畜産 畜産分野の各種業務の情報、情報誌「畜産の情報」の記事、統計資料など

ホーム > 畜産 > 畜産の情報 > 中国における豚肉のブランド化と高付加価値化の現状と課題

海外情報 中国 畜産の情報 2026年7月号

中国における豚肉のブランド化と高付加価値化の現状と課題

印刷ページ
内蒙古財経大学 准教授 阿拉坦沙アラタンシャ
日本獣医生命科学大学 研究生 多藍オオアイ
内蒙古財経大学 准教授 格根哈斯ゲゲンハス

【要約】

 中国は、大規模な生産力を誇る「養豚大国」であるが、近年は生産過剰・価格の低迷・消費構造の変化という「三重苦」に直面している。また、食肉消費では豚肉の需要が低下傾向にあり、高たんぱく・低脂肪や味の多様性を求める高付加価値志向が強まる一方、供給側は豚肉製品の均質化が進み「大而不強(規模は大きいが強くはない)」の構造的問題を抱える。これを受けて中国政府は政策を「量の確保」から「質の向上」へ転換し、「農業強国」戦略の下で産業の高付加価値化を支援し、産業のアップグレードを後押ししている。中国は、世界最大の豚肉消費国として、世界市場の需給と貿易構造に影響を与える可能性も秘めている。

1 はじめに

 中国では、豚肉は食肉消費の中心であり、重要な食肉として位置付けられている。養豚産業の発展は、中国の食料安全保障、国民消費の安定に関わるなど、農業全体の力を測る重要な指標の一つとなっている。過去10年間、養豚産業は1)危機期、2)回復期、3)調整期をたどって、発展を遂げてきた。1)危機期:(2018〜19年)にはアフリカ豚熱(ASF)により繁殖雌豚飼養頭数(図1)が通常の40%まで減少し、生産能力が危機的な状況だった。2)回復期:(20〜22年)では、「菜籃子(野菜カゴ)責任制」(注1)をはじめとする一連の政策支援の下、生産能力の回復を図り、22年末の豚飼養頭数は4億5200万頭に達した。3)調整期:23年以降は、生産能力過剰と消費需要の低迷という矛盾が顕在化し、業界の構造調整が必要―となっている。
 
 

 
 このような中、近年の中核的な課題は、「生産不足」ではなく、「需要と供給の不均衡」に移行している。需要面を見ると、国民の生活水準向上や健康意識の高まりを背景に、高たんぱく・低脂肪といった健康面に加え、味の多様性を求める傾向が強まっている。その結果「中国農業展望報告」(機構注1)によれば、豚肉の肉類消費に占める割合は、15年の63%から24年には約53%へ緩やかに低下している。この「消費形態の変化」が需要構造を変化させる根本的な原動力となっている。一方、供給面を見ると、この10年間、養豚産業の畜産規模化率(注2)は49%から65%に上昇したものの、豚肉製品の同質化率(注3)は80%を超えており、韓慶偉ら(2019年)(注4)の研究が指摘するように、出荷される豚の「数」だけでなく「質」の面でも低下傾向が見られる。このように規模拡大だけが先行し、品質差別化や高付加価値化が需要面のニーズに追いついていないという課題が見られる。
 本稿では、中国の養豚産業の概略、国の政策方針、豚肉のブランド化などを踏まえ、養豚産業の発展の方向性について分析する。

(注1)「菜籃子責任制」とは、中国において地域の行政責任者が食料、特に生鮮食品の安定供給を確保する責任を負う制度である。豚肉は中国で最も重要な食肉であり、「菜籃子」政策の重点対象として、生産拡大と価格安定化に向けた直接的な支援が行われてきた。
(注2)「畜産規模化」とは、伝統的な小規模、分散型の飼育から、生産規模(頭数)の拡大、集約化、標準化生産による畜産業の効率化を高める取り組みを指す。養豚経営では、年間出荷頭数が500頭以上は「規模化」の頭数的な目安となっている。計算式は、規模化率=(年間出荷頭数が500頭以上の経営体÷全養豚経営体(養豚場・戸))×100%である。
(注3)豚肉製品の同質化とは、時期と生産(製造)場所が異なる製品が、味、食感、品質が同様となり、それぞれの特徴が低下していることを指す。「同質化率」の計算式として、一般的に使われているのは、同質化率=(標準化した商品豚の出荷頭数または消費量÷全国豚肉総出荷頭数または消費量)×100%である。
(注4)韓慶偉、馬思妍、孟憲華、葛文光(2019年)「河北省猪肉品牌建?的SWOT分析及?展?策建?」「K?江畜牧?医」を参照。
(機構注1)最新の海外情報は「中国農業展望報告(2026−2035)を発表(豚肉編)(中国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_004380.html)をご参照ください。

2 中国養豚産業の現状

(1)豚肉生産動向

 中国国家統計局の統計によれば、2016〜25年における中国の豚肉生産量は、21年以降、明確な「V字」回復を示している(図2)。19年には、ASFの影響で生産量は一時4255万トンまで急減したが、その後、中央政府は豚肉の生産能力回復のため、財政支援、養豚用地の確保支援、融資優遇などの政策措置を迅速に実施した。その結果、大規模養豚企業による生産拡大と業界再編が加速し、素早いV字回復となった。こうした政策対応の下、中小規模の養豚農家や個人経営体の割合は減少し、「牧原」、「温氏」、「新希望」などの大手企業のシェアと影響力が飛躍的に高まった。このような大手企業の経営拡大による大規模化は、バイオセキュリティ対策の強化、生産コストの最適化、技術導入面の優位性があり、供給の安定性向上に寄与している。
 25年の豚肉生産量は5938万トン(前年比4.1%増)と、史上初めて5900万トンの大台を突破して過去最高記録を更新した。このような記録的な増加となったものの、供給サイドの生産の大規模化が進展する中、短期的な需給変動に伴う豚肉価格の急変動は起こりにくくなるとの見方が強まっている。また、大規模化の進展は、産業全体のリスク耐性を高める一方で、生産能力調整の周期を長期化させ、結果として価格の下降局面がより長引く可能性を示唆している。
 いずれにしても、近年の中国の豚肉生産と供給は、変動からの回復後は安定に向かい、大規模化が顕著に進展している。



 

(2)豚肉輸入動向

 中国の豚肉輸入は、国内生産との強い相補関係に特徴付けられる(表)。2019〜21年の輸入量は、ASFの影響による国内生産量の急減を背景に増加しており、この時期の輸入は、顕著な供給ギャップを埋める決定的な役割を果たすものであった。その後、国内の養豚産業の急速な回復に伴い、状況は一変した。22年以降、豚肉生産量は回復基調に転じたことで、輸入量は速やかに減少し、安定期を迎えている。この推移から、中国の豚肉供給において「国内生産を基盤とし、輸入を調整弁とする構造」が確立したことを示している。中国の現在の豚肉輸入は、国内需要の絶対的な不足を補うというよりも、特定部位の補完や外食・業務用向けの在庫の補充、多様な消費ニーズへの対応が主な目的となっている。今後も、国内の豚肉生産動向と飼養コストの変化が輸入量を左右する最も重要な要素であり続けると推察される。
 
 

(3)豚肉消費動向

 中国では、家庭内でのと畜・加工、消費といった統計に十分に反映されない部分が存在する点を考慮した上で、公式統計に基づき、豚肉消費および需要動向を分析する。
 2016〜18年の豚肉消費量は5500万トン程度で推移していたが、19年および20年は、4500万トン台まで落ち込んだ。その後は回復基調に転じ、消費量は継続的な増加傾向を示しており、25年には、初めて6000万トン台を突破した。こうした数量を記録したものの、中国の一人当たり年間豚肉消費量が約40キログラムという高水準に近づいている一方で、総人口は頭打ちとなっていること、さらに、健康志向の広がりも相まって、将来的に豚肉の総消費量が大幅に拡大する余地は必ずしも大きくないとみられる。今後の中国における豚肉消費は、大きく次の三つの要因が影響すると考えられる。

ア 食文化の変遷
 中国の伝統的な食文化において、豚肉は絶対的な主役だったが、その地位は緩やかな変化を受けている。都市化の進展とともに、若年層を中心とした、健康志向(低脂肪・低コレステロール)、体型管理などへの関心の高まりから、鶏肉、牛肉、魚介類の消費が徐々に増加している。一方で、豚肉を「必須」とする需要は依然として底堅く、伝統料理や家族団らん、祝祭日の食事といった文化的な食の場面においては、代替が困難である(写真1)。
 
 
 
イ 所得増加にけん引される品質の高度化
 国民一人当たり可処分所得の増加を背景に、消費は量重視から、品質や生産・流通段階における安全性や部位の細分化を重視する方向へとシフトしている。こうした動きと並行して、生鮮肉、ブランド肉、地方特有の黒豚肉など高付加価値製品の市場シェアが拡大している。その結果、スペアリブ、ヒレ肉などの高価値部位の需要は旺盛である一方、脂身が多い部位などへの需要は縮小している。これは枝肉価格に一定の影響を与えている。

ウ ライフスタイルの変化に伴う消費形態の変化
 世帯の少人数化や単身世帯の増加など消費スタイルの変化から、簡便調理や即食製品、デリバリーや外食に対する需要が大きく高まっている。業界からの報告によると、調理済み製品市場は近年急速に成長しており、その中でも豚肉を使用した調理済み製品(酢豚、梅干しと豚肉の蒸し物、肉団子など)が高いシェアを占めるようになった。また、小売りでは、小分け包装や細かく部位分けされた生鮮肉が小人数世帯に好まれている。これらを背景に、豚肉の購入・消費形態は、生鮮市場から、スーパーマーケット、生鮮食品EC(電子商取引)サイト、外食・加工業者へと大きく変化している(写真2)。

 

(4)豚肉市場価格

 近年における中国豚肉市場価格の推移と取り巻く環境を分析してみると、過去10年間の豚肉市場価格は、供給側の劇的な変動を主因とする顕著な周期性と大きい価格変動を経験してきた(図3)。その価格の動向を公式統計、業界報告書と市場価格速報値などを踏まえて分析すると、大きく3点に要約される。
 

 
ア 歴史的高値期(2019〜20年)
 ASFの流行は、同国内の豚飼養頭数に壊滅的打撃を与え、供給が著しく逼迫ひっぱくした。これに伴い、豚肉価格は史上最高水準に急騰した。20年の生体豚の1キログラム当たりの年間平均価格は前年比で54.1%高の34元(機構注2)(810円)と大幅に上昇した。

イ 価格低迷期(2021〜23年)
 政策支援と高価格刺激の下、豚肉生産量は驚異的な速さで回復し、供給が需要を超過し始めた。価格は下降トレンドに入り、23年の生体豚の同価格は15元(357円、前年比21.1%安)、豚肉の同価格は25元(596円、同16.3%安)と、いずれも前年から大幅に下落した。この結果、農家は深刻な赤字に陥り、養豚農家の飼育意欲と養豚産業の持続的な発展を阻害する要因となった(注5)

ウ 価格の低水準期(2024〜25年)
 24年に入っても状況は好転せず、豚肉価格は低水準で推移した。従来の「養豚の周期」(注6)とは異なり、飼料コストに対する生体豚の価格は相対的に低く、利益が圧迫されて赤字経営が続き、大規模経営の進展に伴い生産能力の調整速度が鈍化した。一方、豊富な供給が続いたため、需給逼迫の局面が長期化している(注7)。25年の豚肉価格は依然として低水準で推移しており、大規模企業の優位性がさらに拡大する一方、零細農家の「離農」が進む「淘汰とうたと統合」の段階が続いている。
 結論として、中国の豚肉価格は、従来の「養豚の周期」による変動よりも、消費者の「良質なものを食べる」という志向の強まりを背景に、コスト・品質・流通効率といった構造要因によって決まりやすい段階へと移行する可能性が高い。

(注5)陳静(2021)「江西省豚肉ブランド構築及び発展対策に関する研究」現代畜牧科技を参照。
(注6)「養豚の周期」とは、養豚産業界に典型的な、供給量と価格が3〜4年周期(サイクル)で変動する現象を指す。過剰生産による価格暴落が農家の経営を圧迫する構造的な課題であるが、端的に言うならば「生産過剰→価格下落→生産減少→価格高騰→生産増加→生産過剰」の繰り返しである。
(注7)中国農業科学院農業経済発展研究所「中国養豚業展望報告(2024-2033)」を参照。
(機構注2)本文中の為替レートは、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2026年5月末TTS相場(1元=23.82円)を使用した。

3 中国の養豚産業を取り巻く政策支援

 近年、中国の養豚産業に対する政策支援は、ASFなどの緊急対応段階を経て、安定供給と高品質化を両立させる発展段階へと転換している。このプロセスは、国家戦略文書や法規制、地域政策を通じて包括的な支援体制が構築されている。
 

(1)養豚産業の生産基盤の強化

 2018年のASFの発生までは、中国の養豚産業関連政策の重点は環境規制と一般的な生産の安定化にあった。ASFの発生は、国の食料安全保障と養豚産業のサプライチェーン(川上、川中、川下)の強靭性に対する認識を一変させ、危機管理と安定供給の確保へ大きく舵を切った。核心的転換点は、19年に発表された国務院弁公庁による『安定した養豚生産と転換・高度化促進に関する意見』である。この文書は、単なる養豚生産の安定化、回復策ではなく、「質・効率・付加価値を高めること」を重要な目標と位置付け、産業構造の根本的な転換を促すものであり、25年までに養豚産業の畜産規模化率を65%に引き上げるという明確な目標(注8)を掲げ、同年にその目標を達成した。これは単に規模拡大を追求するものではなく、中小規模養豚場の標準化・集約化を進めることで、産業を「数量重視」から「品質と効率重視」へ転換することを狙いとしていた。

(注8)中国国務院弁公庁(2019)『安定した養豚生産と転換・高度化促進に関する意見』を参照。
 

(2)品質安全規制による養豚産業発展基盤の強化

 同国では、法規改正と規制強化を通じて、豚肉の品質や安全性をサプライチェーン全体で確保するとともに、養豚産業の近代化と高度化の促進を行った。
 一つ目は、と畜企業に対して、ASFの自主的な検査を義務化し、「100%自主検査」の厳格な基準を設けた。病気の豚の市場流通を完全に防止するため、専門検査設備と検査員を配置し、市場(と畜場)に入場するすべての豚の検査を行った。
 二つ目は、豚肉製品の販売方法を従来の「温体肉」(注9)中心の流通から、冷蔵肉・冷凍肉の販売比率向上の目標を設定し、と畜企業に対して、低温倉庫や輸送施設の整備を促すことで、流通時の品質劣化と安全リスクを低減させる。さらに、規制部門は「ダブルランダム・一公開」検査(注10)やスマート監管プラットフォーム(と畜場の映像監視システムの連携など)を通じ、生体豚の搬入から加工・出荷までの全工程におけるトレーサビリティを実現させた。実例として、山東省さんとうしょう湖南省こなんしょうの養豚と畜加工企業では、製品包装にトレーサビリティQRコードの記載を義務化し、消費者はこのQRコードをスキャンすることで豚肉製品の由来や検査結果の確認が可能となっている(注11)

(注9)「温体肉」とは、と畜後すぐに冷却処理をせず、体温程度の温度を保つ肉であり、そのまま市場で流通されている。鮮度が高いとされるが、細菌が繁殖しやすく衛生面でのリスクがある。
(注10)「ダブルランダム・一公開」検査とは、検査対象をランダムで抽出し、検査員もランダムで抽出するダブルランダム方式の検査であり検査結果を全面的に公開する検査である。つまり、検査の公正性と、結果の透明性を確保するものである(中国語では“双随机、一公?”??)。
(注11)2021年に改正された『動物防疫法』と24年に改正された『生体豚と畜管理条例』および各地域での実施状況を参照。

 

(3)「品質」重視による養豚産業の活性化

 近年、養豚産業に対する支援政策では、「量」から「質」への転換をさらに推し進めている。中国農業農村部では、「三品一標」実施ガイドラインを制定し、国と地域が協力しながら、養豚産業の潜在的な価値を掘り起こし、産業全体の活性化を図っている。「三品一標」とは、「品種改良」、「品質向上」、「ブランド化(中国語では“品牌打造”)」の三つの「品」と標準化生産(一つの「標」)から成る取り組みである。地域ごとの特徴ある豚品種の育成・改良に取り組むとともに、豚肉製品の品質向上やブランド力の強化を図り、さらに「養豚標準化大規模養殖技術規範」に基づいて、生産プロセスの標準化を進めることが奨励されている(注12)。地方政府では、地理的表示(GI)や有名商標の認定に対する奨励金(10万〜50万元<238万〜1191万円>)を支給し、展示会やライブコマース(ライブ動画配信とオンライン販売を組み合わせた手法)を通じた市場開拓を支援している。
 そのほか、多様な財政・金融政策を組み合わせることで、養豚企業の資金繰りを支援し、経営モデルの転換やアップグレードに伴うコスト負担の軽減を進めている。
 以上、近年の中国の養豚産業支援政策は、「短期的な価格安定」から「長期的な産業構造改革と高品質な発展」 への明確な移行を示している。

(注12)農業農村部が2024年に制定した「三品一標」実施ガイドラインと「養豚標準化大規模養殖技術規範」(2021年更新)を参照。「養豚標準化大規模養殖技術規範」は、養豚産業の近代化とバイオセキュリティ(生物安全)を向上する目的で、技術要件と管理基準を体系的に規定し、養豚生産の効率的、高品質、安全性が保たれた持続可能な発展を保証するものである。

4 中国の養豚産業における高付加価値化の実践と発展方向

 中国の養豚産業においては、依然として供給過剰や価格変動の激しさ、製品の同質化競争といった課題に直面している。こうした中、多くの地域や養豚企業は、在来豚種や地域固有の品種資源を基盤に、品種特性を活かした高付加価値化や先端技術の導入、ブランド力の強化、サプライチェーン全体の拡大・深化を戦略の要に据えることで、差別化した発展経路を切り開こうとしている。
 

(1)GIと産業連携の融合

 中国の養豚産業において、GIと産業連携の融合は、差別化と持続可能な成長を実現する有力な戦略となっている。このモデルの成功例が広西省こうせいしょうの「陸川豚りくせんとん」である。陸川豚は地元の優良な品種であり、脂肪が均一に入り霜降り(中国語で「雪花」)となり、肉の香りが濃厚で、独特な甘みが特徴である。陸川豚は、国から三大名豚に認定され、「有力企業+研究機関+農家」の連携で品質の安定化を実現している。陸川豚は、2023年にGIとして登録され、オンラインとオフラインでブランド宣伝、販売促進を行い、そのブランド価値は36億元(857億5200万円)に達した。さらに、20億元(476億4000万円)を投じて産業クラスターを整備し、と畜、加工のみならず、調理済み製品を含む60種類以上の製品を開発し、関係者の収入増加を実現している。
 

(2)品種の保存とサプライチェーンの構築

 養豚産業において、希少な在来種の遺伝資源を先端技術によって保存・改良するとともに、その歴史や食文化をブランド価値として活用することは、差別化された高付加価値経営を実現する上で重要である。この戦略を体現した成功例が湖南省こなんしょうの「寧郷花豚ねいきょうかとん)」である。寧郷花豚は、体型は中型で、肉質が細かく、筋間脂肪が適度に交ざり、甘味が濃厚であることが特徴であり、湖南省の高温高湿気候に最適な品種である。寧郷花豚は、ゲノム解析に基づく育種改良により、赤身肉比率の向上と飼養効率化を実現した。これにより、「おいしいが、育てにくい」という従来の課題を克服し、年間2万頭の優良種豚を供給している。生産面においては「有力企業+協同組合+農家」の連携により大規模で標準化された飼育体制を構築している。また、加工施設とコールドチェーンの整備により、「種の保存から食卓まで」の完全なサプライチェーンを構築した結果、2024年には寧郷花豚のブランド価値が53億元(1262億4600万円)を突破した。
 

(3)テクノロジーとブランドの融合

 先進的な育種技術やスマート管理の導入により、豚肉の風味や品質の向上と安定化が図られており、こうした品質を基盤として展開されるブランド戦略は、消費者の製品に対する信頼とプレミアム価値の創出につながっている。
 浙江省せっこうしょうでは、「テクノロジー革新」と「ブランド構築」を軸とし、高付加価値化を実現した。まず浙江省農業科学院との連携により、「金烏豚きんうとん」や「嘉興黒豚かこうくろぶた(かこうくろぶた)」といった風味豊かで飼育効率に優れた新品種を開発し、生産基盤そのものの競争力を強化した。金烏豚は、頭と尾が黒く中間が白い特徴的な外観を持ち、皮が薄く肉質が柔らかく、脂肪がおいしく、金華ハムの原料に指定されている嘉興黒豚は、全身黒毛で耐粗飼性が強く、繁殖能力が高い。肉質は締まりつつも柔らかく、江南風の料理との相性が良い。また、これら養豚経営にIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)、豚顔認証を活用した「デジタル循環統合型」のスマート牧場を作り出し、管理技術の飛躍的な向上と疾病リスクの低減を実現した。こうした取り組みは、先端技術によって生産性を高め、その成果をブランド価値として市場に還元するという現代的な農業ビジネスの成功例である。
 

(4)差別化戦略による地域豚ブランドの確立

 中国の養豚産業では、地域資源を活かした差別化が、持続可能なブランド確立の核となり、競争優位性を構築する強固な基盤となっている。
 江蘇省こうそしょうの「焦溪二花顔豚しょうけいふたはながんとん」の生産体制では、協同組合組織の運用により、種豚の供給、飼育技術、資材調達、販売、ブランド化までを一元的に管理する「五つの統一」システムが構築されている。焦渓二花顔豚は、顔に二つの対称的な黒斑(「二花顔」)を持ち、小型だが肉質が緻密で、うま味成分であるアミノ酸含有量が高く、特に豚肉の味を活かした蒸し料理に適する。養豚経営では、血統管理により種豚の純度を保ち、標準化・統一化した飼養管理による品質の安定化と他産地との差別化により「全国名産優良農産物」に選定された。
 山東省さんとうしょうの「莱蕪黒豚らいぶくろぶた」では、行政主導の下で地域ブランドが作られ、統一した飼養管理と製品格付けによって品質の均質化が図られている。莱蕪黒豚は、中国最古の地方種の一つで、全身黒色で耳が大きく垂れている。山地放牧に適応し、運動量が多いため筋肉質で、肉は弾力があり、獣臭が少ないあっさりとした味わいが特徴である。また、マーケティング戦略では、済南市さいなんし市場に焦点を絞った広告やライブコマースなど多角的なプロモーションを展開させ、高級レストランと提携して「中国の霜降り豚肉」としての高級イメージを定着させることで市場での明確な差別化を実現している。
 この二つの事例は、厳格な管理による差別化とブランド戦略の組み合わせが、競争優位性を確立する鍵であることを示している。

5 おわりに

 本稿では、中国の養豚産業の現状や国の政策支援、豚肉の高付加価値化について整理した。中国の養豚産業は、生産量の「大国」から、品質と持続可能性を備えた「強国」への進化を目指し、転換を遂げつつある。消費者からの安全性と品質への要求が高まる中、養豚産業は地域資源を活かしたブランド化、先端技術によるトレーサビリティの強化、厳格な品質管理を通じて応えようとしている。これは、国内の供給安定と輸入依存度の低下に寄与するのみならず、高付加価値製品の創出によって世界の豚肉貿易における競争ポジションを向上させる可能性を秘めている。今後の鍵は、消費者の信頼を獲得する「安全性」と「品質」を両立させ、持続可能な「養豚強国」モデルを確立することである。

謝辞
本稿作成に当たり、多くの方のご協力をいただいたことについて、末筆ながらここで感謝申し上げたい。特に中国肉類協会、中国畜牧業協会、東北農業大学、黒龍江農業工程職業大学、中国農業大学各位には多大なるご支援、ご協力をいただいたことについて、深く感謝申し上げる。

【参考文献】