今回、本研究がイグ・ノーベル賞(生物学賞)に選ばれたことを、心から誇りに思っています。この賞はそもそも、「人々を笑わせ、その後、考えさせる(make people laugh, then think)」研究に与えられるもので、この賞に対してはいろいろな評価があるようですが、日本人や英国人の受賞者が多く、最近、この賞が受賞者の経歴(キャリア)に及ぼした良い影響や科学に対する貢献について、Nature誌でも取り上げられています(Clarke C (2024) How a silly science prize changed my career. Nature 635(8039):538-539)。
ここで紹介した研究は、筆頭著者の兒嶋が愛知県の普及指導員として農家を回る中で、放牧和牛に対する吸血昆虫対策の必要性を痛感し、愛知県農業総合試験場に異動になった時に上司や同僚を説得して実施したものです。ここで特筆すべきは、1人の若手研究員の発案に基づいて、黒毛和種を用いたこのような奇天烈な試験を許可してくれた上司や同僚の度量の深さです。膨大な研究費の下で実施された試験ではなく、限られた研究費によりたった2年で実施された試験ですが、世界中の人々を笑わせ、関心を持ってもらい、また、考えてもらえたことには重要な意味があると確信しています。
畜産業の発展には技術的な進歩が必要であり、研究者は斬新な発想とオリジナリティーを持ち、また創意工夫を凝らして研究に取り組んでいる一方、最近は待遇や研究費の面で苦労している研究者も多いのが現状です。本研究がイグ・ノーベル賞を受賞したことを通じて、畜産業の発展という社会貢献に向けた研究者の取り組みについて再認識していただき、今後の研究環境の充実につながれば、それに勝るものはないと考えています。
【プロフィール】
京都大学大学院農学研究科 名誉教授 広岡 博之
(経歴)
1982年3月 京都大学農学部畜産学科(家畜育種学)卒業
1984年3月 京都大学大学院農学研究科修士課程熱帯農学専攻 修了
1987年3月 京都大学大学院農学研究科博士課程熱帯農学専攻 単位取得
1987年4月 日本学術振興会特別奨励研究員
1988年9月 京都大学農学博士
1990年10月 龍谷大学経済学部 専任講師
1993年4月 龍谷大学経済学部 助教授
2001年10月 京都大学大学院農学研究科 教授
2024年3月 京都大学大学院農学研究科 定年退職
名誉教授の称号授与