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調査・報告 和牛肉輸出 畜産の情報 2026年4月号

和牛肉輸出とその拡大に向けた農協系統輸出コンソーシアムの取り組み

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調査情報部、札幌事務所、鹿児島事務所
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【要約】

 令和7年5月の関係閣僚会議において改訂された農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略では、生産者や食肉処理施設、流通・販売業者などが連携して和牛肉の輸出促進を図る「コンソーシアム」を産地で構築し、産地による輸出拡大に向けた取組を推進することとしている。
 JA全農インターナショナル株式会社は、各地のコンソーシアムに輸出事業者として参画し、海外でのプロモーション活動などを通じた和牛肉の輸出拡大に向けた取り組みを実施している。また、株式会社北海道畜産公社および株式会社熊本畜産流通センターは、産地食肉センターとして輸出先の衛生管理基準などに応じた輸出向け和牛肉の食肉処理・加工を担っている。
 本稿では、和牛肉の輸出拡大に向けた各社の取り組みや課題、今後のさらなる推進に向けた対応などについて報告する。

1 はじめに

 令和7年4月11日に閣議決定された食料・農業・農村基本計画において、農林水産業・食品産業における「海外から稼ぐ力」を強化する方針が示された。そして、令和12(2030)年の目標として、農林水産物・食品の輸出額を5兆円、食品産業の海外展開による収益額を3兆円、インバウンドによる食関連消費額を4兆5000億円とすることが掲げられた(図1)。
 これらの目標を達成するため、7年5月の関係閣僚会議において農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略が改訂された。この実行戦略の中では、「今後の輸出拡大に当たっては、海外で評価される日本の強みがある品目を中心に輸出を加速させる」こととし、牛肉については、「和牛として世界中に認められ、人気が高く、引き続き輸出の伸び」が期待されているとしている。また、畜産物に関しては、「畜産農家等・食肉処理施設・輸出事業者が連携して生産から輸出まで一貫して輸出促進を図る『コンソーシアム』を産地で構築し、産地による輸出拡大に向けた取組を推進」し、「主要産地のコンソーシアム化を進めるとともに、コンソーシアムが認定団体等と連携して、商流の構築や拡大、産地の特色を生かしたブランディング、加工品などの新商品の輸出促進等に取り組む」ことで輸出事業者の支援などを行うとしている。
 こうした中、JA全農インターナショナル株式会社(以下「全農インターナショナル」という)は、地域の畜産農家や食肉処理施設および食肉流通事業者などを構成員とするコンソーシアムに参画し、和牛肉の輸出・販売、海外でのプロモーション活動などを行っている。
 本稿では、これら和牛肉の輸出拡大を図るための全農インターナショナルの取り組みと併せ、同社が参画しているコンソーシアムの中核的な構成員となっている食肉処理施設の株式会社北海道畜産公社十勝工場および株式会社熊本畜産流通センターにおける輸出の取り組みについて紹介する。
 
 

2 全農インターナショナルの取り組み

 全農インターナショナル(注)は、全国農業協同組合連合会(JA全農)の全額出資によるグループ会社であり、国産農畜産物および加工品の輸出を事業内容としている。和牛肉の輸出に関しては、後述する北海道と熊本県のほか、鹿児島県、岩手県、栃木県などの食肉処理施設が中核的な構成員となっているコンソーシアムにも輸出事業者として参画している。
 
(注)同社の企業概要については、同社ウェブサイトをご参照ください。(http://www.zennoh-intl.com/company.html
 

(1)生産から輸出までの流れと強み

 全農インターナショナルを含むJAグループにおける和牛生産から輸出までの流れは、図2の通りである。JAグループは、もと牛や飼料など肉用牛生産者に対する生産資材の提供から和牛肉の輸出・販売まで、グループとして一気通貫で手掛けている。
 こうした体制の強みについて同社は、以下の点を挙げている。
 
ア JAグループとしての強み
 JAグループとして、すでに全国の和牛生産の産地において、生産・流通・加工・販売を一貫して取り組んでおり、このため、輸出コンソーシアムを形成する際に、優位な環境が整っていること。
 
イ 輸出コンソーシアムの強み
(ア)輸出コンソーシアムを形成するに当たっては、輸出事業計画(現状と課題、取組内容、目標など)を作成するため、これに参加する生産、加工、輸出に関わる者が、共通の目標に向かって協力して取り組む体制が取れること。
(イ)共通認識の下、ワンチームとして、一堂に会して海外の需要者のニーズや和牛肉の評価、輸出拡大に有用と考えられる国内での取り組みなどの情報交換の場を作れること、そして、その内容をそれぞれの現場で生かすことができること。
 

 

(2)輸出に向けた現地展示会や消費者向けイベントなどへの出展

 すでに和牛肉の輸出先となっている国・地域で開催される展示会・商談会では、現地で輸入牛肉を取り扱う事業者や現地の消費者に和牛肉を提供する外食店の料理人などをターゲットに、和牛肉の魅力をPRしている。この他、ジャパンフェスティバルのような消費者向けのイベントに出展して和牛肉の試食提供を行い、消費者に対するプロモーション活動を行うこともあり、和牛肉の知名度の向上に幅広く取り組んでいる。
 また、和牛肉の輸出を増やすために重要となる、今後の輸出先としての可能性がある国・地域で開催される展示会などでは、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)などが海外で開催する展示会に参加することもある。この場合は、和牛肉を持ち込んで試食してもらうなどの直接的なPRは難しいが、少しずつ和牛肉への理解を醸成し、その国・地域への輸出が可能になればすぐに動けるよう、パートナーとなり得る現地事業者の確保を積極的に進めている。
 

(3)さらなる輸出の推進に向けた対応

 (2)に記載したような和牛肉の輸出に向けた取り組みの一方で、全農インターナショナルは、輸出のさらなる推進に向けて次のように対応していくとしている。
 
ア 輸出先の拡大に向けた現地の食肉文化の把握
 現在、和牛肉の輸出が可能となっている国・地域のマーケットでは、企業間の競争が激しくなっており、今後も競争環境は厳しくなっていくことが予想される。その競争の中で、販売価格の下げ合いになることは、日本国内の肉用牛生産者、流通事業者などにとって好ましいものではない。これを回避するためには、マーケットができ上がっている大都市以外の都市での新規商流の構築や、イスラム諸国を含むグローバルサウス(主に北半球に多い先進国〈グローバルノース〉に対し、南半球に多い新興国や途上国の総称)など、新たな輸出先となるマーケットの開拓が求められる。
 新たなマーケットを開拓するに当たっては、日本産和牛肉と豪州産Wagyuなどを含む他国産牛肉の違いをPRできる資料と、現地の食文化や食肉消費の動向などの情報をしっかり整備する必要を感じているという。海外でのプロモーション活動においては、和牛肉を試食してもらうことが一番であり、他国産牛肉との違いや日本産和牛肉の食味を理解してもらうために最も有効な手段である。また、現地に和牛肉を持ち込むことができない場合であっても、バイヤーの理解を深められるよう、現地の基本的な食肉に関する情報を踏まえた上で、日本産和牛肉の特長や海外産牛肉との違いをPRできる簡明なセールスポイントをまとめた資料を整備することは、今後の展開にプラスになると考えている。
 
イ 輸出コストの削減
 現在は施設の運営管理の問題もあって、輸出向け牛肉の加工日ごとに食肉衛生証明書が発行されており、北米ではこの証明書を1枚発行するごとに費用が発生するため、一つのコンテナに複数の加工日の牛肉が含まれる場合は証明書が複数枚必要となり、コストが非常に高い。これが加工日ごとではなく 、例えば1コンテナにつき1枚の証明書の発行で済めば、食肉衛生検査所、産地工場、輸出事業者、通関代行業者、動物検疫所、輸入側の事業者など、関係者全体の証明書の発行・確認に要する業務負担と費用を大幅に削減でき、サプライチェーン全体にとって大きなメリットが生まれる。厚生労働省より、加工が複数日にわたった製品についてもまとめて食肉衛生証明書に記載することが可能であることが示されたこともあり、こういった運用変更も活用しながら、和牛肉の価値を維持するためにも、和牛肉そのものの価格を下げるのではなく、輸出に係るさまざまな手続きなどの効率化を図りつつ、諸経費のコスト削減にも取り組む必要がある。今後、ウデ、カタ、モモなど、いわゆるセカンダリ部位の輸出・販売を拡大する上でも、現地でバイヤーや消費者に選ばれる値ごろ感のある価格での販売に向けて、関係各所とも協力して対応していくとしている。
 

(4)今後の課題と牛肉輸出目標の達成に向けて

 全農インターナショナルは、今後の懸念点として、豪州産Wagyuや、輸出先および日本以外の牛肉輸出国における肉用牛の品種改良の進展を挙げている。日本における和牛の品種改良は、この10年程度で大きく進展しており、その成果として和牛(去勢)の格付結果を見ると、平成26(2014)年におけるA5およびA4ランクの割合は67.5%であったが、10年後の令和6(2024)年においては、91.3%と大幅に増加している(公益社団法人日本食肉格付協会「格付結果の概要」)。日本におけるこの10年の変化が、豪州など諸外国においても同様に進んだ場合には、牛肉の品質面での競合が激しくなることが予想される。今後、世界各国で生産される牛肉の品質が向上していく中、日本産和牛肉が海外の消費者に選ばれ続けるためには、他国産の牛肉と差別化を図り、高品質で唯一無二の牛肉として日本産和牛肉の価値を改めて整理する必要がある。そして、価値のある特別な商品として海外の需要者・消費者に広く認知してもらい、 諸外国で生産されたWagyuなどの海外産牛肉を相手に強く打って出られる状況を構築することが、和牛肉の輸出拡大を図る上での課題だとしている。
 こうした中で、令和6(2024)年における日本の牛肉輸出額は648億円となっており、農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略では、令和12(2030)年の牛肉輸出目標額を1132億円としている(図3)。
 
 
 
 全農インターナショナルは、和牛肉の輸出を肉用牛の再生産のために必要不可欠な取り組みと捉えており、上記の(2)および(3)の取り組みや対応を継続しつつ、本節で述べた課題に取り組むことで和牛肉の輸出のさらなる拡大を図り、2030年の目標の達成に貢献したいとしている。
 次章からは、全農インターナショナルとともに輸出コンソーシアムに参画し、各輸出先の衛生基準などに対応しつつ、輸出向け和牛肉を生産する食肉処理加工施設における取り組みについて紹介する。

3 株式会社北海道畜産公社十勝工場の取り組み

(1)株式会社北海道畜産公社十勝工場の概要

・株式会社北海道畜産公社(以下「畜産公社」という)は、道内5カ所(早来、函館、上川、十勝、北見)に食肉処理・加工施設を所有。このうち昭和54年に設立され操業を開始した十勝工場(以下「十勝工場」という。設立当時は株式会社十勝畜産公社)は、畜産が盛んな十勝地域における食肉処理を担う重要な施設
・十勝工場の現在の1日当たりの処理能力は以下の通り
第1工場および第2工場:350頭
第3工場:100頭
・平成28年に完成した第3工場が対米輸出の認定を取得(令和元年5月31日)
・令和3年度の農林水産省の「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」に基づいた事業に参加するに当たり、十勝工場も牛肉の輸出拡大を図るためこれに参画するとし、「ホクレン食肉輸出コンソーシアム」を設立(図4)
 
※北海道畜産公社(十勝工場)の会社概要については、同社ホームページをご参照ください。
 

 

(2)現況

ア と畜頭数の推移
 十勝工場における平成27年度から令和6年度に至るまでの過去10年間における牛のと畜頭数は、増加傾向にある。肉用牛(和牛および肉専用種)については、平成27年度の3669頭から、第3工場が稼働した29年度に3753頭まで増加し、さらに、令和6年度には6669頭と、2倍近い頭数となっている(図5)。
 
 
 
イ アニマルウェルフェアの取り組み
 輸出市場における関心の高まりを受け、十勝工場でもアニマルウェルフェア(AW)の取り組みが強化されている。具体的には、同工場では「獣畜の人道的取り扱い(動物福祉マニュアル)」を作成し、その中で輸出先別の取り扱い要件などを記載している。
 また、AWに取り組むことで、血斑対策などの瑕疵かしの低減、品質の向上を図ることができると考えており、現在は係留所の照明の光量を調整できるようにするなど、対策を実施している。
 
ウ 血斑対策
 対米輸出向け条件により、第3工場における牛の放血は懸垂式を採用している。第1・2工場で採用している横臥おうが式に比べて放血に要する時間が長いため(懸垂式:30秒程度、横臥式:15〜20秒程度)、血斑の発生率が高まるといわれており、いかに放血に要する時間を短くするかが重要となる。
 第3工場では施設改修や懸垂放血の見直しを重ね、令和2年度の血斑発生率5.4%から、4年度は4.2%に減少し、和牛だけであれば現在の発生率は、1%程度に抑えられている。
 また、今後はさらなる対応として、と畜方法の変更などを検討している。
 
エ 輸出向けの処理と加工
 輸出向けの加工は国や地域ごとに異なる要求を満たす必要があるため、厳密な処理・加工工程の管理が求められる。輸出相手先が求める衛生基準などについては、ソフト・ハード両面でさまざまな取り組みを実施している。例えば米国向けであれば、「とさつペンから落下した牛体を可動式の台で受ける」こととされているため、可動式の台を導入したほか、冷蔵庫の扉の結露発生を抑えるために送風機を設置するなどしている(写真1、2)。
 また、部分肉加工ラインでは、輸出先から要求されたスペックに正確に対応するため、作業者の頭上に設置されたタブレットに加工指示が表示されるようになっている(写真3)。
 
 




 
オ 和牛肉の輸出の状況
 令和6年度における黒毛和種の輸出向けの年間製造量は78.4トンと、前年度比18%の大幅な増加を記録した。輸出先は、香港(製造量に占める割合37%)、台湾(同20%)、米国(同14%)、シンガポール(同10%)、EU(同10%)、タイ(同9%)となっている(図6)。
 
 


 
 輸出される部位については、ロイン系が主となっている。米国向けはロイン系のほか、ブリスケット(カタ)、ウデなども多い。香港向けはロイン系に次いでモモ系の数量が多い。可能であればセット販売が望ましいが、輸出先のユーザーからは部位ごとの販売が求められており、セット販売は商系の業者がわずかに実施しているのみである。
 なお、十勝工場全体の年間輸出向け製造量のうち9割が第3工場で加工されており、北海道畜産公社における輸出対応の拠点として、その役割は大きくなっている。
 

(3)課題

  今後の和牛肉輸出の拡大について、十勝工場では以下の通りの三つの点を課題として挙げている。
 
ア 施設面の制約
 十勝地域では生産者の戸数が減少する一方、1戸当たりの飼養頭数は増加しており、増頭意欲は旺盛である。上記の処理能力の上限に迫る状況である。枝肉冷蔵庫についても、今後、取扱数量の増加に対応するためには設備拡張が不可欠となっている。
 
イ 労働力不足への対応
 と畜・加工の作業者が不足しており、部分肉加工作業で外国人技能実習生を活用するなどの対策を講じている。しかし、食肉の加工技術は特殊であり、技術の習熟・継承には時間を要するため、長期的に作業に携わる人材の確保が必要としている。
 
ウ 部分肉加工における規格の細分化への対応
 部分肉加工で要求されるスペックの細分化が進んでおり、作業時間が増加している。また、輸出向けでスライス加工することはないが、今後、輸出向け・国内向けともに量販店のバックヤードが減少した場合には、より細かいスペックやスライス加工などを求められる可能性があり、さらなる作業時間の増加が懸念される。
 なお、ホクレン食肉輸出コンソーシアムに参加しているホクレンにも課題を確認したところ、前章の全農インターナショナルで挙げられている課題が同様に挙げられている。
 ただし、1)輸出先での「Wagyu」との競合と併せて、「九州産和牛」などとの競合(北海道産牛肉のブランド力向上)、2)和牛肥育もと牛の道外流出による道内の肥育頭数の減少―を課題としていることが特徴として挙げられている。
 

(4)今後の対応

 十勝工場では施設の新・増設による生産能力の向上を図るとして、第2工場における枝肉冷蔵庫の新設と係留所の増設を計画している。
 令和7年度にはニュージーランドへの輸出が始まり、フィリピンへの初回輸出も予定されている。今後も肉牛の生産を担当するホクレン、牛肉の処理加工を担当する畜産公社、和牛肉の流通販売・輸出を担当する全農ミートフーズおよび全農インターナショナルとは「ホクレン輸出コンソーシアム」の参加者として連携し、既存市場の取扱量の拡大と新規市場の開拓を進めていく方針だとしている。

4 株式会社熊本畜産流通センターの取り組み

(1)株式会社熊本畜産流通センターの概要

・株式会社熊本畜産流通センター(以下「熊本畜産流通センター」という)は、熊本県北部の菊池市に位置し、本社、工場などが同一の敷地に集約されている。従業員数は約230人、令和6年度の売上高は約155億円
・施設については、牛・豚の処理を行う第1工場(写真4)と、牛のみの処理を行う第2工場がある。そのうち、輸出認定を受けているのは第1工場のみで、第2工場は国内向け工場としてと畜・内蔵処理のみ行っている(表1)。
・第1工場の牛肉輸出認定の取得については、平成24年のマカオ、タイを皮切りに、26年3月には米国などの認定を取得、現在では14カ国・地域の輸出認定を取得(表2)
・和牛肉輸出に当たっては、熊本県経済農業協同組合連合会(JA熊本経済連)などの県内畜産関連団体が参加する「熊本県産牛肉消費拡大推進協議会」、同協議会に全農インターナショナルや全農ミートフーズを加えた「熊本県産牛肉輸出促進コンソーシアム」に参画し、各者と連携しながら和牛肉輸出の実施と拡大に向けた取り組みを実施(図7)
 
※熊本畜産流通センターの会社概要については、同社ホームページをご参照ください。
 






 

(2)現況

ア と畜解体処理
 第1工場における令和6年度の牛と畜解体処理実績は9954頭(稼働日当たり約64頭)、牛カット処理実績は4844頭(同20頭)であった。
 
イ アニマルウェルフェア(AW)の取り組み
 飼養環境が異なる生産農家からの受け入れを行うに当たり、熊本畜産流通センターは、簡易頭絡の実証試験を繰り返し実施している。生産現場の意見を取り入れながら必要に応じて改良を施し、頭絡の定着に努めることに加え、AWに関する指針を策定し、幅広く周知を図る。
 
ウ 血斑対策
 血斑低減対策については、第1工場が稼働を始めた当初からの課題として、ソフト・ハード両側面からさまざまな取り組みを進めている。血斑発生のメカニズムが完全に解明されていない現状では、主に牛のストレス緩和を目的とした環境整備を図ることを最優先に取り組んでおり、他産地での研修を通して改善方法を模索し、一部施設の改修も行った。また、調査分析を継続的に行い、改善効果の把握に努めている。
 
エ 輸出向けの処理と加工
 生産者から出荷された牛は、と畜処理の前日に生体を搬入し、体表の汚れがないことを確認し、係留所内に係留する。搬入の翌日にと畜処理を行い、と畜検査員による検査に合格した枝肉は、1日冷蔵で保管し、と畜から2日目に格付員による格付けされる(写真5)。枝肉のまま出庫されるものを除き、格付けの翌日以降に大分割・カット処理を施し、部分肉に分割した後、真空包装が施され、箱詰めと荷口検査を経て、出荷される(写真6)。
 輸出向けの牛肉は、包装までは国内向けと同じだが、包装後、輸出向けの検査が実施され、国内向けとは異なるデザインの段ボールに梱包こんぽうされる(写真7)。
 なお、熊本畜産流通センターでは、米国向けの輸出認定を取得している工場がない県からも生体牛を受け入れている。






 
オ 牛肉輸出の状況
 輸出状況については、令和6年度実績が416トン(部分肉ベース)と、輸出を開始した初期の平成28年度の44トンから10倍近くに拡大している。6年度の輸出量上位は、台湾、香港、米国の順に多く、褐毛和種と交雑種(F1)の牛肉の輸出実績もわずかにあるが、大部分は黒毛和種である。
 台湾向けについては、フルセットで輸出されることもあるが、国・地域によって需要が異なり、ロイン系は米国と香港、バラは香港への輸出が多い状況である。近年では、米国のモモの需要が増しているという。
 

(3)課題

 今後の和牛肉輸出の拡大に向けて、熊本畜産流通センターでは、以下の2点を課題として挙げている。
 
ア 人材確保
 人材については、県内への大規模半導体工場の進出などの影響もあって流動的になっており、従業員の技術継承が難しく、人材の確保と育成に苦慮している。外国人技能実習生を活用するほか、柔軟に必要な人員を補充できるように人材派遣会社を利用することも検討している。また、牛のと畜・加工ラインの欠員に、豚のと畜・加工ラインの従業員が対応した場合には、手当を支給するなど、福利厚生面を充実させることで人材の定着を図っている。
 
イ 他ブランド和牛との競合
 熊本県産の和牛を神戸牛や松阪牛といったブランド和牛と比較すると、海外での知名度が低いことは否めず、海外のユーザーから日本産の和牛として一くくりに扱われる傾向にあり、個別のブランド和牛肉としての知名度の向上が必要としている。
 現在、特にアジア圏を中心に知名度のある熊本県のPRマスコットキャラクターのくまモンを販促用資材に活用するなど、輸出先で熊本県産和牛として認知され、手に取ってもらえるような取り組みを実施している(写真8)。
 
 
 

(4)今後の対応

 熊本畜産流通センターは、県産牛肉を中心に輸出のための処理・加工を担ってきた。一方で、畜産情勢は農家の高齢化、後継者や労働力不足、資材価格の高騰など生産基盤を揺るがす環境が続いており、生産頭数の減少傾向は顕著である。このような中、同センターは、安全・安心で信頼される製品提供に注力し、輸出事業を通して熊本県産ブランドの銘柄確立、さらなる輸出拡大に取り組み、生産農家の負託にしっかりと応え、熊本県の畜産発展に貢献していくこととしている。

5 おわりに

 今回紹介した3者に共通していたのは、和牛肉の輸出は国内における肉用牛の再生産、生産基盤の維持のために必要な取り組みであり、輸出先を増やすことが今後の和牛肉の輸出拡大に求められるという認識であった。
 こうした中で、今回の調査を通じて最も重要と感じられたのは、やはり「日本産和牛」のブランド価値の再定義である。このためには、輸出先ごとのアピールポイントを検討するための現地食文化などの基礎的な情報を収集した上で、プロモーション活動において和牛肉の品質の高さを簡明にアピールできる資料を整備することが求められる。また、国の支援などを受けて未開拓の輸出先を開拓すること、また、各地域で和牛肉の処理・加工工程に携わる人材の確保・育成などを進めていくことも必要であると思われる。
 だが、その一方で、各地域とも輸出を行うに当たっては「和牛の地域間競争」を課題として挙げている。
 農林水産省の畜産統計(毎年2月1日現在で公表)によると、黒毛和種の飼養頭数は、令和4年から6年にかけて増加し、6年には185万9000頭となったものの、7年は前年比2.2%減の181万8000頭となった。
 このように、生産基盤が安定せず、今後の和牛肉の国内需要も見通しが難しい中、和牛肉の輸出は生産基盤の維持に必要な取り組みであることが改めて認識される。今回見てきた3者をはじめとする和牛肉の輸出の取り組みについて、今後も注視していきたい。
 最後に、本稿の執筆に当たりご協力いただきました全農インターナショナル、北海道畜産公社、熊本畜産流通センターの皆さまに心より御礼申し上げます。
 
【参考文献】
農林水産省 「食料・農業・農村基本計画」
農林水産省 「輸出拡大等による「海外から稼ぐ力」の強化に向けた施策の展開方向」
農林水産省 「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」
農林水産省 「輸出事業計画(北海道:ホクレン食肉輸出コンソーシアム)」
農林水産省 「輸出事業計画(熊本県:熊本県産牛肉輸出促進コンソーシアム)」
農林水産省 「畜産・酪農をめぐる情勢」
農林水産省 「畜産統計調査」