経済基礎理論が示すとおり、国際砂糖価格上昇の要因は、(期待)供給の縮小と需要の拡大にある。(期待)供給量の低下は、主要生産国における天候不順によるさとうきび不作の予想によるところが大きい。特に昨年7月下旬に明らかになったインド主要産地でのモンスーン到来の遅れによる雨不足の予想が決定的となった。さらに世界最大の生産国であるブラジルでも大雨によるさとうきび収穫遅延という予想が報じられたことが、価格上昇基調に追い討ちをかけたのである。
他方、需要拡大は、懸念されていた景気低迷による需要縮小が起こらず、砂糖需要が世界的に堅調に増加したことによる。インド、中国、ロシアなどの砂糖消費大国の輸入増大がみられ、むしろ国際砂糖市場における需要は当初の予想を上回った。しかし、こうした実需面の影響に加え、投資ファンドをはじめとする戦略的投資家による買い付け、いわゆる国際砂糖市場への投機資金の流入による影響も需要拡大の要因として指摘されている。砂糖は国際取引商品として投資(投機)対象に組み込まれている。主要国の砂糖需給に関する予想や各国の関連政策の変更に加え、他の投資先である外国為替・株式・債券市場および原油などの他資源/商品相場の動向により運用資金が増大し、砂糖への投資収益性が相対的に上昇すれば買い付けが行なわれる。
たとえば、原油価格が上昇すると、エタノール生産が相対的に有利になり、さとうきびの砂糖仕向け量の減少が懸念され、国際市場での砂糖輸出量減少が予想される。また、原油価格の上昇は製糖会社の生産費を上昇させるため、経営困難から生産を縮小する会社が生じ、結果として、砂糖出荷量の減少が予想される。いずれも砂糖価格上昇圧力として作用する。
ファンダメンタルズの変化により供給不足または需要拡大が生じた結果、商品価格が上昇すれば、その商品は投資先として魅力的になり、より多くの買い付けならびに売り控え(需要拡大)に拍車がかかる。こうした行動により、価格は短期間で急激に上昇してしまう。逆に、仮に期待供給量が増大すれば、価格下落により期待収益性は低下するので投資家は売りに走る。その結果、価格は急激に下落してしまうのである。
実際、2月以降の砂糖価格の急激な下落は、ブラジルとインドの予想砂糖生産の上方修正により期待供給量が増大(または期待輸入量の縮小)したからである(*注1)。言うまでもなく、商品投資の収益性は購入価格と販売価格の差に由来する。安い時に買い、高い時に売れば儲けは大きくなる。そして、相場の動きが激しくなれば、儲けの機会が増え、取引は活発化し、さらなる価格変動をもたらす。
世界砂糖需給において、供給量、需要量自体、半年間で大きく変わるわけではない。砂糖などの国際取引商品の価格は実物の需給均衡ではなく、需給に対する将来への予想、将来変化が起こった場合に備えての緩衝能力(在庫)によって決定される。そして、そうした状況下で収益性の高い投資先を求める戦略的投資家の行動が急激な価格変動を引き起こす。市場経済システムは本来的に、投機的行動による過剰反応を導く性質を有していることを、砂糖などの国際商品価格動向をみる上で留意しておく必要がある。
(*注1)インドのさとうきび主産地であるウッタル・プラデーシュ州政府の輸入粗糖の精製許可により、当初予想されていたインドの輸入量が回避される見込みになったことも価格下落の一因である(農畜産業振興機構・調査情報部・特産調整部「砂糖類の需給・価格動向」、『砂糖類情報』2010年4月号)。