畜産経営は、365日止まることのない仕事だ。牛の給餌、牛舎の清掃、健康状態の確認、繁殖対応など、日々の作業の積み重ねによって生産が成り立っている。だからこそ、人手不足は単なる「忙しさ」の問題ではない。管理の質の低下や経営判断の遅れにつながり、最終的には牧場の持続性や経営そのものに影響を及ぼす。
群馬県の磐上畜産は、もともと日本人スタッフ2人体制で運営していたが、若手社員が県外へ転職。もう一人のベテランスタッフも体調面の不安から、安定して働くことが難しくなった。その後、農業系のエージェントなどを通じて募集を続けたものの通勤圏内で条件に合う人材は見つからず、採用しても長く続かないという状況であった。
結果として約10カ月間、社長1人で飼養管理を行うこととなった。毎日の作業に追われ、休みもほとんど取得できず、目の前の業務をこなすことで精一杯となり、経営の改善や将来の計画を考える余裕はなかったという。このままでは牧場を維持することすら難しくなっていた。そんな危機感の中で検討したのが、YUIMEを通じた特定技能外国人の受け入れだった。導入前に最も不安だったのは、言葉の問題だった。しかし、近隣の事業者から外国人材の働きぶりについては話を聞いており、「真面目で一生懸命に働く」という印象を持っていたという。何より、牧場を続けていくためには新たな人材確保が不可欠だったことから、外国人材の受け入れを前提に導入を進めた。
(1)現場を支える、安定した人員体制
現在は、特定技能外国人2人と社長の3人体制で牧場を運営している(写真3)。外国人スタッフは朝7時に出勤し、給餌や牛舎の清掃などの日常的な作業を担当。昼休憩を1時間取り、午後の作業は16時には終了。残業はほとんどなく、分娩や事故など通常と異なる状況が発生した場合のみ、社長へ連絡するルールとしている。
外国人材を受け入れた当初は、社長自ら作業を実演しながら一つ一つ指導を行った。現在では日常の管理業務の多くを2人に任せられるようになり、牧場全体の運営を支える存在となっている。社長はトラブル対応や経営判断に集中できるようになり、時間の使い方が大きく変わった。「人がいる」という当たり前の状態が戻ったことで、経営の視点にも変化が生まれた。それまでのように毎日の作業を回すことだけに追われるのではなく、今後の設備や規模の見直しなど、中長期の経営を考える余裕が生まれたという。外国人スタッフ2人は業務にも十分慣れてきており、将来的には牧場面積の拡張など、規模拡大も視野に入れている。
外国人材の受け入れに当たり、特別な対応は多くない。ただし、宗教上の理由から食事内容や、生活環境の整備には気を配っている。住居についても、外国人の入居が可能な物件を探す必要があり、現在は自転車で通勤可能な距離にアパートを確保している。外国人の入居を断られるケースもあるため、今後は受け入れ先として利用できる住居情報が整理されることへの期待もあるという。
また、言葉の壁は、やはり一定程度存在する。そのため、細かなニュアンスが伝わりにくい場面もあることから、「実際に作業など見せながら教える」ことを基本としている。
(2)就労を前提とした「特定技能制度」がもたらす安定した運営
外国人スタッフの受け入れを通じて感じているのは、日本で働くことに対する「覚悟」の大きさだという。家族を母国に残し、就労を目的に来日しているからこそ、長く働こうとする意識の高さが現場の安定につながっている。社長は「日本で働くと決めた時点で覚悟がある。5年間はしっかり頑張るという意識が強く、長く続いてくれる安心感がある。むしろ日本人の方が条件面などの要望が多いこともある」と話す。
実際に働く外国人スタッフからも、前向きな声が聞かれた。技能実習を経て特定技能の認定を受けて再来日したスタッフは、「社長が優しく、働きやすい環境。畜産の仕事が好き」と話し、特定技能2号を取得して長期的に日本で働くことを目標にしている。もう一人のスタッフも、日本で働けることへの満足感を語り、日本語の習得に意欲を見せている。このように、外国人材は単なる労働力ではなく、牧場の将来をともに支える頼もしい存在となっている(写真4)。
人手不足に悩む畜産経営者に向けて社長は「コミュニケーションにおいて工夫は必要だが、一緒に働けば想像以上にうまくいく。言葉の壁はゼロにはならないが、都度向き合うことが大切だと思う」と語る。
今後、事業を続けていく中では、新たな人材が必要になるタイミングも訪れる。そのときには再び、YUIMEのサポートを活用したいと考えているという。
外国人材の受け入れは、単なる人手不足対策にとどまらない。安定した労働力の確保が、経営者に時間と判断の余裕を生み、事業の維持から成長へと視点を変える。その変化こそが、畜産経営の未来を支える大きな力となっている。