啓示」、世界農業、2020(11)を参照。
 


 

(3)乳製品の輸入

 中国は、毎年一定数量の乳製品を輸入している。直近10年間の乳製品輸入量(製品ベース)を見ると、2015年までは200万トンに満たなかったが、16年以降は増加傾向で推移し、21年には390万トンに達した(図4)。しかし、その後は減少に転じ、24年は263万トンにとどまった。
 



 
 中国の輸入乳製品は、主にホエイパウダーやラクトフェリンなどの国内加工原料向け、チーズや育児用調製粉乳、液状乳などの直接消費向け、クリームやバターなどのその他加工向けおよび家庭向けとなっている。同国の乳製品輸入は、「原料補充」と「高付加価値商品供給」の二つの役割を担っているため、国内加工技術と原料供給量変動により輸入依存度が変化する。このため、国内の深度加工能力の向上や供給構造の最適化が、輸入依存度を低減するためのカギになると考えられる。

2 中国産牛乳・乳製品の品質

 中国産牛乳・乳製品の品質はどうなっているだろうか。2008年に中国で発生した「メラミン混入事件」により中国産牛乳・乳製品に対する信頼性が大きく低下し、消費者の需要が国産品から輸入品に移行した。これを受け、中国政府が牛乳・乳製品の厳格な監督を行い、企業が品質管理を強化したことが、中国の牛乳・乳製品の安全性と信頼性を着実に向上させる契機となった(写真4)。具体的には、中央政府が08年に『乳品質安全監督管理条例』を公布し、生乳の集乳から消費までの全過程におけるトレース管理・検査の義務付けが挙げられる。その後、複数の政府組織にまたがっていた監督・検査体制が一本化され(現「中国国家市場監督管理総局」)、監督・検査の厳格化、新しい基準の制定、企業の自主的な取り組みの強化などを徹底してきた。
 



 
 中国国家市場監督管理総局の発表によると、24年の乳業への抜き打ち検査では、生乳合格率は100%、乳製品合格率は99.8%と、10年以上連続で高水準を維持している。21年から生乳の新しい国家基準が施行され、細菌数(1ミリリットル当たり総菌数200万CFU(注9)以下)やたんぱく質含有量(100グラム当たり2.8グラム以上)の基準が引き上げられ、EU基準に近づいた。また、有機牛乳やA2型たんぱく質牛乳など高付加価値製品基準も整備され、品質の多様化に対応している。このほか、大手乳業は、「全産業チェーンの管理」を導入し、牛舎の自動化管理、生乳冷蔵輸送、デジタル技術を活用した「一頭一ID」によるトレース管理などにより、生乳品質の安定、安全性の向上に取り組んでいる。
 『中国乳製品品質安全研究報告(2024)』(注10)によると、抜き打ち検査では乳脂肪分の平均値が3.9%、たんぱく質が3.3%と、中国産生乳は品質面で乳業先進国のレベルに達した。また、細菌数、不純物、体細胞数のモニタリング平均値もEU基準を満たし、残留薬物やメラミンなどの主な禁止添加物の抜き打ち検査合格率は15年連続で100%となっており、中国産牛乳・乳製品の品質と安全性は高水準を維持している。
 また、牛乳・乳製品の品質と安全性向上を背景に、消費者の信頼も回復しつつある。中国乳製品工業協会の24年の調査報告書によると、「国産乳製品を信頼する」という消費者は72%に達し(15年は35%)、若者層では「伊利」、「光明」、「蒙牛」などの国産乳業ブランド支持率が80%を超えている。市場動向は、高品質乳製品需要が拡大し、24年の有機乳の市場規模は前年比15%増の680億元(1兆5409億円)(機構注)に達し、低温乳(ヨーグルト、生鮮乳)が市場全体の4割近くを占めるまでに成長した(残りの6割程度は依然として輸入に依存)。一方、育児用調製粉乳市場における輸入品のシェアは35%まで低下(15年は約55%、20年は約45%)するなど、中国産牛乳・乳製品の市場競争力は向上し、消費者の信頼も回復している。このような中国産牛乳・乳製品の品質と安全性の信頼性の回復は、筆者の普段の生活の中でもはっきり感じるものとなっている。とは言え、中国産牛乳・乳製品の高付加価値製品づくりの技術力、国産認証普及率は欧米に比べて非常に低い。中央政府が策定する第14次5カ年計画(2021〜25年)では、牛乳・乳製品の「品質向上・ブランド化」を重点施策に位置付け、改善に取り組んでいる。
 このように、消費者の品質や安全性への要求の高まり、国からの厳格な監督、企業の努力などを背景に、中国産牛乳・乳製品の品質と安全性が劇的に向上しているのは間違いない。一方、消費者の信頼性の回復と乳製品の高品質化が進む中、「安全安心」はもはや「最低基準」でしかなく、中国牛乳・乳製品産業は、「価値向上」と「乳業強国」を目指している。
 
(注9)Colony Forming Unit(コロニー形成単位)。生きている菌の数を表す単位。
(注10)『中国乳製品品質安全研究報告』は、中国農業農村部「乳製品品質安全リスク評価実験室(量安全室)」が編集し、中国農業科学技術出版社が2015年から毎年出版している書物である。主には、中国乳業の品質安全状況および科学技術イノベーションの進展などの内容から構成されている。
(機構注)本文中の為替レートは、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2025年12月末TTS相場(1元=22.66円)を使用した。

コラム モンゴル族の伝統的な乳製品

 主要生乳生産地の一つである内モンゴル自治区のモンゴル族は、牛やヤギ、綿羊、ラクダなどから得られた生乳を用いて製造した乳製品を「白食」と呼んでいる。日常生活やさまざまな活動の中で乳製品が大きな役割を果たしており、ほとんどの牧畜民が乳製品を作ることができる。伝統的な加工方法で作られる乳製品の種類は豊富であり、地域によって作り方、呼び名も多少異なるものの、生乳を発酵させ、脱脂することが前提となっている。モンゴル族の伝統的な乳製品作りを主に三つに分類すると分かりやすい。
 一つ目は分離した乳脂肪を使用した乳製品であり、乳脂肪をそのまま製品とする「ウルム」、ウルムを干した「ハタスンウルム」、ウルムを煮詰めた「シャルトソ」(黄油、バターのようなもの)などがある(コラム―写真1)。これらの製品は乳脂肪のみで作られており、塩など他のものは入っていない。二つ目は脱脂乳(発酵乳)を使用した乳製品であり、発酵乳そのものを製品とする「エゲドソンソウ」(ヨーグルト)、水分(ホエイ)を分離した「ホルド」(中国語で「乳豆腐」)などがある。三つ目は、発酵乳から分離した水分(ホエイ)を再発酵させて製造する「馬乳酒」、「牛乳酒」、「乳酸菌飲料」などの酒類や飲み物である。これらの乳製品は、元々はモンゴル族の自給自足生活における自家用のものである。
 



 
 モンゴル族の乳製品は長年、主に家庭内で作られてきており、小規模で市場流通量も少なかったため、あまり注目されていなかった。しかし近年は、観光業の発展に伴い、都市部において伝統的乳製品に対する需要が増加し、消費地も内モンゴル自治区内にとどまらず周辺地域に拡大し、供給量が不足するなど、非常に大きな発展の可能性を見せている。今日、市場経済の浸透により現代的な商品開発が盛んに行われ、商品が多様化していることは言うまでもない。2024年の内モンゴル自治区の伝統的乳製品の生産加工工房数は1200以上となり、年間生産額は10億元(227億円)を超え、乾燥させたチーズ類の生産量は全国の7割以上を占めている。内モンゴル自治区のフフホト市にはモンゴル族の伝統的乳製品の小型店舗が少なくとも400軒はあり、人気店では店舗売り上げが平日は2万〜3万元(45万〜70万円)、週末は5万〜6万元(113万〜136万円)に達している(コラム―写真2)。このような伝統的乳製品はモンゴル族の消費需要を満たすばかりでなく、他民族の需要にも応えている。
 



 
 各級政府は、モンゴル族の伝統的乳製品の市場競争力を高めるため、ブランド構築に力を入れており、国の農産品地理的表示(コラム注1)保護製品の申請や、「蒙」字認定マーク(コラム注2)、地域認定マーク(コラム注3)などを通じて、製品の知名度や評価を高めている。乳製品デザインへの投資を拡大し、民族文化の豊かな物語を前面に打ち出すことで、乳製品の付加価値を高めている。同時に、EC(電子商取引)や物流も急速に発展しており、モンゴル族の伝統的な乳業市場流通チャネルも拡張し続けている。乳業はオンラインとオフラインを組み合わせ、乳製品を全国各地の市場だけでなく、国際市場にも拡大し、伝統的乳製品をスーパーマーケットや飲食店に直接供給するなど、販売先を拡大している。
 
(コラム注1)中国農業農村部が「農産品地理的表示管理方法」に基づき付与する公的な認定。特定の地域で生産され、その土地の自然環境と歴史・文化が品質や特徴に反映された「一次農産物」(植物、動物、微生物およびそれらを原料とする製品)に与えられ、名称は「地名+商品の一般名」で構成される。
(コラム注2)内モンゴル自治区が中国国家市場監督管理総局に個別に認められた認定。内モンゴル自治区市場監督管理局が管轄し、独自の規格・基準に合致した農畜産品に「蒙」字認定マークを付与して商品の差別化、ブランド力の向上を図り、販売促進に寄与する。
(コラム注3)省や自治区よりも下位の行政区(市や盟、県など)単位でも中国国家市場監督管理総局から個別の地域認定を付与することが認められている。


 

3 中国の牛乳・乳製品産業の課題

 近年の中国の牛乳・乳製品産業には、大きく「需給関係の不均衡」、「構造的な矛盾」、「消費量が不十分」、「品質向上とブランド化」という四つの課題があり、以下でその解決策と発展の方向性について考えたい。
 

(1)需給関係の不均衡

 中国の牛乳・乳製品産業は「北乳南需」、つまり多くの牛乳が生産される北方地域、消費人口が多い南方地域という地域的な需給格差に悩まされている(写真5)。北方地域で生産された生乳は、長距離輸送の必要があり、品質管理に手間を要し、輸送コストも高い。一方、中国国内の乳製品消費量は増加傾向にあるにもかかわらず、国内生産量が不足しており、輸入に依存している。特に原料乳製品の輸入依存が高まると、国際市場の価格変動と輸入乳製品の供給量に左右され、国内で乳製品を製造する企業の安定的な経営が困難となる。
 乳製品の需給バランスを保つためには、地域的供給体制の最適化と輸入依存度の低減が求められる。地域的供給体制の最適化は、消費地近隣地域で酪農を促進し、コールドチェーン整備を通じて達成される。また、国内生産強化と高付加価値製品開発を通じて輸入依存を低減し、国内市場の価格変動リスクを軽減することが重要である。
 



 

(2)構造的な矛盾

 中国の牛乳・乳製品産業は、製品構造の不合理性と産業チェーンの利益分配のゆがみという構造的な矛盾に直面している。中・低価格帯の製品が供給過剰になり、高付加価値製品の供給が不足している。また、酪農家と加工企業間の力関係、つまり利益配分が公平さを欠き、しばしば酪農家の経営が困難となり、生乳生産の持続性を阻害している。
 構造的な矛盾を解決するためには、製品構造の高度化と産業チェーンの利益分配改革が求められる。製品構造の高度化には、研究開発を通じた乳製品の高付加価値化と市場への投入促進が重要となる。一方、酪農家と加工企業間の力関係の改革では、酪農家の価格決定権の確保、農家と企業が公平に価格変動リスクを分担する仕組みの導入が最も重要である。同時に、酪農家支援政策の強化や酪農家と加工企業間の均衡ある協力制度の普及も検討する必要がある。
 

(3)消費量が不十分

 中国の1人当たり乳製品消費量は依然として低く、国際平均を大きく下回っている。特に農村地域ではコールドチェーンの整備不足、乳製品価格の高さ、食習慣などを背景に乳製品消費が抑制されている。また、牛乳を飲む、チーズをそのまま食べるなど、消費方法が限られることも乳製品の消費低迷につながっている。
 牛乳・乳製品の消費拡大のためには、消費習慣の醸成、農村市場開拓、消費シーンの多様化が求められる。具体的には、1)牛乳・乳製品の栄養価値に対する国民一人一人の認知度の向上、2)コールドチェーンの整備、3)低価格・小容量の乳製品開発、4)乳製品と他のフードサービスや菓子類とのコラボレーション商品の開発−などを通じた牛乳・乳製品消費量の引き上げが解決策となる。
 

(4)品質向上とブランド化

 中国の牛乳・乳製品産業は、品質向上とブランド化が遅れており、国際市場競争力が低い。消費者の牛乳・乳製品の品質と安全性への関心は高く、国内ブランドの信頼も高まりつつあるが、依然として不十分であるために輸入品の方が高く評価される傾向にある。
 牛乳・乳製品の品質向上とブランド化を図るためには、生産基準の徹底と品質管理の体制整備、また、中国ブランドの国際的認知度向上のための取り組みが急務である。具体的には、中国国内の生産基準を国際基準に合わせるとともに、生産過程の透明性の確保と品質保証マークの普及など、具体的施策を講じる必要がある。併せて、中国産牛乳・乳製品ブランドの国際的認知度向上のためには、中国ブランドのプロモーションキャンペーンや中国産乳製品の特徴と優位性の宣伝を行い、国際市場への参入を促進する必要がある。

4 おわりに

 本稿では、中国の牛乳・乳製品産業の現状、課題および今後の発展の方向性について検討してきた。近年、消費者の品質と安全性への意識の高まりを背景に、中国政府による厳格な監督や企業による品質管理の強化などの取り組みを通じ、中国産牛乳・乳製品の品質と安全性は着実に向上している。しかし、産業全体では需給関係の不均衡や構造的矛盾、消費量の伸び悩み、品質向上とブランド化など、多くの課題が残されている。
 中国の牛乳・乳製品産業の今後の発展には、政府による政策支援、企業の技術革新と品質向上の努力、酪農家の経営能力向上、消費者の信頼醸成など、多面的な取り組みが欠かせない。特に消費市場は、14億人の人口を抱える中で、1人当たりの牛乳・乳製品の年間消費量が約40キログラムにとどまり、世界平均の約30%に過ぎないことから、今後の成長が大きく期待される。このような中国市場は、国内生産者や乳業のみならず、世界の酪農主要国からも高い関心を集めており、今後の展開を引き続き注視していきたい。
 
【参考引用文献など】
[1]. 梁冰清・惠. 剩与消不足并存―提振乳品消亟待多方力. 農民日報. 2025年7月25日。
[2]. 《中国居民膳食指南(2022)》. . 2022(06)。
[3]. 祯/rp>・程广燕・肖湘怡. 国内外乳制品消律与示. 世界. 2020(11)。
[4]. 智研諮詢(chyxx.com).《中国液状乳業界の市場競争現状及び投資動向分析・予測レポート》(2024)。
[5]. 熊偲皓・王・程广燕. 居民收入乳制品消及作用机制研究[J]. 中国源与区. 2024(45)。
[6]. 夏建民・魏勇・王蔚. 中国牛周期的初探索. 中国乳. 2023(04) 。
[7]. 李利・姚全. 2023年度与技告[J]. 中国畜牧志. 2024(03)。
[8]. 華経情報網(huaon.com)、「2024年中国乳製品輸入数量、金額および平均価格の統計分析」。
[9]. 立.「液量5年来首度,乳品消待打破瓶」. 第一財経. 2025(05)。
[10]. 新浪財経.「乳工程十年蝶:中国的新崛起」. 2025(05)。
[11]. 中国農業農村部市場および情報化司(scs.moa.gov.cn/)。
[12]. 中国乳業協会情報網(www.dac.org.cn/)。
[13]. 中国乳製品工業協会(www.cdia.org.cn/)。
[14]. 中国大数据平台(www.holstein.org.cn/)。
[15]. 中国通関総署(www.customs.gov.cn/)。
[16]. 中国国家統計局(www.stats.gov.cn/)。