インドでは、砂糖の原料となるのはすべてさとうきびである。つまり、砂糖の生産量減少の最大の要因は、さとうきびの生産量の減少と言い換えることができる。そこで、さとうきびの生産についてみてみよう。図3はさとうきびの収穫面積と生産量の推移を示している。これをみると、砂糖の生産量同様に、収穫面積、生産量とも、2〜3年ごとに増減を繰り返していることが分かる。では、なぜそのような現象が長年続いているのだろうか。
その理由はいくつかあると考えられるが、特に大きな要因として、政府が行うさとうきびの価格支持政策が挙げられる。さとうきびの価格支持政策にはいくつかあるが、中央政府が行うのが法定最低価格(Statutory Minimum Price、以下SMP)(2009年からは適正価格(Fair and Remunerative Price、以下F&RP))で、SMPを上回ることが多い州勧告価格(State Advised Price、以下SAP)などもある。
特に、SAPとさとうきび収穫面積は強く連動している。例えば近年の状況をみると、SAPが落ち込み傾向だった後の2003/04年度と2004/05年度のさとうきび収穫面積は約393万haと約366万haに止まった。2004/05年度と2005/06年度にSAPが高い傾向に転じると、2005/06年度と2006/07年度のさとうきび収穫面積はそれぞれ約420万haと約515万haに急増した。2007/08年度に再びSAPが落ち込み傾向に転じたのに応じ、2008/09年度のさとうきび収穫面積は約442万haに減少した。
それは、以下の理由による。製糖工場は、SAP以上の価格でさとうきびを買い付けることが義務付けられるが、砂糖価格の低迷期になると、砂糖市場価格に対して相対的に高いさとうきびを買い付けることになる。それが採算ラインを超えてしまえば、製糖工場からさとうきび作農家への支払いが遅れる。これにより、さとうきび作農家は作付面積を減らすという行動をとるのである。当然、砂糖価格が高騰すると、その反対の現象が起こることになる
(注2、注3)。
2009年からF&RP制度が導入されたものの、実質的なSMPの引き上げとなっていることなど問題も多く、シュガーサイクルを解消する効力はないものと予測されるのである
(注4)。
(注2)さとうきび収穫面積とSAPの関係について、詳しくは、独立行政法人農畜産業振興機構調査情報部調査課(2010)「
インド砂糖産業の概要〜砂糖生産と政策〜」(『砂糖類情報』2010年4月号)、藤田幸一(2010)「
インドの食料政策と砂糖をめぐる動向」(『砂糖類情報』2010年5月号)を参照。
(注3)SAPが高い傾向の年度にはさとうきびの作付面積が増加し、翌年度の収穫面積が増加する。反対に、SAPが低い傾向の年度はその逆となる。なお、さとうきびの生育期間は植付後16〜18ヶ月程度を要し、株出の場合は収穫から1年後に再び収穫期を迎える。通常、株出は1〜2度行われている。一般的に、株出を続けていくと収量は減少を続けていく。
(注4)詳しくは、USDA(2010a)、独立行政法人農畜産業振興機構調査情報部調査課(2010)を参照。