NZの数ある乳業メーカーのうち、酪農協同組合であるフォンテラ社は、国内の集乳量全体の約80%を占める国内最大の企業であり、世界最大の乳製品輸出企業である(図17)。フォンテラ社に次ぐ乳業メーカーはオープンカントリーデーリー(OCD)社であり、その集乳割合は約15%を占める。本章では、NZ産生乳の大部分を取り扱う2社への取材を基に、NZ乳業メーカーの輸出戦略を紹介する。
(1)フォンテラ社
フォンテラ社は、酪農家約8300戸から集乳しており、従業員数は全世界で約1万6000人(うち約1万1000人がNZ)、100カ国以上で事業を展開している(写真5)。
同社は、2026年3月に消費者向け事業(BtoC)および関連事業をフランスの乳業大手ラクタリス社に売却した
(注11)。同社からの聞き取りによると、今回売却した消費者部門は、同社の取扱量全体の5%に過ぎず、原料部門(同75%)や外食産業部門(同20%)と比べると規模が小さい。売却に至った背景には、1)消費者部門は同社全体で見れば小さい部門であるが運営面のコスト負担が大きいこと、2)同社には酪農協同組合として農家の利益を最大化する責務があること−から、ラクタリス社を最大の取引先として原料乳製品を供給することで、同社の強みを発揮することに集中するという判断があった。
(注11)詳細は海外情報「フォンテラ社、消費者向け事業などの仏ラクタリス社への売却に合意(NZ)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_004200.html)をご参照ください。
ア 主な輸出先の動向
(ア)日本向け
フォンテラ社にとって日本は第4位の輸出市場であり、NZの対日乳製品輸出総量の約77%を占めている。主要輸出品目はチーズやバターであるが、カゼインなどの乳たんぱくの輸出先としても重要な市場である。近年、日本市場でも持続可能性への関心が高まっており、一般的な乳製品ではなく、NZのグラスフェッド認証基準を満たしたグラスフェッド乳製品でこの需要に応えていくとしている。
(イ)中国向け
フォンテラ社にとって中国は、輸出額の約3割を占める最大かつ重要な輸出市場である。しかし、近年は東南アジア向けの輸出が伸びており、中国向けの輸出量が今後減少したとしても、東南アジアからの需要を取り込むことで補完できるとしている。東南アジアの需要増の背景には、23年からの中東での紛争を受け、スエズ運河の通航に問題が生じ、欧米産乳製品の調達が減少したことに加え、アフリカを迂回する船舶に遅延が発生したことにある。現在、これらの状況は改善されつつあるが、NZ産乳製品の需要は堅調である。
また、中国でのベーカリー産業や外食産業の急成長が、チーズ、クリーム、バターといった高付加価値乳製品の市場拡大をけん引しており、同社のバターやモッツァレラチーズの輸出も堅調である。24年には同社ブランドでプロの製菓・製パン製造者向けに設計された高安定性・高機能のホイップクリームを中国で販売開始するなど、粉乳類だけでなく、付加価値のある乳製品の販売にも力を入れている(写真7)。
イ 高付加価値乳製品の輸出動向
フォンテラ社は現在、限られた生乳からの収益最大化を目的に、全粉乳だけではなく、より収益性が高い高付加価値乳製品の生産を可能な限り拡大することを基本方針としている。
乳製品の各品目の生産構成は、1)乳製品の国際相場の動向、2)確保可能な生乳量、3)生産可能な製品の種類、4)優先すべき製品、5)販売先となる顧客の需要−などを総合的に勘案した上で決定している。生産計画は月に2回見直し、最長で18カ月先までを見据えて計画を立てている。こうした計画の策定に当たっては、生乳から全粉乳を生産するか、あるいはたんぱく質および脂肪分に分離して加工するかなど、複雑な選択を伴う。同社では、専用の計算ツールを用いて、どの乳製品を選択すれば最も高い収益性が見込めるかを試算した上で、企業全体の収益が最大となる製品構成を決定している。
25年は、中国や東南アジアの需要が同社のチーズやバターの生産を後押しした。また、乳たんぱく製品の需要も増加しており、輸出量はMPC、カゼイン、カゼイネートの順で多く、米国、中国、日本が主要輸出先となっている。
バター製品が好調な一方で、脱脂粉乳の世界的な取引需要は横ばい状態であり、同社の主要輸出先である中国や東南アジアでも、脱脂粉乳の需要が弱まっている。しかしながら同社は、今後も脱脂粉乳の需要が弱まったとしても、脱脂乳をカゼインなどに分解するか、そもそも脱脂粉乳の生産量を減らし、他の乳たんぱく製品に仕向けるといった柔軟な対応が可能であるとしている。
また、現地乳業関係者によれば、カゼインなどの高付加価値製品を生産した方が収益性に寄与する場合には、脱脂粉乳の生産量を抑制するなどの対応を進める考えが示された。さらに、クリーム需要も堅調に伸びていることから、スキムミルクの仕向け量を減らすという方法も検討するとの声も聞かれた(図18)。
(2)OCD社
OCD社は現在、およそ1300戸の酪農家から集乳し、年間35万トン以上の粉乳類、4万5000トンのチーズ、2万トンのバターを生産している。同社は、フォンテラ社という巨大乳業が存在する中で、可能な限り多くの生乳を集めて効率的に全粉乳に加工することに特化してきた(写真8)。その結果、現在は世界第2位の全粉乳輸出企業となっている。また、同社の強みである原料乳製品の供給に特化し、BtoC製品や自社ブランドによる製品展開は行っていない。加えて同社は、農家が安定的に収益を確保できることが重要であるとの方針から、他の乳業メーカーと比べても高水準の乳価を維持している。
ア 主な輸出先の動向
(ア)日本向け
OCD社の日本向け乳製品輸出量は年間2万トンを超え、主要輸出品目は脱脂粉乳や全粉乳、チーズである。特にチーズは、同社にとって日本が最大の輸出先であり、今後はバターの輸出先としても関心を持っている。
(イ)中国向け
OCD社は粉乳生産を中心に事業を構築しており、全粉乳の輸出量は年間27万〜28万トンである。最大の輸出先はアルジェリア、次いで東南アジア、中東・アフリカである。NZにとって全粉乳の最大の輸出先は中国であるが、OCD社は、中国への過度な輸出依存を避けるため、同国向け全粉乳の輸出量を最大25%までと内規で定めるなど、厳格な方針をとっている。このような輸出方針は、輸出先の多角化の推進にもつながっており、今後は、粉乳市場の成長が著しいアフリカの需要をさらに取り込みたいとしている。
イ 高付加価値乳製品の輸出動向
OCD社は、集乳可能な生乳量の制約から乳製品の生産量が限られている中、一定の数量を確保でき、かつ、持続的な成長が可能な乳製品の生産に取り組む必要があるとの考えの下、2025年は、新たにバター工場とチーズ工場への投資を行った。また、乳たんぱく製品の工場にも投資を行い、これまでのWPC34だけでなく、より濃縮したWPC80の生産が可能となった。今後は、MPCやWPC80、ホエイたんぱく分離物(WPI:Whey Protein Isolate)の生産拡大を目指している。
さらに、グラスフェッドによる乳製品の高付加価値化も模索している。同社のグラスフェッド原料乳製品に「グラスフェッド」と明示することで、NZ産乳製品の差別化と販売促進を図っている。同社の原料乳製品を使用して製造したプロテインパウダーやプロテインバーなどに「グラスフェッド」と表示したスポーツ栄養分野の製品もすでに販売されている。これらの製品は、健康志向の高い消費者を中心に受け入れられているため、同社はグラスフェッド原料乳製品の需要が着実に拡大しているとみている。グラスフェッド認証の取得や管理には一定のコストを要するものの、それを上回る長期的な価値が見込めることから、同社は26年以降、すべての原料乳製品に「グラスフェッド」の表示を行う方針である。今後5年間でグラスフェッド・ホエイプロテイン、グラスフェッド・チーズ、グラスフェッド・バターが、同社のビジネス構造を大きく転換させる中核商品になると見込んでいる。
乳製品の高付加価値化を進める同社の乳製品の生産は、限られた生乳から収益性を最大化することを目的として、製造する乳製品の優先順位を決定している。取材時の25年末時点では、収益性が最も高い乳製品はバターと脱脂粉乳であったため、最初にバターと脱脂粉乳、次いでチーズ、最後に全粉乳の順で生産量を決定していた。各乳製品の生産量決定後、収益性が高くなるよう輸出先を選定し、輸出を行っている。これら乳製品の生産量の優先順位は、乳製品の国際相場の動向を踏まえて2週間に1回見直しを行っている。