畜産 畜産分野の各種業務の情報、情報誌「畜産の情報」の記事、統計資料など

ホーム > 畜産 > 畜産の情報 > アイスクリームをめぐる状況 〜消費の最盛期を迎えて〜

話題 畜産の情報 2026年8月号

アイスクリームをめぐる状況 〜消費の最盛期を迎えて〜

印刷ページ


一般社団法人日本アイスクリーム協会 専務理事 小栗 英揮

1 はじめに

 アイスクリームはお好きでしょうか。
 日本アイスクリーム協会では、2025年にアイスクリームについての調査を実施しました。その結果によれば、「アイスクリームが好き」と回答された方は全体の90%以上に達し(図1)、好きなスイーツの第1位に選ばれています(図2)。さらに、1〜3位の合計でも80%以上の支持を集めており、アイスクリームが広く愛されていることが分かります。
 




 
 
 日本人とアイスクリームとの出会いは、江戸時代末期の1860年にさかのぼります。江戸幕府が派遣した使節団が訪問先の米国で初めてアイスクリームを口にし、そのおいしさに驚嘆したと伝えられています。その後、明治初めの1869年には、町田房蔵が神奈川県横浜市・馬車道において、日本人として初めてアイスクリーム「あいすくりん」の製造販売を開始しました。
 以来、およそ160年にわたり、アイスクリームは人々の暮らしに寄り添い続け、今日では「キング・オブ・スイーツ」とも称される存在となっています。当協会は、アイスクリーム類および氷菓の衛生ならびに品質の向上を図ることにより、お客さまに安全な商品を提供し、豊かな食生活に寄与することを目的として、1966年に設立され、本年で60周年を迎えます。この間のアイスクリームの市場規模(販売金額)は、設立当初の510億円から、2025年度には6631億円と過去最高を更新しました。
 一方で、この60年の歩みは決して順風満帆ではなく、市場の低迷や構造変化など、多くの課題にも直面してきました。本稿では、20年前の低迷期からV字回復を果たした軌跡と「なぜアイスクリームがこれほどまでに人々に愛され続けているのか」、その背景をご紹介いたします。

2 アイスクリーム市場の販売動向(直近20年を振り返る)

 アイスクリーム市場は、1970年代以降順調に拡大し、1994年には4000億円を超える規模に達しました。しかしその後、約9年間にわたり市場は縮小し、2003年には3000億円台前半まで落ち込みます。
 この背景には、少子化の進行、小売チャネルの変化、さらにはチルドデザートなど競合商品の拡大といった複合的な要因がありました。また、アイスクリームの市場の低迷は企業の投資意欲を抑制し、さらなる縮小を招くという負の循環も生じていたと考えられます。
 こうした状況を転換したのが、「価格重視」から「価値重視」への発想の転換でした。各社が技術革新や設備投資を進め、高付加価値商品の開発に取り組んだことで、魅力ある商品が市場に広がりました。その結果、消費者の支持を再び獲得し、市場は回復基調へと転じます。
 2010年に4000億円を、2017年には5000億円を、そして、近年では6000億円を超える規模へと成長し、現在も拡大を続けています。

3 アイスクリーム・トレンドの変化

 当協会の調査では、アイスクリームを食べる理由として、20年前の2006年頃は「甘いものが食べたいとき」、「気軽に食べられる」が上位でしたが、2025年の調査では、「おいしさ」に加え、「幸せな気分になる」、「自分へのご褒美」、「ストレス解消」といった理由が上位に挙げられています(図3)。アイスクリームは食品としてのおいしさだけではなく、「癒し・安らぎ」といった情緒的なものを提供していることが分かります。
 その背景には、フレーバーや食感の進化があります。バニラ一つをとっても多様なバリエーションが存在し、製造技術の進歩により、くちどけや滑らかさ、食感のコントラストなど、細部にまで工夫が凝らされています。
 こうした取り組みにより、アイスクリームは嗜好しこう品としての価値を高め、「キング・オブ・スイーツ」としての地位を確立してきました。


4 アイスクリームに使用される牛乳・乳製品や甘味料

 アイスクリームの品質や味わいを左右する重要な要素として、牛乳・乳製品と甘味料が挙げられます。
 牛乳・乳製品は単なる原料ではなく、コク、風味、口どけ、さらには組織構造の形成にまで関与する極めて重要な役割を担っています。
 乳脂肪は、濃厚感やクリーミーな食感を生み出す中心的な成分です。製造過程において脂肪球が部分的に結合し、空気を抱き込むこと(オーバーラン)により、滑らかで口当たりの良い組織が作られます。乳たんぱく質は、乳化の安定や組織形成に関与します。脂肪と水分を均一に分散させることで品質のばらつきを防ぎ、凍結時の氷結晶の成長を抑える役割も果たします。その結果、滑らかな舌触りが維持されます。乳糖はアイスクリームの凍結温度を下げ、氷の結晶を小さくします。牛乳やクリーム、脱脂濃縮乳、脱脂粉乳などの乳製品は、商品ごとに食感や味わいの違いを作るために、それぞれの特性に応じて使い分けられています。
 また、アイスクリームを作るためには、適度な甘さは欠かせないものです。甘味料には砂糖、ブドウ糖、果糖、水あめなどがあり、それぞれ甘さの質が異なります。糖分は、アイスクリームの組織を作るほか、組織を滑らかにします。また、クリームの香りや風味を引き立てる役割も担っています。
 アイスクリームは、前章で述べた通り、20年前と比べて「癒し・安らぎ」といった情緒的・官能的効果も求められてきており、その求めに応じて、乳製品や甘味料の種類が選定されています。
 その傾向は、今後も一層重視されていくものと思われます。

5 アイスクリーム業界をめぐる課題

 アイスクリーム業界が直面する課題として、まず原材料価格の上昇が挙げられます。国際的な需給動向や為替相場の影響により、乳製品や砂糖の価格変動は製造コストに直接影響を及ぼしています。特に、飼料価格の高騰や気候変動の影響を受ける中で、安定的かつ高品質な乳原料の確保は、今後の業界にとって重要な課題であり続けます。
 夏の販売傾向や消費者ニーズにも変化があります。猛暑が続き日中の外出は控えられ、屋外での喫食から冷房の効いた屋内での喫食頻度が増えたことにより、氷菓だけではなく、クリーム系商品も好まれるようになってきています。加えて、健康志向の高まりに伴い、糖質やカロリーに対する消費者の意識が高まっていることも、商品開発における重要なテーマとなっています。

6 社会貢献活動と「アイスクリームの日」

 当協会は、同時に「アイスクリームを通じて人々に笑顔を届けること」も大切な使命と考え、長年にわたり社会貢献活動に取り組んでいます。その代表的な取り組みが、福祉施設へのアイスクリーム寄贈活動です。
 1964年、当協会の前身である東京アイスクリーム協会は、5月9日を「アイスクリームデー」と定め、都内の福祉施設や病院へアイスクリームを寄贈する活動を開始しました。子どもたちや施設で生活されている方々に、ひとときの楽しさと笑顔を届けたいという思いから始まったこの活動は、その後、全国の地区協会へと広がり、60年以上にわたり継続されています。
 現在では、毎年3万個以上のアイスクリームが会員企業の手によって全国の福祉施設へ届けられています。施設を訪問し、直接アイスクリームを手渡す交流の中で、多くの笑顔が生まれ、地域とのつながりを深める貴重な機会となっています。福祉施設の方々からは、毎年心温まるお礼状や、アイスクリームを笑顔で召し上がる写真を多数いただいており、これらは会員企業にとって大きな励みとなっています(図4)。こうした長年の取り組みが評価され、2022年には関東アイスクリーム協会が東京都功労者として表彰されました(図5)。
 アイスクリームを通じて人々に喜びを届けたいという業界の思いは、これからも変わることなく受け継がれていきます。
 




7 今後のアイスクリーム市場への考察(展望)

 ライフスタイルの多様化や健康志向の高まりなど、消費者ニーズは一層高度化しています。こうした変化に的確に対応し、新たな価値の創出に取り組むことが、今後の業界発展において重要であると考えております。特に、健康志向と嗜好性の両立です。さまざまな機能性素材の活用などにより、「健康と嗜好を両立させたぜいたく」といった新しい価値の提供が求められます。また、環境配慮や資源の有効活用など、持続可能な社会への対応も業界として重要な使命です。
 2025年度の市場規模は、6631億円に到達し、この先10年後には 9000億円、さらには1兆円規模への成長も視野に入っております。ただし、その実現には、価格以上の価値を消費者の皆さまに認めていただくことが不可欠です。

8 おわりに

 当協会設立60周年に当たり(図6)、消費者の皆さまに「アイスクリームの原体験」や「最初の出会い」、「印象に残る思い出」を調査したところ、多くの方が家族や友人との時間、子どもの頃の記憶、日常の小さな出来事など、アイスクリームと結びついた温かいエピソードを語ってくださいました。アイスクリームは単なるスイーツではなく、人々の人生に寄り添う存在であることが改めて確認できました。
 「アイスクリームでみんな笑顔に」を合言葉に、当協会は今後も衛生・品質の向上と業界の健全な発展に努め、食文化の向上に貢献してまいります。
 今後とも、関係各位のご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。