(1)牛乳・乳製品の生産
中国では、「伊利」、「蒙牛」といった世界トップレベルの生産量を誇る乳業メーカーのほか、「光明」、「三元」、「天潤」、「新乳業」など大手の牛乳・乳製品(注1)生産の上場企業が多数存在する。これら乳業が業界をけん引することで、2024年の中国の年間生乳生産量は4079万トンに上り、乳製品(液状乳を含む)と液状乳(牛乳、加工乳、発酵乳など)の生産量(製品ベース)はそれぞれ2962万トン、2745万トンに達している。直近10年間の各生産量を見ると、生乳生産量は、15年から17年までは減少傾向で推移してきたが、17年以降は増加傾向で推移し、年平均増加率は3%を超えている(図1)。乳製品生産量は16年に一度増加した後、増減しつつも、近年は3000万トン前後で推移しており、液状乳生産量も同様の傾向を示すなど、全体として、中国の牛乳・乳製品の生産量は近年、安定した増加傾向で推移している。24年の各生産量は前年比で減少しているが、その要因は乳牛飼育の「周期的変動性」(注2)によるものという見方が強い。
このように、中国の乳業は確実に発展している一方、「液状乳が独占的地位を占め(一強)、深度加工製品が不足する」(注3)状況が続いている。統計を見ると、24年の液状乳生産量は乳製品総量の92.7%を占めており(うち超高温殺菌乳(LL牛乳)の割合は7割程度)、バターやチーズなどの深度加工製品の割合は全体の7.3%に満たない(図2)。ホエイパウダーやラクトフェリンなど育児用調整粉乳の主要原料の輸入依存度は、90%を超えている。牛乳・乳製品の均一化は深刻であり、低温殺菌乳(注4)、機能性乳製品、高齢者向け乳製品など、細分化した需要に対する供給が不足し、多様化する消費者ニーズの高まりに対応できていない状況にある。欧米諸国では、生乳の高付加価値化を実現したチーズや育児用調製粉乳など、深度加工品の割合が40%近くであるのに対して、中国では同割合が10%に届かず(注3)、同国産業の改善の必要性が一層高まっている。
(注1)本論の「乳製品」、「液状乳」、「低温乳」などの用語については、中国の『企業の乳製品生産許可条件審査細則(2010年版)』に基づく国の監督・抜き取り検査体系の定義を採用している。
(注2)中国では、乳牛飼育の周期的変動性が存在し、市場の需要、業界の意思決定(方針)や輸入する生体牛の頭数の変化などの影響を受けて発生する。一般的に8〜9年周期といわれており、そのうち4〜5年間は「好景気」段階、3〜4年間は「不況」あるいは「調整」段階とされる。
(注3)梁冰清・杨惠「产能过剩与消费不足并存―提振乳品消费亟待多方发力」、農民日報(2025年7月25日)を参照。
(注4)中国の低温殺菌乳は60〜90度殺菌であり、日本の低温殺菌乳(63〜65度殺菌)とは定義が異なる。本稿中での低温殺菌乳は中国の定義に基づいて使用する。
(2)牛乳・乳製品の消費
中国は人口が多く、食品の消費大国であり、牛乳・乳製品の消費も多い。長年にわたり、中国乳業が製造する主な乳製品は液状乳であり、消費者の食文化も牛乳主体で、他の乳製品はそれほど多く消費されないという特徴を有している。中国の1人当たり牛乳・乳製品消費量(製品ベース)を図3に整理した。
1人当たり牛乳・乳製品消費量は、2020年まで40キログラムに達していなかったが、21年からは一貫して40キログラムを超えている。『中国住民食事ガイドブック(2022)』(注5)では、1人当たり1日300〜500グラムの牛乳・乳製品の摂取が推奨されているが、現状では同ガイドブックが推奨する摂取量の38%に過ぎず、目標の達成には程遠い。この数量は、中国総人口の平均値であり、牛乳・乳製品をよく消費する者とあまり消費しない者の間のばらつきが大きい点には留意が必要である。中国国家乳牛産業技術体系(注6)の首席科学者の李勝利氏は、「中国人口の約半数が牛乳をまったく飲む習慣がないことを踏まえると、実際の牛乳・乳製品消費者の1人当たり同消費量は80キログラムに達し、この水準は日本や韓国並みである。一方、伝統的な液状乳の消費量は成長の限界に直面している」(注7)と指摘している。
中国の牛乳・乳製品消費量を地域別に見ると一定の特徴が見られる。まず、内モンゴル自治区、新疆ウイグル自治区、青海省、寧夏回族自治区やチベット自治区などの伝統的な牛乳・乳製品生産地域では、サプライチェーンが短く、価格も低いことから、1人当たりの牛乳・乳製品の年間消費量は60〜90キログラムに達している。次に、北京市や上海市、浙江省、江蘇省、広東省などの経済発展が著しい都市部では、消費シーンの多様化などから同43〜55キログラムと多い。一方、南西部、華南地域の一部の省(広西チワン族自治区、貴州省、雲南省、海南省、江西省)及び中部地域の一部の省(河南省、安徽省)では、1)大豆などの植物性たんぱく質の消費が中心であるといった食文化の差異、2)コールドチェーンのカバー率が50〜60%(全国平均は80%)であるといったサプライチェーンの脆弱性、3)1人当たり可処分所得が低いといった消費能力の制約−などから同25〜35キログラムにとどまっている。
世界の1人当たり牛乳・乳製品消費量が140キログラムであることを踏まえると、中国の経済成長、国民所得の増加、食品の品質向上、健康意識の向上などから、中国の牛乳・乳製品消費量は今後も伸びると見込まれる。そのような中、「牛乳・乳製品の消費者をいかに増やせるか」、「乳製品の消費をどう拡大させるか」、「生乳の深度加工、多様かつ機能性が豊富な商品をどのように開発するか」、「牛乳・乳製品の品質向上とブランド化の取り組みをどうすべきか」の4点が中国における牛乳・乳製品の消費拡大において打破すべき喫緊の課題と言える。中国農業農村部の乳製品市場アナリストは、「中国の1人当たり牛乳・乳製品消費量はまだまだ少ないが、中国の経済発展に合わせて牛乳・乳製品の消費が急速に伸びていることは事実であり、今後乳製品の消費量が必ず一つ上のレベルに到達する」(注8)と主張している。
(注5)『中国居民膳食指南(2022)』、栄養学報(2022、44(6))を参照。
(注6)国家乳牛産業技術体系(National Dairy Industry and Technology System)は、中国現代農業産業技術体系の重要な部分であり、2007年10月に中国農業部(現農業農村部)の許可を得て中国農業大学下に設立された。中国酪農業の発展上の課題と国家戦略のニーズに応じて、酪農関連技術の研究開発、直面している重要な課題の解決、酪農業の政策研究、意思決定の支援などを目的とした団体。
(注7)中国乳製品工業協会第31次年会(2025年5月、南京市)における李勝利氏の講演内容を参照。
(注8)楊禎妮・程广燕・肖湘怡「国内外の乳製品消費規律とその啓示」、世界農業、2020(11)を参照。
(3)乳製品の輸入
中国は、毎年一定数量の乳製品を輸入している。直近10年間の乳製品輸入量(製品ベース)を見ると、2015年までは200万トンに満たなかったが、16年以降は増加傾向で推移し、21年には390万トンに達した(図4)。しかし、その後は減少に転じ、24年は263万トンにとどまった。
中国の輸入乳製品は、主にホエイパウダーやラクトフェリンなどの国内加工原料向け、チーズや育児用調製粉乳、液状乳などの直接消費向け、クリームやバターなどのその他加工向けおよび家庭向けとなっている。同国の乳製品輸入は、「原料補充」と「高付加価値商品供給」の二つの役割を担っているため、国内加工技術と原料供給量変動により輸入依存度が変化する。このため、国内の深度加工能力の向上や供給構造の最適化が、輸入依存度を低減するためのカギになると考えられる。