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話題 畜産の情報 2026年6月号

新たな畜産獣医学の教育・情報発信拠点 「南九州畜産獣医学拠点(SKLV)」の取り組み 〜「学ぶ」だけでなく、現場で実践し、次世代の畜産を支える拠点〜

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一般財団法人SKLVそお

1 はじめに――産業動物獣医師をめぐる課題と南九州の現実

 日本の畜産を支える産業動物獣医師や公務員獣医師の確保は長年の課題である。獣医師全体の数は増加傾向にある一方で、牛、豚、鶏、馬などを対象とする産業動物分野では、就業者が横ばいから微減で推移し、高年齢化も進んでいる。背景には、大学における産業動物分野の獣医療の教育環境がソフト・ハードの両面で維持困難になりつつあることや、獣医師を目指す学生の教育を行う全国17大学の大半で農場での実践的な臨床実習の機会が限られてきたことがある。具体的には、北海道など一部地域では大規模な実習環境が整備されている一方、他地域においては産業動物の実践的な臨床実習を継続的に組み込むことが難しく、大学によって実習機会の質と量にばらつきが生じている。また、小動物診療に強みを持つ大学と産業動物診療に強みを持つ大学があるなど、大学によって教育の特色がそれぞれ異なるため、学生が幅広い分野を体験するための環境面での制約も生じている。
 また、産業動物の獣医療は、小動物の診療とは根本的に異なっている。群単位の衛生管理、疾病の早期発見、農場経営との接点、これらはすべて実際の畜産現場で実践的に身に付けている状態である。
 そうした中、圧倒的な畜産規模を誇る地域が鹿児島県曽於市である。
 曽於市は大隅半島の北部に位置し、令和5年の市町村別農業産出額では肉用牛が全国3位、豚が全国4位、ブロイラーが全国10位という畜産の主産地である(表1)。また、畜産全体、肉用牛、豚の産出額がいずれも全国1位の宮崎県都城市とも隣接している。その一方で、人口減少や少子高齢化が進み、平成28年3月には鹿児島県立財部高等学校(以下、「財部高校」という)が廃止され、広大な跡地の活用が課題となっていた。

 

2 設立の経緯――廃校跡地から生まれた産業動物臨床の実践教育の拠点

 財部高校跡地の活用を模索していた曽於市と、産業動物分野の実践教育の場を模索していた鹿児島大学。両者の課題が重なり誕生したのが、「南九州畜産獣医学拠点(South Kyushu Livestock Veterinary Center :SKLV)」である(写真1、図1)。
 



 
 SKLVは、財部高校跡地を活用した教育複合施設として整備され、令和6年4月1日に本格運営を開始した(表2)。設置主体は曽於市、施設全体の管理運営は指定管理者である一般財団法人SKLVそおが担い、鹿児島大学と緊密に連携しながら、教育・研究・地域交流・情報発信の機能を一体的に展開している。その他、鹿児島県経済農業協同組合連合会(JA鹿児島県経済連)をはじめとする複数の民間企業・団体がこの施設を利用してさまざまな事業を行っている。このように、約28億円の公的投資によって整備された施設は、特定の組織のためではなく、日本の畜産を担う人材育成と情報の基盤となることを目的としている。

 

3 施設の概要――「泊まり込んで学ぶ」実践フィールド

 SKLVの最大の特色は、「学ぶ・実習する・食べる・泊まる」がすべて同一敷地内で完結する点にある。旧財部高校校舎をリノベーションした講義室・会議室・宿泊施設(全28室)の他、食堂、レンタルオフィスなどを備え、多様な学習環境を実現している(図2)。
 施設は主に三つのエリアで構成される(図3)。
 「産業動物モデル飼育エリア」は、牛・鶏の畜産獣医学実習、研究などの中心で次世代閉鎖型牛舎、研究用鶏舎が整備されている。ここで特筆すべきは、SKLV内の牛舎のすべての牛は、JA鹿児島県経済連がテナント事業として黒毛和牛の繁殖・肥育一貫飼育を行っているもので、教育用に特別に用意された産業動物ではなく、実際に経済的価値を持つ肉用牛を対象に、診療・衛生管理実習などの実践経験を積めることが大きな特徴である。この現実感が、学生の学びを実体の伴ったものにする。民間事業者の経営と大学の教育が同じ敷地に共存するこのモデルは、施設の持続可能性を支える根幹でもある。
 「地方創生エリア」は、講義室、会議室、宿泊施設などを備えた中核施設で、ICT(情報通信技術)関連企業や地域事業者の活動拠点としても機能する。
 「馬エリア」は、厩舎きゅうしゃ、屋内外馬場を備え、馬の診療実習から乗馬体験、地域イベントまで幅広い目的に対応可能である。
 また、旧財部高校校舎をリノベーションした施設であることから、「教室で講義を受け、歩いて畜舎へ向かい、実習後に仲間と食事をしながら振り返り、宿舎に泊まる」という一日が、すべて施設内で完結する。希望者は、深夜の牛の分娩介助にも立ち会うことができ、都市部のキャンパスを拠点とする大学では得難い現場環境が整っていることも魅力の一つである。



4 産業動物獣医師育成の教育拠点として

 SKLVの指導体制は、鹿児島大学共同獣医学部の南九州畜産獣医学教育研究センター(SKLVセンター)が担い、常駐の教員陣による実践的な獣医学教育と専門的な学び直し(リスキリング)教育を行っている。学生実習は4泊5日を基本とし、教員が実習プログラムの企画・立案から現場での実技指導まで一貫して行っており、全国の獣医系大学から学生の実習を受け入れている(写真2)。
 開設初年度の令和6年度には、全国15大学から116人の獣医学生を受け入れ、令和7年度には167人へと増加し、全国17の獣医系大学すべてから学生が訪れた。かつて廃校となった場所が、今や日本全国の獣医学生が集う実習拠点へと生まれ変わっている。

 

5 畜産・獣医学分野の情報発信拠点として――全国3000人が参加するSKLVセミナー

 KLVでは、生産者や産業動物獣医師、畜産関連企業・団体、家畜保健衛生所などを含む地方行政職員を対象として、畜産・獣医領域に直結したテーマでセミナーを開催している。開設以来、「SKLVセミナー」は、令和6年5月以降、約2年間で計47回、対面・Webを組み合わせたハイブリッド形式により、累計で約3000人が参加するプラットフォームへと成長した。
 セミナーのテーマは、豚熱・アフリカ豚熱をはじめとする感染症・防疫対策、スマート畜産・AI(人工知能)活用、和牛繁殖管理など、現場における喫緊の課題を中心に構成されており、ドイツ・台湾・タイ・韓国の専門家を招いた国際的な情報共有も行われてきた。ハイブリッド形式の導入により、南九州を拠点としながらも、北海道から沖縄まで全国の畜産関係者に情報を届けるインフラとして機能している。

6 地域の交流拠点として

 SKLVでは、施設を活かして地域住民や子どもたちに向けたイベントを継続的に開催し、畜産業や産業動物獣医師という職業への理解醸成にも力を入れている。また、乗馬クラブの入居により、一般来場者が馬と気軽に触れ合える場ともなっており、牛・鶏の飼養区域を除き、休日も含めて一般開放されている(写真3)。
 開設から2年間の総来場者数は4万7000人を超え、曽於市だけでなく、SKLVは域内外から人が集まる新たな交流拠点へと成長している。
 
 

7 今後の展開――南九州から、日本の畜産の未来へ

 SKLVが目指すのは、「南九州の畜産拠点」という枠を超えた存在である。現役の獣医師・畜産技術者にはリスキリングの場として、農家・畜産関係者にはセミナーを通じた最新情報の取得と現場の声の発信の場として、畜産関連企業・研究機関には実証フィールドとして活用してほしい。行政機関には、ハイブリッドセミナーなど情報発信の場として積極的に活用してもらうことを期待している。こうした役割をさらに強化し、多くの方にSKLVという施設を認識していただき、活用してもらうことを通じて日本の畜産業の基盤強化に貢献していきたい。
 廃止された高校跡地が、全国の獣医学生、畜産関係者、研究者、行政、企業、生産者などが集う拠点となったことは、「人口減少が進む地方でも、設計と連携次第で新たな人の流れと可能性を生み出せる」ことを示している。
 SKLVが南九州の畜産から、日本の畜産基盤を支え、世界へと発信する――SKLVの取り組みは、その確かな第一歩を踏み出している。
 
一般財団法人SKLVそお
〒899-4101 鹿児島県曽於市財部町南俣1343番地
TEL:0986-36-6087
Mail:info@sklv-soo.jp
ウェブサイト:https://sklv-soo.jp
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