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海外情報 中国 畜産の情報 2026年3月号

中国の牛乳・乳製品消費の現状と将来見込み

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調査情報部
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【要約】

 中国では牛乳・乳製品の消費が落ち込み、乳価が低迷している。一方、中国農業農村部は10年後の牛乳・乳製品の消費量が2024年比で3割以上増加すると見込んでいる。しかし、消費の増加の課題として挙げられるように、乳糖不耐症の人の多さ、代替品となる植物性乳やヤギ乳などの動物性乳の種類の多さ、安全性への根強い不信感などは容易に変えられるものではない。牛乳を原材料とするベーカリーや半完成品といった市場の伸びや新商品の開発、また、生産効率の一層の向上による牛乳・乳製品の入手コストの低減などを考量しても、3割以上の増加は見込みがたい。この見込み値は、実需予測に基づくものというより、政府が進めてきた栄養改善政策と増産政策に基づくものと推測できる。中国政府が公表する統計数字の利用に当たっては、数値の正しさだけでなくその数値の利用のされ方にも留意する必要があると思われる。

1 はじめに

 中国では牛乳・乳製品の消費が伸び悩み、乳価の低迷が続いている。
 中国政府は2000年代以降、牛乳・乳製品の消費を喚起してきた。国民の消費意欲が昔から旺盛だった豚肉や家きん肉・家きん卵、あるいは中国北西部など一定の地域で旺盛に消費されてきた羊肉、また、経済成長とともに10年代に消費が急成長した牛肉とも異なり、市場における消費が伸びる前の2000年に政府主導で「学生飲用乳計画」を始めていた。これは国民の栄養改善を目的とするもので、政府がこのような形で全国的に消費を喚起した食品は他にない。当時の牛乳・乳製品政策は生産振興よりも消費増進に主眼があったものと考えられ、そのような中国の関係政策を紹介するときに「酪農業」という単語を用いることに抵抗感を覚えるほどである(産業としての呼び方は中国語では「乳業」であり、「酪農業」は一般的ではない)。08年のメラミン混入事件発生以降、食品の中で最も厳しい安全管理が行われてきたことも牛乳・乳製品政策の特徴の一つである。牛乳・乳製品は、政府のこれらの取り組みにもかかわらず消費が伸び悩み、21年をピークに輸入量も減っている。それが今の中国の牛乳・乳製品の状況である。
 中国の各種畜産物の生産・消費、あるいは輸出入に関する情報に接していると、政府文書では畜産物ごとに決まった表現が用いられることに気付かされる。中国の政治研究では政府文書で用いられる表現の違いから意図を読み取ることがあり、これを牛乳・乳製品に当てはめれば、その「決まった表現」は「1人当たり年間消費量」である。なお、肉牛および乳牛の生産であれば、24年からの決まった表現は肉牛および乳牛産業の「困難の緩和」(中国語では「困」)であった。
 本稿ではこのような概況に基づき、牛乳・乳製品の1人当たり年間消費量を切り口に、消費の現状と将来見込みを紹介する。その理由は、中国農村農業部が公表する畜産物関連統計数字の中で、牛乳・乳製品の10年後の見込み消費量は実数から乖離かいりした過大な数値と考えるためである。
 同部は、毎年「中国農業展望報告」(注1)により農畜水産物ごとの生産、消費、輸出入などの現状や将来見込みを発表している。24年に発表された農畜水産物ごと(豚肉、牛肉、羊肉、家きん肉、家きん卵および牛乳・乳製品)の25年、29年および34年の見込みの中で、将来見込みが実数より過大になる可能性が最も高いと思われるのが牛乳・乳製品である(表1)(注2)
 
(注1)「中国農業展望報告」については、海外情報「中国農業展望報告(2025−2034)を発表(牛乳・乳製品編)(中国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_004144.html)をご参照ください。
(注2)「中国農業展望報告」の「乳類」は牛乳のほか羊、ヤギ、ラクダなどの動物乳を含み、24年の乳類生産量は4163万トンであった。そのうち牛乳が4079万トンと約98%を占めるため、本稿では同報告の乳類消費量を牛乳・乳製品消費量として使用した。
 

 
 中国はすでに人口の減少と高齢化が進んでいる。食肉消費の6割以上を占めてきた豚肉の消費は、牛肉など他の食肉消費の伸びを受け24年にはすでにマイナス成長となっており、農業農村部も34年の消費量は25年より減少すると見込んでいる。牛肉も、業界は消費の限界を1100万トン程度と見込んでおり(注3)、同部の34年見込みもそれを下回るものとしている。家きん肉や家きん卵は34年の見込みが24年の実績を上回るものの、業界は24年の政府統計が過小なのだとしている(注4)。統計に表れない自家消費、地場消費の割合が他の畜産物より多いだろうことなどを考えれば、34年の見込み量を24年の実績比で1割程度の増加にとどめている農業農村部の発表に違和感はない。
 しかし、牛乳・乳製品については、生産過剰により乳価が低迷し、24年の乳製品輸入量が前年比で減少した中で、同年比で34年には1人当たり年間消費量が37.0%も伸びるとされている。中国の牛乳・乳製品は今どのように消費され、今後消費は本当に増えるのか。本稿ではこの疑問を基に、政府統計に触れながら中国の牛乳・乳製品消費の現在と将来の姿を俯瞰ふかんする(注5)
 なお、本稿中の為替レートは、1中国元=22.41円(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均為替相場」の2026年1月末日TTS相場)を使用した。
 
(注3)牛肉の限界消費量についての業界の見方は、海外情報「中国食肉業界団体、24年の振り返りと25年の見通しを紹介(中国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_004022.html)の中国肉類協会主催外事交流会での発言に基づく。
(注4)家きん肉の現在の生産量に係る政府統計は過小であるとの業界の見方については、海外情報「中国食肉業界が牛肉、家きん肉産業の現状と今後を語る(中国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_004216.html)をご参照ください。
(注5)牛乳・乳製品の消費動向については、『畜産の情報』2023年6月号「中国における畜産物消費の変化〜牛乳・乳製品編〜」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_002771.html)をご参照ください。

2 牛乳・乳製品の需給動向

 まず、中国の牛乳・乳製品の需給動向の状況を確認する。
 

(1)生乳生産

 中国における生乳生産は2000年代以降、急速に拡大した(図1)。
 この背景には、00年代以降の生産支援政策(注6)の導入がある。一連の政策には、豊富な草地資源を有する内モンゴル自治区、黒竜江こくりゅうこう省などの4省を酪農重点省・地域とするという、全国を複数の区域に分けてそれぞれ異なる発展の方向性を定めるとの基本的考え方がある。
 生産量拡大の要因としては、生産支援政策に加え、同政策と同時に消費増進政策が行われたことのほか、社会全体の急速な発展に伴い消費が伸長し、作れば売れていたという時代背景もある。また、その後生産の拡大が停滞した理由も、政策支援の減少や飼育農家の成長の停滞というよりも、08年に発生したメラミン混入事件による消費の停滞こそが最大の要因と考えられる。10年代に生産拡大が停滞していた間も政府は支援を続けており、例えば、家畜改良や飼料改善は1頭当たりの乳量増加などの成果を挙げていた。ここ2、3年乳価が低迷している理由は、消費が振るわない中、生産支援だけは推し進められたことにより生産過剰を招いたからとみることもできる。総じて、中国の生乳生産は、消費(需要)実態からかけ離れて行われていると推測されるのである。
 
(注6)これまでの中国の酪農政策については、『畜産の情報』2023年6月号「中国における畜産物消費の変化〜牛乳・乳製品編〜」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_002771.html)および『畜産の情報』2018年8月号「中国の酪農・乳業政策と成果」(https://www.alic.go.jp/content/000152705.pdf)をご参照ください。
 
 

 

(2)牛乳・乳製品消費

 中国の1人当たり牛乳・乳製品平均消費量(生乳ベース)は、2021年に42.3キログラムと過去最多を記録した後は減少し、24年には35.9キログラムとなった。家庭内消費も同じく21年に14.4キログラムと過去最多となり、24年は12.6キログラムとなった(表2)。近年拡大の一途であった乳製品の輸入量も21年に401.7万トンと最多を記録した後、3年連続で減少している(図2)。
 21年に消費が拡大した理由として、新型コロナウイルス感染症(COVID―19)の感染拡大により、1)免疫力向上に資するとされる食品の一つとして牛乳・乳製品にも注目が集まったこと、2)食品全般において比較的高価なものや目新しいものが売れる消費傾向が見られたこと、3)政府も消費拡大を積極的に喚起したこと−などが挙げられる。また、その後消費が減少した理由としては、1)COVID―19が収束したこと、2)実際に飲用した後に消化不良を起こした人もいて、一部の消費者においては消費離れが生じたこと、3)景気が低迷したこと−などが挙げられる。



3 牛乳・乳製品の消費増に向けた課題

 本稿は、中国の牛乳・乳製品消費は政府が見込むほどには伸びないという見方を前提としている。「はじめに」で触れた人口の減少と高齢化や他の畜産物で消費拡大が止まりつつあることのほか、牛乳・乳製品特有の課題を以下に紹介する。
 農業農村部食物・栄養発展研究所の担当者(注7)は、牛乳・乳製品の消費増に向けた課題は主に次の四つだとしている。1)飲み方を知らない国民がいること(栄養価が高いこと、多様な商品があることや摂取方法を国民が知らないこと)、2)国産品に対する不信感が払拭ふっしょくされていないこと、3)世界的に見ても体質的に牛乳を飲めない国民が多いこと、4)価格が高いこと−である。中国政府が20年以上消費促進策を続けざるを得なかったことには、それなりの理由がある。
 中国と日本の違いに着目しながら再整理すると、消費拡大に向けた課題は次のように整理できるだろう。
 
(注7)農業農村部食物・栄養発展研究所動物食物・栄養政策センターの主任の発言として農業農村部公式ウェブサイトに掲載された「経済日報」(2025年6月24日)の記事に基づく。
 

(1)「体質的に飲めない国民が多いこと」(乳糖不耐症者が多いこと)

 最初に、実際に消費する人の数を確認すべきと考える。14億人以上という人口の数から市場は大きいと思いがちであるが、そのうち3.1億人は乳糖不耐症で、3.5億人は乳糖不耐症の疑いがあるなどの理由から、牛乳を飲む人の数は3.6億人と、総人口の25%程度にとどまるという(注8)
 仮に中国において人口の25%だけが乳糖に耐性があるとした場合、牛乳・乳製品ともに消化(消費)できる人の1人当たり平均消費量は、2024年では143.6キログラムに達すると算出できる(その算出は、総消費量を人口で割って算出された表2の1人当たりの年間消費量〈35.9キログラム〉の分母〈人口数〉を25%〈4分の1〉にしたもの)。
 これはすでにかなり高い水準であり、業界やメディアが「これ以上牛乳の消費を伸ばすことは難しい(今後の伸長が期待できるとすれば乳製品である)」とすることと照らし合わせても違和感はない。
 
(注8)2025年6月、北京市で開催された中国国際乳製品業界大会で民間研究機関が行った報告に基づく。大会の概要は海外情報「中国企業が語る中国における乳製品のマーケティング(中国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_004160.html)をご参照ください。
 

(2)「価格が高いこと」(日常的な消費がしにくいこと)

 次に消費場面・消費習慣を見ると、農業農村部担当者は、牛乳・乳製品は「保健食品であり、生活必需品にはなっていない」とし、メディアは「三線、四線都市(注9)では贈答品で、知り合いを訪問するときに持参する手土産」だとする。
 中国では牛乳の小売価格は生乳価格の3〜4倍程度で、生乳価格が低下しても消費拡大にはつながりにくいとされる。さらにその理由を考えれば、牛乳にはたんぱく質の摂取源としての競合飲料も多く、比較的価格が高い牛乳・乳製品をあえて消費しようとはなりにくいことが考えられる。
 競合飲料に関しては、中国には豆乳やココナッツミルク、オーツ(燕麦えんばく)ミルクなどの植物性乳、ヤギ、ラクダなどの動物性乳といった多数の代替飲料が存在する。お茶や果汁飲料も強力な競合相手である(注10)。中でも豆乳は用途が似ているだけでなく、伝統的に広く飲用され、安価で手軽に手に入り、朝食に不可欠という国民も多い。日本の2000年代の緑茶飲料に相当する中国の飲料はコーヒーと言えるが、コーヒーはむしろ牛乳の消費を増やしたとも言われており、学校給食で提供された牛乳になじめず隠れて捨てていたけれどもカフェラテを知り、やっと飲めるようになった、という話も聞く。中国ではコーヒースタンドやその場で果実などを加工するドリンクスタンドが広く普及しており、コーヒーチェーンではコーヒーに混ぜるものとして牛乳のほか豆乳、ココナッツミルクあるいはオーツミルクまで選べることが一般的であり乳製品消費促進のための商品開発は激しい(写真1)。
 乳製品にも代替品があり、例えば大豆を発酵させた伝統食品「豆腐乳」(写真2)は漬け物や調味料としても使われ、24年の市場規模は81億元(1815億円)とも言われる。調味料として、バターや生クリームの競合品も昔から存在していたということである。
 
(注9)中国の経済情報メディアが中国の都市を経済力などに応じて分類し、上から一線、新一線、二線、三線、四線、五線都市としていることを踏まえたもの。中国で広く用いられている。
(注10)中国の牛乳・乳製品の消費量は地域間格差が大きく、南方(広西こうせいチワン族自治区、湖南こなん省など)の家庭内消費量(中国統計年鑑)は北方(北京市、内モンゴル自治区など)の半分以下である。北は酪農に適した緯度にある一方、南は土地の起伏が激しく放牧適地が少ないことのほか、ココナッツなどの果物が豊富で競合品が多いことが理由に挙げられる。学生飲用乳が目に付きやすいと感じるのも南の方であり、例えば湖南省のヤギ生産企業は「学生飲用乳活動は良い取り組み。ぜひヤギのミルクも計画の対象にしてほしい」と語っていた。
 
 


 

(3)「飲み方を知らないこと」

 農業農村部担当者はこの課題を、牛乳・乳製品の栄養価が知られていないという意味のほか、文字通りの意味としても挙げている。そこには、消費者がまだ自分でおいしいと思えるような飲み方や食べ方を知らない、あるいは飲食が習慣づくまでに至っていない、ということも含まれると考える。
 栄養価について、中国では高血圧、高血糖、高脂血症を「三高」と呼び、これを避けようという意識や健康を維持することへの関心は高く、良質で低カロリーのたんぱく質含有食品の人気が高くなっている。そのような風潮の中、牛乳・乳製品を摂取する効果として免疫増強、睡眠促進、消化改善などが連想されるというが、このような意識を持つ消費者は大都市には比較的多いものの、農村にはまだ少ない。農村住民が牛乳・乳製品の栄養価を知り、意識や食習慣が変われば中国全体の消費は増える可能性がある。
 また、飲み方や使い方について、ミルクティーやカフェラテの普及で牛乳は一般消費者にも身近になったが、チーズ以外の乳製品(バターやクリーム)は家庭での消費が広がらないと聞く。ここで連想されるものに、消費が急速に伸びた牛肉の増加理由として挙がることがある「預制菜」(半完成品、ミールキット、調理済み食品などの総称)がある。これは、「牛肉を扱ったことがない」、「どう調理したらいいかわからない」、「豚肉に置き換えればいいというものではない」、という調理者に対して、「これを炒めればいい」という原材料のキットが厨房ちゅうぼうに届くから消費が増えたという見方である。バターを使って調理をしたことがない利用者に「豆腐乳をバターに置き換えてみよう」と呼びかけるより「バターと、バターに合う〇〇の肉、〇〇野菜を用意した、後は炒めるだけで大丈夫」と提案した方が受け入れられやすいということである。乳製品消費が増えた理由として、前述の預制菜やベーカリー市場の拡大が挙げられるが、それも、家庭ではなく業界で利用が進んだこと、つまり利用方法が確立している場面での消費が進んだことによるものと言えるだろう。牛乳・乳製品を既存の何らかの食材の一つと置き換えるよりもパンという新しい商品の素材として飲食店やセントラルキッチンで調理することから、消費が伸びたとも言える。
 

(4)不信感が払拭されていないこと

 牛乳・乳製品に関して中国政府が枕ことばのように使う「決まった表現」として、消費促進に向けて安全性を訴え続けることを意味する「国民の科学的な理解を得ながら」という表現がある。
 2008年に発生したメラミン混入事件の影響は今でも大きい。中国で牛乳・乳製品が食されてきた歴史は古いものの、長らく一部の地域または社会階級に留まっていた。それが、経済成長がある程度進んだ2000年に入り政府の目が国民の健康に向けられたことで消費促進政策の対象となり、政府主導の「学生飲用乳計画」(学校に牛乳を配布する取り組み)が家庭内消費を伸ばす契機ともなった(図3)。生産拡大政策によって品物が入手しやすくなるなどの変化も、消費を後押しした。
 

 
 08年には、中国は初めてオリンピック開催国となり、2年後には万博の開催国となることも決定していた。いずれも中国の発展を世界に印象付けることが目的とされ、立ち並ぶ高層建築物といった街の外観だけでなく「文明的な社会」が実現されつつあることもアピールするとされた。メラミン混入事件は正にそのような折に発生した、中国でも例を見ない規模の食中毒事件であり、入院した被害者は1万人を超え、かつ、その多くは乳幼児で、「一人っ子政策」(注11)が実施されていた当時の中国社会を震撼しんかんさせた。中国乳業メーカーの悪質な行為が原因で発生したこの事件は、09年の食品安全法制定の直接の契機ともなった。
 中国の牛乳・乳製品の置かれている状況について、端的にまとめれば、もともと飲食の習慣がなく、一度普及しかけたもののその途上で国民から大きな不信を被り、その間に社会は物が余る時代に突入したことで、もはや国民が慣れ親しんだ他の何かと置き換えなければ消費が増えなくなってしまったと言えるだろう。
 
(注11)「一人っ子政策」とは、一夫婦当たりの子供の出生数を制限する政策のこと。2015年に緩和された。

コラム 「学生飲用乳計画」で栄養状況を改善しよう

 中国政府は2000年に「学生飲用乳計画」を開始した。小・中学校に良質な牛乳を提供して子供たちの栄養と健康状態を改善、向上することを目的としたこの活動は5カ所のモデル都市で始まり、24年末には全国すべての省・自治区に広がり、延べ10万校以上、3134万人の学生が対象となった(コラム注)。同計画では、中国乳業協会の許可を受けた乳業メーカーが「学生飲用乳」のマークが添付された商品を供給する(コラム−写真)。24年末時点で乳業メーカー数は176社、1日当たり2672万個の牛乳・乳製品が提供され、生乳換算では同9万4000トンが消費される。原料乳を供給する牧場・供給基地も認定を受ける必要があり、施設として458カ所、飼育頭数として192万頭が認定されている。
 大手乳業の中には、この活動を企業の社会的責任活動の一環と位置付け、飲用乳の無料提供のほか食育活動や学用品の提供などを行う企業もある。本活動は、乳業の衛生管理基準や原料乳供給拠点の飼育管理レベルの向上に貢献したとされる。中国乳業協会によれば都市と農村の住民にはまだ身長差があり、活動は今後も継続されるという。
 
(コラム注)2000年に始まった学生飲用乳計画は、07年には国務院に専門部署が設置されるほど力強く推進されたが、業界や学校の自主的な牛乳消費を促すはずの活動が強制的な活動になっているなどの批判を受け、13年に事務局機能が中国乳業協会に移管された。

4 2034年の見込み消費量の考え方

 前章の課題はいずれも消費行動に関することであり、それを変えることは容易でない。それにもかかわらず、「なぜ農業農村部は2034年の消費量を24年比で3割以上の増加と見込むのか」について考察してみたい。
 

(1)見込み消費量が過大と思われることについて

 2015年当時、農業農村部は「中国農業展望報告」で「国民の生活水準の向上、都市化の進展及び学生飲用乳計画などの推進によって、24年の乳製品消費量(注12)は6303万トンになる」とした。14年の消費量(実績)4460万トンに対し、41.3%の伸びを見込んだのである。実際には、24年は5691万トンと27.6%増にとどまった。なぜ高い伸びを見込むのか。その裏には、「このくらいは消費が増えなければならない」という政府の事情があると考えられる。
 こうした政府の事情の一つ目として、これまでの栄養増進政策がある。中国版「食事バランスガイド」(注13)の1人当たり摂取量を見ると、牛乳・乳製品は政府が20年以上消費を促進してきた唯一の品目でありながら、唯一摂取基準を満たしていないことが分かる(表3)。
 二つ目は酪農行政が進めてきた生産政策、つまり増産政策である。政府は18年に「乳業の振興と乳製品の品質・安全の保障の推進に関する意見」(国務院弁公庁)を、22年にはその実現を目指す「十四五乳業競争力向上行動方案」(農業農村部制定)などを発表し、乳牛1頭当たりの年間平均乳量は9000キログラム程度を目指すなどの施策を推進してきた。他方で、乳源自給率(国内総生産量を総需要量で割って100を掛けたもの)は70%程度を目指すとされ、一定程度は輸入に頼ることを政府は否定していない。生乳価格が国際基準と同等の水準にまで下がってきた中、消費が期待通りに伸びないことに苦慮しているのは業界も政府も同じである。
 増産見込みが高くなってしまう最大の理由は、これまでの路線を変えるだけの客観的な理由がないということなのかも知れない。
 
(注12)飲料、アイスクリーム、ケーキなどの食品中の乳製品の消費量を含む。
(注13)『畜産の情報』2024年7月号「中国の畜産物を中心とした食料消費の現状と今後の展望」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_003309.html)をご参照ください。
 

 

(2)消費量が増える可能性について

 本稿は、政府が発表する消費見込み量の増加の程度には疑問を呈するものの、消費が伸びること自体を否定するものではない。消費量が伸びると思われる要因も紹介する。
 
ア 消費を牽引する成長分野があること
 まず、低温殺菌乳(注14)の普及が挙げられる。中国では常温保存牛乳(滅菌乳)が多くを占めてきたが、コールドチェーンの発達に伴い低温殺菌乳も増えており、味の良さから消費の伸びを期待する声は業界内に根強い。
 次に、原材料での利用についても、預制菜やベーカリー市場の拡大やドリンクスタンドの農村への拡大が期待される。2025年5月、上海で同時期に大きな食品展示会が二つ開催された。この食品の総合展示会として知られる「SIALシアル」や専門展示会として知られる「ベーカリーチャイナ」(注15)において、中国最大の乳業メーカー「伊利」が力を入れたのは後者であった。同社はメニュー開発から実際の原料調達、製造まで一貫して支援するワンストップサービスを売り出し、原料として自社製の牛乳やバターは当然、製パンに必要な他の食材もあっせんするとした(写真3)。なお、この一体型サービスは、景気停滞に苦しむ企業に伴走するものとして、中国では一般的に採用されている。また、25年12月、主に中小の乳製品メーカーが会員となっている「DAIRY ONLINE」(乳業在線)主催の「2025 チーズおよびバター産業の刷新・発展フォーラム」では、複数の登壇者からドリンクスタンド産業の一層の伸びに期待が寄せられた(写真4)。「茶やコーヒーでの利用」を「茶珈」と呼び、コーヒーの上に岩塩やバターを加えたクリームを乗せる商品が伸びていることを「ミルクふた経済」と呼ぶのは、中国のこの業界の特徴である(注16)
 


 
 新たな乳製品の開発も期待される。近年、乳酸菌飲料の商品化に成功し、市場シェアを伸ばした商品の出現はその代表例である。ただし、この新商品は乳酸菌飲料市場の規模拡大だけでなく、既存の外国メーカー商品のシェアの低下ももたらした。新商品の登場が消費全体の拡大につながるか、予見は難しい。
 輸入乳製品に対する制限を厳しくすることで、国産の消費を高めようとする政策が出される可能性も否定できない(注17)。25年9月には乳製品の原料に関する国家基準が改正され、滅菌乳の原料として生乳のみを認め、全粉乳などの利用は制限されている。
 
(注14)中国の低温殺菌乳は60〜90度殺菌であるので、日本の低温殺菌乳(63〜65度殺菌)とは定義が異なる。本稿中では中国の定義に基づいて使用する。
(注15)海外情報「中国最大のベーカリー展示会に国内主要乳製品企業などが出展(中国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_004132.html)をご参照ください。
(注16)海外情報「北京で「チーズおよびバター産業の刷新・発展フォーラム」が開催、業界関係者が講演(中国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_004266.html)をご参照ください。
(注17)輸入乳製品の関税について、農業農村部公式ウェブサイトに掲載されたメディア記事は、「2009年以降徐々に引き下げられ、今では平均12.2%と世界平均の5分の1に過ぎず、国内需要の伸びがもたらす利益はほとんど輸入品に譲り渡された」として問題視している。
 

イ 乳牛や飼育農家、企業の淘汰とうたが進むとともに生産効率が一層向上すること

 乳価低迷を受け生産現場では、飼育頭数の削減や廃業といった過剰能力の調整が続いている。需要に応じた商品を供給すること、輸入があればそれを抑え輸出に転じること、そして国内の産業関係者、特に生産者が利益を得られる形で持続性のある産業構造に転換することである。現在、中国政府が進めている基本的な政策方針は分野を問わずそれらであり、酪農業界もまた同じである(注18)
 2015年以降、農業農村部は毎年大手乳業メーカー20社をリスト化し、これらの企業が社会的責任活動などで業界の模範となることを求めてきた。リストアップされた企業は「乳業20強」(通称「D20」:DはDairyの略)と呼ばれる企業連盟を構成し、フォーラム開催などの共同活動を実施する。その活動は、政策の一つとして「十四五乳業競争力向上行動方案」にも記載される。事務局を務める中国乳業協会は25年7月、乳業20強の原料乳の自社調達率が55%を超えたこと、また、飼育主体が加工と直販も行うという意味での垂直統合率が全国で65%に達したと発表した。生産・加工の垂直統合は政府も強く推進しており、中国が得意とするデジタル技術、データ技術などが進展することで、より実需に応じた供給が可能となることが期待される(注19)。供給能力の向上により、単価が高い、使い方がわからないといった消費拡大を阻害する要因が低減されることも期待できる。
 
(注18)メラミン混入事件発生の2008年に制定され、翌年改訂された「乳製品工業産業政策」(中国工業・情報化部)が掲げる課題は現在にも通じる。「わが国の産業は、正に規模の追求型から質の追求型に転換しなければならない時期にある。(中略)乳製品業界は産地の配置が非合理的で、加工工場の重複は甚だしく、かつ過剰である一方、飼育側のレベルは低く、乳業メーカーと飼育農家の関係は協調性に欠け、原料乳の供給が安定しない」とし、適切な加工規模として、粉乳加工であれば1日当たり300トン(または同100トン)、液体乳であれば新設工場は同500トン、改築工場は同300トン(または同200トン)などとした。
(注19)例えば、伊利は買い取りの効率化を進めており、取引先の生乳仲買業者は22年の1万9923社が24年には1万7249社と、13.7%減少した。

5 おわりに 〜政府統計の見方〜

 本稿は、中国の牛乳・乳製品について農業農村部の「2034年の見込み消費量」を取り上げ、その消費の現状と将来見込みについて俯瞰した。消費拡大が停滞している現状とその課題を整理すること、そこには日本産畜産物の輸出先として中国市場を考えるときの示唆がある。また、同時に、中国政府が公表する統計をどう理解すべきかという理解にもつながる。
 読者の中には、中国の政府統計はそもそも信用できないと見る方がいるかもしれない。筆者は、中国の政府統計はどのように収集、作成された数値であるかと同様に、中国政府がそれをどのように使っているのかを理解することが重要と考えており、最後に政府統計の見方について補足したい。
 筆者が畜産物に関する中国政府の統計数字の中でも信ぴょう性が高いと考えるのは、雌豚の飼養頭数である。これは政府が養豚業者に生産・出荷抑制を促す際の指標とするもので、かつ、民間企業が実際に出荷頭数や1頭当たりの出荷体重を制限していることが業界情報からも克明に伝わる数値である。中国でも、指定された卸売市場の価格はリアルタイムで政府のデータベータで公表されており、生体豚の生産・出荷抑制はそのリアルタイムの価格情報も参考にして行われる。生体豚の生産・移動は、動物疾病管理の観点からも管理されている。豚肉は国民の関心も高く、農業農村部が旧正月(春節、2025年は1月29日)前後に行う農産物の供給・価格動向見込みに関する記者会見でも必ず言及されている。18年のアフリカ豚熱の発生以降、養豚ビル建設のように養豚でデジタル技術の利用が進んでいることも現場のデータ管理を企業内での管理にとどまらず、政府への正確な報告を促すという点からも、より容易で正確なものへと変えている(注20)
 これに対して、牛乳・乳製品の需要動向に関する数値を政府が取り上げることはほとんどない。供給量も豚肉ほど正確ではないとみられる。流通過程の把握についても、豚肉ですら、と畜段階の統計数字には改善の余地があるとされ、近年の政府の関心事項である牛肉の輸入も、セーフガード措置に関する調査を通じての実態解明が必要であったことを考えれば、まして牛乳・乳製品の流通が正確に把握されているとは考えにくい。
 本稿は、以上のようなことを念頭に置きつつ、中国政府が公表する統計データは項目によってその精度が異なるとの前提に立った上で、数値の正しさよりもその使われ方、政策的な位置付けに着目し、また、その数値の裏にはどのような実態や政策目的があるのかを考える例として中国牛乳・乳製品の消費について紹介した。本稿が中国の畜産事情を理解する参考となれば幸いである。
 
(注20)養豚ビルの詳細については『畜産の情報』2025年4月号「中国の養豚をめぐる動向と大規模化を担う「ビル養豚」の現状」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_003657.html)をご参照ください。
 
山田 智子 (日中経済協会北京事務所)