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海外情報 米国 畜産の情報 2026年8月号

米国産豚肉を取り巻く状況と国内生産及び輸出環境の変化

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調査情報部

【要約】

 米国の養豚産業は、豊富な飼料穀物と大規模経営を背景に、安定的に生産を拡大してきた。豚肉の国内需要の大半を自給で賄い、生産量の約4分の1をメキシコ、日本、韓国などに輸出している。国内では、加工品需要や価格が高騰する牛肉の代替需要により消費は堅調に推移している一方で、輸出は為替変動や疾病の発生などの課題があり、輸出先の多角化や商品の高付加価値化が進められている。日本向けは価格競争力や規格が障壁となる中、プレミアムな商品の展開などが今後の市場拡大につながっていくものと考えられる。

1 はじめに

 米国内の豚肉生産は、大規模な国内市場と拡大する輸出市場を背景に、生産量は安定して拡大傾向が継続している。労働コストや資材コストの上昇、各種規制への対応などによる追加的なコストが発生しているが、生産効率を向上させることにより生産量の拡大を実現している。また、豚肉生産量の約4分の1は輸出に仕向けられており、米国産豚肉にとって海外市場は重要な位置付けとなっている。
 本稿では、主として米国内での動向に着目しつつ、米国産豚肉の生産や需給を巡る状況、輸出市場における課題や対応、今後の見通しについて報告する。
 なお、本稿中の為替相場は、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」2026年6月末TTS相場の1米ドル=163.39円を使用した。

2 米国における豚肉の生産・消費動向

 米国の養豚生産は、飼料の原料となるトウモロコシや大豆の主要な生産地域であるグレートプレーンズ東部(注1)において盛んである。米国農務省全国農業統計局(USDA/NASS)によれば、2025年12月1日時点で、アイオワ州では2530万頭(前年比4.1%増)、ミネソタ州では940万頭(同1.1%増)、イリノイ州では545万頭(同0.9%減)の豚が飼養されている。また、米国で最大規模の飼養頭数を誇る養豚生産企業が所在するノースカロライナ州では790万頭(同3.7%減)が飼養されており、これら4州だけで全米の豚飼養頭数の6割超を占めている(図1)。

(注1)北アメリカ大陸の内陸部を南北に延びる大平原地帯。平たんで広大な地形を背景に、大規模農業が発展している。
 




 

(1)米国における豚肉の生産動向と販売状況

 米国国内での豚肉生産量は、ここ数年、年間1250万トン程度で推移している(図2)。安定した生産量は生産効率の向上に支えられており、特に母豚1頭当たりの子豚生産頭数は、ほぼ一貫して増加している。2026年の母豚1頭当たりの子豚生産頭数は11.8頭となっており、前年比で0.9%増加した(図3)。米国の豚肉輸入量(枝肉重量ベース)は年間50万トン程度であり、米国内の豚肉需要のほとんどは米国産で賄われている。
 



 
 米国の豚肉生産量のうち需要量は、年間おおよそ1000万トン程度で推移しており、残りの300万トン程度が輸出されている。輸出は米国産豚肉の需要を支える重要な市場であり、輸出量が全て米国産とすれば(注2)、国内生産量の約4分の1程度が輸出に向けられていることとなる(図4)。

(注2)米国で生産される豚肉には、カナダから生体豚が輸入され、米国で肥育、と畜されるものがある。
 



 
 豚肉の米国内の消費形態について、スペアリブなどはバーベキューシーズンなど季節的な需要の変動があるが、ベーコンやソーセージのような豚肉加工品やポークチョップなどに使用されるロイン系部位は年間を通じた需要がある(写真1、2)。
 豚肉の卸売価格は、豚の出荷頭数や生産量の増減に伴い変動しているが、枝肉の食肉処理場出荷時のカットアウトバリュー(各部分肉の卸売価格を1頭分の枝肉に再構築した卸売指標価格)は、100ポンド当たり100米ドル(1キログラム当たり360.2円)前後で推移している(図5)。
 








 
 
 部位ごとの状況としては、ロイン系部位の価格は、カットアウトバリューと同様の傾向で推移しているものの、スペアリブやベリー系部位については、他の部位よりも高値で推移している。これは、もともと米国内の需要が高い中で、近年は特に米国内の消費者が自宅で調理する際に手軽さを求めており、ベーコンやソーセージなどの加工品の需要が伸びていることなどが影響していると考えられる。
 また、最近は、米国内における牛肉価格の高騰により牛ひき肉についても価格が高騰しており、代替として豚ひき肉の販売量も増加傾向にある。豚肉は牛肉と異なり、ソーセージやサラミ、冷凍食品などの加工品において、脂肪分が多い商品も多く製造・販売される。このため、牛肉ではひき肉の赤身率調整のため、赤身を中心としたトリミング材を他国・地域から輸入する必要があるところ、豚肉ではその必要がないことも、米国が国内需要のほとんどを国産豚肉で満たせる一因と考えられる。
 

(2)米国からの豚肉の輸出概要

 米国の養豚産業にとって輸出市場は重要であり、豚肉およびタンなどを含む内臓肉(バラエティミート)を合計した輸出量は、全体の生産量の約3割を占めている。
 豚肉の輸出先は、主に北米地域やアジア地域である。2025年の豚肉総輸出量(216万9000トン、製品重量ベース)を国別に見ると、メキシコ向けが100万トン(総輸出量の47.0%)を超える最大の市場となっている(図6)。同国向けは増加傾向が続いており、さらなる輸出拡大の余地がある。その他の主な輸出先としては、日本(同12.2%)、韓国(同9.1%)などがある。中国向けは20年に73万トンを超え同年の総輸出量の31.9%を占めたが、その後は減少し、25年の輸出量は10万8000トンと全体の5.0%を占めるにとどまっている。
 



 
 豚のバラエティミート(内臓肉・副産物)の輸出先については、中国向けが最大であり、25年の輸出量は23万3000トンと、バラエティミート総輸出量の46.9%を占めている(図7)。また、メキシコ向けも25年は16万7000トンとなり、総輸出量の33.7%を占めている。米国内では、アジア系やヒスパニック系、そして、一部のヨーロッパ系の料理でバラエティミートが喫食されるが、豚肉と比べて需要は低い。そのため、付加価値商品として輸出することで需要を拡大している。
 米国食肉輸出連合会(USMEF)は、豚肉の部位ごとの生産量に対する輸出量を算出しており、それによると、カタやモモ・スネの部位が多く輸出されている一方で、バラやリブの輸出割合は低いとされている(図8)。これは、米国内においてはベーコンなどに使われるバラやリブの需要が大きく、反対にアジア地域では赤身を主とする部位の需要が大きいことが要因と考えられる。米国において、豚肉と言えばベーコンという印象が強く、ホテルの朝食においても、ほぼ必ずと言ってよいほど提供される。全米豚肉委員会(NPB:National Pork Board)による豚肉チェックオフ資金を活用した消費需要喚起の取り組みにおいても、ロイン系部位を活用したステーキや、牛肉に代わるひき材としてハンバーガー用パティなどのプロモーションが行われているが、バラやリブを中心とした米国内の需要の構造は継続していくものと考えられる。一方、バラエティミートについては、日本向けのタンのように、特定のカテゴリーに対する需要がある場合を除き、中国やメキシコへ幅広い部位が輸出されている(図9)。









 

3 輸出先の市場状況

 米国産豚肉の主要な輸出先は、(1)国境を接し、生鮮・冷蔵での輸出が容易なカナダおよびメキシコ、(2)米国での消費が少ない部位に対して需要があるアジア地域、(3)新興地域として中南米やアフリカ地域−に分類されると考えられる。各国・地域に対する直近の豚肉輸出金額・数量は、下記の表の通りだが、以下、その分類に沿って説明する。
 


 

(1)カナダ、メキシコ

 カナダについては、2025年は8万9000トン(総輸出量の4.1%)の豚肉が輸出された。カナダ自体が豚肉生産が盛んであることや、近年の米ドル高により米国産豚肉の価格競争力が低くなっていることから、輸出市場としては大きくはなく、今後の大幅な増加も見込まれてはいない。一方、メキシコについては、同年は102万トン(同47.0%)の豚肉が輸出され、モモ、カタの部位が多くなっている。メキシコの豚肉需要は輸入で満たされており、メキシコペソがドルに対して高い状況が続いていることから、今後も米国からの豚肉輸出は増加すると考えられている。
 メキシコへは米国産のバラエティミートも多く輸出されているが、26年4月30日、米国においてオーエスキー病(AD)が20年以上ぶりに商用の養豚施設で確認されたことから、米国産のバラエティミートの輸入が停止された(注3)。同年6月23日現在、アイオワ州とテキサス州で生産された豚およびこの2州で生産されたものと接触などがあった豚由来のバラエティミートが輸出停止となっている。

(注3)詳細については、海外情報「2004年以降初めて、商用の養豚施設においてオーエスキー病が確認(米国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_004364.html)を併せてご参照ください。

 カナダおよびメキシコに対して輸出される豚肉は、米国と国境を接しておりトラックなどによる輸出が可能であることから、その80%以上が生鮮・冷蔵である。また、メキシコについては、上述の通りバラエティミートの重要な輸出先でもあり、豚肉の需要もさらに伸びると考えられている。さらに、豚肉需要はメキシコ国内のみならず、米国内のヒスパニック系の消費者に対しても拡大が見込まれていることから、需要を喚起するため、チェックオフ資金を活用したプロモーションではタコスに用いられるプルドポークなどのプロモーションがメキシコおよび米国内で活発に行われている。
 

(2)アジア

 アジア地域は、多様な部位の消費市場として重要である。まず、中国は世界最大の豚肉消費国であり、2018年のアフリカ豚熱(ASF)発生後は、国内生産量が大きく減少し、それまで自国内で賄っていた豚肉需要を満たすため、輸入量も増加した。しかしながら、中国国内での豚肉生産が回復したことから、米国産の輸入量は減少している。中国は18年以降、米国が講じた追加関税措置などに対する報復として、豚肉を含む多くの品目に対して追加的な関税を課している。中国は20年当時、米国にとって最大の豚肉輸出先国であったが、追加関税によって、輸出先の変更や多角化が進められることにつながった。中国は、現在も追加関税措置は継続しており、今後の先行きも不透明である中で、疾病発生などの影響で需給バランスが大きく変動する可能性がある不安定な市場となっている。
 韓国は、日本と同様に米国産豚肉にとって安定的な市場となっている。韓国では、焼肉などの食習慣から高い食肉需要があり、また、EU産豚肉と比較した場合の価格優位性から米国産に対する需要は堅調で、25年における米国からの韓国向けの豚肉輸出量は19万7000トン(総輸出量の9.1%)となった。
 日本は、長年にわたりロインやカタなどの輸出先として安定し、重要な市場となってきた。一方で、人口減少や高齢化など、市場は成熟段階にある中、円安が22年ごろから急速に進展した。11年には年間46万6000トンの米国産豚肉が日本に輸出されていたが、25年には26万5000トン(同12.2%)となっている。USDA/FASの公表データによると、日本に輸出されている部位は、ロインおよびベリー系でほぼすべて(99.7%)が占められている。日本は、スペインにおけるASF発生に伴い同国産豚肉の輸入を25年11月から停止しており、米国、カナダ、ブラジル、そして、ASF非発生のEU加盟国などからによって輸入需要が賄われている。米国産豚肉の日本向け輸出量は実際に増加しており、26年1〜4月の輸出量は10万8000トン(前年同期比20.1%増)となっている(図10)。
 


 

(3)中南米、アフリカ

 米国産豚肉の輸出先としてのシェアは小さいものの、コロンビア、グアテマラ、ドミニカ共和国などの中米および南米地域への豚肉輸出量は増加傾向にあり、輸出先の多角化を図る中で新興市場として重要となっている(図11)。中米および南米地域へ輸出されている豚肉は、それぞれ約9割が冷凍のロインおよびベリー系で占められている。
 また、このような新興地域にはアフリカも含まれており、これらの地域においては、栄養補給・改善を目的としたレバーなどのバラエティミートの活用や物流網が未発達な輸出先でも活用しやすい商品開発と一体となったプロモーションが行われている(注4)

(注4)詳細については、海外情報「米国食肉輸出連合会、アフリカおよび南米地域でのプロモーションを強化(米国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_004105.html)を併せてご参照ください。


4 今後の米国産豚肉生産・輸出の課題

(1)生産の方向性について

 今後の米国産豚肉の生産は、生産頭数の大幅な増加よりも、1頭当たりの生産性向上による供給維持・拡大が中心になるとみられる。また、ASFなどの疾病侵入防止や輸出市場へのサプライチェーン・信頼維持の観点から、バイオセキュリティ対策の重要性はさらに高まっている。加えて、アジア市場を中心とした輸出需要への対応や、付加価値の高い豚肉需要の拡大を背景として、生産効率の改善による競争力強化を中心としながら品質を差別化する動きも出てくる見通しとなっている。

ア 生産効率の向上
 米国の養豚産業においては、燃料費、建設資材費、人件費、そして、金利の上昇が顕著であり、新たな設備や豚舎を建設するインセンティブが低い状況となっている。そのため、米国では、既存施設内で生産効率を向上させることが農場にとっては重要となっている。また、米国中部を中心とした育種改良により、母豚1頭当たりの子豚生産頭数は増加しており、母豚の飼養頭数は減少傾向であっても、子豚の生産頭数は増加傾向となっている。
 生産性向上のため、人工知能(AI)を活用した健康管理や、細いパイプラインを用いた飼料運搬、自動給餌装置などの普及が進んでいる。

イ 疾病対策
 豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)、豚流行性下痢(PED)、豚インフルエンザなどの疾病は、養豚場における生産性を低下させることから、バイオセキュリティ対策として、農場への部外者の立ち入りの禁止、シャワーイン・シャワーアウトの徹底、農場入場時の清潔な衣服・長靴の着用、農場内での飲食の禁止、車両の洗浄・消毒の徹底、そして、ASF発生国からの訪問者の農場立ち入りの禁止などの措置がとられている。
 また、農場においては、養豚施設内にフィルターによる集じん設備を設けたり、野生豚との接触を防ぐためのフェンスを設置したりすることなどが行われている。野生豚は、テキサス州やオクラホマ州などの米国南部、カリフォルニア州などの米国西部に分布し、養豚場に対してオーエスキー病(AD)などの疾病を媒介するだけでなく、2026年6月に米国で発生が確認された寄生性の昆虫であるラセンウジバエも媒介する可能性がある。また、トウモロコシや落花生、大豆といった農作物への食害などの損害を発生させることから、罠や銃などを使用した駆除が行われている(注5)

(注5)詳細については、海外情報「春に入り米国における野生豚や捕食動物の活動が活発化(米国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_004334.html)を併せてご参照ください。

 疾病対策としては、種豚側の対策も行われており、病気に対する耐性を獲得するためのゲノム編集技術を活用した種豚(耐性豚)の開発や、ゲノム選抜技術を活用した育種改良により、疾病に感染しても損失が少ない種豚(レジリエンス豚)の生産が行われている。現在、米国では、特に生産性の低下が著しいPRRSに対する耐性豚が商業生産に向けて開発されたが、輸出への影響を鑑み、実際の商業生産には至っていない(注6)。一方、レジリエンス豚については、古典的な育種改良と同様の選抜交配によって生産していることから、常に種豚の能力を向上し続けながら農場に導入することができる。

(注6)詳細については、海外情報「米国食品医薬品局、豚繁殖・呼吸障害症候群耐性豚を承認(米国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_004124.html)を併せてご参照ください。

ウ 豚肉の品質向上
 生産される豚肉の品質については、基本的には赤身重視となっており、米国産豚肉全体として脂肪交雑の向上を目指す動きは見られない。これは、米国内の豚肉消費需要がリブやベリー系に集中しているため、ロイン系のロースの品質を向上させるインセンティブが小さく、ロースの品質を重視してリブやベリー系の歩留まりに影響が出ることを恐れていることなどが挙げられる。一方で、一部のプレミア感のある食肉需要が存在し、抗菌剤不使用などの「ナチュラル」をうたった豚肉や、バークシャーの純血種に由来する豚肉(米国産黒豚)の市場が拡大している。生産者からの聞き取りでは、肥育豚を出荷するパッカーから米国産黒豚への生産切り替えを依頼された事例もあったという(図12)。

 

(2)日本向け豚肉供給のための課題

 米国は、EU、カナダおよびブラジルと同様、世界各国・地域の中で有数の豚肉輸出国であり、米国産豚肉の輸入数量は、日本が輸入する豚肉全体の約5分の1を占めている。日本においてスペインからの豚肉輸入が停止して以降、米国からの豚肉輸入量は増加しているものの、業界関係者によると、単純なスペイン産の代替とすることは困難と考えられている。この背景の一つとして、日本が輸入してきたスペイン産豚肉についてはベリー系が多く、特に日本の規格でベーコンに加工される形態での輸入が多かったが、米国産の豚肉のうちベリー系部位は、米国内での需要が堅調であり価格が高いことがある。
 米国内現地事業者への聞き取りによれば、米国の食肉処理場では、豚の皮を剥がさずに処理を行う場合が多いなど日本と異なる手順で処理が行われている。また、日本の規格に合わせる場合、追加的な作業による歩留りの低下と作業コストが発生するとされる。また、関係団体による説明および聞き取りによれば、2022年以降、急速に進行した米ドル高・円安の影響により、米国産豚肉の日本での価格競争力が低下している一方で、冷凍食品などの加工品向けの安価な冷凍豚肉としてブラジル産豚肉が日本やフィリピンでのシェアを拡大しているなど、特に冷凍豚肉において競合しやすい状況となっている。
 米国産豚肉の特徴として、日本に対して冷凍のみならず生鮮・冷蔵の状態でも輸出ができることや、一般消費者向けのロイン系部位のロースなどは、通常は脂身が薄く処理されていることが多いということがある(図13)。そのため、今後、米国産が日本においてマーケットを再拡大するためには、品質を維持しつつロースの場合には脂肪を厚く処理することやモモやカタを更に活用するなど、重量当たりの価格を抑えた商品を輸出することを中心に、米国産黒豚のようなプレミア感のある商品を輸出することなどが必要と考えられている。また、日本国内で流通する際の規格や販売時の対応において、卸売、小売・外食側で加工工程を加えることなども検討する余地があると考えられる。


コラム 人工知能(AI)を活用した食肉処理場での労働管理

 近年、米国のと畜・食肉処理産業においては、労働コストの上昇が大きな問題となっている。現場の作業は、依然として人手に依存する部分が多く、労働力確保が困難な中で、作業効率の向上と無駄の削減を通じて、生産性を最大限に引き上げることが重要視されている。
 このような背景の下、2025年8月に創業した米国企業は、人工知能(AI)を活用した作業者管理ツールを開発した。同ツールは、カメラと画像解析技術を組み合わせ、作業現場の状況を可視化するものであり、現在は米国内の食肉処理場において運用されている。
 この技術の特徴は、作業員に装着するウェアラブルカメラや作業ライン上に設置した固定カメラを通じて、現場の作業状況を継続的に取得・分析する点にある(コラム―図)。これにより、従来は把握が難しかった作業工程の実態やボトルネックを特定することが可能となり、効率的なライン運営に資する知見が得られる。AIによる分析により、ライン効率が10〜20%向上し、労働時間の5〜10%の削減にもつながるとされている。
 


 
 さらに、安全面においても大きな効果が期待されている。カメラを通じて作業中の「ヒヤリ・ハット」事象を高精度に検出することで、重大事故の未然防止につながるとされ、その検出率は90%以上であることが報告されている。また、適切な作業手順の実施状況や防護具の使用状況の確認も可能であり、職場の安全管理の高度化に寄与している。
 品質管理の観点でも、製品の規格適合や工程のばらつき、製品の分別作業やラベリングでのミスをリアルタイムで検知し、問題発生時には即座に対応できるような通知システムが搭載されている。これにより、不良品の発生抑制や顧客からのクレームの低減といった効果も見込まれている。また、生産性が高い労働者の作業内容について分析し、労働者間で共有することにより、各労働者の生産効率の向上を図ることも可能となっている。
 米国の大規模なと畜場は、大量処理を前提とした生産体制を構築しており、一部の作業遅延や非効率が全体の生産性に影響する可能性がある。このようなAIなどを活用した生産性向上の取り組みは、今後ますます普及する可能性が高い。

5 おわりに

 米国産豚肉の生産は、牛肉生産量が減少する中で比較的安定して推移しており、米国内の需要も堅調に推移している。また、国内の消費喚起や米国外への輸出による需要は増加傾向にあり、価格も堅調に推移している。米国産豚肉のプロモーションについては、より付加価値の高い商品としての発信にシフトしており、輸出先の多角化も進められている。日本向けの輸出拡大については、米ドル高・円安傾向が輸入価格に大きく影響している中で、安くて規格に合った豚肉を得る事は困難になってきており、米国産黒豚のようなよりプレミア感のある商品を取り扱っていく必要があるとみられている。一方で、豚肉輸出は、疾病発生や関税措置などの影響を受けやすい。日本が豚肉を安定して国内に供給するためには、輸入先の多角化や品質の異なるカテゴリーの商品を取り扱うなど、重層的にサプライチェーンを確保することが引き続き重要である。
 
(JETROニューヨーク 中島 勝紘)