(1)基本的な勤務体制
友夢牧場は、誰もが安心して働ける労働環境の実現を目的にしている。一人ひとりの人生をサポートできる企業となるため、「仕事とプライベートの両立」、すなわちワークライフバランスの実現を重視する。実際に、2026年2月時点で、従業員は、年間108日(=1カ月当たり9日×12カ月)の休日に加えて、さらに年10日間以上の有給休暇を取得することが可能である。また、驚くべきは、従業員が希望する日にこれらの休みを取得できる割合が、「100%」である点である。
以降で、勤務体制の実態とそれを可能とする要因を見ていく。
表3は、基本的な勤務時間のパターンである。
勤務形態は3パターンある。
1)「早番」:朝3時に出勤して、9時から10時までの1時間の朝休憩を挟み、12時に退勤する(8時間勤務)。
2)「遅番」:8時30分に出勤して、12時から14時までの2時間の昼休憩を挟み、19時に退勤する(8時間30分勤務)。
3)「中抜け」:朝3時に出勤して、9時から14時までの5時間の休憩を挟み、19時まで勤務する(11時間勤務)。いずれの勤務形態においても(3パターン共通)、朝8時50分から全体朝礼を行っている。「早番」以外は1日当たり労働時間が8時間を超えるため、「遅番」は30分、「中抜け」では3時間の時間外賃金が支給されている。また、「早番」と「中抜け」における朝5時以前の2時間は、深夜割増賃金の適用である。
勤務時間の運用は、「早番」と「遅番」を基本とし、1日の労働時間の長い「中抜け」は、休暇取得者が多い際にその担当作業をカバーするために用いている。作業に必要な人員は、午前の作業は最低14人、午後の作業は最低12人であり、ゆくゆくは「早番」および「遅番」のみで運用することが目標である。
休みの申請期限は、前月8日から10日にかけてである。その後、5日程度かけてシフト編成を担当者で行い、役員が現場実態に基づいて修正(調整)し、完成させる。休みは、基本的に希望日程ですべて認められており、休日と有給休暇を組み合わせ、10日間を超える休みを連続取得して、毎年、海外旅行へ行く従業員もいる。また、半月に1回は連休を取得することを推奨している(注7)。
なお、休み前日は「早番」(12時退勤)、休み明けの日は「遅番」(8時30分出勤)とすることで、休み前日から私的旅行の移動時間に充当する、あるいは勤務前日の夜まで休みを楽しめるよう配慮している。
(2)業務の種類
表4は、2026年1月21日から1月27日までの1週間における実際のシフト表である。1週間当たりの休日数は、休日が少なめの外国人技能実習生等を含めても、平均して2日半近くを実現しており、他産業並みの水準と言えよう。また、従業員だけではなく、役員(構成員1・2)も休日を確保できている点に注目したい。
まず、最も重要な搾乳作業(表4での表記は「搾」。以下同じ)である。搾乳作業は、班長を含む6人を基準として行っている。朝の搾乳時間は3時から8時30分までの5時間半、夕方は14時から19時までの5時間となっている。一般的な経営と比較して搾乳時間が長いが、この理由は後述する。表中の「班」は、搾乳グループの班長を指す。
飼料給与作業(「飼」)と除糞作業(「除」)は各1人で、朝の搾乳時間中にのみ実施している。子牛の哺育作業(「哺」)は、午前・午後で各3人程度である。
分娩管理作業には2種類の業務があり、「早番」、「遅番」の時間帯でも最低1人の分娩担当を置く体制としている。通常の分娩管理作業(「分」)では、午前担当は「早番」より1時間早い2時から、午後担当は「遅番」の時間内で勤務する。もう一つの「当番」(「当」)は、「遅番」が昼休憩に入る12時に出勤して最短でも22時まで勤務し、夜中まで分娩が続く場合は翌日2時、つまり翌日午前の分娩担当が出勤するまで勤務する。「当番」を担当した場合、翌日勤務は「遅番」として体に負担がかからないように配慮している。
その他の作業として、牛追い作業(「牛」)は牛のパーラーへの誘導と戻し、牛床清掃、敷料作業(「敷」)は敷料であるもみ殻の投入に加え、牛の体調チェックと獣医師による治療が必要な牛のリストアップも兼任している。「△」は敷料担当の行う牛の体調チェックのサポート担当で、通常の「遅番」より1時間早い7時30分に出勤し、1時間早い11時に昼休憩に入る。バンカー作業(「バ」)はバンカー管理と飼料給与のサポートを行う。勤務時間は「△」と同様である。事務作業のサポート(「事」)、月1回ほど外国人従業員を帯広市まで買い物へ連れていく業務(「送迎」)もある。
「サブ」は、酪農ヘルパー組合のサブヘルパーに登録している従業員が、組合の要請に応じて町内の他の酪農家にヘルパーとして派遣される業務である。友夢牧場の業務ではなく、従業員個人の副業という扱いにしている。
上記の運用は、飼料収穫時期でも基本的に同じである。収穫を含む圃場作業は、事前のシフト調整を行っていない。圃場作業は、天候やコントラクターの作業の進み具合に左右され、事前に決定できないためである。数日前に圃場作業の日程が決まった時点で、シフトを入れ替えて対応する。なお、圃場作業は、役員や男性従業員が中心である。
(3)現状の勤務体制を可能とする要因
法人設立当初の友夢牧場では、3日間の連続勤務の後に1日休むという勤務体制を採用していた。しかし、その体制では1日当たりの労働時間が最大14時間に及ぶこともあり、身体的負担が大きく、精神的な余裕もなかった。また、休日も疲労回復のために多くの時間を費やす形になり、私生活の充実とは言い難い状況であった。そこで、1日当たりの労働時間を減らしつつ、1カ月に9日間の休日を取得できる現在の勤務体制を考案し構築した。
この勤務体制を可能とする要因として、以下の3点がある。
第一に、徹底したジョブローテーション制である。表4のように、搾乳・哺育に業務が限定されている外国人技能実習生等を除き、ほとんどの従業員が毎日、入れ替わりながら多様な業務に従事している。多様な業務を行える従業員が多いからこそ、休みを取得した従業員の分の作業をカバーすることができる。従業員がすべての業務の習熟に要する時間は、おおむね2〜3年である。
従事する業務は多様であるが、従業員は、4人程度で構成される課にそれぞれ所属している。課は、責任者である課長の下、担当業務の改善や方針決定を行う単位である。生産部には、搾乳課・繁殖課・治療課・飼料課・哺育課・圃場課・設備課がある
(注8)。また、これらの課とは別に、育成・分娩改善・アニマルウェルフェア(AW)・6次産業化といった特定課題に取り組むプロジェクトチームも設けている。
第二に、多くの従業員雇用を可能にする高い生産性である。ジョブローテーション制を採用しても、従業員数に余裕がなければ休みの取得は難しい。友夢牧場では、経産牛1000頭に対して従業員数(役員含む)は37人で、同規模の経営より従業員数は多い。それを可能にしているのは、経産牛1頭当たり年間1万キログラムを超える高泌乳経営を実現していることである。その背景には、搾乳方法と飼料給与方法の工夫がある。搾乳方法は、現在、変則4回搾乳を採用している。法人設立から4年間は、1日3回搾乳を採用していたが、労働負担が大きかったことから、2005年度からの生産調整を契機に1日2回搾乳へ切り替えた
(注9)。その後、生産調整終了後に再び3回搾乳へ戻すことを考えたが、労働負担が大きいために断念し、搾乳量を3回搾乳と同程度にできる変則4回搾乳を導入した。
具体的には、最も乳量の多い
産褥(さんじょく)期(分娩後3週間以内)の乳牛を優先的に搾乳し、その後にそれ以外の乳牛の搾乳を行い、再び産褥期乳牛を搾乳する方法である。よって、1回当たり搾乳時間は通常より長くなるが、1日2回搾乳の場合には、産褥期乳牛の搾乳回数は結果的に1日当たり4回となる。また、飼料給与については、総給与量は変えずに午前中の搾乳の前後の2回に分けることで採食量が増加し、作業量は増すものの、高泌乳の実現につながっている。
第三に、従業員における「お互いさま」の意識の
涵養(無理をせずゆっくりと養い育てること)である。前述の通り、友夢牧場は、行動指針の一つに「常にお互いさまの気持ちで助け合う」を掲げている。一般的に、休みを取得できる従業員が特定層に偏れば、業務負担の増す従業員の不満が高まり、休みを取得しづらい職場環境となる。だが、征寿氏をはじめとする役員が、長年、ワークライフバランスの実現を企業方針として訴え続けてきた結果、多くの従業員が積極的に取得する一方、休みを取得する従業員のカバーを率先して行う職場環境が形成されてきた。つまり、従業員同士に、互いの生活を尊重する深い信頼関係が醸成されてきたわけである。この点は、現状の勤務体制を可能にしている重要な要因である。
(注7)従業員本人が希望しない場合は必ずしもそうではない。
(注8)生産部の他には総務部があり、体験調整課(酪農教育ファーム担当)、広報・人事・企画・開発課、経理課の三つから構成される。
(注9)2006年度から3年間の生産調整で、ホクレン農業協同組合連合会は生産目標数量の選択制を導入した。選択肢は、前年実績維持のタイプAと、前年実績1割減のタイプBである。タイプB選択の場合、生乳1kg当たり4円が乳価に上乗せされた。友夢牧場は、このインセンティブ措置を重視した。