フィリピンにおける最近の砂糖需給動向
最終更新日:2012年1月10日
フィリピンにおける最近の砂糖需給動向
〜2010/11年度は生産が回復し、米国以外の第三国へ輸出〜
2012年1月
はじめに
フィリピンは、伝統的な砂糖輸出国であったが、1990年代に生産が低迷し、一時的に輸入国となった。その後、2000年代に入って生産は回復し、余剰分の砂糖について、輸出を再開し始めた。しかし、2008/09フィリピン砂糖年度(10月〜翌9月)から、生産量が消費量を下回る状況となり、2009/10年度にかけて再び輸入国に転じることとなった。2010/11年度については、生産余剰が生じたため、米国以外にアジア諸国にも輸出しているが、生産は不安定である。基本的にフィリピンの輸入は白糖中心で、主にアジア諸国などから調達している。特に供給元のマレーシアや韓国は原料の粗糖をタイなどから輸入している。このため、フィリピンの不安定な生産動向は、アジア域内の需給に影響するものと考えられる。
本レポートでは、USDA(米国農務省)のレポートなどをもとに、フィリピンにおける最近の砂糖需給動向について報告する。
フィリピンの砂糖需給動向
フィリピンの過去8年間の砂糖生産量は、天候不順で不安定さを増している。2007/08年度までは砂糖生産量が消費量を上回ったため、砂糖は自給で賄った。しかしながら、2008/09年度にはエルニーニョ現象による干ばつや台風の影響で、中部ルソン地域などでさとうきびの作柄が悪化し、生産量は210万トン(前年度比19.2%減)と大幅に減少した。干ばつの影響は翌年度の2009/10年度まで続き、2年連続で需給がひっ迫した。しかし、2010/11年度については、気象条件に恵まれたため、さとうきびの単収は隣国タイと並ぶ結果となり、生産量は240万トン(同19.1%増)と、干ばつ発生前の水準に回復した。
一方、消費量については、1990年代は人口増加と経済発展を背景に増加基調で推移してきた。しかしながら、最近、健康志向の高まりにより代替甘味料に需要がシフトしたことなどから、一人当たり消費量は2004/05年度をピークに頭打ちとなり、それ以降、消費量は210万トン前後で推移している。 輸入については、ミニマムアクセスにより毎年6万4000トンの粗糖輸入が義務付けられているが、輸入業者は政府の関税経費補助(Tax Export Subsidy)を活用し、無税での輸入が可能となる。このほか、国内価格の高騰を背景とした密輸が横行している。さらには現行制度の穴を突き、関税を免れるために着色した砂糖を食品添加物として輸入する業者もあるという。したがって、実際の砂糖輸入量は、統計の数字よりも多いとみられる。
輸出については、関税割当制度で特恵的なアクセスが認められている米国向け(Aケダン)に、毎年粗糖を14万トン程度輸出している。これは国際価格に上乗せされるプレミアムがあるため、フィリピンが輸入国であった時期も輸出してきた。さらに、米国以外の国・地域向け(Dケダン)は、国内市場向けの砂糖(Bケダン)に余剰が生じた場合に輸出している。
砂糖統制委員会(SRA:Sugar Regulatory Administration)によると、2010/11年度は日本、インドネシア、中国、韓国に粗糖を約20万トン輸出したとされ、今後も砂糖の販売先国を開拓する意向を示している。
注:フィリピンは、販売割当制度を中核に据えた砂糖の販売体制を採用している。この割当制度とは、業界の収益分配協定に基づき、「ケダン(quedan)」と呼ばれる倉荷証券を生産者と製糖工場の両者に割り当てる仕組み。ケダンは5つの区分に分類される。
A:米国の割当制度向け砂糖
B:国内市場向け砂糖
B−1:国内食品加工業者向け砂糖
C:備蓄在庫用の砂糖で、必要に応じAとBのいずれに分類することも可能
D:輸出向け砂糖(米国以外)
生産余剰により国内砂糖価格は下落基調
フィリピンの国内砂糖価格は、政府が推奨参考価格(SRP:Suggested Reference Price)を設定することで統制されている。このため、国内精製糖の小売価格は、2009年までは高い時期でも1キログラム当たり39ペソ(69円:1フィリピン・ペソ=1.78円)程度であった。
しかしながら、2010年に入ってからは、生産段階における原油価格や肥料価格の高騰、さらには作柄の悪化による供給不足を受けて価格は上昇を続けた。ついには、卸売価格がSRPを上回り、販売を拒否する小売業者も出現したため、政府は2010年12月、SRPによる価格統制を中止し、供給を安定させることとした。その後、年末の需要期と重なったこともあり、2010年末から価格は急騰し、2011年2月には同65ペソ(115円)と過去最高値を記録した。
SRAは、国際価格の上昇と製糖開始時期の遅れによる品不足も急騰の一因であるとしており、2011年1〜2月に生産のピークを迎えるため価格は後々安定するとした。さらに、2010/11年度は増産により国内市場向けの砂糖(Bケダン)に余剰が生じたため、価格は急落し、2011年11月末時点で同45ペソ(80円)まで下落している。
2011/12年度の砂糖生産は前年度と同水準の見込み
2011/12年度のさとうきび収穫面積は、前年度と同水準を維持すると見込まれ、砂糖生産量は240万トン(前年度比0.4%増)になると予想される。一方、消費量は210万トン(同1.7%増)と前年度並みにとどまるとされ、30万トン程度が輸出可能と考えられる。
現在も国内価格が高水準にある中、SRAはロードマップ(2011〜2016年)の中で、小規模農家を集約した規模拡大化やかんがいの整備、機械化などを進めることで生産性の向上や生産コストの低減を目標に掲げている。しかしながら、フィリピンは、干ばつや台風など天候の影響を頻繁に受けるため、今後も安定的にさとうきびを生産できるとは言い難い。さらに、ASEAN自由貿易地域(AFTA)により、砂糖の関税を一律38%から毎年段階的に引き下げ、2015年には5%とすることが義務付けられた。これによって、タイなどから安価な砂糖の輸入が増加することが予想され、国内価格の下落と国内産業の弱体化が懸念される。
今後、国内産業の再編が進まず、生産量が減少することになれば、主にアジア諸国から調達するとみられ、アジア域内の需給バランスに与える影響も少なくない。同国の生産動向は引き続き注視する必要がある。
資料:USDA GAIN Report “Philippine Sugar Situation and Outlook”
LMC “Quarterly Statistical Update” October 2011
フィリピン農政省HP “News Monitor”
フィリピン砂糖統制委員会(SRA) HP “Achieve of News”
フィリピン製糖業者組合(PSMA)HP “Latest News on Sugar”
注:本レポートの数量は粗糖換算である。
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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