「デカンター排水にはタンパク質が含有し、それが腐敗臭となるのであれば、その原因たるタンパク質を取り除くか、微生物分解活性(嫌気か好気)により低分子化する事が妥当である。」
これを常識と考えれば、もはや浄化施設もしくはタンパク質回収施設を完備する方向に誘導され、その範疇にて最も効率良い組合せはどれか?という選択肢に絞られるでしょう。
しかし、以下の参考図(B)において等電点処理(通常より低pH)と種々のメインティナンスを組み合わせると、大変興味深い現象が起きることを当JAにて実証しました。
つまり、a.タンパク質沈殿効果以外にも、b. そうか病菌完全死滅、c.長期間の腐敗停止現象、などの効果が同時に得られ、特にcにおける臭気抑制力(常温管理でも)は予測を遥かに超えた結果が得られました・・・
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これはサイレージ発酵調整理論である加酸法(AIV法)と、排水浄化技術である等電点理論を融合させてイメージしたことがきっかけであり、タンパク質を含む植物廃汁を扱う理論は何もでん粉工場のデカンター排液に限ったことではないという証しであります。しかもこうした切り口は、我々農業界にとって最も身近な知識と言えます。加えて、等電点処理後の排水を遠心分離するに際し、固形分を機外へかき出すためのバックドライブとの兼ね合いにて、概ね3,000Gで約30%前後のタンパク質回収が可能との実証も致しました・・・
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この方法は7割もが取りこぼしとなる上、回収物が高水分となることから、否定されるのが常識です(前述)。しかしここでも、農業現場的な価値と情報を加味して再検討してみることにします。
まず、回収されたタンパク質の3割相当は腐敗抑制効果のある酸に包まれて抽出され、乾燥せずに一定期間(常温)の品質安定が可能なので、畜産プラントの手法であるリキッドフィーディングシステムの一部応用や地元TMRセンター(粗飼料ミキシング・梱包・配送)との提携で難なく活用できるわけです。これは非熱エネルギーでのデカンター排水タンパク質の利活用法の提案であり、大がかりな施設は何ら不要です。
次に、ペクチンを主成分(タンパク質不足)としたでん粉かすにふすまを混入し水分調整したもの
4 をベースに、これに上記タンパク質をもって3種混合サイレージとして格納すれば、濃厚飼料に類した高タンパク粗飼料
7 の現地生産の道が開けるわけです。こうして遠心分離機の働きを「脱水しなければ」という常識から「濃縮でよい」という非常識にチェンジできたと考えてみるのです。
また、水を浄化しようという考えに固執すれば、餌向けタンパク質3割回収の取りこぼしは容赦できないこととなってしまうのですが、処理後水における有機物残存量にかかわらず臭気は抑制されなおかつそうか病菌が死滅することから、液肥としてほ場散布できることに価値が見出せるわけです。
なお、そうか病菌の問題については克服できたものの、ばれいしょの病気として粉状そうか病が新たな問題となっており、この菌の伝播防止に向けた研究が精力的に進められています(本誌2011年1月号 北海道農業研究センター 村井勝専門委員著「
ばれいしょでん粉粕の有効利用〜資源循環型畜産技術の開発に向けて〜」を参照)。