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調査・報告 友夢牧場 畜産の情報 2026年7月号

大規模酪農経営におけるワークライフバランスの推進と経営イノベーションの展開〜北海道・新得町の有限会社友夢牧場を事例に〜

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北海道大学大学院農学研究院基盤研究部門農業経済学分野 准教授 清水池 義治

【要約】

 本稿の課題は、北海道の大規模酪農経営を対象に、休日確保といった構成員のワークライフバランス実現を可能とする条件と、それによる経営効果を考察することである。事例とした新得町の有限会社友夢ゆうむ牧場は、年間108日間の休日に有給休暇を加えた日数の休みを、しかも希望する日程で取得可能である。それは、ジョブローテーション制と、多数の従業員雇用を可能にする高生産性、互いの休みをカバーする従業員の「お互いさま」の意識の涵養かんようによって可能となっている。その結果、従業員の安定的・持続的な確保、死産率低下などアニマルウェルフェア改善による経営改善、企業内の事業間連携の強化と企業成長といった経営のイノベーションへと結実している。

1 はじめに

 2025年4月公表の新たな「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」(酪肉近)は、酪農の生産現場での課題として、経営者・労働力の不足や人材の早期離職、規模拡大を背景とする1人当たり労働時間数の増加などを挙げ、一層の省力化や人材の確保・育成・定着の必要性を指摘した。具体的には、省力化機器・スマート農業技術の導入による作業効率化や、農業経営体の組織改革を通じた経営・労務管理の高度化が求められる。
 昨今の「働き方改革」によるワークライフバランスの推進・実現は、酪農でも喫緊の課題である。北海道の酪農経営における家族就業者1人当たり年間労働時間は1932時間(2024年、農林水産省「畜産物生産費統計」)で、平日8時間勤務の年間労働時間(2080時間)と大差ない。しかし、これは一世帯で通常、複数人いる家族就業者の平均であり、一般的な労働時間を大きく超えて働く就業者もいると思われる。後継者や従業員の確保・定着にとって、所得・賃金に加え、休日確保などのワークライフバランスは重要である。その背景には、就業意識の変化がある。
 1973年における働き方の意識は、「仕事優先」44%、「余暇優先」32%、「余暇・仕事両立」21%という回答であったが、2018年にはそれぞれ23%、36%、38%となり、ワークライフバランスの意識が明らかに強まっている。また、20代・30代の若年層では、他の世代と比べると、賃金水準を重視する一方で継続就業希望は高くないが、継続就業の理由として、休日取得の容易さや長時間労働の少なさ、フレックスタイム・在宅勤務などによる柔軟な働き方を挙げる割合が高い傾向にある(注1)
 近年、離農による酪農家戸数の減少を受け、中規模家族経営の比重が高かった北海道でも、大規模経営の存在感が増している。2025年度現在、北海道で年間出荷乳量1000トン以上の大規模経営は1119戸で、北海道全体に占める戸数シェアは26%、出荷乳量シェアは実に63%に達した(注2)
 言うまでもなく、これら大規模経営は雇用労働力によって支えられている。図1に、北海道における搾乳牛1頭当たり労働時間を搾乳牛飼養頭数規模階層別に示した(農林水産省「畜産物生産費統計」)。規模が大きくなるほど、1頭当たり労働時間は低減し、労働時間全体に占める雇用労働時間の比率は上昇する。同比率は、100〜200頭階層で37%、200頭以上階層で56%である。これらの労働時間をフルタイム労働者の人数に換算すると、100〜200頭階層は1.7人、200頭以上階層では4.5人に相当する(注3)。こうした傾向から、雇用労働力の確保の重要性はますます高まっている。
 
 
 
 本稿の課題は、北海道の大規模酪農経営を対象に、他産業並みの休日確保といった構成員のワークライフバランス実現を可能とする条件と、それによる経営効果を考察することである。
 調査対象は、北海道十勝地域・上川郡新得町の有限会社友夢ゆうむ牧場(以下「友夢牧場」という)とした(図2)。友夢牧場では、1カ月当たり9日間、つまり年間108日間の休日に加えて、年10日間以上の有給休暇の取得が可能である。これは、労働基準法で定められた年間休日数の最低ラインである105日間(1日8時間・週40時間で働く場合)を超える水準で、他産業並みの休日数と言える(注4)
 以下では、まず友夢牧場の経営概要を述べ、ワークライフバランスを実現する勤務体制を説明する。その後、ゆとりある労働の実現による経営への影響と効果について考察したい。

(注1)以上の就業意識に関するデータは、厚生労働省(2025)pp.144–149を参照。(引用文献)
(注2)データは「北海道のメガファーム、過去最多の1119戸・25年度」『酪農スピードNEWS』2026年5月21日付より。ただし、ホクレン農業協同組合連合会出荷の生産者に限ったデータで、自主流通分は含まない。2008年度時点の大規模経営の年間出荷乳量シェアは3割弱であったから、大きな変化である(清水池2023、p.95参照)。(引用文献)なお、年間出荷乳量1000トンは、おおむね搾乳牛100頭に相当する。
(注3)平日に1日8時間労働するフルタイム労働者を想定した。この場合の年間労働時間は2080時間である。
(注4)ただし、労働基準法第41条により、酪農を含む農畜産業では、年間休日数の最低ラインは適用除外となっている。


 

2 有限会社友夢牧場の経営概要

(1)経営概要

 2026年2月に北海道新得町の友夢牧場を訪問し、同社の取締役専務の湯浅征寿ゆあさまさとし氏(47歳、以下「征寿氏」という)にインタビューを実施した(写真1、写真2)。
 
 

 
 表1は、友夢牧場の経営概要である。友夢牧場は、2000年3月に新得町の複数農家が出資して設立された協業法人で、2001年4月に生乳出荷を開始した。構成員数(2026年2月現在)は37人で、うち役員4人(作業に従事する役員は2人)、正社員(フルタイム)20人、パートタイマー4人、ベトナム人実習生等9人(うち技能実習生4人、特定技能5人)である。年1回の定期昇給、年2回の賞与に加え、法定有給休暇、そして法定の手当以外では住宅手当を支給している(社宅も有り)。
 経営耕地面積は合計360ヘクタール(ha)で、その内訳は草地180ha、デントコーン170ha(畑作農家委託分90ha含む)、その他10haである。飼養頭数に対して自給飼料が不足しているため、外部から北海道産牧草などを購入している。圃場ほじょう作業のうち播種はしゅ・収穫作業はJA新得町子会社のコントラクターに委託し、その他の運搬やバンカーサイロの作業は自社で行っている。



 
 総飼養頭数は約1700頭、うち経産牛が約1000頭、育成牛が約700頭(公共牧場預託)である(2025年度現在)。図3は、2016年度以降の出荷乳量と経産牛飼養頭数の推移である。直近10年間の出荷乳量は1万トン前後で推移し、25年度は過去最高の1万1110トンとなった。17年度から20年度にかけてはサルモネラ症やヨーネ病の発生によって、経産牛飼養頭数がやや少なくなっている。23年度はコロナ禍による生産抑制を受け、早期乾乳対応で出荷乳量の抑制を実施した。経産牛1頭当たり年間乳量は平均で1万1000キログラム(注5)程度である。

 
 売上高は25年度で約16億9000万円、うちバイオガス売電収入が1億2000万円程度ある。
 表2に、友夢牧場の農場施設を示した。約1050頭を収容可能なフリーストール牛舎(搾乳牛・乾乳牛)(写真3)、ミルクキングパーラーは26頭ダブル・パラレル式(写真4)、バイオガスプラント(後述)などである。
 夢牧場の企業理念は「『友』と『夢』を共に育み地域社会に貢献する〜酪農!無限大の可能性を楽しむ〜」とし、行動指針は「牛にも人にも環境にもやさしく」、「牧場と人の持つ力を最大限発揮する」、「常にお互いさまの気持ちで助け合う」、「『縁の下』の力持ち的存在となる」の四つである。「友夢プライド」は「食料生産を通じ、生命の根幹に寄与する」としている。
 





 
 

(2)協業法人化の経緯

 協業法人化による友夢牧場の設立をリードしたのは、征寿氏の父である佳春よしはる氏であった。家族経営の酪農家であった佳春氏は、働きづめで休日が満足に確保できない産業に将来はないと考え、休日を確保するために複数農家による協業法人化を選択し、近くの農家に呼びかけた。そして、佳春氏を含む酪農家3戸と畑作農家1戸、町内の酪農ヘルパー1戸が寄り集まり、合計5戸で友夢牧場を2000年に設立、2001年4月から生乳出荷を開始した。友夢牧場の名前の由来は、出資農家の頭文字(YYUM)である。
 征寿氏自身は、幼い頃から酪農の家族経営に親しみ、家族経営を継承するつもりで大学にも進学していたため、協業法人化の提案には戸惑いもあったという。1999年に大学を卒業後、約2年間は家族経営に従事し、生乳出荷を開始した2001年4月から友夢牧場に加わった。独立への思いは消えたわけではなかったが、現在では法人の一員として経営を担っていく決意を固めている。法人経営の魅力は休日確保であり、父による協業法人化の決断には先見の明があったと評価している。
 

(3)多様な事業展開

 友夢牧場の特徴の一つが、多様な事業の展開である。
 第一に、2015年に開始したバイオガス発電事業である(写真5)。バイオガス発電を始めた理由は、家畜排せつ物の処理問題への対応であった。従前から飼養頭数に比して経営耕地面積が少なかったため、堆肥化を行わず、スラリー(ふん尿処理混合液肥)を農地に散布するにとどまっていた。現在は、家畜排せつ物から発生するメタンを燃焼させて発電したものを販売するとともに、余熱を利用してパーラーなど向けの温水の供給と施設栽培を行っている。バイオガス消化液は、委託栽培を含む農地へ散布しているが、まだ余力があるため、今後は町内農家との耕畜連携をさらに進めたいと考えている。
 
 
 第二に、バイオガス発電の余熱を利用した施設栽培事業である。2018年にメロンの水耕栽培、翌19年にはバナナの栽培を開始した(写真6)。それぞれ「青空メロン」、「青空バナナ」の商標登録をして販売しているほか、ふるさと納税の返礼品にもなっている。メロンの収穫時期は、現時点では年1回で、4月から5月初旬である。バナナの収穫は、通年で可能となっている。また、バナナ収穫後の葉茎は、札幌市円山動物園のアジアゾウに無償提供している。

 
 
 
 第三に、酪農教育ファーム事業である。友夢牧場は、一般社団法人中央酪農会議の「酪農教育ファーム」に認証されている(写真7)(注6)。これにより、同牧場は、消費者向けに酪農作業・乳製品加工などの体験の場を提供している。消費者との交流を通じて生産者意識を高め、消費者に酪農の魅力や可能性を体感してもらうことが目的である。

(注5)出荷乳量を経産牛飼養頭数で単純に除した数値である。
(注6)酪農教育ファーム認証制度は、一般社団法人中央酪農会議の提唱で2001年に開始された事業で、酪農教育ファーム推進委員会が認証を行っている。

3 ワークライフバランスを実現する勤務体制

(1)基本的な勤務体制

 友夢牧場は、誰もが安心して働ける労働環境の実現を目的にしている。一人ひとりの人生をサポートできる企業となるため、「仕事とプライベートの両立」、すなわちワークライフバランスの実現を重視する。実際に、2026年2月時点で、従業員は、年間108日(=1カ月当たり9日×12カ月)の休日に加えて、さらに年10日間以上の有給休暇を取得することが可能である。また、驚くべきは、従業員が希望する日にこれらの休みを取得できる割合が、「100%」である点である。
 以降で、勤務体制の実態とそれを可能とする要因を見ていく。
 表3は、基本的な勤務時間のパターンである。
 勤務形態は3パターンある。
 1)「早番」:朝3時に出勤して、9時から10時までの1時間の朝休憩を挟み、12時に退勤する(8時間勤務)。
 2)「遅番」:8時30分に出勤して、12時から14時までの2時間の昼休憩を挟み、19時に退勤する(8時間30分勤務)。
 3)「中抜け」:朝3時に出勤して、9時から14時までの5時間の休憩を挟み、19時まで勤務する(11時間勤務)。いずれの勤務形態においても(3パターン共通)、朝8時50分から全体朝礼を行っている。「早番」以外は1日当たり労働時間が8時間を超えるため、「遅番」は30分、「中抜け」では3時間の時間外賃金が支給されている。また、「早番」と「中抜け」における朝5時以前の2時間は、深夜割増賃金の適用である。
 

 
 勤務時間の運用は、「早番」と「遅番」を基本とし、1日の労働時間の長い「中抜け」は、休暇取得者が多い際にその担当作業をカバーするために用いている。作業に必要な人員は、午前の作業は最低14人、午後の作業は最低12人であり、ゆくゆくは「早番」および「遅番」のみで運用することが目標である。
 休みの申請期限は、前月8日から10日にかけてである。その後、5日程度かけてシフト編成を担当者で行い、役員が現場実態に基づいて修正(調整)し、完成させる。休みは、基本的に希望日程ですべて認められており、休日と有給休暇を組み合わせ、10日間を超える休みを連続取得して、毎年、海外旅行へ行く従業員もいる。また、半月に1回は連休を取得することを推奨している(注7)。
 なお、休み前日は「早番」(12時退勤)、休み明けの日は「遅番」(8時30分出勤)とすることで、休み前日から私的旅行の移動時間に充当する、あるいは勤務前日の夜まで休みを楽しめるよう配慮している。

(2)業務の種類

 
 
 表4は、2026年1月21日から1月27日までの1週間における実際のシフト表である。1週間当たりの休日数は、休日が少なめの外国人技能実習生等を含めても、平均して2日半近くを実現しており、他産業並みの水準と言えよう。また、従業員だけではなく、役員(構成員1・2)も休日を確保できている点に注目したい。
 まず、最も重要な搾乳作業(表4での表記は「搾」。以下同じ)である。搾乳作業は、班長を含む6人を基準として行っている。朝の搾乳時間は3時から8時30分までの5時間半、夕方は14時から19時までの5時間となっている。一般的な経営と比較して搾乳時間が長いが、この理由は後述する。表中の「班」は、搾乳グループの班長を指す。
 飼料給与作業(「飼」)と除糞作業(「除」)は各1人で、朝の搾乳時間中にのみ実施している。子牛の哺育作業(「哺」)は、午前・午後で各3人程度である。
 分娩管理作業には2種類の業務があり、「早番」、「遅番」の時間帯でも最低1人の分娩担当を置く体制としている。通常の分娩管理作業(「分」)では、午前担当は「早番」より1時間早い2時から、午後担当は「遅番」の時間内で勤務する。もう一つの「当番」(「当」)は、「遅番」が昼休憩に入る12時に出勤して最短でも22時まで勤務し、夜中まで分娩が続く場合は翌日2時、つまり翌日午前の分娩担当が出勤するまで勤務する。「当番」を担当した場合、翌日勤務は「遅番」として体に負担がかからないように配慮している。
 その他の作業として、牛追い作業(「牛」)は牛のパーラーへの誘導と戻し、牛床清掃、敷料作業(「敷」)は敷料であるもみ殻の投入に加え、牛の体調チェックと獣医師による治療が必要な牛のリストアップも兼任している。「△」は敷料担当の行う牛の体調チェックのサポート担当で、通常の「遅番」より1時間早い7時30分に出勤し、1時間早い11時に昼休憩に入る。バンカー作業(「バ」)はバンカー管理と飼料給与のサポートを行う。勤務時間は「△」と同様である。事務作業のサポート(「事」)、月1回ほど外国人従業員を帯広市まで買い物へ連れていく業務(「送迎」)もある。
 「サブ」は、酪農ヘルパー組合のサブヘルパーに登録している従業員が、組合の要請に応じて町内の他の酪農家にヘルパーとして派遣される業務である。友夢牧場の業務ではなく、従業員個人の副業という扱いにしている。
 上記の運用は、飼料収穫時期でも基本的に同じである。収穫を含む圃場作業は、事前のシフト調整を行っていない。圃場作業は、天候やコントラクターの作業の進み具合に左右され、事前に決定できないためである。数日前に圃場作業の日程が決まった時点で、シフトを入れ替えて対応する。なお、圃場作業は、役員や男性従業員が中心である。
 

(3)現状の勤務体制を可能とする要因

 法人設立当初の友夢牧場では、3日間の連続勤務の後に1日休むという勤務体制を採用していた。しかし、その体制では1日当たりの労働時間が最大14時間に及ぶこともあり、身体的負担が大きく、精神的な余裕もなかった。また、休日も疲労回復のために多くの時間を費やす形になり、私生活の充実とは言い難い状況であった。そこで、1日当たりの労働時間を減らしつつ、1カ月に9日間の休日を取得できる現在の勤務体制を考案し構築した。
 この勤務体制を可能とする要因として、以下の3点がある。
 第一に、徹底したジョブローテーション制である。表4のように、搾乳・哺育に業務が限定されている外国人技能実習生等を除き、ほとんどの従業員が毎日、入れ替わりながら多様な業務に従事している。多様な業務を行える従業員が多いからこそ、休みを取得した従業員の分の作業をカバーすることができる。従業員がすべての業務の習熟に要する時間は、おおむね2〜3年である。
 従事する業務は多様であるが、従業員は、4人程度で構成される課にそれぞれ所属している。課は、責任者である課長の下、担当業務の改善や方針決定を行う単位である。生産部には、搾乳課・繁殖課・治療課・飼料課・哺育課・圃場課・設備課がある(注8)。また、これらの課とは別に、育成・分娩改善・アニマルウェルフェア(AW)・6次産業化といった特定課題に取り組むプロジェクトチームも設けている。
 第二に、多くの従業員雇用を可能にする高い生産性である。ジョブローテーション制を採用しても、従業員数に余裕がなければ休みの取得は難しい。友夢牧場では、経産牛1000頭に対して従業員数(役員含む)は37人で、同規模の経営より従業員数は多い。それを可能にしているのは、経産牛1頭当たり年間1万キログラムを超える高泌乳経営を実現していることである。その背景には、搾乳方法と飼料給与方法の工夫がある。搾乳方法は、現在、変則4回搾乳を採用している。法人設立から4年間は、1日3回搾乳を採用していたが、労働負担が大きかったことから、2005年度からの生産調整を契機に1日2回搾乳へ切り替えた(注9)。その後、生産調整終了後に再び3回搾乳へ戻すことを考えたが、労働負担が大きいために断念し、搾乳量を3回搾乳と同程度にできる変則4回搾乳を導入した。
 具体的には、最も乳量の多い産褥さんじょく(さんじょく)期(分娩後3週間以内)の乳牛を優先的に搾乳し、その後にそれ以外の乳牛の搾乳を行い、再び産褥期乳牛を搾乳する方法である。よって、1回当たり搾乳時間は通常より長くなるが、1日2回搾乳の場合には、産褥期乳牛の搾乳回数は結果的に1日当たり4回となる。また、飼料給与については、総給与量は変えずに午前中の搾乳の前後の2回に分けることで採食量が増加し、作業量は増すものの、高泌乳の実現につながっている。
 第三に、従業員における「お互いさま」の意識の涵養かんよう(無理をせずゆっくりと養い育てること)である。前述の通り、友夢牧場は、行動指針の一つに「常にお互いさまの気持ちで助け合う」を掲げている。一般的に、休みを取得できる従業員が特定層に偏れば、業務負担の増す従業員の不満が高まり、休みを取得しづらい職場環境となる。だが、征寿氏をはじめとする役員が、長年、ワークライフバランスの実現を企業方針として訴え続けてきた結果、多くの従業員が積極的に取得する一方、休みを取得する従業員のカバーを率先して行う職場環境が形成されてきた。つまり、従業員同士に、互いの生活を尊重する深い信頼関係が醸成されてきたわけである。この点は、現状の勤務体制を可能にしている重要な要因である。

(注7)従業員本人が希望しない場合は必ずしもそうではない。
(注8)生産部の他には総務部があり、体験調整課(酪農教育ファーム担当)、広報・人事・企画・開発課、経理課の三つから構成される。
(注9)2006年度から3年間の生産調整で、ホクレン農業協同組合連合会は生産目標数量の選択制を導入した。選択肢は、前年実績維持のタイプAと、前年実績1割減のタイプBである。タイプB選択の場合、生乳1kg当たり4円が乳価に上乗せされた。友夢牧場は、このインセンティブ措置を重視した。

4 ワークライフバランスを通じた経営のイノベーション

 友夢牧場では、ワークライフバランスの実現が、単に休日確保だけではなく、それが酪農経営のイノベーションにつながっている。以下、3点ほど指摘する。
 第一に、従業員の安定的かつ持続的な確保である。充実した休日数は、採用面で有利になっていると実感している。2025年度の新卒採用者数は4人、26年度は1人で、継続して採用できており、従業員の年齢構成は若い。実際に、採用者は友夢牧場を選択した理由として、休みの充実を挙げることが多いとのことだ。
 具体的には、2026年2月時点の正社員(役員除く)19人中、採用時の酪農未経験者(新卒採用者を含む)は12人と63%に達し、幅広い層から人材を確保できていると言えよう。また、就業年数が10年を超える従業員も多くなってきており、この要因の一つに休日の充実があると考えている。休みも含めた働き方の改善は、従業員の意見も聞きながら進めているため、職場が自分たちの意見でより良い方向に変わっていると実感できている点も大きいと指摘する。
 第二に、AWの改善とそれによる経営改善である。従業員数に余裕が出てくれば、牛の飼養管理を丁寧に行い、AW改善のための作業改善を行えるようになる。友夢牧場の経産牛飼養頭数と構成員数の推移を概数で示すと、2000年代は550頭・18人、2010年代前半は800頭・25人、2010年代後半は900頭・28人、そして、2026年現在が1000頭・37人である。1人当たり頭数は、それぞれ31頭、32頭、32頭、27頭と推移し、現在は2010年代以前と比較すると1割強減少している。これは、飼養管理における人員的な余裕が生じていることを意味している。
 その成果の一つが、死産率の低下である。図4に、友夢牧場の死産率の推移を示した。18年度以前の死産率は約10%と非常に高かったが、19年度に死産率を2%以下とする目標を設定し、取り組みを始めて以降、顕著に低下し、23年度には最低の1.84%まで改善した。25年度は3.24%(うち経産牛2.33%、未経産牛5.38%、和牛13.13%)となった。従来は分娩担当者を置かず、作業の合間に分娩対応をしていたことやフリーストール牛床内での分娩が、高い死産率の要因であった。これに対し、19年度に分娩担当者を配置するとともに、その前の17年には牛舎内に分娩房を設けた(写真8)。
 



 
 死産率の低下は、販売頭数の増加や乳牛更新率の低下に直結し、分娩時の母牛の負担軽減や治療費の削減、分娩から次回繁殖までの期間短縮、子牛の健康状態の向上など、さまざまな面へ影響を及ぼす。牛の頭数に比例し、一年間の分娩回数が1000回に及ぶことから、経営面への影響は大きい。こうした死産率の低下で経営が改善し、さらなる従業員の増員を実現するなど大きな恩恵を得た。
 事業の根幹である家畜との向き合い方を考える社員教育としても、AW改善は重視している。将来的には、一般社団法人アニマルウェルフェア畜産協会の農場認証に挑戦したいとの考えである(注10)
 第三に、企業内の事業間連携の強化と企業成長である。ジョブローテーション制では、それぞれが多様な業務に従事する。そのことで、従業員に対し、酪農経営を構成する各業務の内容やそれらのつながり、酪農に対する深い理解を促せるようになる。従業員が中間管理職を経て役員へとキャリアアップする上でも、重要である。また、友夢牧場の企業理念は「酪農!無限大の可能性を楽しむ」であり、新規ビジネスへの挑戦を続けている。その前提になっているのが、人員面での余力である。2015年に始めたバイオガス発電事業とその余熱を利用した施設栽培、酪農教育ファームなどが典型である。
 現在、挑戦したい事業が6次産業化で、平均で4%を超える乳脂肪分を活かした低温殺菌牛乳の製造である。自社で生産した生乳が自社内で最終製品になるところまで見届け、これを出荷することは、従業員のモチベーションを高めるほか、酪農教育ファーム活動や新得町内の学校給食での提供などを通じた食育による社会貢献など、大きな可能性を感じている。

(注10)一般社団法人アニマルウェルフェア畜産協会の認証制度の詳細は、清水池(2018)を参照。(引用文献)

5 おわりに

 全国の酪農現場では、自動化機器・ICT(情報通信技術)機器の導入による省力化や外国人技能実習生などの利用拡大を通じて、労働力不足の打開が図られている。だが、それでも多くの課題が残っているのが現状である。友夢牧場はこれら既知の方法も用いつつ、ジョブローテーション制の徹底した運用と、多数の従業員雇用を可能にする高生産性経営の追求、従業員の相互サポート意識の涵養によって、年間108日間(1カ月当たり9日間)の休日プラス10日間以上の有給休暇を、しかも従業員の希望する日程で取得できる体制を構築してきた。これは、他産業並みか、それを上回る休日数と言えよう。本事例は、ソフト面での工夫で働き方を改革する余地が大きいことを示している。また、こうしたワークライフバランスの改善は、従業員の採用や継続就業といった面で意義が大きいことも確認された。
 友夢牧場の事例は、労働力不足や従業員の早期離職が大きな課題となっている現在の酪農において、働き方の改革が、単なる労働力不足の問題だけではなく、経営改善や生産性の向上、新たな事業展開の原動力になり得ることを示す非常に示唆的な取り組みである。友夢牧場の方策は、数多く存在すると思われるワークライフバランス対策の一つと思われる。まず求められるのは、このような有益な取り組み事例を可視化し、全国の関係者で幅広く共有することである。

引用文献:
厚生労働省(2025)「令和7年版労働経済の分析−労働力供給制約の下での持続的な経済成長に向けて−」、https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/25/dl/25-1.pdf(2026年5月31日参照)。
清水池義治(2018)「アニマルウェルフェア的手法の導入による酪農経営の革新−北海道清水町の村上牧場と(有)あすなろファーミングを事例として−」『畜産の情報』340、pp.27–38。
清水池義治(2023)「酪農王国の光と影−私たちのミルクはどこまで北海道に頼れるか−」『季刊 農業と経済』89(4)、pp.91–101。


追記
 本稿執筆に当たっては、北海道大学農学部農業経済学科の阿部文哉氏から調査補助の支援を受けた。この場を借りて厚く御礼申し上げます。