(1) 輸出の前提条件
EUへ動物由来製品を輸出するには、(T)輸出国の当該動物種がEUの定める管理計画承認リストに掲載されること、(U)輸出可能な動物由来品目としてEUの定める第三国リストに掲載されること、(V)要件を満たす生産農場で生産され、EUの基準(HACCP計画など)を満たした認定施設で処理され、食肉衛生証明書の発行を受けていること―が必要となる。
日本から牛肉を輸出するに当たっては、(T)および(U)はすでに要件を満たしており、輸出者が個別に(V)の要件を満たす必要がある。
(V)の生産農場が満たすべき要件は、表2の通りである。ここで留意すべきは、日本で動物医薬品として承認されているエストラジオール安息香酸エステルを有効成分とする製剤およびホスホン酸誘導体(ホスホマイシン、26年9月3日以降に通関する牛肉から適用)が、使用禁止薬剤に該当することである。
また、(V)のEU向け認定施設(輸出食肉取扱施設(牛肉および牛内臓))は、2026年4月末現在、14施設がある
(注3)。
(注3)農林水産省のウェブサイト(https://www.maff.go.jp/j/shokusan/hq/i-4/yusyutu_shinsei_ousyu.html)をご参照ください。
なお、肉エキスについても、生鮮肉と同様に、一次生産(と畜場および食肉処理施設)から加工に至るまでEUの衛生基準を満たし、認定された施設から調達する必要がある。牛を含むすべての畜種の肉エキスに関して、26年4月末現在、日本国内に認定施設がないため、日本産の肉エキスを使用した食品のEUへの輸出は不可となっている。
(2)牛肉に関係するEU食品関係規制
本項では、HSコード第2類に該当する生鮮牛肉(冷蔵・冷凍)の輸出に関連する主なEU食品規制について概説する。
ア 残留農薬に関する規制
EUでは、使用可能な農薬についてポジティブリスト制を採用し、食品の種類ごとに許容される残留農薬の残留基準値(Maximum Residue Limits:MRLs)が規定されている(規則(EC)396/2005)。MRLsは当該食品1キログラム当たりに許容される農薬量として示され、MRLsが設定されていない農薬と食品の組み合わせに対しては、一律1キログラム当たり0.01ミリグラムの上限値が適用される。牛肉に関する残留農薬のMRLsは、「EUの農薬データベース(EU Pesticides Database)」の「動物由来製品(牛:bovine)」で確認できる。
イ 動物用医薬品に関する規制
動物由来製品向けに使用可能な「薬理活性物質(pharmacologically active substances)」についても、ポジティブリスト制が採用され、MRLsが規定されている。このMRLsは、規則(EU)37/2010の附属表で確認できる。日本の残留基準値を超過していなくても、EUの残留基準値を超過した場合は輸出できないため、休薬期間などに注意が必要である。
また、成長促進作用のあるホルモン剤の使用が禁止されるほか、薬剤耐性対策強化のため、生涯にわたって使用を禁止する動物医薬品などが定められている。その内容は、表2のカおよびキの通りである。
ウ 残留重金属・汚染物質に関する規制
規則(EU)2023/915により、食品カテゴリーごとに食品中の汚染物質のMRLsも規定されている。ここでの「汚染物質」とは、意図的に食品に添加されたものではなく、食品の生産(家畜の飼養、獣医療の作業を含む)、製造、加工、調理、処理、包装、梱包、輸送および保管などのプロセスまたは生育環境に由来して、食品中に存在する物質を指す。MRLsを超過したものは、上市することも、原料として使用することも不可となる。
エ 表示に関する規制
牛肉には、個体識別番号、処理施設の認定番号、原産国表示、不正防止の観点からの検印と封印シールおよび検査済証などが必要となる。
また、EUでは、規則(EU)1169/2011(FIC規則(Food Information to Consumers))により、事前包装食品の表示義務項目と条件付き表示項目が定められている。牛肉の表示項目は、「EU食品ラベル表示規則検索ツール(Food Labelling Information System)」の牛肉(H.1.1 Meat of bovine animals)で検索できる。
なお、規則(EC)1333/2008により、未加工品である生鮮肉への食品添加物の使用が禁止されているが、一部、マークなど印字用の「適量」の添加は許可されている。ただし、認可された着色料以外は使用できないため、注意が必要である。使用可能な食品添加物(着色料)は、欧州委員会のウェブサイト「食品添加物検索データベース」で確認できる。
オ 有機(Organic)製品に関する規制
日本は、「有機畜産物及び有機畜産物を原料とした有機加工食品」を含む一部の有機JAS製品を、有機同等性制度を適用してEUでも有機(Organic)製品として販売することが可能である。この場合、EU向け登録認証機関(Control bodies)に検査証明書(COI)の発行を依頼する必要がある。
この有機同等性制度は、2026年12月31日までの移行措置として適用されているが、25年12月、欧州委員会はこの期限を36年12月31日まで延長することを提案した。なお、この提案には、有機同等性が認められた域外産品へのEU有機ロゴ(ユーロリーフ、写真5)の使用をEUの基準をクリアしたものに限る(日本の有機ロゴの使用は可)とする内容なども含まれており、今後の承認プロセスの動向を注視する必要がある。
カ 容器・包装に関する規制
EUでは、食品と接触するすべての材料を「食品接触材(Food Contact Material:FCM)」と呼び、これに関する包括的な一般原則を定めた枠組み規則((EC)1935/2004)をはじめとする複数の規則にまたがって、容器・包装が規制されている(図5)。一部のFCMの素材はポジティブリストで規定され(表3)、輸出業者は、輸入者が、FCMが規則を順守していることを示す適合宣言書を作成し提示できるよう、輸入者への情報提供が必要となる。
(3)今後注意すべき関係規制
ここでは今後適用が予定され、日本からの牛肉輸出においても何らかの対応が必要になると見込まれる、または可能性があるEUの規制の内容と最近の動向を整理する。
ア 森林減少防止に関する規則(EUDR)
EUDRは、牛など7品目およびその派生製品について、これらの生産が森林破壊を引き起こしていないことの調査(デューデリジェンス、DD)と報告(デューデリジェンスステートメント、DDS)を義務付ける規則である。事業者は、(@)森林減少を伴わないこと(森林減少フリー要件)および(A)生産国の関連法規に従って生産されていること(合法性要件)―を調査し、対象製品が森林破壊に該当しないことをDDSにより証明できなければ、当該製品のEU域内での流通は認められない。
EUDRは当初2024年12月30日から適用される予定であったが、DDSの提出を受け付けるITシステムの整備の問題などから、現時点では26年12月30日(小規模事業者は27年6月30日)からの適用に延期されている。
牛肉はEUDRの対象製品となっているため、EU市場に日本産牛肉を供給する事業者(輸入業者など)は、DDSを作成、提出する必要がある。そのため、日本側としては、(T)出生からと畜までの飼養施設の地点情報(農場名、住所、緯度経度の情報)、(U)飼養地において21年以降、森林減少がないことの情報(衛星画像など)を整備し、輸入業者などからの求めに応じて提供する必要がある。また、輸入業者などに対して、どのような対応を求めるか確認することも重要である。
イ 包装および包装廃棄物規則(PPWR)
PPWRは、域内の包装全般の廃棄物の削減などを目的に、廃棄削減・再利用・リサイクルを強力に推進する内容となっており、2025年2月に発効した。食品に限らず、すべての包装および包装廃棄物が対象である。目的達成のため、七つの持続可能性要件(図6)などを定め、当該要件を満たさない包装の上市は禁止される。
これらの要件は、要件ごとに発効のタイミングが設定され、26年8月12日から順次適用が開始される。スケジュールは図7の通りである。
要件のうち特に影響が大きいと考えられるのは、「2.リサイクル可能な包装」および「3.プラスチック包装の最低リサイクル含有割合」である。この詳細は、今後下位規則で定められる予定である。
EU向け牛肉の輸出形態は、正肉(ブロック肉)を多層フィルムでバキュームパックしたものが主流であるが、この多層フィルムに関する各要件の取り扱いについて、今後継続的な情報収集が必要となる。
ウ EU生産基準の輸入品への適用厳格化
欧州委員会は2025年2月に、40年までの域内農業・食品産業の将来的な方向性などを示す「農業と食のビジョン」を公表し、その中で、農薬やAWに関するEU生産基準の輸入品への適用の厳格化を図る方針が示された。これは、域内の生産者の間で、「EUの生産基準が輸入品には課されていない」との不満が高まっていることが背景にある。
足元では、EU基準の適用による影響評価が行われており、今後どのような形で具体化されるか注視が必要である。