(1)株式会社北海道畜産公社十勝工場の概要
・株式会社北海道畜産公社(以下「畜産公社」という)は、道内5カ所(早来、函館、上川、十勝、北見)に食肉処理・加工施設を所有。このうち昭和54年に設立され操業を開始した十勝工場(以下「十勝工場」という。設立当時は株式会社十勝畜産公社)は、畜産が盛んな十勝地域における食肉処理を担う重要な施設
・十勝工場の現在の1日当たりの処理能力は以下の通り
第1工場および第2工場:350頭
第3工場:100頭
・平成28年に完成した第3工場が対米輸出の認定を取得(令和元年5月31日)
・令和3年度の農林水産省の「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」に基づいた事業に参加するに当たり、十勝工場も牛肉の輸出拡大を図るためこれに参画するとし、「ホクレン食肉輸出コンソーシアム」を設立(図4)
※北海道畜産公社(十勝工場)の会社概要については、同社ホームページをご参照ください。
(2)現況
ア と畜頭数の推移
十勝工場における平成27年度から令和6年度に至るまでの過去10年間における牛のと畜頭数は、増加傾向にある。肉用牛(和牛および肉専用種)については、平成27年度の3669頭から、第3工場が稼働した29年度に3753頭まで増加し、さらに、令和6年度には6669頭と、2倍近い頭数となっている(図5)。
イ アニマルウェルフェアの取り組み
輸出市場における関心の高まりを受け、十勝工場でもアニマルウェルフェア(AW)の取り組みが強化されている。具体的には、同工場では「獣畜の人道的取り扱い(動物福祉マニュアル)」を作成し、その中で輸出先別の取り扱い要件などを記載している。
また、AWに取り組むことで、血斑対策などの瑕疵の低減、品質の向上を図ることができると考えており、現在は係留所の照明の光量を調整できるようにするなど、対策を実施している。
ウ 血斑対策
対米輸出向け条件により、第3工場における牛の放血は懸垂式を採用している。第1・2工場で採用している横臥式に比べて放血に要する時間が長いため(懸垂式:30秒程度、横臥式:15〜20秒程度)、血斑の発生率が高まるといわれており、いかに放血に要する時間を短くするかが重要となる。
第3工場では施設改修や懸垂放血の見直しを重ね、令和2年度の血斑発生率5.4%から、4年度は4.2%に減少し、和牛だけであれば現在の発生率は、1%程度に抑えられている。
また、今後はさらなる対応として、と畜方法の変更などを検討している。
エ 輸出向けの処理と加工
輸出向けの加工は国や地域ごとに異なる要求を満たす必要があるため、厳密な処理・加工工程の管理が求められる。輸出相手先が求める衛生基準などについては、ソフト・ハード両面でさまざまな取り組みを実施している。例えば米国向けであれば、「とさつペンから落下した牛体を可動式の台で受ける」こととされているため、可動式の台を導入したほか、冷蔵庫の扉の結露発生を抑えるために送風機を設置するなどしている(写真1、2)。
また、部分肉加工ラインでは、輸出先から要求されたスペックに正確に対応するため、作業者の頭上に設置されたタブレットに加工指示が表示されるようになっている(写真3)。
オ 和牛肉の輸出の状況
令和6年度における黒毛和種の輸出向けの年間製造量は78.4トンと、前年度比18%の大幅な増加を記録した。輸出先は、香港(製造量に占める割合37%)、台湾(同20%)、米国(同14%)、シンガポール(同10%)、EU(同10%)、タイ(同9%)となっている(図6)。
輸出される部位については、ロイン系が主となっている。米国向けはロイン系のほか、ブリスケット(カタ)、ウデなども多い。香港向けはロイン系に次いでモモ系の数量が多い。可能であればセット販売が望ましいが、輸出先のユーザーからは部位ごとの販売が求められており、セット販売は商系の業者がわずかに実施しているのみである。
なお、十勝工場全体の年間輸出向け製造量のうち9割が第3工場で加工されており、北海道畜産公社における輸出対応の拠点として、その役割は大きくなっている。
(3)課題
今後の和牛肉輸出の拡大について、十勝工場では以下の通りの三つの点を課題として挙げている。
ア 施設面の制約
十勝地域では生産者の戸数が減少する一方、1戸当たりの飼養頭数は増加しており、増頭意欲は旺盛である。上記の処理能力の上限に迫る状況である。枝肉冷蔵庫についても、今後、取扱数量の増加に対応するためには設備拡張が不可欠となっている。
イ 労働力不足への対応
と畜・加工の作業者が不足しており、部分肉加工作業で外国人技能実習生を活用するなどの対策を講じている。しかし、食肉の加工技術は特殊であり、技術の習熟・継承には時間を要するため、長期的に作業に携わる人材の確保が必要としている。
ウ 部分肉加工における規格の細分化への対応
部分肉加工で要求されるスペックの細分化が進んでおり、作業時間が増加している。また、輸出向けでスライス加工することはないが、今後、輸出向け・国内向けともに量販店のバックヤードが減少した場合には、より細かいスペックやスライス加工などを求められる可能性があり、さらなる作業時間の増加が懸念される。
なお、ホクレン食肉輸出コンソーシアムに参加しているホクレンにも課題を確認したところ、前章の全農インターナショナルで挙げられている課題が同様に挙げられている。
ただし、1)輸出先での「Wagyu」との競合と併せて、「九州産和牛」などとの競合(北海道産牛肉のブランド力向上)、2)和牛肥育もと牛の道外流出による道内の肥育頭数の減少―を課題としていることが特徴として挙げられている。
(4)今後の対応
十勝工場では施設の新・増設による生産能力の向上を図るとして、第2工場における枝肉冷蔵庫の新設と係留所の増設を計画している。
令和7年度にはニュージーランドへの輸出が始まり、フィリピンへの初回輸出も予定されている。今後も肉牛の生産を担当するホクレン、牛肉の処理加工を担当する畜産公社、和牛肉の流通販売・輸出を担当する全農ミートフーズおよび全農インターナショナルとは「ホクレン輸出コンソーシアム」の参加者として連携し、既存市場の取扱量の拡大と新規市場の開拓を進めていく方針だとしている。