(1)豚肉生産動向
中国国家統計局の統計によれば、2016〜25年における中国の豚肉生産量は、21年以降、明確な「V字」回復を示している(図2)。19年には、ASFの影響で生産量は一時4255万トンまで急減したが、その後、中央政府は豚肉の生産能力回復のため、財政支援、養豚用地の確保支援、融資優遇などの政策措置を迅速に実施した。その結果、大規模養豚企業による生産拡大と業界再編が加速し、素早いV字回復となった。こうした政策対応の下、中小規模の養豚農家や個人経営体の割合は減少し、「牧原」、「温氏」、「新希望」などの大手企業のシェアと影響力が飛躍的に高まった。このような大手企業の経営拡大による大規模化は、バイオセキュリティ対策の強化、生産コストの最適化、技術導入面の優位性があり、供給の安定性向上に寄与している。
25年の豚肉生産量は5938万トン(前年比4.1%増)と、史上初めて5900万トンの大台を突破して過去最高記録を更新した。このような記録的な増加となったものの、供給サイドの生産の大規模化が進展する中、短期的な需給変動に伴う豚肉価格の急変動は起こりにくくなるとの見方が強まっている。また、大規模化の進展は、産業全体のリスク耐性を高める一方で、生産能力調整の周期を長期化させ、結果として価格の下降局面がより長引く可能性を示唆している。
いずれにしても、近年の中国の豚肉生産と供給は、変動からの回復後は安定に向かい、大規模化が顕著に進展している。
(2)豚肉輸入動向
中国の豚肉輸入は、国内生産との強い相補関係に特徴付けられる(表)。2019〜21年の輸入量は、ASFの影響による国内生産量の急減を背景に増加しており、この時期の輸入は、顕著な供給ギャップを埋める決定的な役割を果たすものであった。その後、国内の養豚産業の急速な回復に伴い、状況は一変した。22年以降、豚肉生産量は回復基調に転じたことで、輸入量は速やかに減少し、安定期を迎えている。この推移から、中国の豚肉供給において「国内生産を基盤とし、輸入を調整弁とする構造」が確立したことを示している。中国の現在の豚肉輸入は、国内需要の絶対的な不足を補うというよりも、特定部位の補完や外食・業務用向けの在庫の補充、多様な消費ニーズへの対応が主な目的となっている。今後も、国内の豚肉生産動向と飼養コストの変化が輸入量を左右する最も重要な要素であり続けると推察される。
(3)豚肉消費動向
中国では、家庭内でのと畜・加工、消費といった統計に十分に反映されない部分が存在する点を考慮した上で、公式統計に基づき、豚肉消費および需要動向を分析する。
2016〜18年の豚肉消費量は5500万トン程度で推移していたが、19年および20年は、4500万トン台まで落ち込んだ。その後は回復基調に転じ、消費量は継続的な増加傾向を示しており、25年には、初めて6000万トン台を突破した。こうした数量を記録したものの、中国の一人当たり年間豚肉消費量が約40キログラムという高水準に近づいている一方で、総人口は頭打ちとなっていること、さらに、健康志向の広がりも相まって、将来的に豚肉の総消費量が大幅に拡大する余地は必ずしも大きくないとみられる。今後の中国における豚肉消費は、大きく次の三つの要因が影響すると考えられる。
ア 食文化の変遷
中国の伝統的な食文化において、豚肉は絶対的な主役だったが、その地位は緩やかな変化を受けている。都市化の進展とともに、若年層を中心とした、健康志向(低脂肪・低コレステロール)、体型管理などへの関心の高まりから、鶏肉、牛肉、魚介類の消費が徐々に増加している。一方で、豚肉を「必須」とする需要は依然として底堅く、伝統料理や家族団らん、祝祭日の食事といった文化的な食の場面においては、代替が困難である(写真1)。
イ 所得増加にけん引される品質の高度化
国民一人当たり可処分所得の増加を背景に、消費は量重視から、品質や生産・流通段階における安全性や部位の細分化を重視する方向へとシフトしている。こうした動きと並行して、生鮮肉、ブランド肉、地方特有の黒豚肉など高付加価値製品の市場シェアが拡大している。その結果、スペアリブ、ヒレ肉などの高価値部位の需要は旺盛である一方、脂身が多い部位などへの需要は縮小している。これは枝肉価格に一定の影響を与えている。
ウ ライフスタイルの変化に伴う消費形態の変化
世帯の少人数化や単身世帯の増加など消費スタイルの変化から、簡便調理や即食製品、デリバリーや外食に対する需要が大きく高まっている。業界からの報告によると、調理済み製品市場は近年急速に成長しており、その中でも豚肉を使用した調理済み製品(酢豚、梅干しと豚肉の蒸し物、肉団子など)が高いシェアを占めるようになった。また、小売りでは、小分け包装や細かく部位分けされた生鮮肉が小人数世帯に好まれている。これらを背景に、豚肉の購入・消費形態は、生鮮市場から、スーパーマーケット、生鮮食品EC(電子商取引)サイト、外食・加工業者へと大きく変化している(写真2)。
(4)豚肉市場価格
近年における中国豚肉市場価格の推移と取り巻く環境を分析してみると、過去10年間の豚肉市場価格は、供給側の劇的な変動を主因とする顕著な周期性と大きい価格変動を経験してきた(図3)。その価格の動向を公式統計、業界報告書と市場価格速報値などを踏まえて分析すると、大きく3点に要約される。
ア 歴史的高値期(2019〜20年)
ASFの流行は、同国内の豚飼養頭数に壊滅的打撃を与え、供給が著しく
逼迫した。これに伴い、豚肉価格は史上最高水準に急騰した。20年の生体豚の1キログラム当たりの年間平均価格は前年比で54.1%高の34元
(機構注2)(810円)と大幅に上昇した。
イ 価格低迷期(2021〜23年)
政策支援と高価格刺激の下、豚肉生産量は驚異的な速さで回復し、供給が需要を超過し始めた。価格は下降トレンドに入り、23年の生体豚の同価格は15元(357円、前年比21.1%安)、豚肉の同価格は25元(596円、同16.3%安)と、いずれも前年から大幅に下落した。この結果、農家は深刻な赤字に陥り、養豚農家の飼育意欲と養豚産業の持続的な発展を阻害する要因となった
(注5)。
ウ 価格の低水準期(2024〜25年)
24年に入っても状況は好転せず、豚肉価格は低水準で推移した。従来の「養豚の周期」
(注6)とは異なり、飼料コストに対する生体豚の価格は相対的に低く、利益が圧迫されて赤字経営が続き、大規模経営の進展に伴い生産能力の調整速度が鈍化した。一方、豊富な供給が続いたため、需給逼迫の局面が長期化している
(注7)。25年の豚肉価格は依然として低水準で推移しており、大規模企業の優位性がさらに拡大する一方、零細農家の「離農」が進む「
淘汰と統合」の段階が続いている。
結論として、中国の豚肉価格は、従来の「養豚の周期」による変動よりも、消費者の「良質なものを食べる」という志向の強まりを背景に、コスト・品質・流通効率といった構造要因によって決まりやすい段階へと移行する可能性が高い。
(注5)陳静(2021)「江西省豚肉ブランド構築及び発展対策に関する研究」現代畜牧科技を参照。
(注6)「養豚の周期」とは、養豚産業界に典型的な、供給量と価格が3〜4年周期(サイクル)で変動する現象を指す。過剰生産による価格暴落が農家の経営を圧迫する構造的な課題であるが、端的に言うならば「生産過剰→価格下落→生産減少→価格高騰→生産増加→生産過剰」の繰り返しである。
(注7)中国農業科学院農業経済発展研究所「中国養豚業展望報告(2024-2033)」を参照。
(機構注2)本文中の為替レートは、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2026年5月末TTS相場(1元=23.82円)を使用した。